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本編
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しおりを挟む「トオルさん!お待たせしました。
注文の礼服が出来ましたよ!」
応接室に入るとリールさんが元気な声をかけてくれた。
隣には、リールさんに良く似た女性もいる。
あの人がアンナさんかな?
「リールさん、ありがとうございます。
無理をさせてしまってすみませんでした。」
「いえ、アレン様から治療師の方を派遣して貰いましたから大丈夫ですよ。
トオルさん、こちらが娘のアンナです。」
そう言ってアンナさんを紹介してくれた。
「初めまして!アンナと申します。
今後ともよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!
アンナさん、元気になってよかったですね。」
「トオルありがとうございます!
ご心配をおかけしました。
実は、治療師の方に言われたのですが、風邪ではなくて……。」
「風邪じゃなかったんですか?」
もしかして、悪い病気だったのだろうか?
心配になりアンナさんを見る。
顔色は良くて具合が悪そうには見えない。
治療師のおかげで完治したのだろうか?
「そんな心配そうな顔をなさらないでください。」
「母さん、言い方が悪いわよ。
そんな言い方したらトオルさんが心配しちゃうじゃない!
トオルさん、心配しないでください!
病気じゃなくて、妊娠してたんです。
悪阻が酷かったみたいで……。」
え?妊娠?
アンナさんは、お腹をさすりながら幸せそうに教えてくれた。
「!?アンナさん、おめでとうございます!」
アレンは、知ってたみたいで驚いてる様子は無かった。
「ありがとうございます!
アレン様が治療師を派遣してくださったおかげでわかったんです。アレン様もありがとうございました。」
アンナさんは、アレンに頭を下げた。
「いや、気にするな。
しかし、妊娠だったとは聞いた時には驚いたぞ。
急ぎの仕事を頼んでしまって悪かったな。」
「いえ、むしろ、妊娠がわかったおかげでハンスが『子供のためにも仕事を頑張るぞ!』って張り切ってくれたのですぐに完成したんです。」
リールさんが笑いながら教えてくれた。
アンナさんもその様子を思い出したのか笑っていた。
2人はとても幸せそうだった。
子供かぁ……。
俺は男だからアレンの子供を産んであげられない…。
アレンは、本当に俺でよかったのかな?
「トオルどうしたんだ?」
アレンが心配そうに聞いてくる。
「いや、なんでもないよ!」
咄嗟に笑顔を取り繕ってアレンに笑いかける。
彼は、納得してないみたいだったが何も言わなかった。
「リールそろそろ、礼服を見せて貰えるか?」
アレンがリールさんにそう言う。
「はい!お待た致しました。
アレン様の御要望通りに作らせて頂きましたよ。」
リールさんとアンナさんは仕事の顔になって手元の包みを開いて見せてくれた。
「え?これって……。騎士団の……?」
出てきた服は黒を基調とした騎士団の団服だった。
オレンジゴールドと緋色の装飾が入っている。
アレンの色だ…。
「えぇ、そうです。
私はもっとトオルさんには愛らしい服の方がって言ったんですが…。」
リールさんがそう言ってアレンを見る。
「愛らしい服もそのうち用意して欲しいが、とりあえずは、団服だ。
トオルはもう、俺たち騎士団の家族だ。
だから、1番にこの服を贈りたかったんだ。」
家族……。
その言葉を聞いて目頭が熱くなる。
「アレン…ありがとう…。」
お礼を言うと抱きしめて頭を撫でてくれた。
「あぁ、これからも一緒に居てくれ。」
しばらくアレンの温もりを感じていた。
あ、2人の前だった…。
急いで離れてチラと2人を見ると、優しい顔でこちらを見ていた。
は、恥ずかしい……。
「トオルさん、1度、袖を通して頂いても?
手直しが必要なようでしたら今直しますから。」
アンナさんが聞いてくる。
「はい。ありがとうございます。」
「では、私とアレン様はしばし退室しますので…。
アンナお願いね?ほら、アレン様いきますよ?」
有無を言わさず、リールさんがアレンを連れて外に出ていく。
アレンは、仕方なさそうに着いて行った。
リールさん、やっぱりすごい…。
驚きながらその光景を見ているとアンナさんが笑いながら教えてくれた。
「私たちは、アレン様が孤児院にいらした頃からの知り合いなんです。
うちのお店は孤児院の子供達の服も作ってますから。
私もヴェイン様やアレン様には良く遊んでもらったんですよ?
母さんったら、その頃のことが抜けなくて今でもアレン様には強気なんです。」
「そうなんですか?
あぁ、だからアレンはリールさんの言うことは素直に聞くんですね。」
「はい。さぁ、あんまり時間がかかるとアレン様の機嫌が悪くなっちゃいそうだから早く終わらしましょう!」
アンナさんは、そう言って礼服を着付けてくれる。
「ピッタリですね?
何処か動きにくいところはありますか?」
軽く動いてみるが、動きやすくて直すところなんて思い浮かばなかった。
それに、すごく着心地が良くていい服だった。
「ありがとうございます!
すごく動きやすいです!」
「そうですか!よかったです。
それにしても……。」
アンナさんが礼服姿の俺を見て笑う。
「え?どうしたんですか?何か変ですか?」
童顔だし、似合ってないかな?
「あ、すみません。すごく似合ってますよ?
ただ、あのアレン様が変わったなぁと思いまして。」
意味がわからなくて首を傾げた。
「何にもあまり興味を示さなかったアレン様が、こんな独占欲の塊みたいな服を人に贈る日が来るなんて来るとは思いませんでしたよ。
トオルさん、この国では、自分の髪と瞳の色の物を贈るのは『貴方は私の大切な人』って言う意味なんですよ?
普通は控えめに小物を贈るのに、礼服だなんて……。」
改めて礼服をみた。
胸元にはオレンジゴールドの刺繍が入っていて、アレンの団服と同じように緋色のラインが入っている。
貴方は私の大切な人……。
この服を着ているとアレンに包まれてるみたいで落ち着かなくなった……。
「アレンめ…。
なんてことをしてくれたんだ……。
この服で明日王様に会うんだぞ……?」
「あらあら、トオルさん真っ赤ですよ?
手直しが必要無いみたいですし、そろそろアレン様を呼びましょうか。」
俺の返答を待たずにアンナさんが2人を呼びに行く。
ま、待って、まだ心の準備が……。
抵抗虚しくアレンが入ってくる。
「トオル!凄く似合ってるぞ!
リールもアンナもいい仕事をしてくれた。
ハンスにもよろしく言ってくれ。」
俺を見るなり笑顔で褒めてくれた。
本当は、思いっきり抗議してやろうと思ってたけどその顔を見たら、まぁ、いいかってなってしまい「ありがとう……。」しか言えなった。
「ご希望に添えたようで何よりです!
手直しも必要無いみたいですし私たちはそろそろお暇しましょうかね?」
リールさんがそう言う。
アンナさんも頷いて立ち上がる。
「あぁ、騎士に送らせる。これは代金だ。」
そう言って鞄からお金の入った袋を出してリールさんに渡した。
……結構重そうだけど?
待って?この服いくらしたんだ?
リールさんも袋の重みにびっくりしていた。
「アレン様、多すぎます!こんなに頂けません!」
焦ったようにリールさんは袋をアレンに返そうとしていた。
「いや、とって置いてくれ。
それだけいい仕事をしてくれたんだ。
それと、俺と、ヴェイン、ラインハルトからアンナへの妊娠の祝いも入ってるから栄養ある物を食べさせて、元気な子を産んでくれ。」
そうアンナさんに言う。
あぁ、妊娠のお祝いもかねてか。
納得した。
俺も渡したいけど、先立つ物がないからなぁ…。
やっぱり、何か作って届けてあげよう。
材料費が騎士団持ちなのは申し訳ないけど……。
「アレン様……。
ありがとうございます。お返しは必ず!」
アンナさんが嬉しそうに言う。
「礼ならそうだな……。
元気な子を産んで顔を見せに来てくれればそれでいいさ。
アンナだって俺たちの昔馴染みなんだ。
皆、待ってるぞ。」
「分かりました!
よかったら皆さんでこの子に名前を付けてあげてください!
もちろん、トオルさんもですよ?
皆さんから名前を貰えたらこの子もハンスも喜ぶと思います!」
お腹をさすりながら俺にも言ってくれた。
俺なんかが名前を考えていいのかな?
アレンを見ると頷いている。
「わかりました。皆で考えますね。」
そう答えるとアンナさんもリールさんも嬉しそうに笑ってくれた。
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