料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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「いらっしゃいませー!
あれ?アレン様?どうさなったのですか?
御用でしたら伺いましたのに……。」

服屋らしいその店の中に入ると、40代くらいの女性が元気な声をかけてくれた。


「おう、リール。居たか!ちょうどよかった。」
どうやらこのお店の主人らしく、アレンとも面識があるみたいだ。

「はい!今日はどんな御用ですか?」

「あぁ、ツレの正装を作って欲しいんだ。
トオル。この人は、リール。
うちの騎士団の正装は、リールが作ってくれてるんだ。」
そう言ってアレンがリールさんを紹介してくれる。

俺はフードを外してリールさんに挨拶をした。

「初めまして!トオルって言います。
よろしくお願いします。」

そんな様子をみたリールさんは驚いた声で応えてくれた。

「あら、なんて礼儀正しくて可愛らしい子。
それに黒い髪なんて珍しいわね。
正装がほしいって…あ!?
まさか、貴方が噂のアレン様の想い人かしら?
まぁまぁ、アレン様の恋が実ったのねぇ。
2人ともお似合いだわー!
じゃあ、結婚用の服でいいかしら?」



「け、結婚!?いや、違って、ち、違いますよ…。
俺、王様に会わないといけないから…。」

いきなり結婚の話になり顔を真っ赤にしながら訂正する。

後ろでその様子を見てアレンは嬉しそうにクスクスと笑っていた。


お似合いって言ってもらえたのはちょっとだけ嬉しかったのは秘密だ。

「あら?そうなの?
アレン様、こんなに可愛くていい子を手放しちゃダメですよ?
早くしないと他の人に取られても知りませんからね?」

「あぁ、リール、ありがとう!
心得た。大丈夫だ。手放すつもりなんてないから!」
アレンは、リールさんの言葉に心からの笑顔で頷いていた。


恥ずかしい…。
もう嫌だ。
この場から去りたい…。


「わかればよろしいです!
では、トオルさん。採寸をするからこちらの部屋にお願いしますね。
アレン様は、こちらでお待ちください。」
その言葉にアレンは、少しだけ残念そうにする。

「俺も入ってはダメか?」

「当たり前です!
採寸は、服を脱がないと出来ないのですよ?
アレン様といえど未婚の子の素肌を見ようなんてもってのほかですわ!
アレン様はここでトオルさんに合う色の生地を探しててください!」
そう言って、アレンに布のカタログの様な冊子を渡した。


リールさんの威圧に負けてアレンが断念した。

す、すごい、ヴェインさん以外にアレンがあんなにすんなり言う事を聞くなんて…。

ただ、扱いが女の子なのがちょっとだけ引っかかったが……。

隣の部屋に入るとそこは作業室らしく生地や作りかけの服が沢山あった。

「凄い!これ、全部リールさんがお一人で?」


「普段は娘夫婦と3人でやってるんですが娘が風邪をひいてしまって…。
娘婿が看病をしてるので今日は1人なんです。」

「そうなんですか。
娘さん早く良くなるといいですね!」

「はい!ありがとうございます!
では、採寸をしますので下着以外は脱いで頂けますか?」

ちょっと恥ずかしいけど仕方ないかぁ。

「はい!お願いします。」
服を脱ぐとリールさんはすぐに採寸をしてくれた。
手際良くメジャーで寸法を測り紙に記入していく。


「はい!終わりましたよ!
風邪ひかないうちに服をきちゃってください。」

そういえばと思い、服を着ながらリールさんに聞いてみた。

「ありがとうございます。そういえば、さっき言ってた噂ってなんですか?」

リールさんは、楽しそうに笑いながら俺の質問を答えてくれる。

「昨日、アレン様が正門から戻られた時に大事そうに男の子を抱えて居たとか、
顔を見ようとした人に威圧をしてたとか、
みんなの前で大事な人と宣言してたとかですよ。
そこからみんなが憶測をして、お見合いを断り続けたアレン様がやっと花嫁になる人を連れ帰ったとか、
アレン様にやっと春が来たって凄い噂になってるの。」

やっぱり昨日のことか……。


「なんですか、それ……。
恥ずかしすぎて街歩けないじゃないですか!?」

挙動不審な俺にリールさんがクスクスと笑いながら

「トオルさん、大丈夫ですよ?
みんなトオルさんの顔や髪の色のことは一言も触れていませんから!」

その言葉に俺は「それもそうか」と心を落ち着けた。


「まぁ、でも、あの様子のアレン様がトオルさんを一人で街に出すわけがありませんから時間の問題でしょうけどね?」


と最後に付け加える。




上げて下げるなんて酷い人だ…。

俺の様子を見てリールさんはまたクスクスと笑っていた。
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