料理人は騎士団長に食べさせたい

arrow

文字の大きさ
上 下
61 / 196
本編

38

しおりを挟む
「しかし、彼は頑張った方だった。
人間の魂にも関わらず300年は耐えたのだ。

だが、次第に壊れていき、記憶を失っていった。
彼は最後まで己の生前での罪を懺悔して、私にこういったのだ。
『この先、何時になるかわからないが、俺の、俺達の大切な子がやってくる。その時は愛して助けてやって欲しいと。』
その時には、自分の名前も忘れていたのにな。
それにも関わらず最後までその子の名前は忘れていなかったのだ。

その子の名前が、小川透。お主だ。」




「…………え!?俺?……なんで…?」
意味がわからなかった。

そもそも、俺はこの世界に来てからフルネームを名乗って居ない。

何故、俺の名前をコア様が知ってる?
アレンを見ると彼も唖然としていた。


「小川透は、お主で間違いないだろ?
小川達也と薫の子供にして、我が半身だった蛇沢翼の弟子。
それにお主の見た目は翼の記憶で見た姿と一緒だ。
間違いなくお主だ。」


「え?……師匠?
なんで?師匠がコア様のもう1つの魂?」
唖然として何も考えられなかった。


「あぁ、間違いない。」
コア様は、頷く。


「だって……そんなの変ですよ。
俺は4~5日前に師匠に会ってます。
沢山、怒られて……でも、優しい顔で慰めてくれて………。賄いが美味しいって褒めてくれて………。」

俺は思い出せる限りの師匠と最後に会った日のことを思い出す。


そんなの………そんなの有り得ない……。

だって、コア様のもう1つの魂は、1000年前からこの世界に居て、でも、700年前には壊れて消えてしまって……。

そんなの……。

何が何だかわからなかった。


「翼が神に望んだのは、トオルを助ける術が欲しい。トオルを護る術が欲しい。だった。そして彼の魂は、1000年前のこの世界に現れた。

翼が死んだのは、トオルが電車に轢かれてから30年経っていた。
あっちの世界ではもうトオルの魂は消えかかっており、助けることが出来なかった。

時間を戻すことは、禁忌だ。
下手をすれば、あちらの世界が崩壊する。
神はそれを良しとしなかった。

だから、トオルがあの日、電車轢かれる寸前でこちらの世界に呼ぶことが唯一の方法だったのだろう。

そのためには、この世界の強い力が必要だった。
魂は、生まれてしまってからでは1つの肉体に2つは入れない。
だからこそ、神は、私が生まれた1000年前に翼の魂を送り込み、私の力を使ってトオルをこの世界に呼んだのだ。

私も、翼自身も、いつトオルが現れるかわからなかった。
だから、ずっとお主が現れるまで待って居たのだ。

まぁ、神に直接聞いた訳では無いから私の憶測だがな……。」


「………そ、そんな……じゃあ師匠は……。」

俺の目からは大粒の涙か溢れていた。

師匠は、俺を助けるために自分自身の転生を断る道を選んだのか?

なぜ、そんなこと…。

いつ来るかもわからない俺をずっと待ち続けてくれたのか……。

師匠……。
あなたは、馬鹿だ。
こんなに手間がかかる覚えの悪い弟子の為に……。


「トオル。」
アレンが泣きじゃくる俺を優しく抱きしめてくれる。

「トオル、翼はな、お主を我が子のように愛していた。そして、お主の兄弟子達の愚行に気づけなかった己を許せなかった。
だからこそ、何をしてでもトオルを助けたかったんだ。
だから、泣くな。
翼に礼を言ってやってくれ。
私の大切な半身、私の大切な古い友人に。」

そう呟いたコア様は、悲しそうな、寂しそうな表情だった。

そっか。
俺だけじゃなく、師匠は、コア様にとっても大切な人だったんだ。

「コア様。………分かりました。
師匠、ありがとうございます……。
師匠に助けてもらった命…………大事にこの世界で生きます……。」

俺は、コア様に。
師匠の若かりし姿にそう誓った。


「あぁ、そうするがよい。」



「でも、どうして神様はそこまでして俺を助けようと?」


「さぁな?神は気まぐれだ。
ただ、1度だけ話したことがある神は、助けなければ飯が食えないと言っておったが……?」

なんの事だ?
飯?神様って腹ぺこキャラなのか?


そんな俺の思考を無視してコア様は続けた。

「それと、これは翼も気づいていないことだが、翼の魂は完全には消えていない。」

コア様は、少しイタズラっ子のような顔でそう言った。

「……え!?……だって……人間の魂じゃ、1000年の長さには耐えられないって……。」

完全に消えてない?
どういうことだろうか?

「翼の壊れていく魂を感じながら私はずっと考えていた。
なんとか彼を救えなかと……。
ある時考えたのだ。彼の魂が消える瞬間に私の魂に吸収出来ないかと。
本来は、2つの魂は、合わさることは無い。だが、彼とは同じ肉体で過ごすうちに少しずつ魂が似てきたのだ。
だから、消えかかる瞬間なら取り込み、私の魂をわけて壊れた部分を治せるかもしれん。」

「じゃあ、師匠の魂は今?」


コア様は、自分の胸元を示してニヤリと笑いながら言う。

「あぁ、ここで眠ってる。
もう少し時間をかければ修復出来るさ。

その後は、切り離せば転生するかもな。
ただ、私の魂と混じってしまってるから純粋な人間にはなれんかもしれないが……。」


そっか……。
師匠の魂は、まだ、ここにあるんだ。
1000年間ずっと俺を待っててくれたんだ。

「コア様、ありがとうございます。
師匠をよろしくお願いします。」
俺は、涙を流しながらコア様にお礼を言った。

俺が生きているうちに会えるだろうか?
いや、今度は俺が師匠を待つ番だ。

「なぁ、コア。」
アレンがそこで口を開く。

「アレン?なんだ?」

「コアの探し物は、トオルで間違い無かったんだよな?」
コア様に問いかけた。

「あぁ、そうだ。まぁ、正確には、翼の探し物だがな。」

「じゃあ、なんで俺に頼んだ時に、何かわからないって言ったんだ?」

確かに、アレンは、コア様に頼まれた探し物は、何かわからないと言われたと言っていた。
俺も疑問に思い、コア様を見た。

「あぁ、それか。
それは、翼のせいだ。」

「師匠の?」
どういうことだろうか?
心無しかコア様は怒っているように思えた。

「あぁ、翼のせいだ。
私がいつまでも来ないトオルに痺れを切らして探しに行こうとしたのだ。
時が来ればわかると言われても気になるではないか。
私の古い友人がそこまでして助けたかった子だ。
しかし、翼に止められた。
『お前がこの場を離れたら誰が国を護るのだと。この国は透が暮らすかもしれない国だからちゃんと護れ。』とな。
そして、私に魔法を掛けたのだ。
時が来るまで忘れる魔法を。」

「え?師匠が魔法を?」
でも、強引に力技なあたりがとても師匠っぽい……。
ちょっとだけ笑ってしまう。

「あぁ、彼は魔法の天才だったぞ?
地頭が良かったのもあるし、私の魔力を使い放題だったのもあるが。
そのせいでトオルのことを忘れていたのだ。」


「じゃあ、行けばわかると言ったのは?
何故、俺はトオルの居場所がわかったんだ?」
アレンが続けて聞く。

え?アレン、たまたま俺を見つけた訳じゃなかったの?


「あぁ、それは、私がアレンに加護を与えてるからだ。
そしてトオルにもな。
だからこそ、場所がわかったんだろう。」

「なら、王様もトオルの場所がわかるのか?」

あ、確かに、王様も資格持ちだもんね?

「いや、あいつには無理だな。
何故なら、アレンやトオルへの加護は翼が与えたものだ。
王には私が加護を与えた。」

ん?どういうこと?
師匠がアレンに加護を与えたって?

「トオルの師匠が俺に加護を?」
アレンも予想外の答えだったのか目を丸くして聞く。

「あぁ、正確には、トオルを幸せに出来るものへの加護だがな。
翼は、トオルがこの世界に来る時にはもう自分がこの世界には存在していないと思っていた。
だからこそ、トオルを護るために相応しい者をずっと探してした。
そして、アレンが選ばれた。」

アレンは、その話を聞いて自分の掌を見つめる。

「じゃあ、俺のこの力はトオルを護る為にあるんだな?」

小さく呟いた。



♦♦♦♦♦

Twitterにてアンケート第2弾実施中です。

いつ書くかは未定ですがご意見お願いします。

番外編読みたいキャラは?

①守護竜
②ヴェイン
③ラインハルト
④カイル

作者プロフィールからTwitterにとべますのでご参加よろしくお願いいたしますm(_ _)m


連載作品の続きを書いてたはずなのに何故か短編小説が出来ちゃいました笑

〖思春期男子2人を密室に閉じ込めた結果〗
ちょっぴりえちえちな短編です。
よろしければお楽しみくださいm(_ _)m
しおりを挟む
Twitterをはじめました!よろしければフォローをお願い致します。https://twitter.com/arrow677995771
感想 140

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...