料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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「いや、そんな、俺はなにも……。」

俺はなにもしていない。
ヴェインさんにお礼を言われることなんてなにも……。
ん?待てよ?
なんで、ヴェインさんがアレンさんに悪いって思うんだ?


「そんなことないさ。
それに、これは、俺のアレンに対する贖罪でもある。」

「贖罪?」
よけいに意味がわからなくて聞いてしまう。

「あぁ、アレンが助けようとしたのは俺の弟だったんだ。
本当はアレンじゃなくて俺がアイツと一緒に居るべきだったんだ。」

そうか。
アレンさんはヴェインさんの弟を助けようとして……。
ヴェインさんの涙の理由は弟とアレンさんへの懺悔……。


そんなの……。

「そんなの、ヴェインさんは悪くないじゃないか。」
気づいたら叫んでいた。

「だが…。」
ヴェインさんの言葉を遮って続ける。

「ヴェインさんは、悪くない。
不幸な事故だ!

だから、ヴェインさんがアレンにするべきなのは贖罪じゃなくて感謝だよ…。

弟を助けてくれてありがとうって。
最後に弟と一緒に居てくれてありがとうって……。

アレンは、確かに想像出来ないくらい苦しかっただろうし、辛かったと思う。

でも、ヴェインさんだって家族を失って辛かっただろ?
なのに、自分がそこに居るべきだったなんて考えは……違うと思う……。」



最後は嗚咽混じりで上手く言えなかった。
でも、違う。

ヴェインさんは悪くない。


家族を失うのは辛いことだ。
胸にポッカリ穴が空いて何も無くなる。

今はもう会えない両親の顔が浮かぶ。
この穴は二度と埋まることはないだろう…。

「トオル……俺は……。」

「だから、ヴェインさんからのお礼はいらないよ。俺が貰うのは間違ってる。

だから、もし……もしも、アレンが記憶を取り戻したらその時にアレンに言ってあげて欲しい。」

ヴェインさんは、俺の言葉にただ涙を流すだけだった。

ヴェインさんも、ずっと辛かったんだろう。

幼なじみが辛い目にあった原因は自分のせいだって思って、アレンさんが野菜を食べれないのを見てずっと自分を責めながら、20年も生きてきたんだろう。

さっき、ヴェインさんは
幸せになって欲しいって言ってた。
まるで自分にはそんな資格が無いみたいに……。


「ヴェインさん」
ヴェインさんが、俺を見る。

「ヴェインさんも幸せになっていいんだよ。もう、自分を責めなくていい。
もし、それでも、自分を責めるなら俺がアレンの野菜嫌いを全部治すよ。
だからヴェインさんも幸せになって……。」


ヴェインさんは、俺の言葉を聞き、目を見開いたあと、そっと俺の頭を撫でた。

「トオル、ありがとう。頼む。」

「もちろん。」


しばらくの間、部屋には俺たちが泣く音だけが響いていた。





「長く話し込んでしまって悪かった。

おやすみ。」


「うん、ヴェインさんもおやすみなさい。」

泣き止んで、部屋から出ていくヴェインさんの後ろ姿を見送りながら頭の中で考える。


考えなきゃいけないことが沢山あった。

でも、1番に考えなきゃいけないことは……。

のこと。

さっきまでの話を聞いたら流石に俺だってわかる。


談話室での会話を思い出す。

「トオル、俺はお前と騎士団長とかそういうのじゃなくて、1人の人間として仲良くなりたかったんだ。意味はわかるな?」

「トオル、俺にお前を護らせてくれないか?」



さらに夕食の時のアレンの言葉を思い出す。

「そういう意味だって言ったら信じるのか?」


ドキリと鼓動が跳ねた。

「アレンは、誰にでも優しい訳じゃない。
むしろ、冷たくて怖がられるほうが多い。
あんなに優しい顔で笑うのはトオルお前にだけだよ。」

ヴェインさんの言葉……。



「アレンは、俺のことが恋愛対象として好きなのか…。」零れるように口から出た。


気づいてしまえば、アレンの全ての行動が俺への優しさで、想いで、溢れていた。

顔が熱くなっていく。

談話室で唇が触れそうになったことを思い出す。
「あのとき、ヴェインさんが入って来なかったら俺は……。」

あの先を想像してベッドに飛びこんだ。

「は、恥ずかしい………。」
枕に顔を押し付けて悶えた。 


だが、今度はアレンの過去の話を思い出し涙が溢れる。

「俺、情緒不安定かよ……。」

アレンにはずっと笑顔でいて欲しい。

その為にアレンに俺が出来ること……。



いつかの母との記憶が蘇る。

「透、料理は魔法なのよ。」


「手間ひまをかけて心を込めて作った料理はね、食べた人だけじゃなくて作った人も笑顔になるのよ。
人を笑顔にできる魔法なの。」


「お父さんみたいな料理人になって色んな人を笑顔にしてもいいし、いつか出来る透の大切な人に作ってあげてもいい。」



「俺の大切な人……。」

赤い髪の笑顔を思い浮かべてベッドの上で独りごちた。






♦♦♦♦





読んでいただきありがとうこざいます!

本日の12:00と明日0:00の更新は閑話を1話ずつとなります。
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