料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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「そんなに浮かない顔するなよ。
じゃあ、もうひとつヒントやるよ。

アレンは、誰にでも優しい訳じゃない。
むしろ、冷たくて怖がられるほうが多い。
あんなに優しい顔で笑うのはトオルお前にだけだよ。
これでもわからないなら流石に、アレンが可哀想だからトオルの身ぐるみ剥いでアレンの部屋に閉じ込めるからな。」

「………え?」

「俺もそこまではしたくないからこれでわかってくれ……。
幸せになって欲しいんだ。
で、返事は?」

アレンさんの幸せを願っている割には何故そんなに辛そうな顔をするのだろうか?

ヴェインさんに鋭い目を向けられ反射的に「はい!」と答えてしまった。

日本人のとりあえず「はい」って言っとけの精神が裏目に出た気がする。


「ほう?つまりそれでいいってことだな。
わかった。自分で分かるように頑張れよ。

あとな、トオルに言いたいことがもうひとつあるんだ。」

「いいたいこと?どうしたの?」

今度は凄く言いづらそうな顔をしながらヴェインが話し始める。

「本当は、これも本人の口から言うべきなんだが、アイツの記憶がないってのがあるから仕方ないか。」

記憶がない?
どういうこと?

「アレンのことだよね?」

「あぁ、トオル、まずはアレンの野菜嫌いを治してくれて本当にありがとう。
まだ、完全に治った訳じゃないが凄い進歩だよ。」

「あ、いや、俺は何も……。
そもそも、なんでアレンはあんなに野菜が嫌いなの?」

「……俺とアレンは孤児院の出身って言っただろ?」

苦い虫を噛み潰したような顔でヴェインさんが話し始める。

「俺とアレンの村は農村でな。
20年前にドラゴンに襲われてなくなったんだ。……家族も……友達も……皆……死んだ…。
俺と……アレンだけが生き残った。」

「………え?」

アレンさんがドラゴンに2回あったことがあるって言っていた。

じゃあ、そのうち1回が20年前?

「俺は、比較的早い段階で駆けつけた騎士団に助けられたんだ。でも……でも…アレンは……。」
ヴェインさんの目に涙が溜まって行く。

「アレンは、ドラゴンが襲ってきた10にやっと助けられたんだ。倒れた家の下敷きになって居た。」

「10日後!?」

日本は、地震が世界一多い国だ。
だからこそ、余計にこの話の凄さがわかる。

建物などに生き埋めになったときは72時間を境に一気に死亡率が跳ね上がる。
それなのに10日なんて……。

「アレンのすぐ近くにはの遺体があったらしい。
その子を助けようとして一緒に下敷きになったんだろうな。」

当時8歳の子供が10日も1人で瓦礫に下敷きになりながら耐えたんだ。

いったいどれだけの孤独と絶望を抱えて過ごしたのだろうか?
想像しただけでも涙が出てきてしまった。

アレンさんは、本当に辛かったんだろう。

いや、辛かったの言葉では済ましてはいけない気がして何も言えず、ただ頷いて涙を流すことしか出来なかった。

「そして、アレンの近くには腐りかけの野菜がいくつも落ちてたそうだ。

動けないまま、近くにあった野菜だけで食いつないでいたんだ。

10日だ。段々腐っていく。それでも必死に助けを待って生きるために無理矢理食べてたんだ。」


「………だから…アレンは……野菜が嫌……いだったのか……。」
込み上げてくる感情のせいで言葉が出てこない。

ヴェインさんも涙を流しながら頷く。

さっきの食事中、アレンさんが言っていた言葉が浮かんでくる。
俺が作った料理を嬉しそうに楽しそうに食べるアレンさん。


でも、途中で辛そうな顔をしながら「俺が今まで食べてきた野菜は、青臭くて泥臭くてとても食いものって感じがしなかった。」って言っていた。

「助けられたアレンは、2ヶ月眠り続けた。目を覚ましてからは、野菜を見ると発狂するようになった。」

「アレンが?」

「あぁ……。だが、ある日突然、ドラゴンに襲われてから助け出されるまでの記憶を全て忘れていた。

その後、すぐにアレンが資格もちだってわかってドラゴンを倒すって騎士をめざしたんだ。」

何かが引っかかる。
だが、それはに出会った時に聞けばいい。
いずれ俺も会うことになるんだろうから。


「じゃあ、それ以降、アレンは、野菜が食べれなくなったんだね。」

「そうだ。
記憶は、無くなってるはずなのに身体は覚えてるみたいでな。

俺は、何とか克服させようって言いながらどこかでは仕方ないって思い込んでた。

でも、トオルは今日少しでも実現させたんだ。

ずっとアレンには、悪いと思っていた。

野菜が食べれなくなってからまだ、あの時のことを引きずっているって……。

だからこそ、言わせて欲しい。」

ヴェインさんは、涙を拭い蒼い瞳でしっかりと見つめながら言った。

「本当にありがとう。」
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