料理人は騎士団長に食べさせたい

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番外編 前日談 (本編11話後推奨)

騎士団長は料理人をたべたい

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「まずい…」

足に魔力を集め一気に木を蹴りつけ跳躍する。
こちらに気づいた魔物が俺を襲おうと近づいてくる。

よし、それでいい。
着地と同時に1匹を切り伏せる。
それに怯んだもう1匹を炎魔法で灰にした。

間に合った……。

倒れている人影に近づく。
ちょうどカイルと同い年くらいだろうか?
髪は黒く、幼い顔立ちはとても綺麗に見えた。
きている服は、見たことがない形をしているが上質なものだとわかる。
近くには、これもまた見たことがない素材のカバン?が落ちていた。

身体には擦り傷がいくつかあった。
息をしていることを確認し安堵してから

「おい!大丈夫か?」
と声をかける。

反応がない。

何回か繰り返すと反応があり、やっと目を覚ました。

開いたその黒く艶やかな瞳に一瞬心を奪われる。

「く…だれ…?」

喉が掠れているようで上手く声が出ていなかった。

「よかった、気がついた。
こんな所で倒れてるから心配したんだ。
上手く声が出ないのか?
ちょっと待ってろ。水を用意する。」

あ、まずい、水を持って来てない。
荷物は馬に置いてきてしまった。
仕方ないか。
俺は炎の魔力が強すぎて水魔法があんまり上手く無いのだ。
まぁ、少しの飲水くらいなら出せるだろう。


「悪いな、俺、あんまり水魔法が得意じゃなくて、まぁ、飲み水くらいなら俺でも用意できるから。」


そう言いながら水魔法を詠唱し手のひらに水を溜め少年に飲ませる。

抱き起こしたその身体はとても柔らかく触れるだけで壊れてしまいそうだった。

そして、何かとても美味そうな匂いがする。

水を飲ませると少しこぼれてしまい、顔を伝って流れたその様子はとても艶やかだった。

ん?おい、俺。
一体何考えてるんだ。
こんな可愛らしい少年に。

いや、可愛らしいってなんだよ。
変態か俺は。
俺はショタコンじゃない。
カイルにだって孤児院のチビ達にだってそんなこと思わなかった。

じゃあ、なぜこの子にだけ…。

「…ふぅ」
少年が水を飲み干し一息つく。

「大丈夫か?ここら辺ではあまり見ない髪の色と服装だな?何があったんだ?」

そう聞くと当たりをキョロキョロと見渡し驚いた顔をする。

「ここ、どこ?俺、轢かれて……天国?」

初めて聞いた少年の声はとても愛らしく鈴の音のように心に響いてきた。
天国だと?じゃあ、この子は天使か?

ん?今轢かれたって言ったか?
まさか、馬車にでも轢かれたのか?
改めて少年の身体をみやるがかすり傷くらいで大きな怪我は無く安堵する。

「天国?何言ってるんだ?ここは王都から南にある、知らずの森だぞ?何故こんなところで倒れてたんだ?魔物にでも襲われたのか?」

とりあえず落ち着けるために状況を教える。

まぁ、実際魔物に襲われる寸前だった事は内緒にしとく。

しかし、落ち着けるため教えたはずなのに更に混乱させてしまったらしい。
怪我をしている少年を混乱させてしまったことを反省した。


「すまない、突然いろいろ聞きすぎた。
とりあえず、ここを離れよう。
いつ魔物に襲われてもおかしくない。
立つのはまだ厳しいよな?」

そう伝えると了承も待たずに少年を持ち上げた。

軽っ?
こいつ、ちゃんと飯食ってるのか?
ヴェインじゃないが心配になるぞ。

「!?? え?ち、ちょっと待って……」

突然持ち上げられて怖かったのか首に咄嗟に腕を巻き付けてくる。

密着すると美味そうな匂いが強くなって途端に腹が減り始めた。

食いてぇ……。
は?今何を思った?
俺は人間を食う趣味はないぞ?
まぁ、綺麗な子だけどな…。


しばらく腕の中でじたばたしていた少年が俺と目が合った途端動かなくなる。

「ん?どうしたんだ?」

話しかけた途端目をそらされてしまった。
なんだか顔が赤い気がする。

「あ、いえ、すみません。
その、目が凄く綺麗だったから…」

いきなりそんなことを言われびっくりしてしまう。
目付きが悪い、怖い、冷たいなどはよく言われてきたが綺麗なんて言われたのは初めてだった。

「そんなこと、初め言われたな。
ありがとう、でも、そんな可愛い顔でそんなこと男に言うのは口説いてるみたいだぞ?」

口説かれてるみたいでクスクス笑ってしまった。

「え、いや、違うんです、すみません、忘れてください…」

顔をさらに赤らめた少年は、恥ずかしそうに顔をうつむける。

え?なんだこの可愛い生き物?
同じ人間か?
本当におとぎ話に出てくる天使じゃないのか?

やばい、変な思考に陥ってしまった。
平常心を保たなければ……。
あ、でも、せめて名前くらいなら聞いてもいいよな……?

「そうなのか?それは残念だな。
せめて、ナンパついでに名前でも教えてくれないか?俺は、アレンだ。」

き恥ずかしさを堪えるようにクスクス笑って誤魔かしながら自己紹介をする。


「俺は、透です。」

トオル。
変わった名前だがこの子の名前だと思うとそれだけで愛らしく思えた。
あ、平常心、平常心。

「トオルか?珍しい名前だな?
何があったか詳しく聞きたいが今はとりあえず王都を目指すとこからだな。疲れたら寝てていい。」

天使かどうかは置いといて、魔物に襲われて1人ならばこのまま放置することは出来ない。
せめて孤児院に連れていくくらいはせねば…

「ありがとうございます…」

森の外を目指して歩き出す。
しばらくすると腕の中でトオルが寝息を立て始めた。
うわ、可愛い……。

トオルの寝顔を見ながら歩いていると近くから魔物の気配がした。

「せっかく天使が寝てんだ。
邪魔すんな。」

向かってくる魔物に向かって炎魔法を放ち灰に変える。

トオルの安眠は俺が護る。
むしろ、トオルの全てを護ってやりたい。
初めてあったばかりなのにそんなことを思っていた。

「にしても、腹減ったな……。」

森をぬけて馬の元まで戻ってくる。
ティフィンへの帰路についてからふと思い出した。

「あ、捜し物忘れてた……。
まぁ、見つからなかったことでいいか。」

腕の中で眠る少年を見て思う。
この子の方がコアの捜し物よりよっぽど大切だ。

「ま、最悪、この子を捜し物ってことにしてヴェイン達には押し切ろう。
コアは、まぁなんとかなんだろ。」

その呟きは誰にも届かなかった。


♦♦♦♦♦


お楽しみ頂けたでしょうか?

今後ともよろしくお願いします!

気ままに書いておりますので
誤字、脱字、おかしな日本語等あると思います。
ご指摘ありましたらよろしくお願いいたします。
また、感想、要望等もお待ちしております。


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