料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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夢をみた。
まだ母が生きていたころの夢。

たしか、父の為に母と2人でお菓子を作っていた。
ケーキを焼いて待っているところだった。

「透、料理は魔法なのよ。」

「まほう?」
よく意味がわからなくて首をかしげながら母を見る。

「手間ひまをかけて心を込めて作った料理はね、食べた人だけじゃなくて作った人も笑顔になるのよ。
人を笑顔にできる魔法なの。」

母は、俺の頭を撫でながら笑顔でそう言っていた。

「お父さんみたいな料理人になって色んな人を笑顔にしてもいいし、いつか出来る透の大切な人に作ってあげてもいい。」

そのときの母の顔はとても幸せそうな笑顔だった。

料理は魔法。
そのときは、よくわからなかったがこの仕事に就いてからはわかるようになった。

仕事はキツく、先輩達は最悪だったがシェフはいろんなことを教えてくれて尊敬できる人だった。

シェフの料理は、とても手間ひまをかけたものばかりで食べる人をいつも幸せな気分にしている。
そして、シェフもいつも幸せそうな笑顔でそれを見守っている。

笑顔にする魔法。

ピッタリの言葉だと思う。

俺にもいつか両親やシェフのような魔法を使えるだろうか…



「………お…」

不意に誰かに呼ばれた気がした。

「……お……だ………か?」

目を開こうとするがずっと目を閉じていたみたいで眩しくて開けない。

「おい、大丈夫か?」

ハッキリ声が聞こえた。

ゆっくり目を開くと、目の前には心配そうにこちらを見つめる赤髪の男の人がいた。

「く…だれ…?」
喉がカラカラで上手く声が出せなかった。

「よかった、気がついた。
こんな所で倒れてるから心配したんだ。
上手く声が出ないのか?
ちょっと待ってろ、水を用意する。」

男は安堵したような顔を見せ、小さく何かを呟き出す。

「悪いな、俺、あんまり水魔法が得意じゃなくて、まぁ、飲み水くらいなら俺でも用意できるから。」

そう言いながら苦笑いでお水を渡してくれた。

「……?まほう?」

魔法っていったのか?
声が掠れていて呟いた言葉は男には届かなったみたいだ。
男は、水を飲ませるために俺のからだを起こして支えてくれている。

そう言えばからだのあちこちがズキズキ痛む。

男が水をを口元まで運んでくれて何とか飲むことが出来た。
冷たく少し甘いようなお水はとても美味しかった。


「…ふぅ」
水を飲み干し一息つく。

「大丈夫か?ここら辺ではあまり見ない髪の色と服装だな?何があったんだ?」


なにが……あれ?
俺、たしか、電車に轢かれて…
死んだのか?

当たりを軽く見渡すと森の中だった。

「ここ、どこ?俺、轢かれて……天国?」

そう呟くと、男が怪訝そうに見つめてきた、

「天国?何言ってるんだ?ここは王都から南にある、知らずの森だぞ?何故こんなところで倒れてたんだ?魔物にでも襲われたのか?」

知らずの森?
王都?
魔物?
困惑している俺に

「すまない、突然いろいろ聞きすぎた。
とりあえず、ここを離れよう。
いつ魔物に襲われてもおかしくない。
立つのはまだ厳しいよな?」

というと突然身体を抱き抱えられる。

「!?? え?ち、ちょっと待って……」

軽々と俺を持ち上げられ、突然の浮遊感に怖くなり無意識に自分から彼の首に抱きつくような体制になってしまう。

そう、いわいるお姫様抱っこ状態だ。
まさか、24にもなってお姫様抱っこされるなんて…
恥ずかしくていたたまれず、しかし、身体を動かすことも出来ずに、ただ受け入れるしか無かった…

不意にあった彼の目は、オレンジと金色の中間のようなとても綺麗な色でついつい見蕩れてしまう。

「ん?どうしたんだ?」

話しかけられ、自分が彼の目をずっと見つめていたことに気づき急いで目をそらす。

「あ、いえ、すみません。
その、目が凄く綺麗だったから…」

テンパってしまいついつい変なことを口走ってしまう。

彼はキョトンとしたあと、クスクスと笑いだした。
「そんなこと、初め言われたな。
ありがとう、でも、そんな可愛い顔でそんなこと男に言うのは口説いてるみたいだぞ?」

く、口説いてる?
たしかに、見方を変えればナンパでしかないな。
やばっ、はずっ…

「え、いや、違うんです、すみません、忘れてください…」

彼からの視線を感じいたたまれず俯いた。

「そうなのか?それは残念だな。
せめて、ナンパついでに名前でも教えてくれないか?俺は、アレンだ。」
クスクス笑いながら揶揄うように名前を聞いてきた。

「俺は、透です。」

「トオルか?珍しい名前だな?
何があったか詳しく聞きたいが今はとりあえず王都を目指すとこからだな。
疲れたら寝てていい。」

「ありがとうございます…」

俺も聞きたいことが沢山あったがくっついている彼、アレンの一定リズムの心音と声が心地よくいつの間にか意識を手放した。

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