ひとくいおにのたたかい

銃弾乱打

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SCENE12 正義だとか悪だとか

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広い場所では無い。どこか陰湿な雰囲気が漂っていて、警備員は殺気だっている。裏口のカギをアウローラはこじ開け、そのまま侵入に成功した。希望のぞみは冷静に彼女へ着いて行く。
目的のものを吟味する必要も無い。アウローラは希望のぞみに小声で声をかけた。

「ディストピアが誇る最新兵器。神経ガス兵器よ。ついでにドローンも、ひかるが言ってたオスプレイはさすがに無いか。」

意外と思えるほどに話はあっさり進んでいった。アウローラが堂々と敷地内に入り、希望のぞみはその隣に着いていき、第三特別区の最深まで残り数百メートルというところまでやってきた。

「致死性は無いといえど、行動は不能になる。その隙を狙ってヤツらの指揮官を片っ端から片付ける。なるへそ、あの子もよくこンな根暗で陰険な作戦思いつくわ。」

あと数メートル。そんな距離でアウローラは携帯ほどのサイズの物体を取り出した。彼女は躊躇いも無くスイッチを押し、物体を地面に落とした。

「通信遮断成功。全く、間抜けすぎて嫌になるわァ。」

警備員のひとりが通信不能になったことを知り、それに呼応するように周りは混乱に満たされる。アウローラはその間を狙い、細菌兵器が載せされた車のカギを開けた。

「人間ってのはどこまでも目の前のことしか見えない。つきゃ穴だらけの作戦でも、なにかのハプニングを搭載するだけで成功に成る。と、言うわけで…行くよ、希望のぞみィ……ん?」

希望のぞみが動いていないでは無い。動けないのだ。そうアウローラは知る。こちらを伺う警備員がひとり、確かにサブマシンガンを構えながら向かって来た。

「……ッ!」

乾いた破裂音がこだまする。硝煙はアウローラの軽機関銃アサルトライフルから吹き出ていた。彼女は希望のぞみの右腕を半ば無理矢理掴み、車へ押し込んだ。

「クソッ…タレッ…。」

「いいの!?あの人あのままだと…!?」

「イイから!行くよ!」

希望のぞみは怯えた。危ないことを行うということは、こういった事態が起きることを理性は知っていた。だが、現実的に起きてしまえば脳の演算は停止してしまう。

「あンたが落ち着かないと…あたしだって逃げづらいのよ…。」

ダッ!
プッシャァ…
カラカラカラ…

「最ッ悪!」

銃弾によってパンクした車のホイール。銃を構える警備員たち。彼らに人道は存在しない。希望のぞみはアウローラを少しだけ見た。
彼女はまるで諦める様子は無い。むしろこの状態になることを知っていたように、小さな少女に告げた。

「グロ耐性が無いンなら…目を瞑って耳を閉じてなさい。あたしが問題を解決してくるから。」

アウローラは軽機関銃アサルトライフルを二丁担ぎ、車から飛び出た。希望のぞみはただ黙って、結末を見守っていた。

「諸君、降伏するンなら今のうちよ?」

「ほざいてンじゃねェ!」

「…あっそ。」

軽機関銃アサルトライフルの安全装置を解除したアウローラは、二丁の銃弾を同時に発射した。この世のものとは思えない不協和音と共に、彼女は狂気の世界で猛り笑う。

「ッハッハッハッハッハッハッ!あァ……この仕事が大好きだわ。」

銃の弾速を読んでいるのか、アウローラは最前から一撃たりとも攻撃を喰らっていない。圧倒的な数で迫る警備員たちは一撃で致命傷を負っているのに。
希望のぞみはその光景に目を閉ざした。

やがて銃弾が弾ける音が鳴り止んだ。アウローラは銃を地面に投げ捨て、杖をついているのが信じられないほどの速度で警備員のひとりに迫り寄る。彼女は彼から銃を奪い、その銃で彼の頭を吹き飛ばした。

「ラァラララ…フォーエバー…。」

散華は続く。どこまでも、延々と、悪夢のように。
銃先を整えた警備員たちが死を待つ道化となり、褐色の彼女は死の祈りを捧げる。愛する者も帰る場所も夢も希望も全て彼女の祈りが台無しにしていく。

「狂ったバケモノめ…!クソッ!」

狙撃体勢に入っていた彼は、躊躇無く仲間を葬り去ろうとしているアウローラの頭にスコープを向けた。
轟音と共に銃弾は着弾した。頭を撃ち抜くことで一切の行動を停止させることが出来なかったが、それでもアウローラの右肩を貫くことには成功した。

「痛ッ!狙撃か…。」

右肩を抑えたアウローラは、しかし冷静に弾速を見ていた。弾速から割り出した敵の位置に弾を二発発射する。それらは、彼の右肩と頭を完璧に撃ち抜いた。

「…畜生ッ、バケモノめ!」

「バァケェモォノォ?違うよォ、バケモノじゃあ無いよォ。あたしはの人間だよォ?」

もはや逃げ場など無い。アウローラは警備員たちを絶対的な虐殺によって沈めた。




希望のぞみィ、行くわよ。」

「……あ…あ…。」

こうなることは知っていたのだ。クレバーは怪物であり人間の良心は存在しないし、良智よしともは人間的な甘さを見せることはあっても、それが彼の本性では無い。それはつまり、アウローラに対しても同じことが言えるのだ。

「…あンたはもう止まれない。あたしたちの世界が魅力に溢れていることを知ってしまったから。ね?コレは正義だとか悪だとかって話じゃあ無い。もっと単純なことよ。」

生ぬるい考えは打ち砕かれた。アウローラの言葉によって。


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