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109 神々の盾

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「喰らえっ!」

 俺は瞬間移動で、トリストの懐に一瞬で飛び込むや、腰に佩いた剣を横殴りに抜き払った。

 だがトリストは、俺の攻撃を読んでいたのか、同じく剣を抜き放って受けきった。

「ちっ!」

 俺はとりあえず態勢を整え、二撃目の準備に入った。

 だがトリストは俺の動きよりも速かった。

 受けた剣を頭上高く振り上げると、凄まじい勢いでもって俺の頭目掛けて振り下ろす。

 俺は瞬時に瞬間移動を発動させ、なんとかその強烈な斬撃から逃れることに成功した。

「やるね。悪魔のくせに剣が得意っていうのは、意外なんだけど」

 トリストはニヤリと笑い、言った。

「そうかね?ちなみにこういうのも得意だが」

 するとトリストの剣先から凄まじい勢いの炎が噴き出し、俺に向かって襲いかかってきた。

 俺はすかさず右手を前に差しだし、無詠唱の紅蓮の炎によって迎え撃った。

 二つの炎は空中でぶつかり合い、逃げ場を失って天井に向かって噴き上がった。

 だがダンスホールの天井は高かったため、焼かれることはまぬがれた。

 トリストは炎の噴出を止め、言った。

「自分の屋敷を燃やすのは得策ではないな。炎の魔法は止めておくとしよう」

 俺はすかさず言った。

「別に燃やしたっていいんじゃない?どうせもう、ここには戻って来られないんだからさ」

 トリストは余裕の表情で、俺の言葉を受け取った。

「ほう、わたしはここへはもう戻ってこられないのか。それは君がわたしを捕まえるからかな?」

「そう。今日は確実にお前を捕まえてやるぜ」

「威勢が良いね。だが自分の能力を過信すると、痛い目を見ることになるぞ」

「ご忠告ありがとう。でも大丈夫。俺は過信はしていないから」

 俺が自信たっぷりにそう言い切った瞬間、階下で大きな物音がした。

 俺は瞬時に、ジトー侯爵がリリーサと共に地下室へと向かったのだと察した。

 だがそれはトリストも同様だった。

「ほう、別働隊か。ジトー侯爵だな?」

 俺はとぼけた。

「さあね?どうだか」

 するとトリストが不敵に笑った。

「だがいいのかね?彼らで大丈夫かな?」

 トリストの表情には残忍な色合いが含まれているように見えた。

 俺は気になり、問い質した。

「地下に何がいる?あんたの配下か?」

 するとトリストが含み笑いをした。

「そうだ。それもかなり強力な奴がな」

 これは、まずいぞ。

 このトリストが強力というくらいだ。

 いくらジトー侯爵やリリーサとはいえ、手に余るのではないだろうか?

 俺の心は千々に乱れた。

 まずい。完全にトリストの手に乗ってしまっている。

 俺は気持ちを奮い立たせて強がった。

「俺の仲間だって強い!相手がどんな奴であろうと、なんとかしてくれるさ!」

 だがトリストの顔に張り付いた笑みは消えなかった。

「本当かね?君が行かねば全滅になるのではないか?」

「だったら、お前をさっさと倒して行ってやるさ!」

 すかさず言った俺を、トリストが大口を開けて嗤った。

「さて、出来るかな?君の能力はすでに判っている。わたしも馬鹿ではないのでね。これ以上は盗ませないよ」

 トリストが再び剣を構えながら言った。

 俺も剣を構え、裂帛の気合いを込めて言ったのだった。

「すぐに倒す!覚悟しろよ!」

「来たまえ」

 トリストは余裕の表情を見せると同時に、空いた手で俺に対してクイックイッと手首を曲げて手招いた。

 それが再開のゴングとなった。

 俺は再び瞬時に消え去り、トリストの後背に出ると、頭上に掲げた剣を力強く振り下ろした。

 だが今度はトリストは受けず、消え去った。

 俺の剣が空を切る。

 次の瞬間、真横から無数の氷塊が襲いかかってきた。

 俺は瞬時にディヴァインシールド神々の盾を展開した。

 全方位に展開する透明なシールドが俺を包み込む。

 そこへおびただしい数の氷塊がぶち当たる。

 だがディヴァインシールド神々の盾はビクともしなかった。

 全ての氷塊は粉々に砕け、パラパラと床に落ちていった。

 すると別の方角からトリストが姿を現わし、言った。

「やるね。その盾はなかなかに破れそうもないな」

「当然だ。お前のへっぽこ剣やへなちょこ魔法なんて、一切効きやしないさ」

「そうか。だが君の攻撃もわたしには当らないみたいだな?」

 俺は反射的に食ってかかった。

「まだまだこれからだ!一度や二度防いだくらいで言うんじゃないよ」

「二度あることは三度あると聞くが?」

「世間一般的なことわざなんて関係ないね。俺は特別なんだ!次こそ当ててやるぜ!」

 するとトリストが、口の端を裂いて大いに嗤った。

「特別か。ずいぶんと驕ったな。そのツケを払わないで済むといいな?」
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