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107 北の洋館

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 俺は腹ごしらえを終えると、勇躍と立ち上がった。

「よし!腹も満たされたし、いつでも行けるよ」

 するとジトー侯爵も立ち上がり言った。

「リリーサもいいかな?」

「もちろんよ。わたしはもうだい~ぶ前から準備万端なんだから!」

 リリーサはそう言って肩をブンブン回す。

 俺は少し心配しながらも、リリーサの実力ならば大丈夫かと思った。

 俺も付いているしな。

 するとジトー侯爵が、俺たちの顔をそれぞれ見つめた後、言った。

「よし。では出発する。場所は北の郊外、王宮壁沿いの建物だ。周囲には他に建物はないため、真っ昼間でも存分にやれるぞ」

 俺はジトー侯爵の言葉を聞き、ニヤリと笑った。

「ありがたい。それならフルでぶっ放せる!」

「わたしもよ!最初から全開で行くわよ!」

「うむ。だがわたしの指示には従うように。いいな、二人とも?」

「「了解!」」

 かくして俺たちはジトー侯爵配下の精鋭部隊と共に、トリストが隠れ住んでいるという北の郊外へと向かうのであった。




「あれだ」

 ジトー侯爵が指し示す建物が見える。

 三階建ての古い洋館だ。

 悪魔が隠れ住むにはふさわしい雰囲気だといえる。

「あの建物の設計図を手に入れたのだが、あの建物には地下がある。もしネルヴァたちがまだ生きているとするなら、そこにいるはずだ」

「凄いね。どうやって建物の設計図なんて手に入れられるのさ?」

 するとジトー侯爵がニヤリとほくそ笑んだ。

「蛇の道は蛇でな。そういうことに長けた者がいるのだ」

 するとリリーサが感心して言った。

「凄いわねおじ様。王の最終護衛者って、結構な組織なのね?」

「まあな。だがその結構な組織でもってしても、あの悪魔は退けるのにやっとだった。わたしの部下たちが命懸けの防御陣を引き、なんとか王をお護りしたとはいえ、彼らは結果耐えきれずに全滅した。三十人だ。三十人もの人数を、わたしはたった半時で失ってしまった。それほどの相手だ。絶対に油断するなよ」

 ジトー侯爵の顔は、かつての惨劇を思い出したのか、苦渋に満ちていた。

 俺はジトー侯爵の心の内を察し、言った。

「大丈夫だ。今回は俺がいる。ジトー侯爵の部下の人たちは、建物の周りを固めることに専念してほしい」

「うむ。そうさせてもらう。リリーサは出来るだけ速やかに地下へ行ってくれ」

「わかったわ。地下へ通ずる階段はどのあたりにあるの?」

「北だ。お前につけたわたしの部下が正確に階段の場所を把握している」

 ジトー侯爵はそう言うと、リリーサの背後を指さした。

 するとそこには、深々と頭を下げる四人の部下たちがいた。

 リリーサはその者たちに重々しくうなずくと、改めてジトー侯爵に向き直り、言った。

「ならわたしは北に向かうわ。貴方たちが騒ぎを起こした後に、建物に突っ込む。そして速やかに地下へと向かう。それでいいのね?」

「うむ。だが事は慎重にだ。必ずトリストが建物の外に姿を現わしたのを確認した後に、中に入ること。いいな?」

「わかったわ」

 そこで俺は先程から思っている懸案事項について、リリーサに告げた。

「もしかしたら中に他の悪魔がいる可能性はある。だから重々気をつけて」

「わかってる。無理はしないわ。もしも相手がわたしよりも格上だったら、すぐに撤退する。わたしだって馬鹿じゃないから、それくらい出来るわ」

 俺はリリーサの成長を喜び、にこやかにうなずいた。

 するとその笑顔をどう思ったのか、リリーサがキュッと眉根を寄せた。

「なによ?何か文句でもあるって言うの?」

 俺は慌てて否定した。

 ここでリリーサの機嫌を損なう意味はない。

「ないないないない!文句なんてまったくないよ!」

「本当に~?何か怪しいんだけど~?」

「いや、ホント。全然文句なんてありません。ホントに」

「あっそ。ならいいわ。じゃあわたしたちは行くわね?」

 すると指揮官のジトー侯爵がうなずいた。

「うむ。くれぐれも気をつけてな」

「うん。じゃあ、そっちも気をつけてね」

 リリーサはそう言い残すと、四人の部下たちを引き連れ、建物の北へと移動していった。


 残された俺とジトー侯爵は、最後の算段に取りかかった。

「まず俺が突っ込む。ジトー侯爵は後ろを頼むよ」

「わかった。だがくれぐれも……」

 俺は間髪を入れずに言った。

「わかってる。気をつけるさ。俺だってあいつを侮ってはいないからね」

「うむ。周りは既にわたしの部下たちが十重二十重に囲っている。だが……」

 ジトー侯爵の言葉を引き取り、俺はすかさず言ったのだった。

「そう、奴は飛ぶ。だからこの戦いのもっとも重要なところは、俺が奴の飛行能力を戦闘中にコピー出来るかどうかにかかっているってことだ」
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