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106 指揮下

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「ジトー侯爵、貴方がここへ来たってことは、ネルヴァたちの行方がわかったってことだよね?」

 この俺の問いに、ジトー侯爵がニヤリと笑みを浮かべた。

「ああ。たぶんな」

「凄いね。半日で調べ上げるなんて」

 するとジトー侯爵が少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

「わたしの部下たちは優秀なのでね」

 するとそこでリリーサが勢い込んで言った。

「じゃあ、例の子どもの正体もわかったってことかしら?」

 だがジトー侯爵は厳しい表情で首を横に振った。

「いや、残念ながらそれはまだだ」

「ということは子どもの線から突き止めたって訳じゃないんだ」

 俺の問いに、ジトー侯爵がうなずいた。

「ああ、トリストの線からたどり着いた」

「そうなんだ。でもよくたどり着けたね?」

 するとジトー侯爵が含み笑いをした。

「どうやら色々と痕跡があったみたいだぞ」

「痕跡が?見たところそんなタイプには見えなかったけど」

「おそらく、隠すつもりもなかったのではないかな?何せ悪魔だ。自らの力に絶対の自信を持っていただろうしな」

「なるほどね。探られたところで、探ってきた奴を殺してしまえばいいくらいに思っていたってことか」

「うむ。無論これは推測に過ぎないがな」

 俺はうんうんとうなずいた。

「いや、合ってると思う。たぶんジトー侯爵の推測通りだよ」

 すると、真剣な表情となったジトー侯爵が俺に正しく向き直って言った。

「アリオン、これからトリストがいるであろう館を急襲するつもりだ。付いてきてもらえるか?」

 俺はすかさず応じた。

「もちろん!俺が先頭に立って行くさ」

「ありがたい。何せ相手は悪魔だ。ヴァルカ王が襲われた際には多くの犠牲を出した。これ以上は失いたくはない」

 するとリリーサが、仲間はずれにされて憤懣やるかたないといった表情で叫んだ。

「わたしも行くわよ!ぜっっっったい行くんだからね!」

 これは仕方ない。

 ここで付いてくるなとは言えない。

 それはジトー侯爵も同じ考えだったようだ。

「いいだろう。ただしわたしの指揮下に入ってもらう。独断専行は絶対になしだ。リリーサ、約束出来るか?」

 ジトー侯爵の問いに、リリーサが力強くうなずいた。

「わかったわ!おじ様の指揮下なら入ってあげる」

 ジトー侯爵は笑みを浮かべてうなずき、俺に向き直って言った。

「アリオン、それでいいか?」

 俺はすかさず答えた。

「ああ、それならいいよ。ジトー侯爵の指揮下なら安心だからね」

「君にもわたしの指揮下に入ってもらう。構わないだろうな?」

「もちろん。指揮系統は一つに統一しておかないと、混乱をきたすからね。指示に従うよ」

「ありがとう。では二人とも、準備が出来次第言ってくれ。すぐに出発したい」

 すると素早くリリーサが言った。

「わたしはいつでもいいわよ。そもそもアリオンを起こしに来たのだって、メラルダ夫人のところに行くつもりだったくらいだし」

 俺は自分の腹具合と相談した。

「俺は、そうだな、少しお腹が空いているから、軽く何か入れたいな」

「ならメイドに言うといいわ。すぐに何か作ってくれるから」

「そうだね」

 俺はそう返事するや立ち上がり、次の間に控えるメイドに軽食を頼んだ。

 そして振り返ると、リリーサがなにやら肩をブンブンと振り回していた。

「リリーサ、早速気が急いているんじゃないの?」

「大丈夫よ。頭は冷静よ。ただ準備運動はしておかないとね」

「それはまあそうだけど、ホントに大丈夫かなあ」

「大丈夫よ。いくらわたしだって悪魔相手に突撃かましたりなんてしないわよ」

 リリーサがそう言った後、なにやらうつむき、深く考え込んだ。

 そしておもむろに顔を上げるや、俺たちに対して言ったのだった。

「ねえ、そのトリストって、本当に悪魔だったの?まだちょっと信じられないんだけど」

 俺が代表して言った。

「間違いないよ。口が異様に裂けて、額から角を生やす人間なんていないでしょ?」

「でももしかしたら、ただの魔物だったんじゃない?」

 俺は何度も首を横に振った。

「魔物は人語を話さない。トリストは俺と会話し、なおかつ角を生やした。間違いなく悪魔だよ」

「本当に~?」

「しつこいなあ。本当だってば」

「う~ん、それを聞いてもやっぱり悪魔の存在なんて信じられないのよねえ~」

 俺は一つため息を吐いている間に、あることを思い出し、言った。

「そうだ。悪魔の能力をコピーしたよ。それはネルヴァやレイナから教わっていないものだ。そんなものを操れるのなんて、悪魔以外にないだろうさ」

「そっか。あの二人が知らない魔法を使ってたんだ。なら本当に、本物なのね?」

 俺は深くうなずくと同時にリリーサの言葉によって、これから戦うであろう相手が極めて恐ろしい存在だということを思い出した。
 
 俺はうなずくと、厳しい表情となって言ったのだった。

「ああ、本物だ。いくら俺が『能力コピー』が出来るとはいえ、相手もそのことは知っている。重々油断なく取りかからないと、やられてしまうかもしれないな」
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