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102 秘中の秘

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 俺は瞬間移動でジトー侯爵の面前に戻ると、得意げな顔をして言ったのだった。


「父親からの相伝らしいんだ。元々は『アイテムコピー』っていうユニークスキルだったんだけど、それが進化して『能力コピー』になったんだ」


「父親も『能力コピー』のユニークスキル持ちだったのか?」


「どうだろう?父さんは俺が幼い頃になったから、詳しくは知らないんだ。母さんもよくは知らないみたいだった」


「そうか。だがそれにしても、途轍もないスキルだな。ほとんど無敵ではないか」


 ジトー侯爵の呆れ気味の賞賛に、俺は照れくさそうに頭を掻いた。


「でも相手の能力を受けなくちゃならないから、面倒って言えば面倒なんだけどね」


 するとジトー侯爵が呵々と笑った。


「それくらいで面倒くさがるなよ。受けてしまえば使えるのだろうに」


「そういうこと。だからトリストの飛行術はコピー出来なかったんだよなあ」


「なるほど。コピーする間もなく飛んでいってしまえば、コピーは出来ないということなのだな?」


「そういうこと」


 俺はそう言ったところで、ふとジトー侯爵との会話を思い返して疑問が生じた。


「ところでさ、主犯格は子どもだって言ったよね?」


「ああ。それがどうした?」


「何でそれがわかるの?現場に例え子どもが居たからとはいえ、普通だったらトリストの方が主犯格って思うんじゃないかな?」


 ジトー侯爵がうなずいた。


「それはな、証言した部下が言っていたからだ。悪魔を使役する少年が主犯格だとな」


「悪魔を使役?本当にそんなことを言ったの?」


「言った。わたしが直接この耳で聞いたのだから間違いない。亡くなった部下は今際の際に、確かにそう言ったのだ」


「俺は悪魔について詳しくないんだけど……ていうかトリストと戦うまで悪魔の存在も信じてなかったくらいだからなんだけど、悪魔を使役するなんてことは可能なの?」


 するとジトー侯爵が厳しい表情をしてうなずいた。


「可能なはずだ。かつてそれをした者がいると聞いたことがある。ただし数百年前の話だがな」


「そうなのか。でもさ、どうやって使役するんだろ?悪魔の側にメリットないでしょ」


「そうだな。何かを代償にするらしいが、詳しくはわたしも知らない」


 知らなかった。


 でもしょうがないか、そもそも悪魔が実在するとも思ってなかったし。


 しかもそんな風に使役することが出来るなんて、思ってもみなかった。


 悪魔っていうのは魔物とは違って、地獄に住まう架空の、さもなくば伝説上の存在だと思ってた。


 それこそ神と同じく。


 てことは、まさか。


「あのさあ、もう一つ聞いていい?」


「なにかな?」


「ジトー侯爵は悪魔の存在を事前に知っていたんだよね?」


「そうだな。無論会ったことは今回が初めてだったが、決して架空の存在だとは思っていなかった」


「それは何で?普通は架空の存在だと思っているんじゃないかな。たぶん世間的には、悪魔っていうのは神話とかに出て来る想像上のものだって思ってるはずだよ」


 するとジトー侯爵がうんうんとうなずきながら俺の話を聞き、そして答えた。


「わたしは王家の人間だ。それ故、様々な情報に触れることがある。その中に悪魔の実在を証明するものもあったというわけさ」


「悪魔の実在証明?それはどんなものなの?」


 するとジトー侯爵が、ゆっくりと静かに首を横に振った。


「すまないがこれ以上は教えられない。王家に伝わる秘中の秘なのでな」


 俺はさも残念そうに肩をキュッとすぼめた。


「ちぇっ!でもまあいいや。それならリリーサに聞くよ」


 するとジトー侯爵が静かに笑った。


「残念だったな。王家の者なら誰でもが知っているというわけではない。だからリリーサは知らない。王家の中でもごく限られた一部の者だけしか知らないのだ。さっき言ったろ?秘中の秘だとな」


「ちぇっ!今度は本格的にちぇっ!って感じだ。でもしょうがないか、王家の秘中の秘だもんな」


「そういうことだ。納得してくれてありがたい」


「ああ。でもさ、もう一つ答えてもらってもいい?」


「何かな?今度は答えられるといいのだが」


「悪魔の実在は俺も実際に戦って確認した。じゃあさ、その対極の存在も実在するって事なのかな?」


「対極の存在?」


 ジトー侯爵がキュッと眉根を絞って言った。


 俺はうなずき、さらに言ったのだった。


「そう。悪魔の対極。つまり天上に住まう、神様さ」


 するとジトー侯爵の目がスーッと細まり、その顔からは笑みが消えた。


 ジトー侯爵の口元は固く引き結んでいたが、しばらくしてそれは緩まった。


 そして、一度大きく息を吐き出すと、ジトー侯爵は厳かな声でもって言ったのだった。


「神はおそらく、いるだろう。確実ではないが、わたしはそう思っている」
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