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99 もう一つの事件の被害者は
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今朝いきなりか。
もしメラルダ夫人の話が本当だとするならば、メイデン王子はマール邸襲撃にはトリストは不要だと考えていたってことになる。
それはないな。
メイデン王子がトリストの正体を知らなかったとしても、あれだけ強力な奴を襲撃部隊に加えないとは思えない。
ならばメイデン王子の配下というのは嘘だな。
トリストがメイデン王子の配下を騙ったんだろう。
大体、メイデン王子が悪魔のトリストを従えられるとも思えない。
でもそうなると、トリストの本当の主人とは誰だ?
そもそもそんな奴が本当にいるのだろうか?
だって相手は悪魔だぞ?
悪魔を従えられる奴ってどんな奴なんだ?
もしいないとすれば、トリスト自身が真の黒幕ってことか?
ないことではないかもしれないけど、どうも違う気がする。
誰か他に、真の黒幕がいるような気がする。
そいつは誰だ?
わからない。今のところはわからない。
俺は一旦、その考えを棚に置いた。
そして、目下のところの懸案事項について尋ねてみた。
「その封蝋印章なんだけどさ、偽物だったんじゃない?」
俺の問いに、メラルダ夫人がすかさず答えた。
「そんなわけないわ。有り得ない」
メラルダ夫人は鼻で笑うように言った。
「ずいぶんと自信満々に言うな?あんなもの偽造しようとすれば出来るんじゃない?」
すると再びメラルダ夫人が鼻でせせら笑った。
「ふん、馬鹿な子どもね。そんなこと出来るわけないわ」
少しカチンと来た。
ホント言い方に棘があるんだよな、この人。
「あのさあ、なんでそんなこと言い切れるの?まあ確かに印章の偽造は難しいとは思うよ?でもさあ絶対出来ないなんてことはないわけでしょ?」
するとメラルダ夫人が間髪を入れずに言い切った。
「絶対に出来ないわ!」
マジで?
絶対って言い切ったぞ。
何でそんなに自信持って言い切れるんだ?
俺は眉根を寄せて問い掛けた。
「どうしてそんなに力強く断言出来るの?もしかして何か特殊な印章を使っていたりするの?」
するとメラルダ夫人が勝ち誇ったように言った。
「そうよ。わたしとのやり取りの際にしか用いない特別な封蝋印章だったのよ。だから絶対に偽造なんて出来ないわ。それにその特別な封蝋印章の存在を知っているのはごく一部の限られた人間だけ。だから偽造なんて有り得ないわよ」
そういうことか。
メラルダ夫人がメイデン王子と企んだのは、リリーサ暗殺という絶対に誰にも知られてはいけないとんでもない行為だ。
だからこの二人の間のやり取りに、特殊な封蝋印章を用いたというのは、実に納得のいく話だ。
だがそうなると、印章は本物ってことか?
いや、だが相手はトリストだ。
その正体は悪魔だったんだ。
ならば何らかの方法でその特別な封蝋印章を手に入れた可能性はある。
それに、特別な封蝋印章の存在を知るごく一部の限られた人間の中に、真の黒幕と通じている者がいるのかもしれない。
とにかく、後で一度メイデン王子に、この一件について聞いてみるとしよう。
そうすればある程度のことはわかるはずだ。
よし、この件はひとまずこれでいいだろう。
他に聞くことといえば、やっぱりあれだな。
リリーサ暗殺未遂事件とは異なる、もう一つの事件。
その事件とは何か?
だがこれを聞いても答えないしなあ。
気絶するまで締め上げても、口を割らないんだからな。
クランド男爵の方は本当に知らなそうだし。
それにネルヴァたちの安否も気に掛かる。
くそっ!八方ふさがりだ。
トリストを逃がしてしまったのが大きい。
そこでふと、俺はあることに思い当たった。
「あのさあ、あんた結構俺の話に食いついてくるよね?元々はおしゃべりな人なんじゃない?」
急な話題転換に、メラルダ夫人がいぶかしげな表情となった。
「おしゃべりが悪いって言うの?そんなの別にいいじゃない」
「いやいいよ。別におしゃべりが悪いなんて言うつもりはないよ。じゃなくってさ、俺はあんたが全てにおいてだんまりを決め込むと思ってたんだよ」
「別にいいじゃない」
「いいよ。いいんだよ。俺からしたらその方がありがたいから。でもさあ、おかしいじゃん。なんでそんなにおしゃべりなのに、『もう一つの事件』のことだけは頑なに口をつぐむんだよ?他のことはペラペラとしゃべるくせにさ」
するとメラルダ夫人が口を固く引き結んで黙り込んだ。
その目はギラギラと輝き、俺を睨み付けている。
だが俺はそんなことで怯まない。
「リリーサ暗殺未遂事件って結構な大事件だぜ?何せリリーサは王女なんだ。その王女を暗殺しようとした件についてはペラペラしゃべるのに、『もう一つの事件』については気絶してでもしゃべらない。つまり『もう一つの事件』ってのは王女の暗殺未遂事件よりも重大事件ってことだ。となると、その事件の被害者となり得る人物は一人しか考えられない!」
俺は眼光鋭くメラルダ夫人を睨みつけた。
だがメラルダ夫人は、それ以上に力強い負のオーラを纏って俺を睨み返した。
いいさ。
ならば言ってやろう。
たぶんこれが正解だ。
俺は大きく息を吸い込み、次いで静かにゆっくりと吐き出すと、意を決して言ったのだった。
「それは、この国の最高権力者たるヴァルカ王に他ならない!」
もしメラルダ夫人の話が本当だとするならば、メイデン王子はマール邸襲撃にはトリストは不要だと考えていたってことになる。
それはないな。
メイデン王子がトリストの正体を知らなかったとしても、あれだけ強力な奴を襲撃部隊に加えないとは思えない。
ならばメイデン王子の配下というのは嘘だな。
トリストがメイデン王子の配下を騙ったんだろう。
大体、メイデン王子が悪魔のトリストを従えられるとも思えない。
でもそうなると、トリストの本当の主人とは誰だ?
そもそもそんな奴が本当にいるのだろうか?
だって相手は悪魔だぞ?
悪魔を従えられる奴ってどんな奴なんだ?
もしいないとすれば、トリスト自身が真の黒幕ってことか?
ないことではないかもしれないけど、どうも違う気がする。
誰か他に、真の黒幕がいるような気がする。
そいつは誰だ?
わからない。今のところはわからない。
俺は一旦、その考えを棚に置いた。
そして、目下のところの懸案事項について尋ねてみた。
「その封蝋印章なんだけどさ、偽物だったんじゃない?」
俺の問いに、メラルダ夫人がすかさず答えた。
「そんなわけないわ。有り得ない」
メラルダ夫人は鼻で笑うように言った。
「ずいぶんと自信満々に言うな?あんなもの偽造しようとすれば出来るんじゃない?」
すると再びメラルダ夫人が鼻でせせら笑った。
「ふん、馬鹿な子どもね。そんなこと出来るわけないわ」
少しカチンと来た。
ホント言い方に棘があるんだよな、この人。
「あのさあ、なんでそんなこと言い切れるの?まあ確かに印章の偽造は難しいとは思うよ?でもさあ絶対出来ないなんてことはないわけでしょ?」
するとメラルダ夫人が間髪を入れずに言い切った。
「絶対に出来ないわ!」
マジで?
絶対って言い切ったぞ。
何でそんなに自信持って言い切れるんだ?
俺は眉根を寄せて問い掛けた。
「どうしてそんなに力強く断言出来るの?もしかして何か特殊な印章を使っていたりするの?」
するとメラルダ夫人が勝ち誇ったように言った。
「そうよ。わたしとのやり取りの際にしか用いない特別な封蝋印章だったのよ。だから絶対に偽造なんて出来ないわ。それにその特別な封蝋印章の存在を知っているのはごく一部の限られた人間だけ。だから偽造なんて有り得ないわよ」
そういうことか。
メラルダ夫人がメイデン王子と企んだのは、リリーサ暗殺という絶対に誰にも知られてはいけないとんでもない行為だ。
だからこの二人の間のやり取りに、特殊な封蝋印章を用いたというのは、実に納得のいく話だ。
だがそうなると、印章は本物ってことか?
いや、だが相手はトリストだ。
その正体は悪魔だったんだ。
ならば何らかの方法でその特別な封蝋印章を手に入れた可能性はある。
それに、特別な封蝋印章の存在を知るごく一部の限られた人間の中に、真の黒幕と通じている者がいるのかもしれない。
とにかく、後で一度メイデン王子に、この一件について聞いてみるとしよう。
そうすればある程度のことはわかるはずだ。
よし、この件はひとまずこれでいいだろう。
他に聞くことといえば、やっぱりあれだな。
リリーサ暗殺未遂事件とは異なる、もう一つの事件。
その事件とは何か?
だがこれを聞いても答えないしなあ。
気絶するまで締め上げても、口を割らないんだからな。
クランド男爵の方は本当に知らなそうだし。
それにネルヴァたちの安否も気に掛かる。
くそっ!八方ふさがりだ。
トリストを逃がしてしまったのが大きい。
そこでふと、俺はあることに思い当たった。
「あのさあ、あんた結構俺の話に食いついてくるよね?元々はおしゃべりな人なんじゃない?」
急な話題転換に、メラルダ夫人がいぶかしげな表情となった。
「おしゃべりが悪いって言うの?そんなの別にいいじゃない」
「いやいいよ。別におしゃべりが悪いなんて言うつもりはないよ。じゃなくってさ、俺はあんたが全てにおいてだんまりを決め込むと思ってたんだよ」
「別にいいじゃない」
「いいよ。いいんだよ。俺からしたらその方がありがたいから。でもさあ、おかしいじゃん。なんでそんなにおしゃべりなのに、『もう一つの事件』のことだけは頑なに口をつぐむんだよ?他のことはペラペラとしゃべるくせにさ」
するとメラルダ夫人が口を固く引き結んで黙り込んだ。
その目はギラギラと輝き、俺を睨み付けている。
だが俺はそんなことで怯まない。
「リリーサ暗殺未遂事件って結構な大事件だぜ?何せリリーサは王女なんだ。その王女を暗殺しようとした件についてはペラペラしゃべるのに、『もう一つの事件』については気絶してでもしゃべらない。つまり『もう一つの事件』ってのは王女の暗殺未遂事件よりも重大事件ってことだ。となると、その事件の被害者となり得る人物は一人しか考えられない!」
俺は眼光鋭くメラルダ夫人を睨みつけた。
だがメラルダ夫人は、それ以上に力強い負のオーラを纏って俺を睨み返した。
いいさ。
ならば言ってやろう。
たぶんこれが正解だ。
俺は大きく息を吸い込み、次いで静かにゆっくりと吐き出すと、意を決して言ったのだった。
「それは、この国の最高権力者たるヴァルカ王に他ならない!」
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