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トリストのつぶやきに、俺は当惑していた。
何だって?俺が神話のなに?それに『黄昏の刻』って何だ?
俺が疑問に思ったことを問い掛けようとしたその時、トリストが突然カッと大きく目を見開いた。
その瞬間、トリストの眼から途轍もなく眩い光が放射された。
俺は思わず反射的に目を瞑った。
だが間に合わず、光が眼の中に入ってしまったため、俺は強烈な痛みに苛まれることとなった。
「ちぃっ!」
俺は万が一にもトリストの攻撃を受けないため、咄嗟に後ろに飛び退った。
だが気配がない。
攻撃を仕掛けてこない?
しかし俺の眼はまだ回復していない。
とりあえず俺は、攻撃に備えて横に後ろにと飛び続けた。
するとようやく眼の痛みがなくなってきた。
俺は飛び続けながら、眼をゆっくりと開いた。
初めはぼんやりとしていた視界だったが、時間を経るに連れ次第に回復していった。
そしてようやく問題なく目を開けられるようになり、辺りを見回した。
するとそこには、何処にもトリストの姿は見当たらなかった。
「ちっ!ならばトレースだ」
俺は先程トリストに斬撃を喰らわせた場所へと素早く移動した。
そして、トリストのものと思われる芝生の上の血溜まりに右手を浸けた。
「よし!これで追えるはずだ」
俺はもはや呪文名を唱えることなく、トレースを発動出来るようになっている。
それというのも俺がトリストからの地獄の業火を受けた際、それそのもののコピーに成功しただけではなく、『無詠唱』の能力もコピーすることに成功していたからだった。
そのため俺が心の中で魔法を発動させようと思った瞬間に、無詠唱でもって発動させることが可能になっていた。
見えた。
黄色い糸が目の前に見える。
だが……。
「くそっ!あいつ、空を飛んで逃げていったのか!」
トレースによって現れた黄色の糸は、薄く細く天に向かって伸びていた。
残念ながら俺は飛行術など覚えていない。
それ故俺は追跡の手段を失い、ただ天を見上げて途方に暮れるのみであった。
「逃がしたか。でもまあいいさ、当初の目的は果たせるわけだからな」
俺はそう無理矢理自分を納得させると、踵を返して屋敷へと引き返すのであった。
「それで、あんたが黒幕ってことでいいのかな?」
俺は部屋へと戻り、怯えおののくメラルダ夫人に向かって言った。
だがメラルダ夫人は怯えながらも、憎しみの視線を俺に向けてきた。
俺は一度大きく息を吐き出し、肩をすぼめた。
「もう一度聞くよ。あんたが黒幕なんだな?」
するとようやくメラルダ夫人が口を開いた。
「何の話かしら?」
まさかこの後に及んでしらを切るとはね。
俺は少し呆れながらも、我慢強く尋問するのだった。
「しらばっくれようとしても無駄だよ。あんたがメイデン王子とただならぬ関係だってことはわかってるんだからね」
だがメラルダ夫人は父親であるクランド男爵に抱きつきながらも、その眼光は衰えることなく俺を睨み続けている。
「子どもが何を言っているのかしら?わたしとメイデン王子殿下がどんな関係ですって?」
俺は面倒に思いながらも、ハッキリと言った。
「誤魔化すなよ。あんたとメイデン王子が不倫関係にあるってことは、もうわかってるんだからね」
「まあはしたない。子どもが一体何を言っているのかしら」
「あのさあ、それで誤魔化せるとでも思ってるの?無理だよ無理。俺はメイデン王子本人から聞いてるんだからさ」
するとさすがのメラルダ夫人も口をつぐんだ。
そりゃそうだろうな。
ご本人の証言となれば、確たる証拠だからな。
だがメラルダ夫人の瞳の中に燃えさかる炎は、一向に衰えなかった。
「そう。でもだからなんだと言うの?お前みたいな子どもが、わたしたちの不義を咎めようとでも言うつもり?」
「不義だの何だのはどうでもいいよ。俺が問題にしているのは、リリーサ暗殺未遂事件のことさ」
するとメラルダ夫人が鼻で笑うように言った。
「なあんだ。あの子の方だったのね」
うん?何だって?
今、『あの子の方だったのね』と言ったか?
『あの子の方』ってことは、『別の方』もあるってことか?
「なあ、あんた。何を想定していたんだ?リリーサ暗殺未遂事件以外に、何かあるのか?」
すると一瞬、メラルダ夫人がハッとした表情となったのを俺は見逃さなかった。
「やっぱりか。リリーサの事件以外に、何か他にあるんだな?」
メラルダ夫人は顔を背けて俺の追求から逃れようとした。
これは中々に口を割りそうにない。
ならば、もう一人の方を責めてみるか。
俺は方針転換をし、メラルダ夫人が抱きついている御仁に向かって言ったのだった。
「クランド男爵、どうやらあんたも色々と噛んでいるみたいだな?痛い目に遭いたくなければ、大人しく白状した方が身のためだよ?」
何だって?俺が神話のなに?それに『黄昏の刻』って何だ?
俺が疑問に思ったことを問い掛けようとしたその時、トリストが突然カッと大きく目を見開いた。
その瞬間、トリストの眼から途轍もなく眩い光が放射された。
俺は思わず反射的に目を瞑った。
だが間に合わず、光が眼の中に入ってしまったため、俺は強烈な痛みに苛まれることとなった。
「ちぃっ!」
俺は万が一にもトリストの攻撃を受けないため、咄嗟に後ろに飛び退った。
だが気配がない。
攻撃を仕掛けてこない?
しかし俺の眼はまだ回復していない。
とりあえず俺は、攻撃に備えて横に後ろにと飛び続けた。
するとようやく眼の痛みがなくなってきた。
俺は飛び続けながら、眼をゆっくりと開いた。
初めはぼんやりとしていた視界だったが、時間を経るに連れ次第に回復していった。
そしてようやく問題なく目を開けられるようになり、辺りを見回した。
するとそこには、何処にもトリストの姿は見当たらなかった。
「ちっ!ならばトレースだ」
俺は先程トリストに斬撃を喰らわせた場所へと素早く移動した。
そして、トリストのものと思われる芝生の上の血溜まりに右手を浸けた。
「よし!これで追えるはずだ」
俺はもはや呪文名を唱えることなく、トレースを発動出来るようになっている。
それというのも俺がトリストからの地獄の業火を受けた際、それそのもののコピーに成功しただけではなく、『無詠唱』の能力もコピーすることに成功していたからだった。
そのため俺が心の中で魔法を発動させようと思った瞬間に、無詠唱でもって発動させることが可能になっていた。
見えた。
黄色い糸が目の前に見える。
だが……。
「くそっ!あいつ、空を飛んで逃げていったのか!」
トレースによって現れた黄色の糸は、薄く細く天に向かって伸びていた。
残念ながら俺は飛行術など覚えていない。
それ故俺は追跡の手段を失い、ただ天を見上げて途方に暮れるのみであった。
「逃がしたか。でもまあいいさ、当初の目的は果たせるわけだからな」
俺はそう無理矢理自分を納得させると、踵を返して屋敷へと引き返すのであった。
「それで、あんたが黒幕ってことでいいのかな?」
俺は部屋へと戻り、怯えおののくメラルダ夫人に向かって言った。
だがメラルダ夫人は怯えながらも、憎しみの視線を俺に向けてきた。
俺は一度大きく息を吐き出し、肩をすぼめた。
「もう一度聞くよ。あんたが黒幕なんだな?」
するとようやくメラルダ夫人が口を開いた。
「何の話かしら?」
まさかこの後に及んでしらを切るとはね。
俺は少し呆れながらも、我慢強く尋問するのだった。
「しらばっくれようとしても無駄だよ。あんたがメイデン王子とただならぬ関係だってことはわかってるんだからね」
だがメラルダ夫人は父親であるクランド男爵に抱きつきながらも、その眼光は衰えることなく俺を睨み続けている。
「子どもが何を言っているのかしら?わたしとメイデン王子殿下がどんな関係ですって?」
俺は面倒に思いながらも、ハッキリと言った。
「誤魔化すなよ。あんたとメイデン王子が不倫関係にあるってことは、もうわかってるんだからね」
「まあはしたない。子どもが一体何を言っているのかしら」
「あのさあ、それで誤魔化せるとでも思ってるの?無理だよ無理。俺はメイデン王子本人から聞いてるんだからさ」
するとさすがのメラルダ夫人も口をつぐんだ。
そりゃそうだろうな。
ご本人の証言となれば、確たる証拠だからな。
だがメラルダ夫人の瞳の中に燃えさかる炎は、一向に衰えなかった。
「そう。でもだからなんだと言うの?お前みたいな子どもが、わたしたちの不義を咎めようとでも言うつもり?」
「不義だの何だのはどうでもいいよ。俺が問題にしているのは、リリーサ暗殺未遂事件のことさ」
するとメラルダ夫人が鼻で笑うように言った。
「なあんだ。あの子の方だったのね」
うん?何だって?
今、『あの子の方だったのね』と言ったか?
『あの子の方』ってことは、『別の方』もあるってことか?
「なあ、あんた。何を想定していたんだ?リリーサ暗殺未遂事件以外に、何かあるのか?」
すると一瞬、メラルダ夫人がハッとした表情となったのを俺は見逃さなかった。
「やっぱりか。リリーサの事件以外に、何か他にあるんだな?」
メラルダ夫人は顔を背けて俺の追求から逃れようとした。
これは中々に口を割りそうにない。
ならば、もう一人の方を責めてみるか。
俺は方針転換をし、メラルダ夫人が抱きついている御仁に向かって言ったのだった。
「クランド男爵、どうやらあんたも色々と噛んでいるみたいだな?痛い目に遭いたくなければ、大人しく白状した方が身のためだよ?」
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