93 / 138
93 トリストの正体
しおりを挟む
トリストの高笑いが響く中、クランド男爵がワナワナと震えながら言った。
「ちょ、ちょっと待て!貴様等わしの屋敷で暴れるでない!」
するとトリストが、振り向くことなく言った。
「黙れと言っているだろうに。わからんのか」
すると今度はクランド男爵が喉を押さえて苦しみ始めた。
「ぐっ!……う、うう……」
やはりトリストの魔法か。
だが一体どうやって?
わからない。わからないが、ここは一旦止めておこう。
「とりあえず殺さないでくれるかな?」
トリストがニヤリと笑った。
「何故かな?」
「決まっているだろう?あんたを倒した後に尋問するためさ」
トリストはさも楽しげにうんうんとうなずいた。
「そうか。では殺さないでおこうか」
トリストがそう言った途端、クランド男爵が崩れ落ちた。
そして既に倒れて気絶しているメラルダ夫人の上に覆い被さった。
どうやらクランド男爵も気絶したようだ。
まあいい。邪魔が入るよりはいいさ。
だがここで戦ったら、あの二人たぶん死んじゃうな。
「あの二人、殺したくないんで、庭でやろうか」
トリストが即座に応じた。
「いいだろう」
俺はトリストと連れ立ち、中庭に通ずる扉を開けた。
そしてゆっくりとした足取りでもって、芝生が生い茂る中庭へと出たのであった。
「ふむ、中々に美しい月だ」
トリストが頭上に輝く満月に照らされ、妖しげな笑みを見せながら言った。
余裕だな。
それもそうか。
何せ手の内がわからない。
うかつに手を出したらまずいな。
だが相手に先手を取られるのも、まずそうだ。
俺が考えあぐねていると、トリストがぐにゃりと口角を異常に上げて言った。
「君からかかってきたらどうかね?」
おかしい。
月明かりのせいか?
口の端が異様に曲がっているような気がする。
俺は目を細めてトリストの顔をよく見た。
だが月明かりは暗く、陰になって良く見えない。
俺は間合いはそのままに、横にゆっくりと移動しはじめた。
すると、俺の動きに合わせてトリストも動いた。
角度が変わり、先程よりかは良く月に照らされて見えるようになった。
だがやはりハッキリとは見えない。
俺は意を決して少しずつ前に出ることにした。
無論、突然の攻撃に備えて腰を落として剣を構えながら。
俺はそうやってジリジリと一歩ずつ詰め寄った。
すると少しずつトリストの顔が良く見えるようになってきた。
「なんだ?」
俺は思わず声に出した。
それほどにトリストの口の端が異様に上にひん曲がっている。
するとトリストがその異様な口角をさらに上げて笑った。
「そんなにわたしの顔が面白いかね?」
俺は眉根を寄せて言った。
「お前、何者だ?」
「その質問は二度目だな」
俺はそこで、一度大きく唾を飲み込んだ。
恐怖心を払拭するために。
そして勇気を振り絞って再び尋ねた。
「ああ、そうだな。だがさっきとは意味が違う。もう一度聞くぞ。お前は一体何者なんだ?」
俺は身体が震えだしそうになるのを必死でこらえながら問い掛けた。
するとトリストが、さらに口角を上げて言ったのだった。
「君が想像している通りの者さ。言ってごらん。君の口でわたしの正体を。わかっているんだろう?」
俺は右手に握った剣を強く握りしめ、左手でいつでも魔法を放てるようにしながら、答えたのだった。
「お前、もしかして悪魔なのか?」
するとトリストが、顔を上げて激しく高笑いした。
胸をそびやかし、両手を広げ、大口を開けて笑った。
するとその時、突然トリストの額がメリメリと盛り上がりだした。
その場所は右目の上辺りであり、あっという間に数センチほども盛り上がった。
だがそれだけでは収まらず、さらに大きく高くなっていき、ついには皮膚を突き破った。
それは雄牛のような角であった。
トリストは高笑いを止めると、俺を見た。
その顔は獲物をいたぶる狩人のようであった。
「いかにも。わたしは君たち人間に、悪魔と呼ばれ恐れられる者だ」
俺の足がガクガクと震え出すのがわかる。
まさか悪魔なんてものが、この世にいるなんて思ってもみなかった。
だが間違いないだろう。
呪文名も唱えずに魔法を使い、異様なくらいに口が裂け、額から角を生やした者など、人間にはいないはずだ。
なんてことだ!
こいつか。こいつがネルヴァたちを。
それならわかる。
いかに大賢者と剣聖とはいえ、相手が悪魔となれば勝てるはずもない。
だが!
俺はどうだ?
俺は勝てないか?
いや、俺にはあの能力がある。
戦い方次第では、倒せる可能性はある!
俺は恐怖心を押さえ込むため一度大きく深呼吸をすると、覚悟を決めて眼前の悪魔を睨み付けるのであった。
「ちょ、ちょっと待て!貴様等わしの屋敷で暴れるでない!」
するとトリストが、振り向くことなく言った。
「黙れと言っているだろうに。わからんのか」
すると今度はクランド男爵が喉を押さえて苦しみ始めた。
「ぐっ!……う、うう……」
やはりトリストの魔法か。
だが一体どうやって?
わからない。わからないが、ここは一旦止めておこう。
「とりあえず殺さないでくれるかな?」
トリストがニヤリと笑った。
「何故かな?」
「決まっているだろう?あんたを倒した後に尋問するためさ」
トリストはさも楽しげにうんうんとうなずいた。
「そうか。では殺さないでおこうか」
トリストがそう言った途端、クランド男爵が崩れ落ちた。
そして既に倒れて気絶しているメラルダ夫人の上に覆い被さった。
どうやらクランド男爵も気絶したようだ。
まあいい。邪魔が入るよりはいいさ。
だがここで戦ったら、あの二人たぶん死んじゃうな。
「あの二人、殺したくないんで、庭でやろうか」
トリストが即座に応じた。
「いいだろう」
俺はトリストと連れ立ち、中庭に通ずる扉を開けた。
そしてゆっくりとした足取りでもって、芝生が生い茂る中庭へと出たのであった。
「ふむ、中々に美しい月だ」
トリストが頭上に輝く満月に照らされ、妖しげな笑みを見せながら言った。
余裕だな。
それもそうか。
何せ手の内がわからない。
うかつに手を出したらまずいな。
だが相手に先手を取られるのも、まずそうだ。
俺が考えあぐねていると、トリストがぐにゃりと口角を異常に上げて言った。
「君からかかってきたらどうかね?」
おかしい。
月明かりのせいか?
口の端が異様に曲がっているような気がする。
俺は目を細めてトリストの顔をよく見た。
だが月明かりは暗く、陰になって良く見えない。
俺は間合いはそのままに、横にゆっくりと移動しはじめた。
すると、俺の動きに合わせてトリストも動いた。
角度が変わり、先程よりかは良く月に照らされて見えるようになった。
だがやはりハッキリとは見えない。
俺は意を決して少しずつ前に出ることにした。
無論、突然の攻撃に備えて腰を落として剣を構えながら。
俺はそうやってジリジリと一歩ずつ詰め寄った。
すると少しずつトリストの顔が良く見えるようになってきた。
「なんだ?」
俺は思わず声に出した。
それほどにトリストの口の端が異様に上にひん曲がっている。
するとトリストがその異様な口角をさらに上げて笑った。
「そんなにわたしの顔が面白いかね?」
俺は眉根を寄せて言った。
「お前、何者だ?」
「その質問は二度目だな」
俺はそこで、一度大きく唾を飲み込んだ。
恐怖心を払拭するために。
そして勇気を振り絞って再び尋ねた。
「ああ、そうだな。だがさっきとは意味が違う。もう一度聞くぞ。お前は一体何者なんだ?」
俺は身体が震えだしそうになるのを必死でこらえながら問い掛けた。
するとトリストが、さらに口角を上げて言ったのだった。
「君が想像している通りの者さ。言ってごらん。君の口でわたしの正体を。わかっているんだろう?」
俺は右手に握った剣を強く握りしめ、左手でいつでも魔法を放てるようにしながら、答えたのだった。
「お前、もしかして悪魔なのか?」
するとトリストが、顔を上げて激しく高笑いした。
胸をそびやかし、両手を広げ、大口を開けて笑った。
するとその時、突然トリストの額がメリメリと盛り上がりだした。
その場所は右目の上辺りであり、あっという間に数センチほども盛り上がった。
だがそれだけでは収まらず、さらに大きく高くなっていき、ついには皮膚を突き破った。
それは雄牛のような角であった。
トリストは高笑いを止めると、俺を見た。
その顔は獲物をいたぶる狩人のようであった。
「いかにも。わたしは君たち人間に、悪魔と呼ばれ恐れられる者だ」
俺の足がガクガクと震え出すのがわかる。
まさか悪魔なんてものが、この世にいるなんて思ってもみなかった。
だが間違いないだろう。
呪文名も唱えずに魔法を使い、異様なくらいに口が裂け、額から角を生やした者など、人間にはいないはずだ。
なんてことだ!
こいつか。こいつがネルヴァたちを。
それならわかる。
いかに大賢者と剣聖とはいえ、相手が悪魔となれば勝てるはずもない。
だが!
俺はどうだ?
俺は勝てないか?
いや、俺にはあの能力がある。
戦い方次第では、倒せる可能性はある!
俺は恐怖心を押さえ込むため一度大きく深呼吸をすると、覚悟を決めて眼前の悪魔を睨み付けるのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,891
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる