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85 黒幕は誰だ?

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 複雑だなあ。


 大人って、なんでこうも面倒なんだろうか?


 まあ、でも今の俺にとってはどうでもいいか。


 それよりも重要なのは、何故メラルダ夫人が、ここにリリーサが居ることを知ったのかだ。


 ここにリリーサが居ることを知っているのは、数少ない。


 俺とリリーサ、ネルヴァにレイナは当然外す。


 この館の主のマールに、その弟のファルカンは若年だし、リリーサにとても懐いている。


 とてもではないが、メラルダ夫人と通じているとは思えない。


 となると、彼しかいなくなるな……。


 俺は深いため息を吐いた。


「一応聞くけど、メラルダ夫人が、その情報をどうやって得たのかは、聞いてないよね?」


 するとメイデンがすかさず答えた。


「聞いた。だが言わなかった。あの女はいつも肝心なことは言わないのでな」


「やっぱりね。メラルダ夫人って何か凄い組織を持っていたりするの?」


 するとメイデンがひとしきり考えてから言った。


「あるのかもしれんな。暗殺集団を雇う際にも情報を持ってきたのはメラルダだった」


 俺はうんうんとうなずいた。


 メラルダ夫人の持つ組織。


 あるとすれば相当なレベルだといえる。


 うん?待てよ。


 もしかしたらあの暗殺集団も、雇われではなくメラルダ夫人の私兵という可能性はないか?


 メイデンに雇わせた風に思い込ませ、その実自らの私兵を使っていたということは?


 有り得るな。


 だが何の確証もない。


 くそっ!


 相変わらず、真相はまだ暗闇の中だ。


 まったく全貌が見えてこない。


 だがメイデンはこれ以上、何も知らなさそうだ。


 仕方ない。


 だが最後に聞いてみるか。


「ネルヴァ=ロキとレイナ=ベルンが今どこにいるか知っているか?」


 するとメイデンがニヤリと口角を上げた。


「さあな。だが奴らが消えたことは知っている。だから俺はここへ踏み込もうとしたんだ。奴ら相手にこの人数じゃ勝ち目はないからな」


 俺は目を剥いて驚いた。


 知っていた?


 ネルヴァたちが消えたことを?


 それはどういうことだ?


「何故ネルヴァたちが消えたと知っている?言え!」


 俺は裂帛の気合いを込めてメイデンを睨みつけた。


 だがメイデンは動じず、鼻でせせら笑うように言い放ったのだった。


「知らんよ。それもメラルダに聞け。俺はあの女のいうことを信じてここへ来ただけだ。だがどうやらその情報は正しかったらしいな?」


「それもメラルダから聞いたんだな?」


「そうだ。メラルダは言っていた。ネルヴァ=ロキとレイナ=ベルンのことは気にしなくていいとな」


 俺の額からは大粒の汗がにじみ出た。


 もしや、ネルヴァとレイナがやられたのか?


 メラルダの持つ組織というのは、そんなに強大なのか?


 大賢者と剣聖を葬り去るほどの組織を持っているというのか?



 いや!そんなことはないはずだ!


 あの二人を倒せるほどの戦力を持っているのならば、最初から使うはずだ。


 今になってようやく使うというのは、無理がある。


 違う。違うんだ。俺の勘が何かを告げている。


 俺は何か思い違いをしているんだ。


 だがそれが何かがわからない。



 黒幕はメラルダじゃない?


 もしかして、ジトー侯爵か?


 彼なら、有り得る。


 彼の言うことが本当なら、強力な組織を持っている。


 王の最終護衛者。


 その名から想像するに、おそらく手練れの集まりだろう。


 実際ジトー侯爵自身も、とてつもない凄腕だった。


 俺が何度も冷や汗をかくほどにだ。



 いや。いやいやいや、本当に黒幕はジトー侯爵か?


 俺はネルヴァたちの存在を、ジトー侯爵から隠したはずだ。


 だからジトー侯爵は、ネルヴァたちの存在に気付いていないはずだ。


 だがそれはメラルダ夫人も同様のはずだ。


 二人とも、ネルヴァたちの存在については知らないはずなんだ。


 じゃあどうやって知ったのか。


 もしや、ネルヴァたちが何かしくじった?


 それで存在がバレて捕らえられたとか?


 となると、やはりメラルダ夫人の線もあるぞ。


 くそっ!わからない。


 真相がまったく見えてこないじゃないか。


 どっちだ?


 メラルダ夫人か、ジトー侯爵か?


 どちらが真の黒幕なんだ?


 くそっ!決め手に欠ける。



 待てよ。


 どちらも、と言うことはないか?


 メラルダ夫人とジトー侯爵が手を組んでいるとしたら?


 有り得る。


 そして最悪だ。


 ジトー侯爵には、こちらの手の内をかなり晒してしまっている。


 俺は頭を抱えた。


 そしてしばらく堂々めぐりの思考をした後、諦めたのだった。


「考えたってわからないか。ならば打つ手は一つだ」
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