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84 操り人形

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なるほどね。


 なるほどねって言うのも何だけど。


 まあ、何となく見えてきたな。


「つまり、メラルダ夫人は何一つ具体的なことは言わないけど、おそらくはあんたにリリーサを暗殺させ、まんまとアルト公に収まったあんたと再婚して、その地位を得ようとしていたんじゃないかってことだね?」


 メイデンは鼻で一つフンと鳴らした。


「そんなところだろうな」


「ふうん。でもさあ、それだとあんたはメラルダ夫人の操り人形ってことになるけど?」


「ふん、何とでも言え。俺としては何としてもアルト公に返り咲くのが宿願だ。その時俺の横に誰が座っていようとどうでもいい」


「つまり、お互いに利用していたというわけだ。なら、あんたにとってメラルダ夫人と手を組むメリットってなんだい?」


 俺の問いに、メイデンが顔色を変えた。


「そんなの知るか!メラルダ本人に聞け!」


 動揺しているな。


 どうやら事の本質はこの辺りにありそうだ。


「いやいや、メラルダ夫人に聞くことじゃないよ。あんたがメラルダ夫人と組むことで得ると思っているメリットについて聞いているんだからさ」


「それは……」


 メイデンが言い淀んでいる。


 あと一押しだな。


「教えてよ。情報提供してくれたら悪いようにはしないよ」


 するとメイデンがギロリと俺を睨みつけた。


「お前にそんな権限があるのか?」


 俺は素直に答えた。


「わからない。だけど、いざってときに証言はするつもりさ。あんたが協力的だったってね」


 メイデンは視線を落とし、考え込んだ。


 そしてしばらくして決意を固めたのか、視線を上げて俺を見つめた。


「金だ。メラルダの実家は富豪だからな。いくらでも金を引き出せる」


「なるほど、軍資金ってわけだ」


「そうだ。人を雇うには金がいる。特に、精鋭となれば高くつくさ」


 俺は納得した。


 あの暗殺部隊はメイデンの私兵じゃなかったってわけだ。


 だろうね。


 確かにメイデン個人には武力がある。


 戦いの際、部隊の先頭に立って武勇を振るえば一定の戦果は挙げられるだろう。


 だが暗殺には不向きだ。


 暗殺に必要なのは、猪突猛進に武勇を振るうことじゃない。


 冷静沈着に計画を練り、秘密裏に実行することだ。


 それは今、俺の足下に寝転がるメイデンのイメージには合わない。


 メイデンにふさわしいのは、さっきのように武力に任せて部隊を展開し、総攻撃をかけようとする様だろう。


 無論その目論見は、俺とリリーサによって脆くも崩れ去ったわけだが。


 なるほどね。やっとわかったよ。


 あの暗殺部隊は、メラルダ夫人の金で雇ったプロ集団だったってわけだ。


 だから皆、最後に自決したんだ。


 それは忠義のためじゃなかった。


 いや、ある意味忠義か。


 自分たちが所属している組織に対して、類が及ばぬようにするための、けじめ。


 その結果としての自死ってわけだ。


 ようやく全貌が見えてきたような気がするよ。


「じゃあ、さっきの連中があんたの私兵であって、リリーサを暗殺しようとした奴らはプロの暗殺集団ってわけだ?」


 メイデンは観念したようにうなずいた。


「そうだ。高い金を払って奴らを雇った。にもかかわらず、あいつら二度も失敗しやがった!」


「だから三度目は自分でやってやろうってわけだ」


「そうだ!俺自身で決着を付けてやろうと思った。だが……くっ!」


「そう悔しがるなよ。仕方ないさ。なにせ剣豪と大魔導師の強力タッグだ。残念ながらあんたに勝ち目はなかったさ」


「くそっ!」


 メイデンは悔しそうに歯噛みした。


 俺はその様子を冷静に見下ろした。


 何故なら、俺がまだ肝心なことを聞いていないことに気付いたからだった。


「なあ、どうしてここへ攻め込んだ?まさかマールを襲うためじゃないだろう?」


「当然だ。あんな子どもを襲ってどうなる」


「だよね。つまりリリーサを殺すつもりで、攻め込んできたんだよね?」


「それがどうした?」


 俺はそこで一拍おき、据えた目でメイデンを睨んで言ったのだった。


「なんでリリーサが、ここに居ることを知ったんだ?」


 するとメイデンも俺を睨みつけた。


 だがすぐにフッと笑った。


 そして、口の端を大いに歪めて言ったのだった。


「メラルダが言ったのさ。リリーサがここにいるとな」


 俺はゆっくり静かにうなずいた。


「なるほどね。メラルダ夫人からの情報か。でもあれだろ?どうせメラルダ夫人は、リリーサを殺せなんて言わなかったんだろう?」


 するとメイデンが大いにうなずいた。


「ああ、その通りだ。あれはそういう女だ。そうやって人を操る……そうだな。やはり俺は、あの女に言い様に操られていたんだろうな」
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