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78 一騎討ち

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 俺の雷撃戦槍ケルンドグス十六連によって、敵の中央部は一人をのぞいて皆黒焦げとなって地面に倒れ伏した。


 その瞬間、左側の敵を全て倒し終えたリリーサが、残った一人に向かって言ったのだった。


「これで後はお前一人だぞ、メイデン!!」


 メイデンと名指しされたかなりの大柄な男が、一歩後ろに後ずさりしながら言った。


「な、なぜお前がここにいるのだ!?」


 するとリリーサがフンッと鼻を鳴らし、あごをツンと上げながら言い放ったのだった。


「色々あってこうなった!!」


 あの、それって偉そうに言うことじゃないんじゃない?


 実際、メイデン当惑しているし。


 そりゃそうだよな。


 色々あったって言われてもなあ。説明になってないよなあ。


 だがリリーサは何一つ悪びれることなく、さらに言い放った。


「マールの屋敷に押し入ろうなどとは、不届き千万!ギッタギッタのグッチャグッチャにしてやるからな!!」


 もうだいぶギッタギッタのグッチャグッチャにしちゃいましたけどね。


 ああ、メイデン自身をするってことね。


 まあいいけど、やり過ぎないようにね。


 黒幕の存在を吐かせなければいけないし。


 するとこれまで言い様に言われっぱなしだったメイデンが、重装備の鎧や兜などをワナワナと震わせて、金属同士が擦れ合う音を奏でながら口を開いた。


「貴っ様~~~!やかましいぞ!小娘がっ!」


「誰が小娘だ。わたしはアルト公だっ!」


 上手い。


 メイデンが一番癇に障ることを言った。


 見ると、案の定メイデンは巨体を全身でプルプルと震わせている。


 ああ、メイデンの頬の引き攣りが尋常じゃない。


 その内引っ張られたまま、つっちゃうんじゃないかと思うくらいだ。


 屈辱だろうなあ。


 まあ、でも自業自得だね。


 俺はこの戦いに関しては静観することに決めた。


 何せ暗殺されそうになったのはリリーサだからね。


 ここは本人に任せようじゃないか。


 するとメイデンが憤怒の表情でもって、大股でリリーサに近付いていった。


 そして大型の身体に見合った、腰に帯びた大剣を勢いよく抜き放った。


 だがリリーサは落ち着いていた。


 良い感じだ。


 これなら負けるはずはないね。


 俺は安心して二人の戦いを、高みの見物としゃれ込んだのだった。


「死ねっっっ!!!」


 メイデンが大剣を振りかぶり、凄まじい勢いで力任せに振り下ろす。


 それをリリーサは横っ飛びで避け、すぐに態勢を立て直して逆撃を仕掛けた。


 横殴りの剣がメイデンの腹目掛けて襲いかかる。


 だがそれをメイデンが大剣を返して受け止めた。


 リリーサは身体を回転させ、もう一撃横殴りに剣を振るう。


 だがそれもメイデンが力強く受けきる。


 リリーサは接近戦では不利と思ったか、そこで一旦後ろに飛び退った。


 だがそのリリーサの鼻先を、下からメイデンの大剣が斬り上げる。


 リリーサはそれを寸でのところで躱し、距離を取って態勢を整えたのだった。



 俺はここまでの戦いを、息を呑んで見守った。


 いや、見守ったというか、見守らざるを得なかったというか。


 まずい。これはまずいぞ。


 メイデン、メッチャ強いじゃん。


 余裕でリリーサの勝ちだと思っていたのは間違いだった。


 俺はそこで再び思い出した。


 メイデンは軍事に関しては有能だと。


 それってもしかして、メイデン個人の武力のことを差していたんじゃないか?


 指揮能力はともかく、個人的な武力を前面に押し出した猪突猛進の戦術で武勲を上げたとか。


 奴の軍事的能力ってそういうことなんじゃないか?


 となると、やっぱりこれはマズいぞ。


 だがリリーサだって剣豪を名乗るくらいだ。


 どうにかなるか?


 それとも……。


 すると間合いを計っていた両者が、同時に仕掛けた。


 共に相手に向かって一足飛びに斬りかかる。


 メイデンの大剣が、凄まじい勢いでリリーサの顔面目掛けて上段から振り下ろされた。


 だがリリーサは、ほんのわずかに地面に足を接地し速度を落とすと、それを鼻先で躱した。


 メイデンの大剣が空を斬って地面に叩きつけられ、凄まじい砂埃が宙を舞った。


 俺は視界を奪われ、大いに慌てた。


 だが次の瞬間、砂埃の中で何かが煌めくのが見えた。


 煌めきは大きく弧を描いてある地点でピタリと止まった。


 その瞬間、金属と金属が激しくぶつかる衝撃音が辺り一帯に響いた。


 すると砂埃の中から何かが勢いよく吹き飛んだ。


 それは中空を大きく舞い、地面にドスンと落ちた。


 見るとそれは、先程までメイデンが被っていた大ぶりな兜であった。


 俺はようやく砂埃が収まり、浮かび上がった姿を見てホッと胸をなで下ろした。


 そこには、地面に伏して倒れ込むメイデンと、その背中の上に傲然と立ち尽くすリリーサの姿があったのだった。
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