上 下
55 / 138

55 秘密の開示

しおりを挟む
 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。

 何故ならば目の前のジトー侯爵に、ある種の覚悟を感じたからだった。

 恐らく俺の顔は、引き攣ったものとなっていたのだろう。

 それを見てジトー侯爵がフッと息を漏らした。

「冗談だ。冗談」

 いや、違う。冗談じゃない。

 だが俺の緊張を見て、止めたんだ。

 ジトー侯爵には、秘密がある。それは間違いない。

 俺はそれを聞き出さないとならない。

 だがどうやって?

 今、ジトー侯爵は俺を信用しかけた。
 
 それなのに俺が緊張感満載の顔をしたから、秘密を共有するに足らない奴だと思われたんだ。

 もう一度だ。もう一度ジトー侯爵に俺を信用させないと。

「冗談ね。そうは思えないけど」

「いや、冗談さ」

 ジトー侯爵は身体をソファーに預け、くつろいだ姿勢を取っている。

 どうする?

 今までのことを思い起こすと、ジトー侯爵は恐らく敵じゃない。

 ならば味方に引き込みたい。

 なんといっても王弟だ。しかも、世間の評判とは真逆の実力者。

 これからの調査にうってつけの人物じゃないか。

 どうすればいい?

 どうすればジトー侯爵に秘密の開示をさせられる?

 俺は考えをまとめると、真剣な表情となって、ジトー侯爵を見据えた。

「俺にも秘密がある」

 するとジトー侯爵の目が鋭く光った。

 罠か?

 俺はまんまと嵌められたのか?

 いや、違う。

 あの目は、好奇の目だ。

 純粋に俺のことを知りたがっている目だ。


 ジトー侯爵はゆっくりと身体を起こし、前のめりとなって俺を見つめた。

 そしてゆっくりと、静かに、口を開いたのだった。

「いいだろう。互いに秘密の開示をするとしよう」

 俺はゆっくりとうなずいた。

「ああ。そうしよう」

 ジトー侯爵は俺の眼を一瞬も離さず、捉え続けた。

 俺の目の奥に何がいるのか、それを探っているかのように。

 だがそれは俺も同じだった。

 俺もジトー侯爵の目の奥の輝きが、どのような意味を持つのかを確認しようと睨み続けた。

 するとジトー侯爵が静かな口調で言った。

「では、わたしの方から言おう」

「わかった。だけど、嘘偽りなく頼むよ」

 ジトー侯爵は静かにうなずいた。

「わたしの真の姿は、王直属の最終護衛者だ」

 俺は目を見張った。

 王直属の最終護衛者だって?聞いたことがない。本当か?

「疑っているようだね?」

 俺は、ここは素直に言った。

「聞いたことがないものでね」

 ジトー侯爵は何度もうんうんとうなずいた。

「そうだろうね。何せ秘密の存在だからね」

「それは、貴方だけなのかい?」

 ジトー侯爵はゆっくりと首を横に振った。

「いや、違う。複数名いる」

「複数名ね。つまり人数は教えるつもりはないということか」

 ジトー侯爵は静かに笑った。

「そうだな。人数は秘中の秘だ。無論、本来はその存在を明かすことも厳禁なのだ。そこを汲んでくれるかな?」

「わかった。人数はいい。その目的を知りたい」

「決まっているだろう。王の警護だ」

「それだけか?だったら放蕩者を装う必要はないじゃないか」

 するとジトー侯爵が口の端をクイッと上げた。

「さすがだね。その通りだよ。わたしが放蕩者を装っているのは、まあ実際遊び人なのは事実なんだが、その実、敵の目を欺くためだ」

 俺はうなずいた。

「王に危害を加えようとする者たちを謀るわけだ。さらに言うなら、様々なところで情報収集をするには遊び人って評判は最適だろうしね」

 ジトー侯爵は笑みを浮かべて何度もうなずいた。

「納得したかい?」

 なるほどね。

 王にとっての最後の砦。

 世間からは遊び人と思われていながら、その実、最強クラスの剣技を持った実力者。

 ジトー侯爵の正体にふさわしいと言える。

「ああ。納得したよ」

「それはよかった。では次は、君の秘密を開示してもらおう」

 俺は大いにうなずいた。

 ジトー侯爵の秘密の開示は真実だ。

 ならばこちらも真実を語ろう。

 それが互いの信頼を生む結果となる。

「俺は、リリーサ王女暗殺未遂事件の犯人を捕らえるために、ここアクアマリンに来たんだ」

 するとジトー侯爵が、ギュッと眉根を寄せて一瞬で立ち上がった。

「なに!?リリーサが?暗殺未遂だと!?」

 過剰なくらいの反応に、俺は一瞬驚いた。
 
 だがすぐに思い出した。

「ああ、そうか。リリーサ王女は貴方にとって姪に当たるのか」

「そうだ。幼い頃より可愛がってきたつもりだ。そのリリーサが暗殺未遂だと!?」

 ジトー侯爵の顔は憤怒に燃えている。

 これは演技じゃない。

 真実の怒りだ。

 俺は覚悟を決めて、言った。

「俺は犯人を捕まえたい。だからそれに協力してくれないか?」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...