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44 アクアマリン

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「ふう、やっと着いたのか~」

 俺が必死に馬にしがみつきつつ、死にそうな声で言った。

 するとリリーサが、俺を小馬鹿にしたように言った。

「情けないわねえ。これくらいで」

 俺は思わずムッとするも、言い返す気力もなかった。

 俺たちが昨晩フローライトにある宮殿を出発し、ここ首都アクアマリンにたどり着いたのは、もう日も沈みかけた夕刻である。

 つまりほぼ丸一日近くにわたって、俺たちは高速馬にしがみつき、移動し続けたのだった。

 無論途中で何度も回復魔法はかけた。

 馬だけではなく自分にもだ。

 だが丸一日近くともなると、回復魔法をどれだけ掛けても、もう全然効かなくなっていた。

 しかし、横を見ると三人ともがまったく平然としていた。

 俺は心の中でこの三人を、同列に化け物認定したのであった。



 さすがにメリッサ王国の首都だけあって、アクアマリンは広大であった。

 しかも人の数がハンパない。

 俺は体調不良も重なって、行き交う人々のあまりの数の多さに酔った気分となり、今にも戻しそうなくらいになっていた。

 するとそれを見かねてレイナが声を掛けてきた。

「おい、アリオン。大丈夫か?顔色が真っ青だぞ?」

「……ああ。ちょっと……気分が……」

 俺は馬の背に寝そべるようにしがみつきながら、ようやく答えた。

「わたしでよければ回復魔法をかけてやろうか?」

 レイナは剣聖ではあるものの、魔力に関してはもうすでに俺の方が上だ。

「今さっき自分で掛けたところだよ。だからありがとう。気持だけ受け取っておくよ」

「ふむ、ならばネルヴァ!」

 レイナは後ろに下がっていたネルヴァを呼んだ。

 ネルヴァはすぐに上がってきた。

「どうしました?」

「アリオンの調子が良くないようだ。お前が回復魔法を掛けてやってくれ」

 だがネルヴァは俺の顔色をのぞき込むと、肩をすぼめた。

「無駄ですね。これは慢性疲労と筋肉疲労が重なった症状のようです。こうなると、回復魔法でどうこうというレベルではなく、ベッドに寝るのが一番となります」

 ですよね。そうだと思います。

「そうなのか?わたしはこんな感じになったことがないからわからないが」

「ええ。わたしもありません。おそらくは王女様も」

「もちろんよ。こんな風にみっともない真似したことないわ!」

 ぐっ!三人で寄ってたかって。

 だが俺はもはや、一言だって文句を言う気力さえも尽きかけていた。

 するとそんな死にかけた俺をほっておいて、リリーサが明るい声で言った。

「あっ!あのお店、すっごく美味しそうよ!あのお店に入りましょう!」

 俺は、一口だって喰えん。喰ったら吐く。確実にだ。

 するとそんな俺の気持を代弁するかのようにレイナが言ってくれた。

「王女様、アリオンが死にそうなので我慢してください」

「え~?でもみんなだってお腹空いたでしょう?」

 すると今度はネルヴァが助け船を出してくれた。

「確かにお腹は空きましたが、アリオンはそれどころではないでしょう」

 するとリリーサが顔を近づけ、俺の顔をのぞき込んできた。

 相変わらず可愛い顔をしている。

 しゃべるとあれなんだが。

「そうね。仕方ないわ。王宮に急ぎましょう」

 リリーサがあっさりと言った。

 おかげで俺は、三人が食事をしている間馬の背に腹ばいに寝て待つことにならずに済んだのであった。



 アクアマリンに到着してから約三十分。

 ようやく俺たちは王宮へとたどり着いた。

 長かった。

 実に長い時間であった。

 もはや意識を失いかけていた。

 だがようやく巨大な正門が見えてきた。

 俺はほんのわずか首をもたげて仰ぎ見た。

 デカい。
 
 さすがにデカい。

 夜で暗いこともあり、全貌は見渡せないが、遠くに高い建物が見える。

 それよりも高い塔が何本も天に向かって突き出している。

 これが王宮か。

 俺が初めて見る王宮に感嘆の思いを抱いていると、先頭のネルヴァが正門に到着した。

 するとすぐに衛兵とおぼしき者たちが駆け寄ってくる。

「こんな時間に何者だ!」

 先頭の者が槍を構えながら、馬上のネルヴァに声高に問い掛けた。

 だがネルヴァは落ち着いたもので、穏やかな声で返事をした。

「やあ、こんな遅くにご苦労様」

 すると槍を構えた先頭の衛兵が、ネルヴァの顔をのぞき込んだ。

 そして、その人物の心当たりに気付き、すかさず槍を下げて敬礼した。

「し、失礼いたしました。ネルヴァ=ロキ様ですね?気付きませんで、大変ご無礼いたしました!」

 すると後ろの衛兵たちも次々に敬礼した。

 ネルヴァは鷹揚に構え、言った。

「いいえ。急に来た我々が悪いのですから、お気になさらず」

「は!ありがとうございます」

「では、通ってもよろしいですかね?」

 ネルヴァがそう言うと、衛兵たちは一斉に言ったのだった。

「は!どうぞお通りください!」

 まさに顔パス。

 さすがは大賢者様でございますねえ。

 俺はそんなことを思いつつも、やっぱり声に出す気力もなく、馬の背に寝そべったままなのであった。
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