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39 首謀者
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「確実というわけではありません。なのでそこは含み置いてください」
ネルヴァが真剣な表情で俺をのぞき込む。
俺は力強くうなずいた。
「わかった。あくまで可能性が最も高いくらいに思っておけばいいね?」
「さすがはアリオン。話が早くて助かります。もしも首謀者を一人に限定して思い込み、仮に違った場合、我々はまったく予想もしていなかった方角から攻撃を受けることになります。それは大変危険です」
「そうだね。だからそうならないよう、あくまで可能性が高いくらいに思っておき、全方位に警戒するってことだね?」
「そうです。その通りです。しかし、貴方はこういったことに対する訓練を受けたわけではないのに、よくわかりますね?」
俺は改めて言われ、首を傾げた。
「そうかな?普通判るんじゃないかな?」
するとネルヴァが苦笑交じりに言った。
「いいえ。普通は判りませんよ。貴方はどうやら特別なようです」
「そうかなあ」
俺は別段これまで特殊な訓練なんて受けたことはない。
だけど、どうやら人より頭が回るらしい。
まあ褒められているわけだから悪い気はしないな。
「それで、その首謀者って誰なの?」
俺が急かすように問い掛けると、ネルヴァがレイナと顔を見合わせてから答えた。
「おそらく、メイデン第三王子ではないかと思われます」
メイデン第三王子か。
「確か、前のアルト公だったっけ?」
「そうです。リリーサ王女にとっては兄に当たるお方で、貴方の仰るとおり先のアルト公です。ですが昨年、あまりにも素行が悪いために王によってアルト州を召し上げられ、現在は王宮に蟄居しておられます」
「結果、アルト州はリリーサが治めることになり、アルト公となった。つまり彼女を亡き者にすれば自分がアルト公に返り咲けると?」
「どうやらそう思っていらっしゃるようで」
ネルヴァが呆れたように言った。
俺は首を傾げた。
「でもさ、素行が悪くて去年アルト公をクビになったばかりなんでしょ?だったらリリーサが居なくなったところで、そんなにすぐに返り咲けるものなのかな?」
するとネルヴァがあっさりと言った。
「無理でしょう」
「だよね?ならなんで……」
するとネルヴァが顔をしかめて首を振った。
「わかりません。恐らくは裏でメイデン王子をそそのかしている者がいると思うのですが」
「黒幕がいるってことか。でもそれなら次にアルト公になりそうな人物がその黒幕なんじゃない?だってよく言うだろう?犯罪においては、そのことで利益を得るものこそが真犯人だって」
するとネルヴァがうなずいた。
「ええ。わたしもそう思います。ですが決め手に欠けるのです」
「候補者が何人もいるってこと?」
「いえ、どちらかと言えば、皆何かしら不足といったところなのです」
「適当な候補者がいないってことか」
「そうです。なのでメイデン王子も返り咲けると思ったのかも知れません。もっともわたしは、絶対に無理だと思いますがね」
「だけど、そう思い込ませやすい状況ではあるということだね?」
「そう。そうなんです。ですので何とも」
「そうなんだ。俺、あんまり王家のこととかわからないからなあ。よかったら少し教えてもらえるかな?」
「ええ。わかりました」
ネルヴァは俺に詳しく説明してくれた。
俺はあくまで一般庶民だから、国の話なんかはほとんど知らない。一生縁のない話だと思っていた。
だから凄く勉強になった。
まずメリッサ王国とは、王直轄領と王家自治領、それに貴族自治領の三つによって成り立っているということだった。
一つ目の王直轄領は、そのものずばり王様の直轄地だ。
首都アクアマリンを含む、メリッサ王国の中心地がそうだ。
その領土は広大で、メリッサ王国の約半分が王直轄領となっている。
二つ目は王家自治領。
これはリリーサなど王家の者がその地の公爵となって赴任し、あらゆる意味において自由度が高い自治権を与えられて治めている。
もっとも主権は当然のことながら王にある。
だがその自由度は極めて高く、それ故独自の政策によって様々な色を打ち出すことが可能となっている。
三つ目は貴族自治領。
これはほとんど王家自治領と変わらない。
ただ治めているのが、王家の者ではなく大貴族であるということ。
それに、自治権が王家自治領に比べて多少弱いことくらいである。
これらの自治領が、王家、貴族共に五つずつあり、王直轄領の周りを取り囲むようにドーナツ状に配置されているのが、メリッサ王国の現在の姿である。
「自治領ってそんなに自由度が高いの?」
俺の問いにネルヴァがすかさず答えた。
「かなり高いですよ。政治、軍事、共にかなり自由に行えます」
「え!?軍事も?」
「そうです。さすがに他国に戦争を仕掛ける権利まではありませんが、もしも他国より攻め込まれた際、かなり柔軟に対処できるようにはなっています。そもそもリリーサ王女がアルト公になられたのも、その軍事的才能を王に見込まれたからに他なりません」
「そうなの!?」
「ええ。ここアルト州はメリッサ王国からしてみれば軍事の要衝。それ故リリーサ王女に王はここを委ねられたのです」
「そうなのか。でもちょっと待って。それならメイデン王子は……」
するとネルヴァが肩をすぼめた。
「そうなんです。実は彼も軍事的才能だけはあるんです」
「だけは、ね。政治的才能はないんだね?」
「ええ。それに素行もですね」
「素行ってどれくらい悪かったの?」
するとネルヴァの顔が険しくなった。
「口に出すのも憚られるくらいに、です」
ネルヴァの顔は、その素行がどれほどのものかを、よく物語っていた。
「そうか。よっぽどなんだね?わかった。でも軍事的才能があるのなら、気をつけないといけないね?」
「ええ。要注意です」
俺は力強くうなずき、そのことを心に深くとどめたのであった。
ネルヴァが真剣な表情で俺をのぞき込む。
俺は力強くうなずいた。
「わかった。あくまで可能性が最も高いくらいに思っておけばいいね?」
「さすがはアリオン。話が早くて助かります。もしも首謀者を一人に限定して思い込み、仮に違った場合、我々はまったく予想もしていなかった方角から攻撃を受けることになります。それは大変危険です」
「そうだね。だからそうならないよう、あくまで可能性が高いくらいに思っておき、全方位に警戒するってことだね?」
「そうです。その通りです。しかし、貴方はこういったことに対する訓練を受けたわけではないのに、よくわかりますね?」
俺は改めて言われ、首を傾げた。
「そうかな?普通判るんじゃないかな?」
するとネルヴァが苦笑交じりに言った。
「いいえ。普通は判りませんよ。貴方はどうやら特別なようです」
「そうかなあ」
俺は別段これまで特殊な訓練なんて受けたことはない。
だけど、どうやら人より頭が回るらしい。
まあ褒められているわけだから悪い気はしないな。
「それで、その首謀者って誰なの?」
俺が急かすように問い掛けると、ネルヴァがレイナと顔を見合わせてから答えた。
「おそらく、メイデン第三王子ではないかと思われます」
メイデン第三王子か。
「確か、前のアルト公だったっけ?」
「そうです。リリーサ王女にとっては兄に当たるお方で、貴方の仰るとおり先のアルト公です。ですが昨年、あまりにも素行が悪いために王によってアルト州を召し上げられ、現在は王宮に蟄居しておられます」
「結果、アルト州はリリーサが治めることになり、アルト公となった。つまり彼女を亡き者にすれば自分がアルト公に返り咲けると?」
「どうやらそう思っていらっしゃるようで」
ネルヴァが呆れたように言った。
俺は首を傾げた。
「でもさ、素行が悪くて去年アルト公をクビになったばかりなんでしょ?だったらリリーサが居なくなったところで、そんなにすぐに返り咲けるものなのかな?」
するとネルヴァがあっさりと言った。
「無理でしょう」
「だよね?ならなんで……」
するとネルヴァが顔をしかめて首を振った。
「わかりません。恐らくは裏でメイデン王子をそそのかしている者がいると思うのですが」
「黒幕がいるってことか。でもそれなら次にアルト公になりそうな人物がその黒幕なんじゃない?だってよく言うだろう?犯罪においては、そのことで利益を得るものこそが真犯人だって」
するとネルヴァがうなずいた。
「ええ。わたしもそう思います。ですが決め手に欠けるのです」
「候補者が何人もいるってこと?」
「いえ、どちらかと言えば、皆何かしら不足といったところなのです」
「適当な候補者がいないってことか」
「そうです。なのでメイデン王子も返り咲けると思ったのかも知れません。もっともわたしは、絶対に無理だと思いますがね」
「だけど、そう思い込ませやすい状況ではあるということだね?」
「そう。そうなんです。ですので何とも」
「そうなんだ。俺、あんまり王家のこととかわからないからなあ。よかったら少し教えてもらえるかな?」
「ええ。わかりました」
ネルヴァは俺に詳しく説明してくれた。
俺はあくまで一般庶民だから、国の話なんかはほとんど知らない。一生縁のない話だと思っていた。
だから凄く勉強になった。
まずメリッサ王国とは、王直轄領と王家自治領、それに貴族自治領の三つによって成り立っているということだった。
一つ目の王直轄領は、そのものずばり王様の直轄地だ。
首都アクアマリンを含む、メリッサ王国の中心地がそうだ。
その領土は広大で、メリッサ王国の約半分が王直轄領となっている。
二つ目は王家自治領。
これはリリーサなど王家の者がその地の公爵となって赴任し、あらゆる意味において自由度が高い自治権を与えられて治めている。
もっとも主権は当然のことながら王にある。
だがその自由度は極めて高く、それ故独自の政策によって様々な色を打ち出すことが可能となっている。
三つ目は貴族自治領。
これはほとんど王家自治領と変わらない。
ただ治めているのが、王家の者ではなく大貴族であるということ。
それに、自治権が王家自治領に比べて多少弱いことくらいである。
これらの自治領が、王家、貴族共に五つずつあり、王直轄領の周りを取り囲むようにドーナツ状に配置されているのが、メリッサ王国の現在の姿である。
「自治領ってそんなに自由度が高いの?」
俺の問いにネルヴァがすかさず答えた。
「かなり高いですよ。政治、軍事、共にかなり自由に行えます」
「え!?軍事も?」
「そうです。さすがに他国に戦争を仕掛ける権利まではありませんが、もしも他国より攻め込まれた際、かなり柔軟に対処できるようにはなっています。そもそもリリーサ王女がアルト公になられたのも、その軍事的才能を王に見込まれたからに他なりません」
「そうなの!?」
「ええ。ここアルト州はメリッサ王国からしてみれば軍事の要衝。それ故リリーサ王女に王はここを委ねられたのです」
「そうなのか。でもちょっと待って。それならメイデン王子は……」
するとネルヴァが肩をすぼめた。
「そうなんです。実は彼も軍事的才能だけはあるんです」
「だけは、ね。政治的才能はないんだね?」
「ええ。それに素行もですね」
「素行ってどれくらい悪かったの?」
するとネルヴァの顔が険しくなった。
「口に出すのも憚られるくらいに、です」
ネルヴァの顔は、その素行がどれほどのものかを、よく物語っていた。
「そうか。よっぽどなんだね?わかった。でも軍事的才能があるのなら、気をつけないといけないね?」
「ええ。要注意です」
俺は力強くうなずき、そのことを心に深くとどめたのであった。
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