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38 ホテル襲撃

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 ギィ……という音が、俺のドアを通り過ぎた先で鳴った。

 今だ!

 俺は勢いよくドアを開け放ち、魔法を繰り出そうと右手を前に出す。

 ホテルの廊下は狭い。

 被害を最小限に抑えるためには、もっとも早く直進する雷属性の魔法がベスト。

「ボルテ……」

 だが俺が魔法を繰り出そうとしたその瞬間、目の前に金属の煌めきが!

 俺は咄嗟に身体をよじって、それをなんとかかわした。

 だがそれによって俺は身体のバランスを失い、よろめいた。

 だが俺は、構わず放つ!

雷撃戦槍ボルテックスピアー!」

 すると倒れ込む俺の右手から、凄まじい雷光が発せられた。

 それはまるで武芸の達人が放つ必中の槍撃の如く、未知の敵に向かって真っ直ぐに突き進んだ。

 だがそれは敵には当たらなかった。

 黒き敵は眼前に押し寄せる雷撃を、すんでの所で身体をひねってかわしたのだ。

 結果、雷光は敵の身体ではなくホテルの反対側の壁をぶち破って、空中に飛散したのだった。

「ぐっ!」

 俺は受け身が取れない状態で床に身体を打ち付け、思わずうめき声を上げた。

 だがそんなことに構っては居られない。

 俺はそのままの体勢で右手を前に突き出した。

「くらえっ!もう一発!雷撃戦槍ボルテックスピアー!」

 瞬間、雷光が煌めく。

 黒ずくめの敵に向かって、猛然と襲いかかる。

 だがこれもまた、ほんのわずかという所でかわされてしまった。

 すると敵が後退し始めた。

 俺がぶち破った壁に向かって全速力で駆けていく。

 俺は必死で立ち上がり、その背に三発目の雷撃をぶち込もうと右手を前に出した。

「ボルテックス……」

 俺はそこで慌てて止めた。

 何故ならば俺の目の前に、リリーサが扉を開けて飛び出してきたからだった。

「リリーサ!邪魔だ!」

 俺は咄嗟に叫び、開いた扉の向こうに出る。

 驚くリリーサを尻目に、廊下の先を見やる。

 だがそこにはもう敵の姿は見られなかった。

 そこには、満月に煌々と照らされた町の姿があるだけだった。

「ちっ!逃がしたか……」

 俺は舌打ちをして悔しがった。

 するとリリーサが言った。

「今の黒ずくめ、この前の敵とはちょっと違うわね?」

「そうだね。以前の敵も、皆かなりの腕利きだった。でも今回のは、かなりヤバい相手だと思うよ」

「敵は一人?」

「ああ。たぶんね。いや、わからないな。もしかしたら他にもいる可能性はある」

「本当に?」

「だからわからない。とにかくこのホテルには居られない。ひとまず宮殿に戻ろう」

 するとさすがのリリーサも観念した。

「仕方がないわね。戻りましょう」

 だがそこで物音を聞きつけ、恐る恐るといった様子で、階下から人がわらわらと現れた。

 その中の一人が、人々をかき分け前に出た。

「こりゃあ一体……壁がないじゃないですか……」

 宿主である。

 俺は一度思いっきり息を吐き出し呼吸を整えると、宿主に向かって歩き、言ったのだった。

「ああ、すみません。修理代はお支払いします。これで足りますか?」

 俺は懐から袋を取り出し、その中から金貨を一枚取り出した。

 宿主は目を爛々と輝かせ、うんうんと大きくうなずいた。

「足ります。足りますとも。ありがとうございます」

 俺は笑みを浮かべて金貨を手渡した。

 ギルドで稼いだお金をこんな形で使うとはね。

 俺は心の中でぼやくと、リリーサに向き直って言ったのだった。

「さあ、ひとまず帰るとしようか」




 深夜ながら馬車を雇い、宮殿に戻った俺たちは、メイド長のマデラを筆頭にこっぴどく叱られた。

 そうはいってもリリーサは王女様。

 キツ~い説教を受けたのは、必然的に俺ということになる。

 俺は警戒のために王女の居る公爵の間と扉一つ隔てたところにある次の間において、マデラからのいつ終わるともわからない説教を延々と受けていた。

 あ~あ、やっぱ行くんじゃなかったよなあ~。

 そりゃあそうだよ。こうなるよ。

 しかもまた暗殺未遂事件だもんなあ。

 マデラが激怒するのも当然だ。

 ごめん、マデラ。本当に反省しているよ。

 俺はそんなことを思いつつ、鬼の形相で何やら怒鳴りまくっているマデラを無表情で見つめていた。

 するとそこで、扉をノックする音が聞こえた。

 瞬間的にマデラの怒鳴り説教が止まる。

 神の助けか?

 別のメイドが扉を開けるとそこから現れたのは、王女暗殺未遂の急報を受けて駆けつけた剣聖と大賢者の二人であった。

「まったく、貴方としたことが困ったものですね」

「まったくだ。お前ともあろう者が何をしている」

 二人は呆れた様子で部屋へ入ってきた。

 俺は面目次第もございませんといった顔で二人を出迎えた。

「いや、本当に申し訳ない。こんなことになるとは……」

 俺が心底申し訳なさそうに言うと、ネルヴァが笑った。

「いや、冗談ですよ。我々もまさかまた襲ってくるとは正直思っていませんでしたから」

 するとレイナも笑った。

「うむ。二ヶ月前に百人倒したからな。さすがにこんな早くにまた来るとは思ってなかった」

「なんだ。それじゃあ……」

 そう言おうとしたところでマデラが横から釘を刺した。

「だからといって王女様を連れ出した罪からは免れないよ!」

 いや、決して俺が連れ出した訳ではないのですが。

 言っても聞きませんよね?王女様には怒鳴れませんものね?はい。わかります。

 ここは俺が大人になって罪を被りますよ。くそ。

 俺がそう心の中で独白すると、突然ネルヴァの表情が真剣なものに変わった。

 見るとレイナも同様であった。

 俺は眉根を寄せ、問い掛けた。

「どうかした?」

 すると二人がほぼ同時にうなずいたのだった。

 俺は緊張し、さらに尋ねた。

「もしかして、暗殺未遂事件の首謀者が判ったとか?」

 すると二人は、大きくうなずいたのだった。
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