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「リリーサに一番近い所っていえば確かにそうかもしれないけど、なんなんだよこの格好は……」
俺は心ならずも可愛らしいメイド服を着て、フリルのついたカチューシャを頭に乗せてぼやいた。
すると目の前のでっぷりと肥え太った中年の巨漢女性が俺を叱りつけた。
「ほら!動くんじゃないよ!化粧が乱れちまうだろう!」
彼女の名はマデラ。リリーサ王女付きのメイドたちを束ねるメイド長である。
ここはそのメイド長マデラの起居する部屋であった。
俺はうんざりした表情を浮かべつつも、これ以上マデラに叱られないよう、大人しく顔を塗りたくられるのであった。
するとその様子を眺めていたネルヴァとレイナがクスクスと笑う。
俺はかなりイラッとしながら、文句を言った。
「何も俺がこんな格好をしなくても、リリーサ王女に狙われていることを伝えればいいじゃないか」
するとネルヴァが当然のように答えた。
「ええ。もちろん王女様にはお伝えいたしますが、その他の者には内密にします」
俺は眉尻をピンと跳ね上げ、不審げに問い掛けた。
「それは何で?」
「誰が王女様の暗殺に関わっているか判らないからです。ですのでここは信用のおける者たち、最小限の人数で備える必要があります」
「つまり、ここにいる四人と王女様だけってこと?」
「そうです。こちらのメイド長のマデラさんは、王女様が生まれた時から仕えていらっしゃる乳母のような存在の方です。なので問題なく信頼が置けますが、その他の者たちはどうかわかりません。ですので貴方は彼女と共に、王女様のいる公爵の間に続く次の間に控えていてください。そこが一番王女様に近いところですのでね。頼みますよ、アリオン」
すると巨漢のマデラが力強く言った。
「わたしと一緒なら次の間まで難なく怪しまれずに行けるからね。それは任せな!そのかわり、何が何でも王女様を守っておくれよ!」
マデラが俺の胸をドンと握り拳で叩いた。
俺は驚き、そのあまりの衝撃にむせた。
するとマデラがいぶかしげに眉を寄せてネルヴァを見た。
「本当に大丈夫なのかい?ずいぶんと弱そうだよ?」
俺はむせかえり、激しく咳き込みながら、この状況に腹を立てまくるのであった。
「……静かだ……」
深夜となり、皆ひっそりと寝静まっていた。
俺は予定通り王女様のいる公爵の間に繋がる次の間に、マデラと共に控えていた。
目は爛々と輝き……というかギンギンに冴えていた。
というのもあの後、この夜の襲撃に備えて爆睡したのだ。
故に睡魔が襲ってくることはない。
だがその代わりにと言っては何だが、退屈が襲って来ていた。
「……何もない……」
すると目の前のマデラが、俺をギロッと無言で睨みつけた。
これは油断していないで、いつ何時何があってもすぐに対処できるように警戒していろという圧力であろう。
俺は先刻のグーパンチを思い出し、思わず首をすくめた。
すると突然、公爵の間の扉が音もなく静かに開いた。
俺が何事かと思って首を巡らせると、扉の隙間からヒョコッと可愛らしくリリーサが顔を覗かせた。
俺はそのあまりに可愛らしい仕草に心躍らせ、どぎまぎした。
結果、俺は少々口ごもって問い掛けてしまったのであった。
「お、王女様、何かございましたか?」
するとリリーサがさらに可愛らしく肩をすぼめた。
「ううん。別に。ただ、アリオンのメイド姿が面白いから、もう一度見ようと思っただけよ」
俺はピクピクと頬を引き攣らせた。
対面するマデラが吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
いや、俺にこんな服を着せ、ろくでもないメイクを施したのは貴女でしょうが。
俺は心の中で思う存分突っ込みを入れると、気を取り直して言ったのだった。
「王女様、わたしだってこんな格好、好き好んでしているわけじゃないんですがね」
俺は至極冷静に心穏やかに言ったつもりだった。
だがその声は、俺が思っているよりも震えていたのだった。
するとリリーサまでもが、吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
俺はもう、腹が立つやら情けないやらで、心が散り散りに引き裂かれそうになるのをぐっとこらえた。
そして、もう一度気持を落ち着けて、静かに言ったのだった。
「王女様、これは遊びではありませんよ」
するとこれ以上はまずいと思ったのか、リリーサが慌てて引いた。
「そうね。そうだったわね」
だがその声の色はとても明るく弾んでおり、とてもではないが危機感などはまったく感じ取れなかった。
そのため、これはまずいと俺は思い、コホンと一つ咳払いをしたのだった。
「王女様、御身に危険が迫っているのです。決して油断なさらないでください」
するとようやく落ち着いた低い声でリリーサが答えた。
「そうね。わかったわ。じゃあね」
そう言ってリリーサは扉を閉めた。
俺は対面するマデラと視線を合わせ、互いに肩をすぼめたのであった。
俺は心ならずも可愛らしいメイド服を着て、フリルのついたカチューシャを頭に乗せてぼやいた。
すると目の前のでっぷりと肥え太った中年の巨漢女性が俺を叱りつけた。
「ほら!動くんじゃないよ!化粧が乱れちまうだろう!」
彼女の名はマデラ。リリーサ王女付きのメイドたちを束ねるメイド長である。
ここはそのメイド長マデラの起居する部屋であった。
俺はうんざりした表情を浮かべつつも、これ以上マデラに叱られないよう、大人しく顔を塗りたくられるのであった。
するとその様子を眺めていたネルヴァとレイナがクスクスと笑う。
俺はかなりイラッとしながら、文句を言った。
「何も俺がこんな格好をしなくても、リリーサ王女に狙われていることを伝えればいいじゃないか」
するとネルヴァが当然のように答えた。
「ええ。もちろん王女様にはお伝えいたしますが、その他の者には内密にします」
俺は眉尻をピンと跳ね上げ、不審げに問い掛けた。
「それは何で?」
「誰が王女様の暗殺に関わっているか判らないからです。ですのでここは信用のおける者たち、最小限の人数で備える必要があります」
「つまり、ここにいる四人と王女様だけってこと?」
「そうです。こちらのメイド長のマデラさんは、王女様が生まれた時から仕えていらっしゃる乳母のような存在の方です。なので問題なく信頼が置けますが、その他の者たちはどうかわかりません。ですので貴方は彼女と共に、王女様のいる公爵の間に続く次の間に控えていてください。そこが一番王女様に近いところですのでね。頼みますよ、アリオン」
すると巨漢のマデラが力強く言った。
「わたしと一緒なら次の間まで難なく怪しまれずに行けるからね。それは任せな!そのかわり、何が何でも王女様を守っておくれよ!」
マデラが俺の胸をドンと握り拳で叩いた。
俺は驚き、そのあまりの衝撃にむせた。
するとマデラがいぶかしげに眉を寄せてネルヴァを見た。
「本当に大丈夫なのかい?ずいぶんと弱そうだよ?」
俺はむせかえり、激しく咳き込みながら、この状況に腹を立てまくるのであった。
「……静かだ……」
深夜となり、皆ひっそりと寝静まっていた。
俺は予定通り王女様のいる公爵の間に繋がる次の間に、マデラと共に控えていた。
目は爛々と輝き……というかギンギンに冴えていた。
というのもあの後、この夜の襲撃に備えて爆睡したのだ。
故に睡魔が襲ってくることはない。
だがその代わりにと言っては何だが、退屈が襲って来ていた。
「……何もない……」
すると目の前のマデラが、俺をギロッと無言で睨みつけた。
これは油断していないで、いつ何時何があってもすぐに対処できるように警戒していろという圧力であろう。
俺は先刻のグーパンチを思い出し、思わず首をすくめた。
すると突然、公爵の間の扉が音もなく静かに開いた。
俺が何事かと思って首を巡らせると、扉の隙間からヒョコッと可愛らしくリリーサが顔を覗かせた。
俺はそのあまりに可愛らしい仕草に心躍らせ、どぎまぎした。
結果、俺は少々口ごもって問い掛けてしまったのであった。
「お、王女様、何かございましたか?」
するとリリーサがさらに可愛らしく肩をすぼめた。
「ううん。別に。ただ、アリオンのメイド姿が面白いから、もう一度見ようと思っただけよ」
俺はピクピクと頬を引き攣らせた。
対面するマデラが吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
いや、俺にこんな服を着せ、ろくでもないメイクを施したのは貴女でしょうが。
俺は心の中で思う存分突っ込みを入れると、気を取り直して言ったのだった。
「王女様、わたしだってこんな格好、好き好んでしているわけじゃないんですがね」
俺は至極冷静に心穏やかに言ったつもりだった。
だがその声は、俺が思っているよりも震えていたのだった。
するとリリーサまでもが、吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
俺はもう、腹が立つやら情けないやらで、心が散り散りに引き裂かれそうになるのをぐっとこらえた。
そして、もう一度気持を落ち着けて、静かに言ったのだった。
「王女様、これは遊びではありませんよ」
するとこれ以上はまずいと思ったのか、リリーサが慌てて引いた。
「そうね。そうだったわね」
だがその声の色はとても明るく弾んでおり、とてもではないが危機感などはまったく感じ取れなかった。
そのため、これはまずいと俺は思い、コホンと一つ咳払いをしたのだった。
「王女様、御身に危険が迫っているのです。決して油断なさらないでください」
するとようやく落ち着いた低い声でリリーサが答えた。
「そうね。わかったわ。じゃあね」
そう言ってリリーサは扉を閉めた。
俺は対面するマデラと視線を合わせ、互いに肩をすぼめたのであった。
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