上 下
20 / 138

20 恨みの目

しおりを挟む
「まあ、あの様子だと当分は動けないでしょう。恐らくは長期入院かと」

 ネルヴァが、ゲイスが運ばれていく様子から、そう判断を下した。

 俺もそう思う。あれはかなりの火傷だ。

 回復魔法である程度はなんとかなったとしても、当分は病院暮らしは免れまい。

「そうだね。それにかなりの火傷痕が残りそうだ」

「ええ。ですのでわたしとしては、息の根を止めておくことを推奨したのです」

 ひどい事を言う。

 だがレイナもネルヴァに同意らしい。

「わたしも同感だ!ああいう奴は生かしておく必要を認めないし、生かしておくと後が面倒だ」

「俺はあれで充分だよ」

 するとレイナが、俺の顔を真正面から睨み付けるようにして言った。

「あれは、復讐を誓った目だったぞ」

 そうだと思う。

 俺自身もそう直感した。

 あれは、自らの命を賭けてでも必ず復讐してやるぞと誓った目だったと思う。

 だが今の俺なら問題ないだろう。以前とは比べものにならないくらい俺は強くなっている。

 だから俺は笑みを見せながら自信たっぷりに言った。

「大丈夫。もう俺は、奴らが束になっても勝てる相手じゃないさ」

 だがそんな俺に、ネルヴァがレイナ同様の鋭い視線を向けて言った。

「ええ。確かに貴方は彼らよりも遙かに強いでしょう。ですが、彼らが汚い手を使えばわかりませんよ。決して気は抜かないことです」

 確かに。

 不意討ちや、寝ている隙に襲われたら、魔法を繰り出す暇もないか。

 俺はネルヴァとレイナを交互に見ながら言った。

「わかった。気をつけるよ」

 二人はグイッと顔を近づけ、慎重に俺の目をのぞき込んだ。

 そして、俺が真剣にゲイスたちに対して油断なく気をつけるつもりであることを確認し、ようやくうなずいた。

「うむ!それならよしだが、本当にくれぐれも気をつけろよ」

 レイナは心配性だな。

 でもこうして気遣ってくれるのはうれしい。

 だが対するネルヴァはまだ浮かない顔をしていた。

 右手であごをさすり、何やら考えた末、彼は言った。

「一応念のため、ギルドで冒険者登録をしておきましょう」

 何故冒険者登録を?だがその前に、それは無理だ。

「ネルヴァ、前にも言ったけど冒険者登録は三人からなんだよ」

「ええ。知っています。ですから問題ないでしょう?」

「え?それじゃあ……」

「ここには三人います。ですので問題ないかと」

 レイナを見ると、にっこりと笑みを浮かべてうなずいている。

 ネルヴァが続ける。

「貴方が我々とパーティーを組んだと知ったら、もしかしたら彼も復讐を諦めるかもしれませんからね」

「でもギルド登録をするとノルマが発生するよ?それが嫌で、これまで登録してなかったんじゃ?」

「ええ。嫌です。なのでノルマは貴方がお一人でこなしてください」

 えーーーーーー!?

「俺一人で?マジで?」

「ええ。マジです。我らは個人受注の仕事がありますので」

「そんな~、それじゃあパーティーを組む意味が……」

「ですので我らの名を冠した抑止力です。彼らの復讐の気を削ぐためのね」

「それはまあ確かにそうなるかも。剣聖と大賢者が仲間だと思ったら、ゲイスも諦めるかもしれないか」

「ええ。ですがこれは、貴方にとってもう一つ別のメリットがありますよ?」

「メリットがもう一つ?それは?」

「冒険者としてのノルマがあるとなれば、宮殿から抜け出すことが出来るでしょう?」

 あ、なるほど。

 リリーサによる宮殿での剣術修行から、息抜き感覚で抜けられるか。

「わかった。じゃあ登録しておこう」

 俺がそう言うと、二人が笑顔でうなずいた。

 そうして俺は、剣聖と大賢者というとんでもない二人とパーティーを組むことになったのであった。



「え?本当に?この三人でパーティーを?」

 ギルドの受付係が震える声で言った。

 周りの冒険者たちは驚きで声も出せない。

 だよね?ビビるよね?だって伝説級の二人だからねえ。

「そうなんだ。なのでよろしく頼むよ」

 俺は受付係ににっこりと微笑みかけた。

「あ、ああ。わかった。じゃあそのう、お手数ですが、お二人にもこちらの書類にご記入をお願い出来ますでしょうか?」

 受付係は恐る恐るといった様子で、冒険者登録用紙を差し出した。

 するとその紙を、レイナが俺の背後から手を伸ばして取った。

「これに記入すればいいのか?よし、アリオン任せた!」

 レイナはそう言って俺に用紙を無理矢理押しつけると、カウンターに置いてある酒瓶を手にして手近な椅子にどかんと座った。

 そしてグラスに注ぐことなく、ボトルにそのまま口を付けて飲み始めた。

 おいおい……。

 だがそう思ったのも束の間、今度はネルヴァがにっこりと微笑みながら俺に言った。

「ではわたしの分もお願いします」

 ネルヴァはそう言うと、レイナ同様カウンターに置いてある酒瓶を手に取った。

 だがネルヴァはレイナと異なり、白い布巾の上で飲み口を伏せてある綺麗なグラスもきちんと手に取り、その上で座って飲み始めたのだった。

 二人の性格が出ているな。

 俺はそんなことを思いつつ、受付係に向き直った。

「そういうわけで俺が代筆するってことでいいかな?」

 受付係は首をブンブンと勢いよく縦に振った。

 俺はそれを同意と受け取り、用紙に三人分の記入をし始めた。

 だが受付係が何やら言いたそうだったので、俺は彼に問い掛けた。

「他に何かあるの?」

 受付係が声を出さずに視線だけでネルヴァたちを指し示している。

 ああ、そうか。そういうことね。

「ああ、もちろん酒代は俺が払うよ」

 すると受付係は満足そうにニンマリと微笑んだのだった。

 俺は何とはなしに苦笑いを浮かべると、せっせと冒険者登録用紙に記入していくのであった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...