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第三十話 別離

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「二ムバス、お前……やりやがったな」

 俺は怒りに打ち震えながら、目の前に現れ出でた二ムバスに向かって糾弾した。

「ああ。痛かったか」

 二ムバスはそう言うと、口角を異様に上げて悪魔的な笑みを浮かべた。

「当たり前だ!痛いに決まっているだろう!目をくりぬかれたんだぞ!」

「そうだな。それは俺でも痛いな」

 二ムバスはそう言うと、エニグマを呼んだ。

「エニグマ、こやつに頑張った褒美として、あれをくれてやれ」

 エニグマは深々とお辞儀をすると、再び俺に向かって右手を伸ばした。

 まだ俺の身体は動かない。

「今度は何をするつもりだ!エニグマ!」

 だがエニグマの手は止まらない。

 再び俺の眼窩の中に指を突っ込んだのだった。

「ぐっ!ぐおぉぉぉーーー!」

 再びの激痛が俺を襲う。

 だがエニグマは、今度はすぐに手を引いた。

 しかしそれで激痛が治まるわけではなかった。

 俺は激しい痛みに耐えつつも、そこで何やら異物感を感じた。

 何かが眼窩の中に入れられたような感覚があった。

「……何をした?」

 するとエニグマが引き出した手を、俺の顔の前でピタリと止めた。

 そしてエニグマが何やら念じると、徐々に俺の痛みが引いていった。

 どうやらヒーリングをかけてくれたらしい。

 痛みはもうだいぶ無くなっていた。

 俺はようやく落ち着きを取り戻し、ゆっくりと口を開いたのだった。

「改めて聞くぞ。何をした?」

 すると二ムバスがニヤニヤとしながら答えた。

「この後もお前と一緒に行動するつもりは無かったのでな。お別れをしようと思ったまでだ」

「それはわかっている。俺だってお前なんかと一緒に動きたくなんかない。だからそれはもういい。その後の話だ。何を入れた?」

「替わりの目さ。欲しいだろ?」

「替わりの目だと?」

「ああ。目を開いてみるといい。もう痛みはないだろ?」

 確かにもう痛みはない。

 替わりの目か。

 それならありがたい。

 俺はゆっくりと静かに右瞼を開いてみた。

 だがその途端、激しいめまいが俺を襲った。

 世界が揺れる。

 右へ左へ、上から下へ。

 俺は吐き気をもよおした。

 だが身体は動かない。

 気持ちが悪い。

 目が回る。

 俺はたまらず瞼を閉じた。
 
 ギュッと固く瞼を閉じて、世界が元通りになるのを待った。

 だが閉じていない耳からは、二ムバスのけたたましい笑い声が聞こえている。

 何だこれは……くそっ!笑いやがって……。

「何が替わりの目だ……目が回って仕方がないぞ!」

 二ムバスは笑いながら答えた。

「そのうちなれるさ。なれれば重宝するぞ」

「こんなものがか?」

「ああ。お前の人生を明るく照らしてくれるんじゃないか?」

 二ムバスが小馬鹿にするように言った。

 俺の腹の虫は爆発寸前となった。

「ふざけたことを!これは一体なんなんだ!」

 すると二ムバスが顔を上げ、悪魔的な笑みで俺を冷笑しつつ言ったのだった。

「魔眼さ。褒美として受け取るがいい」

「褒美だと?魔眼ってのは何だ?」

「その内わかるさ。説明するのは面倒なのでな。自分で試行錯誤していくことだ」

「ふざけるな。こんなもの役に立つのか?」

「立つさ。確実にな。もっとも、それを使ってお前が幸せになれるかどうかなんてのは、俺は知らないがねえ」

 二ムバスはそう言うと、またもけたたましい笑い声を上げた。

 だがひとしきり笑い終えると、二ムバスは笑みを収めて言ったのだった。

「お前はよくやった。おかげで俺は千年ぶりに外に出られた。礼を言う」

「ふん、どうだかな」

「素直に受け取れよ。俺は本当に感謝しているんだぜ」

「そうかい。そいつは良かったな」

 すると二ムバスが再び高らかに笑った。

「最後まで生意気な奴だ。だがまあいいさ。……ではな」

 二ムバスはそう言うとくるっと踵を返し、さっさと歩き始めた。

 するとエニグマが軽く俺に会釈をして、その後を追っていった。

「おい!俺の身体を動かせるようにしていけよ!」

 エニグマは軽く振り返り、指をパチリと鳴らした。

 するとふっと俺の身体の自由を奪っていた鎖がほどけた。

 たまらず俺は膝から崩れ落ちた。

 そして四つん這いの姿勢となって、彼らの去りゆく背中を見つめた。

 追いかけるつもりはなかった。

 例え追いかけて抗議をしても、聞いちゃくれないだろう。

 目はくりぬかれたが、替わりに魔眼とやらをもらった。

 今、軽く瞼を開いてみたが、先程よりかはめまいが治まっている。

 このめまいさえ治まれば、一応視力は問題ないみたいだ。

 だったら追いかけるまでもない。

 たぶん二人相手じゃ勝てないからな。

 だが、もし今度会った時には、絶対にぶちのめしてやる。

 俺はそう固く心に誓い、ゆっくりと立ち上がったのだった。

 さあ、帰ろう。

 俺にはやるべきことがある。

 俺はゆっくりと踵を返すと二ムバスたちに背を向けて、しっかりと歩き始めるのだった。
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