293 / 352
第二章
570
しおりを挟む
俺は伏し目がちになり、考え込んだ。
さて、どうするか。
俺はもう、バーン翁を信用しきっている。
アルフレッドの祖父であり、なんといっても俺と同じ転移者だ。
今後もバーン翁には、色々と力になってもらいたいと思っている。
聞きたいことも山ほどある。
それならば、隠し事は出来るだけないに限る。
ならば、言ってもいいか。
俺は覚悟を決め、バーン翁と向き直った。
「ちょっと話しておきたいことがある」
俺はバーン翁に対し、過去のことを洗いざらい話した。
翁は驚きつつも、俺の話を最後まで口をほとんど差しはさむことなく聞き終えた。
「……ふむ、なかなかにハードじゃな」
なるほど。確かにひとことで言い表すのなら、それだな。それにしてもさすがだ。俺の話を聞いても、ほとんど顔色が変わらなかった。いや、一度だけ、俺が親を殺害した話の時だけは、さすがの翁も顔色を変えていた。
まあ、当然か。
俺はそう思い、苦笑した。
「それで、思い悩んでいたと?」
バーン翁の問いかけに、俺は首を横に振った。
「いや、別に後悔しているわけじゃない。それ以外に道はなかったと思うしな。ただ……」
俺は、その後に繋がる言葉を探した。
だが見つからなかった。
すると、翁が言った。
「ただ、なんじゃ?」
俺は素直に答えた。
「わからない。何故俺は今、ただ……なんて言ったのか。俺はなんと言いたかったのかな?」
すると翁が苦笑した。
「そんなこと、わしに聞かれてもわかるわけがないじゃろう。お前の言葉は、お前の内にしかない。自問自答せい」
翁に言われ、俺は上を向いて考え込んだ。
様々な事柄が頭に浮かんでは消えていく。
いろいろな色のものが複雑に交わり、溶け合い、黒くなっていく。
俺は何を言いたかったのか。俺はあの出来事に対して、何か答えを自分の中に見出していたのか。
俺は散々に考えた。
だがやはり答えは出なかった。
「ダメだ。やっぱりわからない」
翁は呵々と笑い出した。
「それでは仕方がない。ここではこれまでとしよう」
翁はそう言うと、穏やかな表情を見せた。
「だがな、お前さんはこれからの人生でいろんなことを経験し、学んでいくだろう。そしてその経験と学びの中で、真実を見出していくことになる。それは、お前さん自身の心の内の真実でもあろう。だから今日のことをよく覚えておくことじゃ。さすれば、いずれ先ほどの答えを得られる日が来るじゃろうよ」
俺は深く息を吸い込み、うなずいた。
「わかった。すまないな。俺の身の上話なんか聞いてもらって」
「構わん。お前さんとは長い付き合いになりそうじゃからな。知っておいて損はなさそうだ」
「それも、損か得かか。さすがは大商人と言われるだけはあるな」
さて、どうするか。
俺はもう、バーン翁を信用しきっている。
アルフレッドの祖父であり、なんといっても俺と同じ転移者だ。
今後もバーン翁には、色々と力になってもらいたいと思っている。
聞きたいことも山ほどある。
それならば、隠し事は出来るだけないに限る。
ならば、言ってもいいか。
俺は覚悟を決め、バーン翁と向き直った。
「ちょっと話しておきたいことがある」
俺はバーン翁に対し、過去のことを洗いざらい話した。
翁は驚きつつも、俺の話を最後まで口をほとんど差しはさむことなく聞き終えた。
「……ふむ、なかなかにハードじゃな」
なるほど。確かにひとことで言い表すのなら、それだな。それにしてもさすがだ。俺の話を聞いても、ほとんど顔色が変わらなかった。いや、一度だけ、俺が親を殺害した話の時だけは、さすがの翁も顔色を変えていた。
まあ、当然か。
俺はそう思い、苦笑した。
「それで、思い悩んでいたと?」
バーン翁の問いかけに、俺は首を横に振った。
「いや、別に後悔しているわけじゃない。それ以外に道はなかったと思うしな。ただ……」
俺は、その後に繋がる言葉を探した。
だが見つからなかった。
すると、翁が言った。
「ただ、なんじゃ?」
俺は素直に答えた。
「わからない。何故俺は今、ただ……なんて言ったのか。俺はなんと言いたかったのかな?」
すると翁が苦笑した。
「そんなこと、わしに聞かれてもわかるわけがないじゃろう。お前の言葉は、お前の内にしかない。自問自答せい」
翁に言われ、俺は上を向いて考え込んだ。
様々な事柄が頭に浮かんでは消えていく。
いろいろな色のものが複雑に交わり、溶け合い、黒くなっていく。
俺は何を言いたかったのか。俺はあの出来事に対して、何か答えを自分の中に見出していたのか。
俺は散々に考えた。
だがやはり答えは出なかった。
「ダメだ。やっぱりわからない」
翁は呵々と笑い出した。
「それでは仕方がない。ここではこれまでとしよう」
翁はそう言うと、穏やかな表情を見せた。
「だがな、お前さんはこれからの人生でいろんなことを経験し、学んでいくだろう。そしてその経験と学びの中で、真実を見出していくことになる。それは、お前さん自身の心の内の真実でもあろう。だから今日のことをよく覚えておくことじゃ。さすれば、いずれ先ほどの答えを得られる日が来るじゃろうよ」
俺は深く息を吸い込み、うなずいた。
「わかった。すまないな。俺の身の上話なんか聞いてもらって」
「構わん。お前さんとは長い付き合いになりそうじゃからな。知っておいて損はなさそうだ」
「それも、損か得かか。さすがは大商人と言われるだけはあるな」
50
お気に入りに追加
5,458
あなたにおすすめの小説
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。