1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ

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第二章

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 祖父。祖母。おじいちゃん。おばあちゃん。

 そんな者は俺にはいなかった。親戚だっていなかったし、兄弟もだ。

 俺にとって確認できる肉親は、あのケダモノ夫婦だけだった。

 空虚だ。俺の記憶は、とても空虚に思える。

 ああ、いつの間にか、先ほどの考えに戻ってしまった。

 業が記憶そのもののことなら、記憶が空虚な俺は、業を背負っていないのだろうか。

 ……いや、ある。

 これまで俺は、親愛の情なんてものは、誰にも感じることはなかった。

 それは対象者がいないのだから、当然だろう。

 あのケダモノたち以外の肉親が、存在したかどうかすら知らなかったのだから、当たり前だ。

 あるのは憎悪だけ。あのケダモノたちに対しての憎しみだけだった。

 だが俺は、そのくびきから逃れることが出来た。

 俺自身の手でケダモノたちを葬り去ることで、憎しみの鎖から解き放たれた。

 だがそのかわり、業を背負ったのだろう。

 親殺しの業だ。世間的にはとても罪深いものだ。

 どんな哲学や宗教でも、この業は深いとされるだろう。

 だが俺の記憶の中には、確かにあのときのことが鮮明に刻印されている。

 なら背負っていくしかあるまい。

 この記憶を消し去ることが出来ないのならば、共に生きていくしかないだろう。

 業とは、宿痾のようなものか。

 多くの亡くなった老人の遺体を調べると、そのほとんどが癌細胞に侵されていたという。

 その死因がたとえ癌でなくとも、解剖してみるとほとんどの老人が、体内の何処かに癌細胞を抱えていたらしい。

 つまり誰もが、癌細胞という宿痾と共に生きてきたということだ。

 人は皆、年齢を重ね、宿痾を背負っていく。

 やはり、業と宿痾は同じようなものだ。

 そう考えると、いずれ業は俺を殺すのかもしれない。

 宿痾と同じく苛烈な業火となって、いつの日か俺を焼き殺すのかもしれない。

 業火か。文字通りの業の火か。

 ならば、それでいい。

 ひとは死ねば、焼かれる。骨となって消えてなくなる。

 それが生前か死後かの違いに過ぎない。

 空虚な俺には、どちらでも構わない。

 焼くなら焼け。消すなら消せ。

 所詮、人生なんて胡乱なものさ。


「おい、またか」

 バーン翁の声に、俺は我に返った。

「ああ、すまん。ちょっと考え事をしていた」

「何を考えていた?」

 俺は少し間を開け、答えた。

「なに、昔のことをちょっと考えていただけだ」

「昔……というと、元の世界のことだな?」

「ああ、そうだ」

 バーン翁は目を細め、俺を見つめる。

「お前さんは、元の世界には戻りたくないと言っていた。何かあるのか?」
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