258 / 302
第二章
535
しおりを挟む
バーン翁は、俺たちのことを気にする素振りなど微塵も見せずに、スタスタと路地の隙間を通っていく。
俺たちは、その後を仕方なくついていった。
するとしばらくして、翁が店の前で立ち止まり、その店の店主と思しき男と話し始めた。
馬車屋?まさか馬車を借りて、デガローから離れるつもりなんじゃないだろうな?
俺が慌てて駆け寄ると、翁は店主にいくばくかの金子を手渡した。
店主はニコニコ笑顔で、馬車の用意をしはじめた。
やはり馬車を借りるつもりのようだ。
「どういうつもりなんだ?」
俺は眉根を寄せて問いかけた。
だが翁はとぼけた顔をする。
「なにがじゃ?」
「馬車を借りてどうするつもりなのかと聞いている」
「決まっている。馬車に乗るんじゃ。そのため以外に借りる奴がおるかい」
俺はイラっとして反論しようとするも、ニコニコ笑顔の店主が馬車を曳いてやってきた。
「こちらをどうぞ。うちで一番座り心地の良い馬車でございます。それに馬たちも、最も健康でございますので」
「ふむ。確かに元気そうじゃな。ではこれをいただこう」
「はい。どうぞご随意に」
店主はそう言って深々と頭を下げた。
翁は俺に向き直り、言った。
「さあ乗れ。お前が御者じゃ。わしはゼロスと後ろでゆっくりとさせてもらおうかのう」
するとそれを聞いたゼロスが、俊敏な動きで地面を蹴り、あっという間に馬車の後部に着地した。
そしてすぐさま丸まり、寝始めた。
あの野郎。
俺は腹を立てたが、その間に翁までさっさと後部座席に座ってしまっていた。
どいつもこいつも。
俺は仕方なく御者席へと上がり、手綱をとった。
「行き先は!」
俺は出来る限りつっけんどんな言い方をした。
だが翁はどこ吹く風と取り合わず、ゆったりとした声音で指示をした。
「左の道をま~っすぐじゃ」
「ちっ!」
俺は舌打ちの音をその場に残し、手綱を駆って馬車を走らせた。
店主がニコニコ笑顔で俺たちに向かって手を振っている。
あの笑顔は、相当な金額を渡したんだろうな。
俺はしばらく走らせたのち、再び翁に問いかけた。
「で、何処へ向かうつもりなんだ?」
翁はすかさず答えた。
「マイヤーじゃ」
「マイヤー?……何処かで聞いたような……」
すると翁が呆れ顔となった。
「お前さん、ついさっき聞いたばかりであろう」
「ついさっき?……あっ!レストランの店長が新しく支店を出したっていう町の名前か」
「それじゃ」
「おい、まさかそのマイヤーの支店に行くつもりじゃないだろうな?」
バーン翁はにやりと口角を上げた。
「そのまさかじゃ」
俺たちは、その後を仕方なくついていった。
するとしばらくして、翁が店の前で立ち止まり、その店の店主と思しき男と話し始めた。
馬車屋?まさか馬車を借りて、デガローから離れるつもりなんじゃないだろうな?
俺が慌てて駆け寄ると、翁は店主にいくばくかの金子を手渡した。
店主はニコニコ笑顔で、馬車の用意をしはじめた。
やはり馬車を借りるつもりのようだ。
「どういうつもりなんだ?」
俺は眉根を寄せて問いかけた。
だが翁はとぼけた顔をする。
「なにがじゃ?」
「馬車を借りてどうするつもりなのかと聞いている」
「決まっている。馬車に乗るんじゃ。そのため以外に借りる奴がおるかい」
俺はイラっとして反論しようとするも、ニコニコ笑顔の店主が馬車を曳いてやってきた。
「こちらをどうぞ。うちで一番座り心地の良い馬車でございます。それに馬たちも、最も健康でございますので」
「ふむ。確かに元気そうじゃな。ではこれをいただこう」
「はい。どうぞご随意に」
店主はそう言って深々と頭を下げた。
翁は俺に向き直り、言った。
「さあ乗れ。お前が御者じゃ。わしはゼロスと後ろでゆっくりとさせてもらおうかのう」
するとそれを聞いたゼロスが、俊敏な動きで地面を蹴り、あっという間に馬車の後部に着地した。
そしてすぐさま丸まり、寝始めた。
あの野郎。
俺は腹を立てたが、その間に翁までさっさと後部座席に座ってしまっていた。
どいつもこいつも。
俺は仕方なく御者席へと上がり、手綱をとった。
「行き先は!」
俺は出来る限りつっけんどんな言い方をした。
だが翁はどこ吹く風と取り合わず、ゆったりとした声音で指示をした。
「左の道をま~っすぐじゃ」
「ちっ!」
俺は舌打ちの音をその場に残し、手綱を駆って馬車を走らせた。
店主がニコニコ笑顔で俺たちに向かって手を振っている。
あの笑顔は、相当な金額を渡したんだろうな。
俺はしばらく走らせたのち、再び翁に問いかけた。
「で、何処へ向かうつもりなんだ?」
翁はすかさず答えた。
「マイヤーじゃ」
「マイヤー?……何処かで聞いたような……」
すると翁が呆れ顔となった。
「お前さん、ついさっき聞いたばかりであろう」
「ついさっき?……あっ!レストランの店長が新しく支店を出したっていう町の名前か」
「それじゃ」
「おい、まさかそのマイヤーの支店に行くつもりじゃないだろうな?」
バーン翁はにやりと口角を上げた。
「そのまさかじゃ」
32
お気に入りに追加
5,465
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。