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第二章
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バーン翁は、俺たちのことを気にする素振りなど微塵も見せずに、スタスタと路地の隙間を通っていく。
俺たちは、その後を仕方なくついていった。
するとしばらくして、翁が店の前で立ち止まり、その店の店主と思しき男と話し始めた。
馬車屋?まさか馬車を借りて、デガローから離れるつもりなんじゃないだろうな?
俺が慌てて駆け寄ると、翁は店主にいくばくかの金子を手渡した。
店主はニコニコ笑顔で、馬車の用意をしはじめた。
やはり馬車を借りるつもりのようだ。
「どういうつもりなんだ?」
俺は眉根を寄せて問いかけた。
だが翁はとぼけた顔をする。
「なにがじゃ?」
「馬車を借りてどうするつもりなのかと聞いている」
「決まっている。馬車に乗るんじゃ。そのため以外に借りる奴がおるかい」
俺はイラっとして反論しようとするも、ニコニコ笑顔の店主が馬車を曳いてやってきた。
「こちらをどうぞ。うちで一番座り心地の良い馬車でございます。それに馬たちも、最も健康でございますので」
「ふむ。確かに元気そうじゃな。ではこれをいただこう」
「はい。どうぞご随意に」
店主はそう言って深々と頭を下げた。
翁は俺に向き直り、言った。
「さあ乗れ。お前が御者じゃ。わしはゼロスと後ろでゆっくりとさせてもらおうかのう」
するとそれを聞いたゼロスが、俊敏な動きで地面を蹴り、あっという間に馬車の後部に着地した。
そしてすぐさま丸まり、寝始めた。
あの野郎。
俺は腹を立てたが、その間に翁までさっさと後部座席に座ってしまっていた。
どいつもこいつも。
俺は仕方なく御者席へと上がり、手綱をとった。
「行き先は!」
俺は出来る限りつっけんどんな言い方をした。
だが翁はどこ吹く風と取り合わず、ゆったりとした声音で指示をした。
「左の道をま~っすぐじゃ」
「ちっ!」
俺は舌打ちの音をその場に残し、手綱を駆って馬車を走らせた。
店主がニコニコ笑顔で俺たちに向かって手を振っている。
あの笑顔は、相当な金額を渡したんだろうな。
俺はしばらく走らせたのち、再び翁に問いかけた。
「で、何処へ向かうつもりなんだ?」
翁はすかさず答えた。
「マイヤーじゃ」
「マイヤー?……何処かで聞いたような……」
すると翁が呆れ顔となった。
「お前さん、ついさっき聞いたばかりであろう」
「ついさっき?……あっ!レストランの店長が新しく支店を出したっていう町の名前か」
「それじゃ」
「おい、まさかそのマイヤーの支店に行くつもりじゃないだろうな?」
バーン翁はにやりと口角を上げた。
「そのまさかじゃ」
俺たちは、その後を仕方なくついていった。
するとしばらくして、翁が店の前で立ち止まり、その店の店主と思しき男と話し始めた。
馬車屋?まさか馬車を借りて、デガローから離れるつもりなんじゃないだろうな?
俺が慌てて駆け寄ると、翁は店主にいくばくかの金子を手渡した。
店主はニコニコ笑顔で、馬車の用意をしはじめた。
やはり馬車を借りるつもりのようだ。
「どういうつもりなんだ?」
俺は眉根を寄せて問いかけた。
だが翁はとぼけた顔をする。
「なにがじゃ?」
「馬車を借りてどうするつもりなのかと聞いている」
「決まっている。馬車に乗るんじゃ。そのため以外に借りる奴がおるかい」
俺はイラっとして反論しようとするも、ニコニコ笑顔の店主が馬車を曳いてやってきた。
「こちらをどうぞ。うちで一番座り心地の良い馬車でございます。それに馬たちも、最も健康でございますので」
「ふむ。確かに元気そうじゃな。ではこれをいただこう」
「はい。どうぞご随意に」
店主はそう言って深々と頭を下げた。
翁は俺に向き直り、言った。
「さあ乗れ。お前が御者じゃ。わしはゼロスと後ろでゆっくりとさせてもらおうかのう」
するとそれを聞いたゼロスが、俊敏な動きで地面を蹴り、あっという間に馬車の後部に着地した。
そしてすぐさま丸まり、寝始めた。
あの野郎。
俺は腹を立てたが、その間に翁までさっさと後部座席に座ってしまっていた。
どいつもこいつも。
俺は仕方なく御者席へと上がり、手綱をとった。
「行き先は!」
俺は出来る限りつっけんどんな言い方をした。
だが翁はどこ吹く風と取り合わず、ゆったりとした声音で指示をした。
「左の道をま~っすぐじゃ」
「ちっ!」
俺は舌打ちの音をその場に残し、手綱を駆って馬車を走らせた。
店主がニコニコ笑顔で俺たちに向かって手を振っている。
あの笑顔は、相当な金額を渡したんだろうな。
俺はしばらく走らせたのち、再び翁に問いかけた。
「で、何処へ向かうつもりなんだ?」
翁はすかさず答えた。
「マイヤーじゃ」
「マイヤー?……何処かで聞いたような……」
すると翁が呆れ顔となった。
「お前さん、ついさっき聞いたばかりであろう」
「ついさっき?……あっ!レストランの店長が新しく支店を出したっていう町の名前か」
「それじゃ」
「おい、まさかそのマイヤーの支店に行くつもりじゃないだろうな?」
バーン翁はにやりと口角を上げた。
「そのまさかじゃ」
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