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第二章
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俺はバーン翁と船室で茶を楽しんだ。
丁度茶を飲み終えた頃、船長が船室に入ってきた。
「これより進路を東へと取ります」
「うむ。よろしく頼む」
船長は敬礼して退室した。
バーン翁はその背を見送ると、俺に向き直った。
「先程の話の続きじゃが……」
バーン翁は、真剣な表情で俺を覗き込む。
「お前さん、あちらの世界に戻りたいか?」
俺はすかさず答えた。
「嫌だ。戻りたくない」
俺があまりにもはっきりと明言したことで、バーン翁は眉根を寄せた。
「そうか。こちらの世界の方が、お前さんにはいいようだな」
「ああ。断然こっちの世界の方がいい。あんたは違うのか?」
すると、翁は複雑な表情を浮かべた。
「いや、わしも同じじゃ。もうこちらの世界には五十年から居るからの。今更あちらの世界に戻りたいとも思わん。わしの親も、おそらくもうこの世の者ではないじゃろうしな」
翁は少しだけ寂しそうな笑みを漏らした。
俺はそれを見て、少しだけ同情した。
バーン翁の親は、少なくとも俺と違ってまともな人たちだったらしい。
だから寂しいんだ。もう会えないであろうことが。
俺は、寂しさなんて一ミリもない。あっちの世界では、なにもなかった。
楽しいことなんて、まったくなかった。だから清々している。こちらの世界に来られて良かったと。
だからといって、何故俺が転移させられたのかを知らなくていいとは思わない。それどころか積極的に知りたいくらいだ。
何故なら、腹が立つからだ。転移したことはよかったが、それは結果的にそうだというだけで、俺の意志は介在していない。なんの思惑があったか知らないが、俺を勝手に転移させた奴は、その思惑を俺に言わないでいる。
そのことに怒りを感じている。
なめやがって。俺は道具じゃない。人間だ。意志があるんだ。それなのに勝手な真似をしやがって。
許さない。俺はそいつを絶対に許さない。
もしも俺を転移させた奴と直接会うことになったら、必ずぶっ飛ばしてやる。
俺はそう固く心に決めた。
と、バーン翁が言った。
「さっき言っておったグランルビーの件だが」
「ああ。グランルビーが採れるところの地形を調べるって話だな?」
「そのことは執事に言っておいた。じきに調べがつくじゃろう。それとは別に、値が崩れているという話を聞いたのだが?」
バーン翁の問いに、俺はあることを思い出した。
「そうだ!忘れていた。そうなんだ。グランルビーの相場が世界各地で少しずつ値崩れしているらしい。それで思い出したんだが、実は俺が転移した窪地には、小屋があったんだ」
丁度茶を飲み終えた頃、船長が船室に入ってきた。
「これより進路を東へと取ります」
「うむ。よろしく頼む」
船長は敬礼して退室した。
バーン翁はその背を見送ると、俺に向き直った。
「先程の話の続きじゃが……」
バーン翁は、真剣な表情で俺を覗き込む。
「お前さん、あちらの世界に戻りたいか?」
俺はすかさず答えた。
「嫌だ。戻りたくない」
俺があまりにもはっきりと明言したことで、バーン翁は眉根を寄せた。
「そうか。こちらの世界の方が、お前さんにはいいようだな」
「ああ。断然こっちの世界の方がいい。あんたは違うのか?」
すると、翁は複雑な表情を浮かべた。
「いや、わしも同じじゃ。もうこちらの世界には五十年から居るからの。今更あちらの世界に戻りたいとも思わん。わしの親も、おそらくもうこの世の者ではないじゃろうしな」
翁は少しだけ寂しそうな笑みを漏らした。
俺はそれを見て、少しだけ同情した。
バーン翁の親は、少なくとも俺と違ってまともな人たちだったらしい。
だから寂しいんだ。もう会えないであろうことが。
俺は、寂しさなんて一ミリもない。あっちの世界では、なにもなかった。
楽しいことなんて、まったくなかった。だから清々している。こちらの世界に来られて良かったと。
だからといって、何故俺が転移させられたのかを知らなくていいとは思わない。それどころか積極的に知りたいくらいだ。
何故なら、腹が立つからだ。転移したことはよかったが、それは結果的にそうだというだけで、俺の意志は介在していない。なんの思惑があったか知らないが、俺を勝手に転移させた奴は、その思惑を俺に言わないでいる。
そのことに怒りを感じている。
なめやがって。俺は道具じゃない。人間だ。意志があるんだ。それなのに勝手な真似をしやがって。
許さない。俺はそいつを絶対に許さない。
もしも俺を転移させた奴と直接会うことになったら、必ずぶっ飛ばしてやる。
俺はそう固く心に決めた。
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「さっき言っておったグランルビーの件だが」
「ああ。グランルビーが採れるところの地形を調べるって話だな?」
「そのことは執事に言っておいた。じきに調べがつくじゃろう。それとは別に、値が崩れているという話を聞いたのだが?」
バーン翁の問いに、俺はあることを思い出した。
「そうだ!忘れていた。そうなんだ。グランルビーの相場が世界各地で少しずつ値崩れしているらしい。それで思い出したんだが、実は俺が転移した窪地には、小屋があったんだ」
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