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第二章
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途端に奴の身体がビタリと止まった。
次いで奴は左足を床に着け、身体の向きを反転させる。
来る!
奴は、俺が突進を躱してバランスを崩した隙を狙っていたんだ。
思った通り、奴が両足で床を蹴る。
床の木材が、衝撃に耐えきれなくなり破砕した。
凄まじい速さで、奴が俺に迫りくる。
俺は咄嗟に身体をよじった。
そして左足を強く延ばす。
その足先が、奴の顔のバイザーに当たった。
甲高い金属音が鳴り響く中、俺はさらに左足に力を込める。
吹き飛べ!
奴のバイザーは彼方へ吹き飛び、奴自身の突進も止まった。
よしっ!
俺は、身体を器用にひねって着地した。
そして、すぐさま立ち上がり奴を見た。
奴はバイザーを吹き飛ばされ、顔をさらしていた。
その顔は――白髪美髯のまぎれもない老人のそれであった。
俺は驚き、同時に心当たりのある名前を叫んだ。
「まさか、ヴィルヘルム・バーン翁か!?」
すると老人は笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずいた。
「いかにも。わしがヴィルヘルム・バーンじゃ」
本当か。本当に目の前にいる老人が、ヴィルヘルム・バーン翁本人なのか。
おかしい。明らかにおかしい。どういうことだ?あの動きは、老人のそれではない。
だが、途中で誰かと入れ替わったわけでもない。
今目の前にいる老人が、間違いなく俺と戦ったのだ。
そもそもなぜ、ヴィルヘルム・バーン翁が俺を襲う必要があるのだ?
様々な疑問が、俺の中で噴出した。とてもではないが、整理がつかない。
と、バーン翁が顔を上げて呵々と笑い出した。
バーン翁は愉快そうに笑い続けている。
俺は理解不能な状況に、声も出せなかった。
すると、バーン翁が笑うのを止めた。
そして俺を見据える。
「どうやら奇襲には弱いと見えるな」
俺はカチンときた。
「友人の祖父の家に遊びに来たと思ったら、突然襲われたんでね。そりゃあ不意を突かれるさ」
バーン翁は呵々と笑うも、すぐに笑みを収めて俺を睨みつける。
「常在戦場。いついかなる時も油断するでない」
俺は大きく溜息を吐いた。
「わかったよ。それで、何故俺を襲った?」
「腕試しよ。噂に聞く小英雄の実力のほどを、確かめようとな」
「ふん!それで、どうだった?」
バーン翁がまたも呵々と豪快に笑った。
「合格じゃ。なかなかのものよ」
「あんたもな。まさか、バーン商会の創始者がSランクの実力者だとは思わなかったよ」
「全盛期なら、お前さんなどひとひねりだったじゃろう」
「ああ、そうかい」
俺がおざなりに言うと、バーン翁はまたも呵々と笑いつつ、踵を返した。
そしてゆっくりと扉に向かって歩いていく。
と、バーン翁の前の扉が観音開きに開いていく。
「ついてまいれ。宴の支度はすませてある」
次いで奴は左足を床に着け、身体の向きを反転させる。
来る!
奴は、俺が突進を躱してバランスを崩した隙を狙っていたんだ。
思った通り、奴が両足で床を蹴る。
床の木材が、衝撃に耐えきれなくなり破砕した。
凄まじい速さで、奴が俺に迫りくる。
俺は咄嗟に身体をよじった。
そして左足を強く延ばす。
その足先が、奴の顔のバイザーに当たった。
甲高い金属音が鳴り響く中、俺はさらに左足に力を込める。
吹き飛べ!
奴のバイザーは彼方へ吹き飛び、奴自身の突進も止まった。
よしっ!
俺は、身体を器用にひねって着地した。
そして、すぐさま立ち上がり奴を見た。
奴はバイザーを吹き飛ばされ、顔をさらしていた。
その顔は――白髪美髯のまぎれもない老人のそれであった。
俺は驚き、同時に心当たりのある名前を叫んだ。
「まさか、ヴィルヘルム・バーン翁か!?」
すると老人は笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずいた。
「いかにも。わしがヴィルヘルム・バーンじゃ」
本当か。本当に目の前にいる老人が、ヴィルヘルム・バーン翁本人なのか。
おかしい。明らかにおかしい。どういうことだ?あの動きは、老人のそれではない。
だが、途中で誰かと入れ替わったわけでもない。
今目の前にいる老人が、間違いなく俺と戦ったのだ。
そもそもなぜ、ヴィルヘルム・バーン翁が俺を襲う必要があるのだ?
様々な疑問が、俺の中で噴出した。とてもではないが、整理がつかない。
と、バーン翁が顔を上げて呵々と笑い出した。
バーン翁は愉快そうに笑い続けている。
俺は理解不能な状況に、声も出せなかった。
すると、バーン翁が笑うのを止めた。
そして俺を見据える。
「どうやら奇襲には弱いと見えるな」
俺はカチンときた。
「友人の祖父の家に遊びに来たと思ったら、突然襲われたんでね。そりゃあ不意を突かれるさ」
バーン翁は呵々と笑うも、すぐに笑みを収めて俺を睨みつける。
「常在戦場。いついかなる時も油断するでない」
俺は大きく溜息を吐いた。
「わかったよ。それで、何故俺を襲った?」
「腕試しよ。噂に聞く小英雄の実力のほどを、確かめようとな」
「ふん!それで、どうだった?」
バーン翁がまたも呵々と豪快に笑った。
「合格じゃ。なかなかのものよ」
「あんたもな。まさか、バーン商会の創始者がSランクの実力者だとは思わなかったよ」
「全盛期なら、お前さんなどひとひねりだったじゃろう」
「ああ、そうかい」
俺がおざなりに言うと、バーン翁はまたも呵々と笑いつつ、踵を返した。
そしてゆっくりと扉に向かって歩いていく。
と、バーン翁の前の扉が観音開きに開いていく。
「ついてまいれ。宴の支度はすませてある」
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