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第二章

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「奴め、奥歯にトリガーを仕込んでいたんだ」

「どういうことだ?すまないが、俺は魔法については全くといっていいほど知識がない。俺にわかるように教えてくれないか?」

 レノアはうなずいた。

「奴の奥歯に、沈黙魔法を発動させることが出来る魔法陣が書き込まれていたんだ。おそらく奴はそれを舌でなぞり、魔法を発動させたってわけだ」

 俺は驚いた。

「そんなことが出来るのか!」

「僕も始めてのケースだ。奴が突然目を開けたまま、がっくりと首を落としたんで驚いたんだ。最初は舌をかみちぎったのかと思った。だから慌てて口の中を強引にこじ開けたんだ。すると、口の中からまばゆい光が漏れだした。発動した魔法陣が輝いたんだ。それを見て、僕は理解した。ゼークルは自殺を図ったんじゃない。魔法で強制的に沈黙状態にしたんだ、と」

「なるほどな。そんな手があったとは……いざという時用に準備していたってわけだ」

 レノアがうなずいた。

「ゼークルには腕利きの魔導師がついている。ほら、地下に繋がれた女性たちを縛っていた錠があったろ?君が力づくで引きちぎったやつ」

「無論覚えている。あれをかけた奴の魔法か。となると……」

 俺の言葉をレノアが引き取った。

「魔法を解くのは難しいかもしれない。どう見てもAランク以上の魔導師がかけたものだからね。同レベルの者たちが何人も集まったところで、どうにもならないだろう」

 俺はそこで、ふと残酷な方法を思いついた。

 それは、以前の『僕』では到底思いつかないようなことだったろう。

 やはり『俺』は、『僕』とは違う人格なのだと、あらためて思った。

「なあレノア、歯に魔法陣が描かれているのだったら、その歯を強引にでも抜いてしまえばいいんじゃないか?」

 俺の少々残忍な提案を、レノアが即座に却下した。

「ダメだね。口を開けた途端、魔法陣が輝いたといったろう?その時点で魔法陣はゼークルの身体全体にも刻まれてしまった。だからもはや、歯を抜いたところで意味がないんだよ」

「そういうものなのか」

「残念ながらね」

「となると、俺が強引になんとかするっていう手も使えないな」

「そう。さすがの君でも、これはお手上げだ」

「じゃあどうするんだ?」

「一応、魔導師の手配はした。オルダナ中の腕利きを集めてはみるつもりだが……どうかな?」

「オルダナには、Sランクはいないのか?」

 レノアは被りを振った。

「残念ながらいないようだ。それに、旧アルデバラン王国軍の魔導師たちの中にもいない。なので僕は今、大変困っているっていうわけさ」
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