202 / 302
第二章
479
しおりを挟む
中庭のゼロスと別れた俺は、邸宅の巨大な門の前までたどり着いた。
ティラノレギオンの様子を見に行くために、彼らを収容するミラベルト郊外の公園に向かうためだ。
「ご苦労様です!」
ふたりの門衛が威儀を正して敬礼しつつ、大声で挨拶をしてきた。
だが次の瞬間、門衛たちの顔が曇った。
手前の門衛が恐る恐るといった様子で尋ねてくる。
「……あの、貴方は?」
俺の姿かたちが変わったことは、屋敷内の執事たちには周知されたが、門衛にまでは伝わっていないようだ。
面倒ではあるが、今後のためにも説明しておく必要がある。
「カズマ・ナカミチだ」
「は?……あ、いえ……」
「だいぶ顔かたちが変わったからな。見間違うのも仕方がない」
「そう……なのでありますか」
門衛は、もうひとりの門衛と顔を見合わせて戸惑っている。
俺は構わず続けた。
「他の者たちにも伝えてくれ。カズマの顔がだいぶきつくなったが、本人だから安心しろってな」
門衛はびっくりした顔で目をキョロキョロとさせた。
「はっ!……ああ、いや、少々お待ちください」
門衛はもうひとりと声を静めて相談している。
俺は今後のためを思い、待った。
すると、門衛が意を決して言った。
「ただいま確認をいたします。申し訳ございませんが、ここで少々お待ちください」
俺はうなずいた。
「わかった。よろしく頼む」
「はっ!それでは」
門衛は、もうひとりの門衛に対してうなずいた。
と同時にもうひとりの門衛が、屋敷に向かって脱兎のごとく駆けだした。
警備がしっかりしているのは、いいことだ。
どうせ暇な身の上だし、焦ることもない。
俺は空を見上げ、雲の流れを楽しもうとした。
だがその途端に、足元から可愛らしい女の子の声が聞こえた。
「ねえ、お兄ちゃんってカズマ・ナカミチっていうの?」
俺は視線を下ろし、少女と合わせた。
「ああ、そうだよ」
「よかった。じゃあこれ」
少女は、両手で白い紙を差し出した。
「これって……手紙か?」
少女は可愛らしく小首をかしげた。
「たぶんそうだと思うよ」
「たぶんって……どういうこと?君が書いたわけじゃないのか?」
少女はコクンとうなずいた。
「わたしじゃないよ。髭のおじちゃんに、この御屋敷にいるカズマ・ナカミチって人に渡してって頼まれたの」
「髭のおじちゃん?まあいいや」
俺は少しばかり身をかがめて、少女から手紙を受け取った。
「ちゃんと渡したよ。じゃあね」
少女ははじけるような笑顔を振りまき、去っていった。
俺は怪訝な表情で手紙を開いた。
ティラノレギオンの様子を見に行くために、彼らを収容するミラベルト郊外の公園に向かうためだ。
「ご苦労様です!」
ふたりの門衛が威儀を正して敬礼しつつ、大声で挨拶をしてきた。
だが次の瞬間、門衛たちの顔が曇った。
手前の門衛が恐る恐るといった様子で尋ねてくる。
「……あの、貴方は?」
俺の姿かたちが変わったことは、屋敷内の執事たちには周知されたが、門衛にまでは伝わっていないようだ。
面倒ではあるが、今後のためにも説明しておく必要がある。
「カズマ・ナカミチだ」
「は?……あ、いえ……」
「だいぶ顔かたちが変わったからな。見間違うのも仕方がない」
「そう……なのでありますか」
門衛は、もうひとりの門衛と顔を見合わせて戸惑っている。
俺は構わず続けた。
「他の者たちにも伝えてくれ。カズマの顔がだいぶきつくなったが、本人だから安心しろってな」
門衛はびっくりした顔で目をキョロキョロとさせた。
「はっ!……ああ、いや、少々お待ちください」
門衛はもうひとりと声を静めて相談している。
俺は今後のためを思い、待った。
すると、門衛が意を決して言った。
「ただいま確認をいたします。申し訳ございませんが、ここで少々お待ちください」
俺はうなずいた。
「わかった。よろしく頼む」
「はっ!それでは」
門衛は、もうひとりの門衛に対してうなずいた。
と同時にもうひとりの門衛が、屋敷に向かって脱兎のごとく駆けだした。
警備がしっかりしているのは、いいことだ。
どうせ暇な身の上だし、焦ることもない。
俺は空を見上げ、雲の流れを楽しもうとした。
だがその途端に、足元から可愛らしい女の子の声が聞こえた。
「ねえ、お兄ちゃんってカズマ・ナカミチっていうの?」
俺は視線を下ろし、少女と合わせた。
「ああ、そうだよ」
「よかった。じゃあこれ」
少女は、両手で白い紙を差し出した。
「これって……手紙か?」
少女は可愛らしく小首をかしげた。
「たぶんそうだと思うよ」
「たぶんって……どういうこと?君が書いたわけじゃないのか?」
少女はコクンとうなずいた。
「わたしじゃないよ。髭のおじちゃんに、この御屋敷にいるカズマ・ナカミチって人に渡してって頼まれたの」
「髭のおじちゃん?まあいいや」
俺は少しばかり身をかがめて、少女から手紙を受け取った。
「ちゃんと渡したよ。じゃあね」
少女ははじけるような笑顔を振りまき、去っていった。
俺は怪訝な表情で手紙を開いた。
44
お気に入りに追加
5,465
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。