182 / 352
第二章
459
しおりを挟む
レノアはそこで顎に手をやり、なにやらぶつぶつとつぶやき始めた。
俺はその様子を黙って見ていると、レノアの顔がどんどん曇っていった。
そして、苦悶の表情を浮かべて何度も首を横に傾げた。
だがそれもようやく収まり、レノアが俺を見据えて口を開いた。
「当初の計画だと、君とラーズ族に潜入してもらうつもりだったんだけど……どうやら僕も行かなきゃダメみたいだね」
「レノアが?」
俺は反射的に叫ぶように言った。
レノアは嫌そうな顔を崩さず、返した。
「う~ん、だって君は戦い専門だろう?この図面が正しければ、ゼークル伯爵の部屋のすぐ近くに衛兵がいることになる。となればどうしてもゴート公爵と出くわしてしまうだろう。そうなったときに、君がゴート公爵と上手いこと話せるとは思えないよ」
「それはそうだが……レノアを連れて潜入するのは……」
俺はあまりはっきり言うことがはばかられたため、少し言葉を濁した。
だがレノアはそれをよしとしなかった。
「はっきり言ってくれていいよ。僕なんか連れて行くのは足手まといだって。でもしょうがない。ゴート公爵との折衝は僕じゃなきゃ無理だし」
「まあそうなんだが……」
確かに俺自身、自信がない。かつての『僕』と同様、『俺』もそういったことは苦手だ。
しかし、だとしてもレノアを連れて行くというのは……
「あの壁を、ロープ伝いだとしても、登れるか?」
レノアの顔が途端に歪んだ。
「……いや、まあ、やってみれば……うん、たぶん……だいじょ……いや、だいじょう……あ、いや、大丈夫だと思うけど……」
ひとは、ここまで口ごもるものなのだろうか。
俺は軽く溜息を吐き、言った。
「無理だよな。自分でもわかっているんだろ?」
「そういうことは、はっきり言わないでくれよ」
……さっき、はっきり言ってくれって言っていたよな……
まあいいや。
「あの壁をレノアが登るのはかなり難しいぞ」
俺が言い直すと、レノアが渋々同意した。
「まあ、そうだね。かなり難しいね。でもなあ、僕が行かなきゃいざという時に困るしなあ……」
すると、またも気配を消して隅っこで寝そべっていたゼロスが、急に声を発した。
「わたしがレノアを連れて行こう」
俺は突然ゼロスがしゃべり出したことに驚き、少々びくりとしたものの、その発言の中身にもっと驚き、尋ねた。
「ゼロスが連れていく?どうやって?」
ゼロスはむくりと起き上がりながら言った。
「わたしの背にレノアを乗せればいい。わたしならばレノアを背負ってでも、あの壁を越えられると思う」
俺はその様子を黙って見ていると、レノアの顔がどんどん曇っていった。
そして、苦悶の表情を浮かべて何度も首を横に傾げた。
だがそれもようやく収まり、レノアが俺を見据えて口を開いた。
「当初の計画だと、君とラーズ族に潜入してもらうつもりだったんだけど……どうやら僕も行かなきゃダメみたいだね」
「レノアが?」
俺は反射的に叫ぶように言った。
レノアは嫌そうな顔を崩さず、返した。
「う~ん、だって君は戦い専門だろう?この図面が正しければ、ゼークル伯爵の部屋のすぐ近くに衛兵がいることになる。となればどうしてもゴート公爵と出くわしてしまうだろう。そうなったときに、君がゴート公爵と上手いこと話せるとは思えないよ」
「それはそうだが……レノアを連れて潜入するのは……」
俺はあまりはっきり言うことがはばかられたため、少し言葉を濁した。
だがレノアはそれをよしとしなかった。
「はっきり言ってくれていいよ。僕なんか連れて行くのは足手まといだって。でもしょうがない。ゴート公爵との折衝は僕じゃなきゃ無理だし」
「まあそうなんだが……」
確かに俺自身、自信がない。かつての『僕』と同様、『俺』もそういったことは苦手だ。
しかし、だとしてもレノアを連れて行くというのは……
「あの壁を、ロープ伝いだとしても、登れるか?」
レノアの顔が途端に歪んだ。
「……いや、まあ、やってみれば……うん、たぶん……だいじょ……いや、だいじょう……あ、いや、大丈夫だと思うけど……」
ひとは、ここまで口ごもるものなのだろうか。
俺は軽く溜息を吐き、言った。
「無理だよな。自分でもわかっているんだろ?」
「そういうことは、はっきり言わないでくれよ」
……さっき、はっきり言ってくれって言っていたよな……
まあいいや。
「あの壁をレノアが登るのはかなり難しいぞ」
俺が言い直すと、レノアが渋々同意した。
「まあ、そうだね。かなり難しいね。でもなあ、僕が行かなきゃいざという時に困るしなあ……」
すると、またも気配を消して隅っこで寝そべっていたゼロスが、急に声を発した。
「わたしがレノアを連れて行こう」
俺は突然ゼロスがしゃべり出したことに驚き、少々びくりとしたものの、その発言の中身にもっと驚き、尋ねた。
「ゼロスが連れていく?どうやって?」
ゼロスはむくりと起き上がりながら言った。
「わたしの背にレノアを乗せればいい。わたしならばレノアを背負ってでも、あの壁を越えられると思う」
56
お気に入りに追加
5,458
あなたにおすすめの小説
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。