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第二章
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俺たちはデュランドルとオロチを公園に入れると、一路アリアスの居館を目指した。
ここからは速い。おそらくあと数分で館が見えるはずだ。
すると、それまで長椅子に寝転んでいたレノアがむくりと置き出した。
「そろそろ?」
まだレノアの顔は白い。気分は相当に悪いらしい。言葉にも覇気がない。
「もうすぐだ」
「う~、気持ち悪い」
「あと数分もすれば着くぞ。がんばれ」
「う~……」
「少し速度を落とすか?」
馬車は今、最高速度で街道を駆け抜けている。当然ながら馬車の揺れも最高だ。
「いや、いい。時間が短い方が……う……」
レノアが慌てた様子で、口元を両手で覆った。
やばいか?
いや、なんとか飲み込んで耐えたようだ。
「あ~……」
また唸っている。今は馬車の天井を見上げ、一点を見つめている。
大丈夫か?館はまだか?
俺は立ち上がり、馬車から身を乗り出した。
今馬車は、大きなカーブを描いて右に曲がっている。
両側の建物が凄い速度で流れていく。
と、立ち並ぶ建物が切れた。
視界が一気に広がる。
「見えた!アリアスの館だ!」
俺は叫ぶと同時に、乗り出していた身体を戻してレノアの顔を見た。
……
レノアの顔は、この世の者とは思えないほどに歪んでいた。
目は半開き、鼻腔が広がり、口がひん曲がっている。そしてなにより顔全体が真っ白い。
かける言葉が見つからない。
レノアは歪み切った顔で、必死に耐えている。
俺は心の中で、レノアにエールを送った。
すると、レノアの首がゆっくりと横に倒れていく。
すぐに耳が肩につく。
ほぼ顔が真横に折れ曲がっている。
相変わらず口がひん曲がり、そこから奇妙なうめき声が漏れている。
いや、なんか口から出てないか?
レノアの口の端から、光るものが一筋垂れ下がった。
いや、あれはよだれか。それならまだ……
しかし、それにしても哀れだ。そして、こう言ってはなんだが滑稽すぎる。
つい、笑ってしまいそうになる。
と、視線を落とすとゼロスが苦笑していた。
ゼロスの視線が上がり、俺と合う。
俺も苦笑で返す。
そのとき、馬車を操る御者が叫んだ。
「開門!」
どうやら館に着いたらしい。
俺は死にかけのレノアに向かって叫ぶ。
「がんばれ!着いたぞ!あと一分もないはずだ!」
レノアに反応はない。
そのとき、車輪が石畳を叩く音が変わった。
邸内に入った。幌の向こうを見れば、遠ざかっていく門が見える。
館の玄関入り口まで、あと二十秒くらいだ。
俺はもう一度レノアに声をかける。
「がんばれ!」
馬車が減速をはじめた。
あと二十秒。
馬車が左に急角度で曲がった。
あと十秒。
そして緩やかな上向きの勾配となっていき、今度は大きく右に曲がっていく。玄関入り口の高くなった坂を登っている証拠だ。
馬車が坂を登り切り、さらに減速する。
そして……
馬はその歩みを止め、車輪の回転が止まる。
馬車はついに館へと到着した。
「着いたぞ!」
俺はレノアに向かって叫んだ。
レノアがびくっと反応する。
だが次の瞬間……
シンガポールの象徴でありながらも、実際見るとガッカリランキング世界ランカーでおなじみのマーライオンのように、レノアの口からはなにやら光るものが吹き出していた。
ここからは速い。おそらくあと数分で館が見えるはずだ。
すると、それまで長椅子に寝転んでいたレノアがむくりと置き出した。
「そろそろ?」
まだレノアの顔は白い。気分は相当に悪いらしい。言葉にも覇気がない。
「もうすぐだ」
「う~、気持ち悪い」
「あと数分もすれば着くぞ。がんばれ」
「う~……」
「少し速度を落とすか?」
馬車は今、最高速度で街道を駆け抜けている。当然ながら馬車の揺れも最高だ。
「いや、いい。時間が短い方が……う……」
レノアが慌てた様子で、口元を両手で覆った。
やばいか?
いや、なんとか飲み込んで耐えたようだ。
「あ~……」
また唸っている。今は馬車の天井を見上げ、一点を見つめている。
大丈夫か?館はまだか?
俺は立ち上がり、馬車から身を乗り出した。
今馬車は、大きなカーブを描いて右に曲がっている。
両側の建物が凄い速度で流れていく。
と、立ち並ぶ建物が切れた。
視界が一気に広がる。
「見えた!アリアスの館だ!」
俺は叫ぶと同時に、乗り出していた身体を戻してレノアの顔を見た。
……
レノアの顔は、この世の者とは思えないほどに歪んでいた。
目は半開き、鼻腔が広がり、口がひん曲がっている。そしてなにより顔全体が真っ白い。
かける言葉が見つからない。
レノアは歪み切った顔で、必死に耐えている。
俺は心の中で、レノアにエールを送った。
すると、レノアの首がゆっくりと横に倒れていく。
すぐに耳が肩につく。
ほぼ顔が真横に折れ曲がっている。
相変わらず口がひん曲がり、そこから奇妙なうめき声が漏れている。
いや、なんか口から出てないか?
レノアの口の端から、光るものが一筋垂れ下がった。
いや、あれはよだれか。それならまだ……
しかし、それにしても哀れだ。そして、こう言ってはなんだが滑稽すぎる。
つい、笑ってしまいそうになる。
と、視線を落とすとゼロスが苦笑していた。
ゼロスの視線が上がり、俺と合う。
俺も苦笑で返す。
そのとき、馬車を操る御者が叫んだ。
「開門!」
どうやら館に着いたらしい。
俺は死にかけのレノアに向かって叫ぶ。
「がんばれ!着いたぞ!あと一分もないはずだ!」
レノアに反応はない。
そのとき、車輪が石畳を叩く音が変わった。
邸内に入った。幌の向こうを見れば、遠ざかっていく門が見える。
館の玄関入り口まで、あと二十秒くらいだ。
俺はもう一度レノアに声をかける。
「がんばれ!」
馬車が減速をはじめた。
あと二十秒。
馬車が左に急角度で曲がった。
あと十秒。
そして緩やかな上向きの勾配となっていき、今度は大きく右に曲がっていく。玄関入り口の高くなった坂を登っている証拠だ。
馬車が坂を登り切り、さらに減速する。
そして……
馬はその歩みを止め、車輪の回転が止まる。
馬車はついに館へと到着した。
「着いたぞ!」
俺はレノアに向かって叫んだ。
レノアがびくっと反応する。
だが次の瞬間……
シンガポールの象徴でありながらも、実際見るとガッカリランキング世界ランカーでおなじみのマーライオンのように、レノアの口からはなにやら光るものが吹き出していた。
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