131 / 352
第二章
408
しおりを挟む「こ、これは……」
エリクサーを飲んだ瞬間、レイネルの左腕があった箇所に光が灯る。
そして、光が腕を形取ると新しい左腕が形成された。
「どうですか? レイネルさん」
レイネルが腕を動かすと、目を見開き涙を流す。
「え、ええっ!? ど、どうしたんですか。レイネルさん!?」
そう声をかけると、レイネルさんは涙を流しながら左腕を動かし、右手で触る。
「う、嬉しいんじゃ、嬉しいんじゃ……。まさか、数年の時を越えてまだ左腕を動かす事ができる事になろうとは……。これならリハビリとやらも必要ない。すぐにでもモンスター討伐は可能じゃ。早く、早く仲間にも、エリクサーを飲ませてやりたいのう」
レイネルさんは左腕を取り戻した事に驚き、涙を浮かべている。
しかも、エリクサーを使えば、リハビリは必要ないそうだ。
「……そうですか。それなら、仲間の皆さんにもエリクサーを届けてあげて下さい」
「よ、よいのかっ!?」
「ええ、既に契約は成立しました。この宿の警備は明日以降で結構です。今日は、そのエリクサーを使いゆっくりと療養して下さい」
「は、はい! ありがとうございます!」
まあ、飲んだら治るのだから、療養の必要はないかもしれないけどね。
今日一日は、俺がこの宿に泊まる予定だし、レイネルさんには束の間の休日を楽しんで貰おう。
「ありがとうございます。報いた恩には必ず……」
「ええ、期待していますよ」
そう言うと、レイネルさんはアイテムストレージにエリクサーをしまい、外に向かって駆けていった。
「……よろしかったのですか?」
「うん。まあね。レイネル・グッジョブさんと知り合う機会なんて、中々、ないじゃない? だったら、今、知り合っておいて良かったと思うんだよね?」
折角だ。
良い人材を紹介してくれた冒険者協会にお礼を言っておかないとね……。
「それじゃあ、俺は今から冒険者協会に行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
微睡の宿を出て冒険者協会に向かおうとすると、こちらに向かって駆けてくる男が一人。ボロボロの姿となった古参プレイヤー『ああああ』である。
「た、助けてくれ、カケル君!」
「……嫌ですけれども?」
ニコリと笑顔を浮かべながら『ああああ』を切り捨てると、冒険者協会に向かって歩き始めた。
まったく、次から次へと面倒事を……。
無用なフラグはへし折るに限る。
こっちは君の様な一級フラグ建築士に係わっているほど、暇じゃないんだよ。
「待ってくれよぉ~! 俺、本当に困っているんだよぉ~!」
そう言いながら、俺の足にしがみついてくる『ああああ』。
「いや、困っているのは俺だよ。現在進行形で今、君に困らされているよ! とりあえず、その手を放せ。変なフラグが立ったらどうするんだ」
「そんな事、言わないでくれよぉ~! 俺だって被害者なんだよぉ~!!」
「一体、何を言って……」
すると、遠くから足音が聞こえてくる。
音がした方に視線を向けると、この国の兵士っぽい服装をした男達が俺の足元に隠れる『ああああ』を指さすのが見えた。
「いたぞ! あいつを捕まえろっ!」
声が聞こえた瞬間、『ああああ』の表情が強張る。
「ひ、ひいいっ! 見つかったっ!?」
「……ねえねえ。『ああああ』君。君、本当に何をやったの? 奴さん、大人数で君の事を捕まえに来ているじゃない」
尋常じゃない状況だ。
俺の足にしがみつく『ああああ』に問いただす。
「俺は何もしていない! ただ回復薬を売っただけだ!?」
「回復薬を?」
どういう事?
なんで回復薬を売っただけで、大勢の兵士に追いかけられるなんて事になっているの??
「……本当にそれだけ? 粗悪品を売りつけたとか、そういう事じゃなくて?」
「どーやって粗悪品を売るんだよ! 俺が売ったのはこの世界が現実になる前に手に入れた回復薬だ! 粗悪品になんてできる訳がないだろ!」
「言われてみればそうか……」
じゃあなんで??
より分からなくなってきた。
そうこうしている内に、兵士達が俺の周りをぐるりと取り囲む。
「……『ああああ』君。君のお陰で、えらい事に巻き込まれてしまったじゃないか」
本当に……。
現実世界でもDWでも、毎日、イベントが発生している様な気がする。
なんだこれ、呪われてるの、俺?
「そこのモブ・フェンリル。その男を引き渡して貰おうか……」
兵士の一人が剣を突き付けながら、俺に話しかけてくる。
「どうぞどうぞ、こんな奴で良ければ連れていって下さい」
俺の足にしがみ付いている『ああああ』に視線を向けると、信じられないといった表情を浮かべていた。
えっ?
何、その表情??
だって、俺、関係ないよね?
巻き込まれただけで、まったく関係ないよね?
なんなら、被害者みたいなもんだよね?
だったら、この事態を引き起こした元凶を引き渡しても問題ないよね??
まあ、そんな表情を浮かべても関係ないけど……。
俺はあらん限りの力で『ああああ』を足から引き剥がす。
「カケル! お前には血も涙もないのか!」
「そんな訳ないだろう? 血や涙位あるさ。人間だもの」
「相田みつをみたいな事を言っている訳じゃなくてー!」
じゃあ、何が言いたいんだ?
まさか俺の事を、人情味のない冷酷なモブ・フェンリルとでも思っているのだろうか?
むしろ、俺はその言葉をお前に返してやりたい。
「俺をこんな面倒事に巻き込んで、お前には血も涙もないのか」と……。
「なっ……?」
やべっ。声に出ていたらしい。
しかし、本心は偽れない。
声に出して言ってしまったからには、それを貫き通そう。
「お前には血も涙もないのかと言っているんだよ。俺を面倒事に巻き込みやがって、何だお前ら、カイルといい、お前といい、トラブルメーカーか! とりあえず、お前は一度、兵士に捕まって人生を一度リセットしてこい!」
「ひ、酷いっ! オヤジにも怒られた事ないのに!」
四十年間ヒキニートだったのに親に怒られた事もなかったのか。コイツの両親。甘々だな……。だからこんな風に育つんだよ。
まあ、茶番はここまでにしておこう。
俺は『ああああ』の首根っこを掴んで兵士に視線を向ける。
「それで、実の所、こいつは何をやったんです? こいつは回復薬を売っただけと言っていますが、回復薬って売っちゃ駄目なんですか?」
そう言うと、兵士がもの凄い剣幕を浮かべる。
「当たり前だ! 回復薬は冒険者協会か商業協会で認められた調合師以外、販売してはいけない事になっている。それなのにこの男は、大量の回復薬を売ろうとしたのだぞ!」
「……なるほど、それは正論ですね」
まさかゲームの世界に薬剤師法の様なものがあったとは……。
という事は、エリクサーとかも売るのは駄目なのか……。
良かった。見えない所で取引して……。
「……それじゃあ、仕方がありませんね。どうぞ、この犯罪者を連れて行って下さい」
そう言うと、『ああああ』は驚愕とした表情を浮かべた。
「い、嫌だぁぁぁぁ!」
駄々を捏ねる大きな子供を片手で持ち上げると、兵士の前まで持っていく。
「ほら、連れていかなくていいんですか?」
「あ、ああっ、ありがとう。よし。被疑者確保!」
兵士がそう声を上げると、『ああああ』の手首に紐をかけて連行しようとする。
「ち、ちょっと待った!」
すると、手首に紐をかけられる直前に、『ああああ』がアイテムストレージから回復薬を十本取り出し兵士の一人一人のポケットに突っ込んでいく。
器用な真似を……。凄いなコイツ。
『だ、旦那には負けました。これはお騒がせした心付けです。何とかこれで見逃しては頂けないでしょうか?』
「う、うむ。そうか? そうだな……。初犯だし、反省してくれればいいと思っていたんだ。おい。お前達、行くぞ」
そう言うと、兵士達は回復薬をアイテムストレージにしまい来た道を戻っていく。
「く、腐ってやがる……」
まさか賄賂を渡して犯罪を見逃して貰うなんて……。
兵士達がこの場を去って行くのを確認すると、『ああああ』がため息を吐いた。
「ふう……。危なかった。酷いじゃないか! 俺の事を兵士に売るだなんて!」
「いや、お前……。自分の事を棚に上げて何言ってるの?」
冷めた視線を『ああああ』に送ると、『ああああ』はその場から飛び起きる。
「仕方がないだろ! 勝手に回復薬を販売しちゃいけないって知らなかったんだから!」
「……確かに一理あるな。まあ、自信満々に言う事じゃないけどね」
うん?
そうだとすると、カイルの奴は回復薬をどこに売り払ったんだ??
「……お前は冒険者協会に売ろうとしたみたいだが、カイルはどこに売ったんだ? あいつも大量の回復薬を持っていただろ?」
「ああ、あいつは入れ上げていたキャバ嬢経由で売り捌いたんだよ。二束三文でな……」
「に、二束三文で?」
なんて勿体ない事を……。
まあ、恋は盲目って言うし、本人が納得しているならそれでいいか。
「でも良かったのか? 回復薬を十本も賄賂に使っちゃって……。あと、何本位残っているんだ?」
「いい訳ないだろ……。俺のアイテムストレージに残されたのは中級回復薬が十本と上級回復薬が一本だけだ。ううっ……。なんで俺ばかりこんな目に……」
『ああああ』はそう言いながら、チラチラと俺に視線を向けてくる。
いや、そんなにチラチラと俺を見ても金はやらないよ?
とはいえ、困っている同郷を放置するのも可哀想だ。仕方がない。
ほんの少しだけ手を差し伸べてやろう。
俺の手を取るかどうか。それはこいつ次第だ。
「仕方がないな……。上級回復薬一本五十万。中級回復薬一本五万。合計百万コルで買い取ってやるよ……」
そう言うと、『ああああ』が顔を上げる。
「い、良いのか!?」
「ああ、困った時はお互い様だろ? 仕方がないから買い取ってやるよ」
すると、『ああああ』は目頭に涙を浮かべる。
「あ、ありがとう! 百万コルあれば、暫くの間、宿に引き篭もる事ができる! 本当にありがとう!」
「まあ、いいって事よ。ほら、百万コルだ」
「あ、ああ!」
百万コルと引き換えに上級回復薬一本と、中級回復薬十本を受け取る。
「それじゃあな! また回復薬を手に入れたら俺の所に持って来いよ!」
「ああ、わかった! 必ず、必ず持ってくるよ!」
「おう。楽しみにしているぜ」
『ああああ』を見送った俺は、回復薬をアイテムストレージに入れると、笑みを浮かべた。
エリクサーを飲んだ瞬間、レイネルの左腕があった箇所に光が灯る。
そして、光が腕を形取ると新しい左腕が形成された。
「どうですか? レイネルさん」
レイネルが腕を動かすと、目を見開き涙を流す。
「え、ええっ!? ど、どうしたんですか。レイネルさん!?」
そう声をかけると、レイネルさんは涙を流しながら左腕を動かし、右手で触る。
「う、嬉しいんじゃ、嬉しいんじゃ……。まさか、数年の時を越えてまだ左腕を動かす事ができる事になろうとは……。これならリハビリとやらも必要ない。すぐにでもモンスター討伐は可能じゃ。早く、早く仲間にも、エリクサーを飲ませてやりたいのう」
レイネルさんは左腕を取り戻した事に驚き、涙を浮かべている。
しかも、エリクサーを使えば、リハビリは必要ないそうだ。
「……そうですか。それなら、仲間の皆さんにもエリクサーを届けてあげて下さい」
「よ、よいのかっ!?」
「ええ、既に契約は成立しました。この宿の警備は明日以降で結構です。今日は、そのエリクサーを使いゆっくりと療養して下さい」
「は、はい! ありがとうございます!」
まあ、飲んだら治るのだから、療養の必要はないかもしれないけどね。
今日一日は、俺がこの宿に泊まる予定だし、レイネルさんには束の間の休日を楽しんで貰おう。
「ありがとうございます。報いた恩には必ず……」
「ええ、期待していますよ」
そう言うと、レイネルさんはアイテムストレージにエリクサーをしまい、外に向かって駆けていった。
「……よろしかったのですか?」
「うん。まあね。レイネル・グッジョブさんと知り合う機会なんて、中々、ないじゃない? だったら、今、知り合っておいて良かったと思うんだよね?」
折角だ。
良い人材を紹介してくれた冒険者協会にお礼を言っておかないとね……。
「それじゃあ、俺は今から冒険者協会に行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
微睡の宿を出て冒険者協会に向かおうとすると、こちらに向かって駆けてくる男が一人。ボロボロの姿となった古参プレイヤー『ああああ』である。
「た、助けてくれ、カケル君!」
「……嫌ですけれども?」
ニコリと笑顔を浮かべながら『ああああ』を切り捨てると、冒険者協会に向かって歩き始めた。
まったく、次から次へと面倒事を……。
無用なフラグはへし折るに限る。
こっちは君の様な一級フラグ建築士に係わっているほど、暇じゃないんだよ。
「待ってくれよぉ~! 俺、本当に困っているんだよぉ~!」
そう言いながら、俺の足にしがみついてくる『ああああ』。
「いや、困っているのは俺だよ。現在進行形で今、君に困らされているよ! とりあえず、その手を放せ。変なフラグが立ったらどうするんだ」
「そんな事、言わないでくれよぉ~! 俺だって被害者なんだよぉ~!!」
「一体、何を言って……」
すると、遠くから足音が聞こえてくる。
音がした方に視線を向けると、この国の兵士っぽい服装をした男達が俺の足元に隠れる『ああああ』を指さすのが見えた。
「いたぞ! あいつを捕まえろっ!」
声が聞こえた瞬間、『ああああ』の表情が強張る。
「ひ、ひいいっ! 見つかったっ!?」
「……ねえねえ。『ああああ』君。君、本当に何をやったの? 奴さん、大人数で君の事を捕まえに来ているじゃない」
尋常じゃない状況だ。
俺の足にしがみつく『ああああ』に問いただす。
「俺は何もしていない! ただ回復薬を売っただけだ!?」
「回復薬を?」
どういう事?
なんで回復薬を売っただけで、大勢の兵士に追いかけられるなんて事になっているの??
「……本当にそれだけ? 粗悪品を売りつけたとか、そういう事じゃなくて?」
「どーやって粗悪品を売るんだよ! 俺が売ったのはこの世界が現実になる前に手に入れた回復薬だ! 粗悪品になんてできる訳がないだろ!」
「言われてみればそうか……」
じゃあなんで??
より分からなくなってきた。
そうこうしている内に、兵士達が俺の周りをぐるりと取り囲む。
「……『ああああ』君。君のお陰で、えらい事に巻き込まれてしまったじゃないか」
本当に……。
現実世界でもDWでも、毎日、イベントが発生している様な気がする。
なんだこれ、呪われてるの、俺?
「そこのモブ・フェンリル。その男を引き渡して貰おうか……」
兵士の一人が剣を突き付けながら、俺に話しかけてくる。
「どうぞどうぞ、こんな奴で良ければ連れていって下さい」
俺の足にしがみ付いている『ああああ』に視線を向けると、信じられないといった表情を浮かべていた。
えっ?
何、その表情??
だって、俺、関係ないよね?
巻き込まれただけで、まったく関係ないよね?
なんなら、被害者みたいなもんだよね?
だったら、この事態を引き起こした元凶を引き渡しても問題ないよね??
まあ、そんな表情を浮かべても関係ないけど……。
俺はあらん限りの力で『ああああ』を足から引き剥がす。
「カケル! お前には血も涙もないのか!」
「そんな訳ないだろう? 血や涙位あるさ。人間だもの」
「相田みつをみたいな事を言っている訳じゃなくてー!」
じゃあ、何が言いたいんだ?
まさか俺の事を、人情味のない冷酷なモブ・フェンリルとでも思っているのだろうか?
むしろ、俺はその言葉をお前に返してやりたい。
「俺をこんな面倒事に巻き込んで、お前には血も涙もないのか」と……。
「なっ……?」
やべっ。声に出ていたらしい。
しかし、本心は偽れない。
声に出して言ってしまったからには、それを貫き通そう。
「お前には血も涙もないのかと言っているんだよ。俺を面倒事に巻き込みやがって、何だお前ら、カイルといい、お前といい、トラブルメーカーか! とりあえず、お前は一度、兵士に捕まって人生を一度リセットしてこい!」
「ひ、酷いっ! オヤジにも怒られた事ないのに!」
四十年間ヒキニートだったのに親に怒られた事もなかったのか。コイツの両親。甘々だな……。だからこんな風に育つんだよ。
まあ、茶番はここまでにしておこう。
俺は『ああああ』の首根っこを掴んで兵士に視線を向ける。
「それで、実の所、こいつは何をやったんです? こいつは回復薬を売っただけと言っていますが、回復薬って売っちゃ駄目なんですか?」
そう言うと、兵士がもの凄い剣幕を浮かべる。
「当たり前だ! 回復薬は冒険者協会か商業協会で認められた調合師以外、販売してはいけない事になっている。それなのにこの男は、大量の回復薬を売ろうとしたのだぞ!」
「……なるほど、それは正論ですね」
まさかゲームの世界に薬剤師法の様なものがあったとは……。
という事は、エリクサーとかも売るのは駄目なのか……。
良かった。見えない所で取引して……。
「……それじゃあ、仕方がありませんね。どうぞ、この犯罪者を連れて行って下さい」
そう言うと、『ああああ』は驚愕とした表情を浮かべた。
「い、嫌だぁぁぁぁ!」
駄々を捏ねる大きな子供を片手で持ち上げると、兵士の前まで持っていく。
「ほら、連れていかなくていいんですか?」
「あ、ああっ、ありがとう。よし。被疑者確保!」
兵士がそう声を上げると、『ああああ』の手首に紐をかけて連行しようとする。
「ち、ちょっと待った!」
すると、手首に紐をかけられる直前に、『ああああ』がアイテムストレージから回復薬を十本取り出し兵士の一人一人のポケットに突っ込んでいく。
器用な真似を……。凄いなコイツ。
『だ、旦那には負けました。これはお騒がせした心付けです。何とかこれで見逃しては頂けないでしょうか?』
「う、うむ。そうか? そうだな……。初犯だし、反省してくれればいいと思っていたんだ。おい。お前達、行くぞ」
そう言うと、兵士達は回復薬をアイテムストレージにしまい来た道を戻っていく。
「く、腐ってやがる……」
まさか賄賂を渡して犯罪を見逃して貰うなんて……。
兵士達がこの場を去って行くのを確認すると、『ああああ』がため息を吐いた。
「ふう……。危なかった。酷いじゃないか! 俺の事を兵士に売るだなんて!」
「いや、お前……。自分の事を棚に上げて何言ってるの?」
冷めた視線を『ああああ』に送ると、『ああああ』はその場から飛び起きる。
「仕方がないだろ! 勝手に回復薬を販売しちゃいけないって知らなかったんだから!」
「……確かに一理あるな。まあ、自信満々に言う事じゃないけどね」
うん?
そうだとすると、カイルの奴は回復薬をどこに売り払ったんだ??
「……お前は冒険者協会に売ろうとしたみたいだが、カイルはどこに売ったんだ? あいつも大量の回復薬を持っていただろ?」
「ああ、あいつは入れ上げていたキャバ嬢経由で売り捌いたんだよ。二束三文でな……」
「に、二束三文で?」
なんて勿体ない事を……。
まあ、恋は盲目って言うし、本人が納得しているならそれでいいか。
「でも良かったのか? 回復薬を十本も賄賂に使っちゃって……。あと、何本位残っているんだ?」
「いい訳ないだろ……。俺のアイテムストレージに残されたのは中級回復薬が十本と上級回復薬が一本だけだ。ううっ……。なんで俺ばかりこんな目に……」
『ああああ』はそう言いながら、チラチラと俺に視線を向けてくる。
いや、そんなにチラチラと俺を見ても金はやらないよ?
とはいえ、困っている同郷を放置するのも可哀想だ。仕方がない。
ほんの少しだけ手を差し伸べてやろう。
俺の手を取るかどうか。それはこいつ次第だ。
「仕方がないな……。上級回復薬一本五十万。中級回復薬一本五万。合計百万コルで買い取ってやるよ……」
そう言うと、『ああああ』が顔を上げる。
「い、良いのか!?」
「ああ、困った時はお互い様だろ? 仕方がないから買い取ってやるよ」
すると、『ああああ』は目頭に涙を浮かべる。
「あ、ありがとう! 百万コルあれば、暫くの間、宿に引き篭もる事ができる! 本当にありがとう!」
「まあ、いいって事よ。ほら、百万コルだ」
「あ、ああ!」
百万コルと引き換えに上級回復薬一本と、中級回復薬十本を受け取る。
「それじゃあな! また回復薬を手に入れたら俺の所に持って来いよ!」
「ああ、わかった! 必ず、必ず持ってくるよ!」
「おう。楽しみにしているぜ」
『ああああ』を見送った俺は、回復薬をアイテムストレージに入れると、笑みを浮かべた。
55
お気に入りに追加
5,458
あなたにおすすめの小説
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。