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第二章
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しおりを挟む気持ちよさそうに眠っているから起こすのはかわいそうだ。そっとシートベルトを外し、抱きかかえようとしてすぐに気づいた。
「伯父さん」
「どうした?」
「直くん、熱が出ているみたいだ」
そこまで高熱ではないけれど、身体が熱い。
「やっぱりそうか。早く寝かせたほうがいいな。気をつけて降りるんだぞ」
健康的になってきたけれど、まだまだ軽い直くんの身体を抱きかかえて車を降りる。
自宅へと向かっている最中で
「ねぇ、お父さんに来てもらおうか?」
という絢斗さんの声が聞こえる。
「海外から戻ってこられたばかりで疲れているんじゃないか?」
「お父さんなら大丈夫だよ。まだ直くんのことは話をしていなかったし、伝えたら喜んで来てくれるよ」
「そうか、なら頼んでもいいか?」
「うん。すぐに連絡するよ」
絢斗さんはすぐにスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「昇、お前は先に家に入って、直くんを寝かせておけ」
鍵を受け取りながら気になったことを聞いてみた。
「うん。ねぇ、お父さんって……」
「絢斗のお父さんだ。忘れたか? 海外医療スタッフとしてアフリカに行かれていただろう?」
「まだ海外にいるとばかり思っていたから……」
「ああ。つい先日、任期を終えて戻られたんだ。少し休んだら、誘われている日本の病院で働くと絢斗に話していたそうだよ。まだその時は直くんの父親からの書類が届いていなかったから、正式な息子になったら連絡しようと思っていたんだ」
「絢斗さんのお父さん、直くんのこと喜ぶかな?」
「もちろんだよ。そういう人だ」
自信満々に言い切る伯父さんの表情に俺はホッとした。直くんが辛い思いをするのは絶対に嫌だからな。
「じゃあ、部屋で待っているよ」
俺は急いで自宅に向かった。
<side絢斗>
楽しい時間を過ごし、ようやく自宅に到着した矢先、直くんが熱を出していることがわかってドキッとした。
子どもが熱を出すのがこんなにも緊張するものだとは思っていなかった。
すやすや寝ているし、卓さんが言っていたように疲れからくる発熱だとわかってはいてもやっぱり何かあったらと思うと怖くなる。
とはいえ、病院に連れて行くほどでもなさそうな気もするし、かえって病気をもらう可能性もある。
どうしようかと思った時、つい先日お父さんから連絡が来ていたのを思い出した。
お母さんを亡くしてから、日本を離れ海外医師団として働くようになったお父さんは、お母さんのことを本気で愛していた。だからこそ、お母さんとの思い出が多い日本を離れて、仕事に打ち込んでいた。そんな生活を続けて10年。
自分にやれるだけのことはやったからと海外での任務を終え、戻ってきたんだ。
しばらくは今までの疲れを癒して、落ち着いたら友人の病院に勤めるつもりだと連絡が来ていた。お父さんならきっと往診してくれる、そんな自信があった。
メッセージのやり取りはしていたけれど、電話は久しぶり。
画面をタップすると、数コールで電話がつながった。
ー絢斗。電話なんて珍しいな。どうした?
ーお父さん。今大丈夫?
ーああ。家でのんびりと本を読んでいただけだ。それでどうした?
ーうん。あのね、実は中学生の子どもを卓さんが養子にしてね、今は家族として暮らしている子がいるんだけど、その子が熱を出しちゃって……お父さんに診察してもらいたいなって思って……。
ーえっ? はっ? 卓くんの養子? 一体どういうことだ? あまりにも情報量が多すぎて理解が難しい。
ーとにかく、詳しいことは後で話すから、とりあえずうちに来て診察して欲しいんだ。だめ、かな?
ーいや、すぐに行く!! 三十分以内に向かうから待っていてくれ!!
わかったという暇もなく、電話は切れた。
直くんのことは何も話していなかったから驚くのも無理はないけれど、電話で全てを伝えるのは時間がかかりすぎる。とりあえず来てもらって話をすればいいと思ったんだけど、想像以上に驚いていたな。
でも、まぁいいか。
お父さんなら直くんを見ればすぐに気にいるはずだ。
「絢斗、お義父さんはなんだって?」
「三十分以内に来てくれるって」
「そうか、ありがたいな。でも驚いてなかったか?」
「すっごく驚いてたけど、大丈夫だよ」
「そうだな。じゃあ、家で待っていようか」
笑顔の卓さんと手を繋ぎながら、私たちは自宅に戻った。
「伯父さん」
「どうした?」
「直くん、熱が出ているみたいだ」
そこまで高熱ではないけれど、身体が熱い。
「やっぱりそうか。早く寝かせたほうがいいな。気をつけて降りるんだぞ」
健康的になってきたけれど、まだまだ軽い直くんの身体を抱きかかえて車を降りる。
自宅へと向かっている最中で
「ねぇ、お父さんに来てもらおうか?」
という絢斗さんの声が聞こえる。
「海外から戻ってこられたばかりで疲れているんじゃないか?」
「お父さんなら大丈夫だよ。まだ直くんのことは話をしていなかったし、伝えたら喜んで来てくれるよ」
「そうか、なら頼んでもいいか?」
「うん。すぐに連絡するよ」
絢斗さんはすぐにスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「昇、お前は先に家に入って、直くんを寝かせておけ」
鍵を受け取りながら気になったことを聞いてみた。
「うん。ねぇ、お父さんって……」
「絢斗のお父さんだ。忘れたか? 海外医療スタッフとしてアフリカに行かれていただろう?」
「まだ海外にいるとばかり思っていたから……」
「ああ。つい先日、任期を終えて戻られたんだ。少し休んだら、誘われている日本の病院で働くと絢斗に話していたそうだよ。まだその時は直くんの父親からの書類が届いていなかったから、正式な息子になったら連絡しようと思っていたんだ」
「絢斗さんのお父さん、直くんのこと喜ぶかな?」
「もちろんだよ。そういう人だ」
自信満々に言い切る伯父さんの表情に俺はホッとした。直くんが辛い思いをするのは絶対に嫌だからな。
「じゃあ、部屋で待っているよ」
俺は急いで自宅に向かった。
<side絢斗>
楽しい時間を過ごし、ようやく自宅に到着した矢先、直くんが熱を出していることがわかってドキッとした。
子どもが熱を出すのがこんなにも緊張するものだとは思っていなかった。
すやすや寝ているし、卓さんが言っていたように疲れからくる発熱だとわかってはいてもやっぱり何かあったらと思うと怖くなる。
とはいえ、病院に連れて行くほどでもなさそうな気もするし、かえって病気をもらう可能性もある。
どうしようかと思った時、つい先日お父さんから連絡が来ていたのを思い出した。
お母さんを亡くしてから、日本を離れ海外医師団として働くようになったお父さんは、お母さんのことを本気で愛していた。だからこそ、お母さんとの思い出が多い日本を離れて、仕事に打ち込んでいた。そんな生活を続けて10年。
自分にやれるだけのことはやったからと海外での任務を終え、戻ってきたんだ。
しばらくは今までの疲れを癒して、落ち着いたら友人の病院に勤めるつもりだと連絡が来ていた。お父さんならきっと往診してくれる、そんな自信があった。
メッセージのやり取りはしていたけれど、電話は久しぶり。
画面をタップすると、数コールで電話がつながった。
ー絢斗。電話なんて珍しいな。どうした?
ーお父さん。今大丈夫?
ーああ。家でのんびりと本を読んでいただけだ。それでどうした?
ーうん。あのね、実は中学生の子どもを卓さんが養子にしてね、今は家族として暮らしている子がいるんだけど、その子が熱を出しちゃって……お父さんに診察してもらいたいなって思って……。
ーえっ? はっ? 卓くんの養子? 一体どういうことだ? あまりにも情報量が多すぎて理解が難しい。
ーとにかく、詳しいことは後で話すから、とりあえずうちに来て診察して欲しいんだ。だめ、かな?
ーいや、すぐに行く!! 三十分以内に向かうから待っていてくれ!!
わかったという暇もなく、電話は切れた。
直くんのことは何も話していなかったから驚くのも無理はないけれど、電話で全てを伝えるのは時間がかかりすぎる。とりあえず来てもらって話をすればいいと思ったんだけど、想像以上に驚いていたな。
でも、まぁいいか。
お父さんなら直くんを見ればすぐに気にいるはずだ。
「絢斗、お義父さんはなんだって?」
「三十分以内に来てくれるって」
「そうか、ありがたいな。でも驚いてなかったか?」
「すっごく驚いてたけど、大丈夫だよ」
「そうだな。じゃあ、家で待っていようか」
笑顔の卓さんと手を繋ぎながら、私たちは自宅に戻った。
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