99 / 302
第二章
376
しおりを挟む
「それは、なに?」
エニグマの問いに、少し考えてから答える。
「治安を維持するために国家が組織している集団……ってところかな。こちらでいう軍の簡易版みたいなものと思ってくれればいいと思う。憲兵とか、自警団とかいるだろ?あれのもっと公的な機関だね」
「ふむ、あまりよくはわからないが、とにかくそれが来たんだね?」
「そう。万事休すだと思った。頭が混乱し、右往左往したよ」
「それで、どうした?」
僕は両手を大きく広げ、苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
「馬鹿だよね。裏口から逃げたんだ」
「それは、悪手だったのか?」
「悪手も悪手。最悪の一手さ。でも、今考えても他に良い方法なんて思いつかないんだけどね」
「つまるところ、最悪のタイミングといったところかな?」
「その通り。もうあの時点で僕は詰んでいたんだね。だから、悪手だったけど、仕方がなかったともいえるね」
「ふむ、で、逃げてどうなったのかな?」
「逃げるところを見られた。で、警察に追いかけられたんだ」
「それは最悪だったな」
僕は鼻から息を噴き出し、笑った。
「ほんとうだね。ほんとうに何もかもが最悪な一日だった。そして、僕は警察から逃げる途中で道路に飛び出し、車に轢かれてしまったってわけさ」
僕はあの日のことを話し終えて、何となくホッとしていた。
いや、ホッとしたわけではないのかもしれない。ただ自己満足をしただけなんじゃないだろうか。
よくわからない。もしかしたら、この感情は言葉で説明できるような代物ではないのかもしれない。
ただ、僕はとても落ち着いていた。
落ち着き払って、エニグマの反応を待ち構えていた。
エニグマはしばらくじっと考えていた。
ときに地面を見たり、ときに天を見上げたりしながら考えているようだった。
そして考え終えると、ゆっくりと口を開いた。
「そして、こちらに転移した……ということだね?」
「その通りだよ。気がついたらこちらの世界に寝転がっていた」
「そして、人格が入れ替わった」
エニグマがねめつけるような視線を送って寄越す。
「そう……だと思う。いや、別に誤魔化そうと思っているわけじゃない。ただ、その辺りのことは自分自身ではちゃんと判別できないだけだ」
「だが上位人格である今の君には、認識できたのではないかな?」
僕はそのときのことを思い出そうとするも、やはりよくわからなかった。
「確か、交通事故にあったことは、思い出せたと思う。だけど……少し記憶が曖昧だった」
「曖昧とは……具体的にはどんな風に?」
「交通事故にあった瞬間の記憶が……たぶん違っている」
エニグマの問いに、少し考えてから答える。
「治安を維持するために国家が組織している集団……ってところかな。こちらでいう軍の簡易版みたいなものと思ってくれればいいと思う。憲兵とか、自警団とかいるだろ?あれのもっと公的な機関だね」
「ふむ、あまりよくはわからないが、とにかくそれが来たんだね?」
「そう。万事休すだと思った。頭が混乱し、右往左往したよ」
「それで、どうした?」
僕は両手を大きく広げ、苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
「馬鹿だよね。裏口から逃げたんだ」
「それは、悪手だったのか?」
「悪手も悪手。最悪の一手さ。でも、今考えても他に良い方法なんて思いつかないんだけどね」
「つまるところ、最悪のタイミングといったところかな?」
「その通り。もうあの時点で僕は詰んでいたんだね。だから、悪手だったけど、仕方がなかったともいえるね」
「ふむ、で、逃げてどうなったのかな?」
「逃げるところを見られた。で、警察に追いかけられたんだ」
「それは最悪だったな」
僕は鼻から息を噴き出し、笑った。
「ほんとうだね。ほんとうに何もかもが最悪な一日だった。そして、僕は警察から逃げる途中で道路に飛び出し、車に轢かれてしまったってわけさ」
僕はあの日のことを話し終えて、何となくホッとしていた。
いや、ホッとしたわけではないのかもしれない。ただ自己満足をしただけなんじゃないだろうか。
よくわからない。もしかしたら、この感情は言葉で説明できるような代物ではないのかもしれない。
ただ、僕はとても落ち着いていた。
落ち着き払って、エニグマの反応を待ち構えていた。
エニグマはしばらくじっと考えていた。
ときに地面を見たり、ときに天を見上げたりしながら考えているようだった。
そして考え終えると、ゆっくりと口を開いた。
「そして、こちらに転移した……ということだね?」
「その通りだよ。気がついたらこちらの世界に寝転がっていた」
「そして、人格が入れ替わった」
エニグマがねめつけるような視線を送って寄越す。
「そう……だと思う。いや、別に誤魔化そうと思っているわけじゃない。ただ、その辺りのことは自分自身ではちゃんと判別できないだけだ」
「だが上位人格である今の君には、認識できたのではないかな?」
僕はそのときのことを思い出そうとするも、やはりよくわからなかった。
「確か、交通事故にあったことは、思い出せたと思う。だけど……少し記憶が曖昧だった」
「曖昧とは……具体的にはどんな風に?」
「交通事故にあった瞬間の記憶が……たぶん違っている」
100
お気に入りに追加
5,465
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。