93 / 371
第二章
370
しおりを挟む
「へえ……それは、興味深いね……」
エニグマが漫然とした笑みを浮かべ、僕の心の内側を覗き込もうとするかの如き鋭い視線を送って寄越す。
「でもさ、事故が起こったからって、君の心が耐え切れなくなるものかな?びっくりはするだろうけど、事故に遭ったからって心が壊れるようなことにはならないんじゃないかな?」
僕はすでに覚悟を決めている。
「事故はきっかけに過ぎないさ。別人格に入れ替わった直接の原因は、別にある」
エニグマはゆっくりと顔を上げる。
だが視線は僕から外さない。
「なるほど。では、その直接の原因とやらを教えてもらえるかな?」
僕は大きく深呼吸した。
覚悟は決めているとはいえ、間は欲しい。
だけど、あまり長い時間を取ると痛みが走るだろう。
僕は自分を納得させるように何度かうなずくと、秘密の部屋の扉を自らの手で開ける。
「僕が両親を殺したからだ」
エニグマの表情が驚愕に変わる。
目を大きく見開き、口も開く。
だが、声は出さない。
いや、正確にはわずかにうめき声のようなものが聞こえる。
僕は、静かに時を待つ。
すると、エニグマがようやく立ち直り、口を開く。
「君は親殺しなのかい?」
僕はゆっくりとうなずいた。
エニグマが僕の話を噛みしめるように何度もうなずく。
「なるほど。その記憶を封じ込めるために、別人格が現れた……ということかな?」
僕はまたも無言でうなずいた。
「おもしろい。実におもしろいよ……いや、失礼。おもしろがってはいけないね。君にとっては重大事だろうし」
僕はそこでようやく口を開く。
「いや、君の好きにするといい」
エニグマが意外そうな顔をする。
「僕がおもしろがってもいいと?奇異なことを言うね?」
「そう?別にそんなに変わったことを言ったつもりはないけど」
「へえ、ずいぶんと腹をくくったね」
「契約をしてしまったからね。そりゃあ覚悟を決めるさ」
「そう。じゃあ遠慮なく聞くけど、なんで殺したの?事故的なこと?それとも……」
エニグマはゆっくりと口角を上げる。
だが、その目は微塵も笑っていなかった。
「故意に殺したの?」
僕はしばらく無言であったが、静かに口を開けると、肺腑の中の空気をゆっくりと吐き出してから答えた。
「故意だよ。ちゃんと殺そうと思って、殺したから」
僕の答えを聞いて、エニグマが顔を上げて乾いた笑い声を立てた。
僕はその笑い声を、無心で聞いている。
秘密の部屋の扉は、すでに開け放たれた。
ならば、何を動じるものでもない。
さあ、次の質問をしてくるがいい。
エニグマが漫然とした笑みを浮かべ、僕の心の内側を覗き込もうとするかの如き鋭い視線を送って寄越す。
「でもさ、事故が起こったからって、君の心が耐え切れなくなるものかな?びっくりはするだろうけど、事故に遭ったからって心が壊れるようなことにはならないんじゃないかな?」
僕はすでに覚悟を決めている。
「事故はきっかけに過ぎないさ。別人格に入れ替わった直接の原因は、別にある」
エニグマはゆっくりと顔を上げる。
だが視線は僕から外さない。
「なるほど。では、その直接の原因とやらを教えてもらえるかな?」
僕は大きく深呼吸した。
覚悟は決めているとはいえ、間は欲しい。
だけど、あまり長い時間を取ると痛みが走るだろう。
僕は自分を納得させるように何度かうなずくと、秘密の部屋の扉を自らの手で開ける。
「僕が両親を殺したからだ」
エニグマの表情が驚愕に変わる。
目を大きく見開き、口も開く。
だが、声は出さない。
いや、正確にはわずかにうめき声のようなものが聞こえる。
僕は、静かに時を待つ。
すると、エニグマがようやく立ち直り、口を開く。
「君は親殺しなのかい?」
僕はゆっくりとうなずいた。
エニグマが僕の話を噛みしめるように何度もうなずく。
「なるほど。その記憶を封じ込めるために、別人格が現れた……ということかな?」
僕はまたも無言でうなずいた。
「おもしろい。実におもしろいよ……いや、失礼。おもしろがってはいけないね。君にとっては重大事だろうし」
僕はそこでようやく口を開く。
「いや、君の好きにするといい」
エニグマが意外そうな顔をする。
「僕がおもしろがってもいいと?奇異なことを言うね?」
「そう?別にそんなに変わったことを言ったつもりはないけど」
「へえ、ずいぶんと腹をくくったね」
「契約をしてしまったからね。そりゃあ覚悟を決めるさ」
「そう。じゃあ遠慮なく聞くけど、なんで殺したの?事故的なこと?それとも……」
エニグマはゆっくりと口角を上げる。
だが、その目は微塵も笑っていなかった。
「故意に殺したの?」
僕はしばらく無言であったが、静かに口を開けると、肺腑の中の空気をゆっくりと吐き出してから答えた。
「故意だよ。ちゃんと殺そうと思って、殺したから」
僕の答えを聞いて、エニグマが顔を上げて乾いた笑い声を立てた。
僕はその笑い声を、無心で聞いている。
秘密の部屋の扉は、すでに開け放たれた。
ならば、何を動じるものでもない。
さあ、次の質問をしてくるがいい。
109
お気に入りに追加
5,470
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。