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第二章

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 僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
 
 その音はとても大きく、エニグマにも聞こえたようだった。

 エニグマは微笑を湛えたまま、柔和な表情で僕に語り掛けた。

「そう緊張しなくてもいいよ。ただの話だ。落ち着いて聞いてくれればいい」

 僕はゆっくりと無言でうなずいた。

 エニグマは静かに瞼を閉じ、ゆっくりとうなずき返した。

「では、始めよう。だが、なにから話せばいいのか……そうだな、まずはこの世界のことから話すとしよう」

 僕はエニグマの言葉を遮らず、注意深く観察しながら黙って聞くことにした。

 エニグマもそれを悟ったようで、軽く苦笑しつつ話しを続けた。

「この世界は……いや、この惑星は、君の生まれた惑星とは別のものだ」

 エニグマは、僕の反応を見て楽しむためか、じっとこちらを見つめている。

 だけど、僕は動じない。

 今エニグマが言ったことは、この世界に来た当初から、可能性のひとつとして考えていたことだった。

 たしかに、この星と地球では、似ている部分がある。

 街並みや意匠なんかは、中世ヨーロッパのようだと思う。

 だけど、異なる部分も多い。

 だからここは、過去はもちろん未来の地球でもないと僕は思った。

 そうなれば当然、ここは地球とは別の惑星だということになる。

 ただ、この世界の人間は、地球の人間とほぼ同等の知性を持っている。

 地球に居た時の知識では、知的生命体が住んでいる可能性のある惑星は、まだ発見されていないはずだ。

 となればそんな惑星があるとして、地球からは何百万光年も離れていることになる。いや、何千万光年、何億光年かもしれない。

 そんな遥か彼方の惑星に、どうやって僕は転移したのだろうか?

 一光年とは、光の速さで一年間移動したときの距離のことだ。

 だから、百万光年とは、光の速さで百万年も移動に時間がかかってしまうことのはずだ。

 この世で最も移動速度が速い光ですら、それだけの長い年月がかかるということだ。

 でも、僕の体感はそんなに長いものじゃない。

 意識を失っていたから正確にはわからないけど、一瞬のことだったんじゃないかと思っている。

 だとすれば、僕は一瞬で何百万光年の距離を移動したことになる。

 魂だけでなく、肉体をともなって。

 そんなことがありえるのだろうか。

 わからない。

 だから僕はこの考えを可能性のひとつとして持ってはいたものの、確信するまでには至っていなかった。

 だけど今、目の前のエニグマははっきりと断言した。

 この惑星は、地球とは別の惑星だと。

 よし、いいだろう。聞こうじゃないか。
 
 僕は大きく息を吸い込んで深呼吸すると、軽く微笑みながらうなずいた。
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