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第二章

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「特殊な手錠だと?」

 レノアが凶悪な面相のまま、ワイズマンを問い詰める。

 ワイズマンは相変わらず手のひらをひらひらさせて敵意がないことを示しつつ、答えた。

「ああ、だから助けようにも助けられないんだ。むかつくことにな」

 ここで僕は、この先にいる女性たちの正体をはっきりと確かめようと思い、ワイズマンに対して尋ねた。

「ねえ、この先にいる女性たちって、もしかして……その……」

 僕が言いよどむと、ワイズマンが助け舟を出してくれた。

「ああ、お前が思っている通りで間違いないと思うぜ。この先にいるのは、いわゆる性奴隷だな」

 性……奴隷……。

 いや、それは……。

 僕はあまりのことに二の句が告げないでいた。

 レノアが厳しい表情となり、僕に告げる。

「僕がこの屋敷に踏み込もうと考えたのは、彼女たちの存在について知っていたからなんだ」

「事前に知っていたの?」

「ゼークル伯爵を調べさせている段階で、そういう報告があった。女性たちをかどわかし、性奴隷と為しているとね」

「そうだったんだ」

「ああ。ゼークル伯爵がいくら王女殿下暗殺の首謀者だとしても、いきなり踏み込むことは無謀だ。ゼークル伯爵はオルダナ王国の有力貴族だ。証拠もなしに踏み込むなんてことをしたら大問題だ。だけど、彼女たちの存在があったなら――」

 僕は納得した。

「彼女たちが犯罪の証拠になる」

「その通り。だから僕は、多少強引でも突入したってわけさ」

 すると突然ワイズマンがにゅっと首を伸ばし、僕の顔を覗き込んできた。

「お前……若く見えるけど、いくつなんだ?」

 僕は驚いたものの、それを悟られないよう胸を張って答えた。

「十五歳だよ」

「十五~?お前、十五歳なの~?」

 ワイズマンは驚いた様子で僕のことを指さしながら言った。

 なので僕はその指を軽くパンとはたき、言ったのだった。

「そうだよ!十五歳で悪いか!」

「いや、悪くはないけどさ~、十五~?本当に?そんなに若くて英雄様かよ~」

 すると今度はレノアが助け舟を出してくれた。

「年齢を重ねれば英雄になれるというものではないことくらい、お前だってわかるだろう」

「ま、そりゃあそうだろうけどさ。それにしても十五は若すぎだぜ。俺はてっきり童顔なんだと思ってたぜ。そうしたら見たまんまじゃないかよ。いや、こいつは驚いたぜ」

 するとレノアが少しだけワイズマンの言葉に違和感を持ったようだった。

「ちょっと待て、お前はカズマの存在を知っていたんだよな?」

 レノアの問いに、ワイズマンがうなずいた。

「ああ、知っていたぜ。アルデバラン脱出の英雄が襲ってくるから備えろってのが、ゼークルの雇用理由だったしな」

「ゼークルに言われる前はどうだ?カズマの存在は知っていたか?」

 ワイズマンはまたもうなずいた。

「ああ、知っていたぜ。だがそれがどうした?」

 ワイズマンの問いに、レノアが少しばかり考え込んだ。

「つまりお前はカズマのことは知っていたものの、年齢については知らなかったということで間違いないな?」

 するとワイズマンが若干苛立った。

「ああ、そうだよ。だからなんだってんだ?」

 するとレノアがにやりと笑った。

「いや、これは少し喧伝が足りないと思ってな」

 ワイズマンは眉根を寄せて首を傾げた。

「喧伝だって?」

 レノアは変わらずにやりと笑いながら、僕の方を見て言った。

「ワイズマンの話が本当ならば、カズマの英雄譚は話を盛るどころか、ずいぶんと矮小に語られていることになる。ならばもっとちゃんと大きく、それこそ話を盛るくらいにして喧伝しなければ、と思ってな」
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