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第2章 魔術学園編
4話 入学式のいざこざ(2)
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俺は式典が行われる学園内の大聖堂へと向かう。
入学試験や事前に行われた説明会の際、見かけた生徒たちもちらほらと目に入った。
深呼吸をしている者。落ち着きなくうろうろと足を動かす者。面識ある生徒たちは皆、表情がどことなく固い。緊張しているのだろうか?
「いたいた! グラッドさん、おはようございます!」
活発な元気溢れる挨拶。ティアナだ。
「おはよう。相変わらず元気だな」
「……まぁ、から元気ですけどね」
彼女はそう言うと一転して暗い表情へと移ろった。
それにしても……、
「……どうかしましたか? 制服姿……おかしいですかね?」
ブロンドの少女は、自身のブレザーやスカートをチェックする。
「悪いわるい。制服が似合ってるなと思って──」
俺は一刻の間、制服姿のティアナに見惚れてしまった。
「本当ですか? そう言って頂けたら嬉しいのですが、ちょっとサイズがきつくて」
ティアナは苦しげな顔つきで、豊満な胸によって締め付けられている胸元を少しだけ緩めた。
「見てはダメだ。見てはダメだ。見てはいけない──女性の八割、チラ見に気付く」
俺はブツブツと手製の格言を唱えて色欲を抑え込む。元の世界ではどちらかというと年上好きだったのだが……。
この世界での俺は若い。身体が心に影響を与えているのだろうか。若葉のようなティアナに色気を感じてしまう。
「大丈夫ですか? 何かの魔法詠唱ですか?」
「……まあ、そんなものだ。気にしなくていいぞ」
「はぁ……」
彼女はサファイアのような碧眼をキョロキョロと動かす。
「どうした?」
「入学試験で出会った人たちは、みんな暗い顔していますね」
ティアナも俺と同じことを感じたようだ。
「新しい環境下に入るんだ。緊張もするだろう」
「いや、そういうことじゃないと思いますよ」
ティアナは周りを気にしながら、俺へ耳うちする。
少女の呼吸が俺の鼓膜を軽く揺らす。
「どうやらこの学園は、校内カーストも黙認しているようです」
「カースト? カースト制度の事か? そんなの無視すればいいだろ」
「あっ! グラッドさん、声大きいですよ」
人差し指を整った小鼻の前に置き、小声で俺の声の大きさを窘めた。
「気を付けて下さいね。事前に設けられた説明会のときにグラッドさんも訊いていたと思いますが……私たちはD組なんですよ」
彼女は周囲を気にしながらため息を一つ吐いた。
「D組に校内カーストね……。そんなの気にする必要ないだろ」
「何言っているんですか、ありますよ。上のクラスの生徒に目を付けられたら、学園生活に支障をきたしますし……」
ティアナの言い分もしかりだ。
円満学園生活を送りたいのであれば、ある程度の理不尽も享受する必要がある。
入学試験を経て入学したD組生徒たちも、ティアナと同じ心情なのかもしれない。
△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼
────二時間後。
大聖堂での入学式を終えて、生徒たちは各クラスに集められた。
異世界での入学式も、元の世界となんら変わりはなかった。学園のお偉いさんたちの話だけに終始した。
唯一の違いは──上級生がいなかった事ぐらいだ。
ローレン魔術学園の二階にある一室──D組の教室。
檀上に立ったのはD組担任のサーシャ・ティーチだ。
彼女は浮ついた生徒たちへ一通り目を配ってから、漆黒の髪と同様な表情で第一声を発した。
「合格おめでとう。これで貴様たち四十名は、晴れてローレン魔術学園の生徒だ」
大きくも小さくもない声色だ。
サーシャは無表情で淡々と、学園のルールや詳細を生徒たちに伝えていく。ありきたりなルールと、どうでもよい内容。
それにしてもD組の生徒はバラエティー豊かだ。流石は異世界。
亜人に加え、エルフ、獣人と種族が入り混じっている。髪の色など色鉛筆のパレットのようだ。
「これでこちらからの説明は以上だ。質問があれば受け付ける」
担任のその一言に、生徒たちは顔を見合わせて、我先にと手を挙げた。前列に座るティアナもしかりだ。
手を上げていないのは、
「お前は手を上げないのか?」
入学試験や事前に行われた説明会の際、見かけた生徒たちもちらほらと目に入った。
深呼吸をしている者。落ち着きなくうろうろと足を動かす者。面識ある生徒たちは皆、表情がどことなく固い。緊張しているのだろうか?
「いたいた! グラッドさん、おはようございます!」
活発な元気溢れる挨拶。ティアナだ。
「おはよう。相変わらず元気だな」
「……まぁ、から元気ですけどね」
彼女はそう言うと一転して暗い表情へと移ろった。
それにしても……、
「……どうかしましたか? 制服姿……おかしいですかね?」
ブロンドの少女は、自身のブレザーやスカートをチェックする。
「悪いわるい。制服が似合ってるなと思って──」
俺は一刻の間、制服姿のティアナに見惚れてしまった。
「本当ですか? そう言って頂けたら嬉しいのですが、ちょっとサイズがきつくて」
ティアナは苦しげな顔つきで、豊満な胸によって締め付けられている胸元を少しだけ緩めた。
「見てはダメだ。見てはダメだ。見てはいけない──女性の八割、チラ見に気付く」
俺はブツブツと手製の格言を唱えて色欲を抑え込む。元の世界ではどちらかというと年上好きだったのだが……。
この世界での俺は若い。身体が心に影響を与えているのだろうか。若葉のようなティアナに色気を感じてしまう。
「大丈夫ですか? 何かの魔法詠唱ですか?」
「……まあ、そんなものだ。気にしなくていいぞ」
「はぁ……」
彼女はサファイアのような碧眼をキョロキョロと動かす。
「どうした?」
「入学試験で出会った人たちは、みんな暗い顔していますね」
ティアナも俺と同じことを感じたようだ。
「新しい環境下に入るんだ。緊張もするだろう」
「いや、そういうことじゃないと思いますよ」
ティアナは周りを気にしながら、俺へ耳うちする。
少女の呼吸が俺の鼓膜を軽く揺らす。
「どうやらこの学園は、校内カーストも黙認しているようです」
「カースト? カースト制度の事か? そんなの無視すればいいだろ」
「あっ! グラッドさん、声大きいですよ」
人差し指を整った小鼻の前に置き、小声で俺の声の大きさを窘めた。
「気を付けて下さいね。事前に設けられた説明会のときにグラッドさんも訊いていたと思いますが……私たちはD組なんですよ」
彼女は周囲を気にしながらため息を一つ吐いた。
「D組に校内カーストね……。そんなの気にする必要ないだろ」
「何言っているんですか、ありますよ。上のクラスの生徒に目を付けられたら、学園生活に支障をきたしますし……」
ティアナの言い分もしかりだ。
円満学園生活を送りたいのであれば、ある程度の理不尽も享受する必要がある。
入学試験を経て入学したD組生徒たちも、ティアナと同じ心情なのかもしれない。
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────二時間後。
大聖堂での入学式を終えて、生徒たちは各クラスに集められた。
異世界での入学式も、元の世界となんら変わりはなかった。学園のお偉いさんたちの話だけに終始した。
唯一の違いは──上級生がいなかった事ぐらいだ。
ローレン魔術学園の二階にある一室──D組の教室。
檀上に立ったのはD組担任のサーシャ・ティーチだ。
彼女は浮ついた生徒たちへ一通り目を配ってから、漆黒の髪と同様な表情で第一声を発した。
「合格おめでとう。これで貴様たち四十名は、晴れてローレン魔術学園の生徒だ」
大きくも小さくもない声色だ。
サーシャは無表情で淡々と、学園のルールや詳細を生徒たちに伝えていく。ありきたりなルールと、どうでもよい内容。
それにしてもD組の生徒はバラエティー豊かだ。流石は異世界。
亜人に加え、エルフ、獣人と種族が入り混じっている。髪の色など色鉛筆のパレットのようだ。
「これでこちらからの説明は以上だ。質問があれば受け付ける」
担任のその一言に、生徒たちは顔を見合わせて、我先にと手を挙げた。前列に座るティアナもしかりだ。
手を上げていないのは、
「お前は手を上げないのか?」
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