上 下
22 / 41
第2章 魔術学園編

4話 入学式のいざこざ(2)

しおりを挟む
 俺は式典が行われる学園内の大聖堂へと向かう。
 入学試験や事前に行われた説明会の際、見かけた生徒たちもちらほらと目に入った。
 深呼吸をしている者。落ち着きなくうろうろと足を動かす者。面識ある生徒たちは皆、表情がどことなく固い。緊張しているのだろうか?

「いたいた! グラッドさん、おはようございます!」

 活発な元気溢れる挨拶。ティアナだ。
 
「おはよう。相変わらず元気だな」
「……まぁ、から元気ですけどね」

 彼女はそう言うと一転して暗い表情へと移ろった。
 それにしても……、

「……どうかしましたか? 制服姿……おかしいですかね?」

 ブロンドの少女は、自身のブレザーやスカートをチェックする。

「悪いわるい。制服が似合ってるなと思って──」

 俺は一刻の間、制服姿のティアナに見惚れてしまった。

「本当ですか? そう言って頂けたら嬉しいのですが、ちょっとサイズがきつくて」

 ティアナは苦しげな顔つきで、豊満な胸によって締め付けられている胸元を少しだけ緩めた。

「見てはダメだ。見てはダメだ。見てはいけない──女性の八割、チラ見に気付く」

 俺はブツブツと手製の格言を唱えて色欲を抑え込む。元の世界ではどちらかというと年上好きだったのだが……。
 この世界での俺は若い。身体が心に影響を与えているのだろうか。若葉のようなティアナに色気を感じてしまう。
 
「大丈夫ですか? 何かの魔法詠唱ですか?」
「……まあ、そんなものだ。気にしなくていいぞ」
「はぁ……」

 彼女はサファイアのような碧眼をキョロキョロと動かす。

「どうした?」
「入学試験で出会った人たちは、みんな暗い顔していますね」

 ティアナも俺と同じことを感じたようだ。

「新しい環境下に入るんだ。緊張もするだろう」
「いや、そういうことじゃないと思いますよ」

 ティアナは周りを気にしながら、俺へ耳うちする。
 少女の呼吸が俺の鼓膜を軽く揺らす。

「どうやらこの学園は、校内カーストも黙認しているようです」
「カースト? カースト制度の事か? そんなの無視すればいいだろ」
「あっ! グラッドさん、声大きいですよ」

 人差し指を整った小鼻の前に置き、小声で俺の声の大きさをたしなめた。

「気を付けて下さいね。事前に設けられた説明会のときにグラッドさんも訊いていたと思いますが……私たちはD組なんですよ」

 彼女は周囲を気にしながらため息を一つ吐いた。

「D組に校内カーストね……。そんなの気にする必要ないだろ」
「何言っているんですか、ありますよ。上のクラスの生徒に目を付けられたら、学園生活に支障をきたしますし……」

 ティアナの言い分もしかりだ。
 円満学園生活を送りたいのであれば、ある程度の理不尽も享受する必要がある。
 入学試験を経て入学したD組生徒たちも、ティアナと同じ心情なのかもしれない。
 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼



 ────二時間後。

 大聖堂での入学式を終えて、生徒たちは各クラスに集められた。
 異世界での入学式も、元の世界となんら変わりはなかった。学園のお偉いさんたちの話だけに終始した。
 唯一の違いは──上級生がいなかった事ぐらいだ。

 ローレン魔術学園の二階にある一室──D組の教室。
 檀上に立ったのはD組担任のサーシャ・ティーチだ。
 彼女は浮ついた生徒たちへ一通り目を配ってから、漆黒の髪と同様な表情で第一声を発した。

「合格おめでとう。これで貴様たち四十名は、晴れてローレン魔術学園の生徒だ」

 大きくも小さくもない声色だ。
 サーシャは無表情で淡々と、学園のルールや詳細を生徒たちに伝えていく。ありきたりなルールと、どうでもよい内容。

 それにしてもD組の生徒はバラエティー豊かだ。流石は異世界。
 亜人に加え、エルフ、獣人と種族が入り混じっている。髪の色など色鉛筆のパレットのようだ。

「これでこちらからの説明は以上だ。質問があれば受け付ける」

 担任のその一言に、生徒たちは顔を見合わせて、我先にと手を挙げた。前列に座るティアナもしかりだ。
 手を上げていないのは、

「お前は手を上げないのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

処理中です...