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第一章 序章

6話 マヨネーズチート

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「マヨネーズ? なんだそれは?」

 露店主は首を傾げた。
 やはりこの世界に概念や存在しないモノは伝わらないようだ。

「おっちゃん、生卵と酢。それに油と塩はあるか?」
「卵と油と塩ならさっきの新作料理にも使ってるからあるが、酢は持ってねーな」

 そう簡単にはテンプレ通りにはいかないか。
 でも言葉が伝わったと言う事は、酢が存在していると言うこと。

「どうにか酢を調達出来ないのか?」
「知り合いの露店に頼めば何とかなるが、そんなモノ使ってどうするんだ? それより新作の感想聞かしてくれや」
「感想は後で答えるから。とにかく酢を調達してくれよ」

 中々動こうとしないおっさんを急かす。
 憧れのマヨネーズチート。
 異世界に来たからにはこれは体験しておかないと。

「分かったわかった。ちょっと待ってろ」

 露店主は店を離れ、三軒隣の露店に酢を借りに行った。偉そうにしてた割には、ペコペコと頭を下げてお願いしている。まあ、無事調達出来たようだ。
 
「坊主、これで言われたモノ全部揃ったぞ」

 戻ってきたおっさんは再び偉そうに演出する。
 このおっさんの露店が人気無いことは明白だ。客も並んでいないし料理も微妙。
 ともなれば決めては調味料。しかもこの世界に存在しないマヨネーズを使用すれば人気店になるに違いない。

 俺はかじった知識で、食材を混ぜ合わせてマヨネーズを完成させた。

「見た事のないソースだな」
「いいから、さっきの新作料理の上にかけて食べてみなよ」

 そう促すと、おっさんは半信半疑にたこ焼き風にマヨネーズをかけて食べた。

「──っ!」

 おっさんは目を見開いた。

「どうだ……美味いだろ?」

 仁王立ちの露店主はギロリと俺を睨んだ。
 ま、まさか、この世界ではマヨネーズは通じないというのか……。
 おっさんは下を向き沈黙を挟んでから再び、

「──っ!」
「それはもういいつーのっ!」

 俺は伝わらないことを理解した上で、おっさんに中指を立てた。

「冗談だ冗談。めちゃくちゃうめーよ、このソース」
「だろ。これがマヨネーズってやつだ」

 露店主の驚いた表情を見て、俺の承認欲求は満たされる。
 心の中で『知識チート、気持ちええ~』と、脳汁ドバドバ状態で悦に浸った。



 俺はマヨネーズつきのたこ焼き風を食べ終えたので、

「じゃあ、俺はもう行くわ」と、立ち去ろうとした。

「待てっ! 待ってくれ」

 呼び止めたおっさんは俺に提案してきた。
 マヨネーズのレシピを教えてくれたら、金貨三枚支払うというものだ。

 俺はタダで食わして貰った手前、お金を貰うことに抵抗があった。
 しかし露店主は代価を払うと引かなかったので、仕方なく受け取った。そして俺は露店を後にした。



 金貨三枚の価値がどれぐらいなのか知らないが、閑古鳥が鳴いていた露店の主が支払えるぐらいだ。大した金額ではないのだろう。

 幾ばくの金を手に入れた俺は、次に宿を探すことにしたのだ。
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