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20話
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迂闊だった。俺は電車の窓に薄っすらと反射する委員長の顔をこっそり見つめた。
「あいつ、どこまでついてくるつもりだ⁉」
俺は傍らに立っているトリエステに密かな怒りをぶつけた。
如月委員長は下校する俺たちの後をどこまでもつけてきていたのだ。学校から駅までも、また電車の中でも俺の一挙手一投足を見逃さまいと、目を光らせていた。
その尾行は家の最寄り駅で下車することになっても続いた。俺は自動改札を抜けたところで立ち止まり、我慢しきれずにとうとう如月委員長に話しかけた。
「なあ、委員長さんよ」
「な、なによ!」
遅れて改札を抜け出た委員長は驚いたように立ち止まった。
「ここまでしなくてもいいだろ。家に着くまで尾行するつもりなのか?」
「ちょ、ちょっとなに勘違いしてるのよ! 私の駅よ、ここは!」
「えっ?」
「なによっ! 驚きたいのはこっちだから。あなたみたいなチャラ男とこれから行き帰り顔を合わせなきゃいけないなんて絶望よ、悪夢よ、人生最大の汚点よ」
「そこまで言わなくても……」
「やめてよね。私に指一本でも触れたら大声で叫ぶから!」
「触らないって」
「同じ空気吸うのも禁止!」
「そりゃ無理だって」
「あぁ、やだやだやだ!」
如月氏はヒステリックに叫んで、ぶんぶんと髪を振り乱した。
「あんたみたいなゲスでチャラくて、イヤらしいことで頭がいっぱいの男、心の底から大嫌いなの。本当に気持ち悪い!」
「はっ、そんなこと考えてないし! ゲスでもチャラくもないし!」
「男はみんなそういうし!」
如月氏は憎しみのこもった目つきで俺を睨みあげている。間違いない。完全に俺のことを嫌っているようだ。
今さら誤解だと言っても信じてもらえないし、完全に誤解だと言いきれない部分は多々ある。
何とか不穏な空気だけでも治めて貰おうと、トリエステに救援を頼もうとしたが。
……あいつ。
彼女は既に場所を離れてしまっていた。
あくまで無関係を決め込もうとしているらしく、駅前のメロンパン屋さんで商品を眺めていた。つくづく逃げ足の速い女だ。
「もうわかった!」俺はわざと気分を害したように声を荒げた。「俺は帰るからな」
「どうぞ、好きに帰りなさいよ。別に引き止めてなんてないから!」
「最後に言わせてもらうが、イヤらしくない男なんて幻想だ。いつまでも絵本のお姫様みたいな夢見てればいいさ」
「あ~あ。やっぱり認めたんだ。私は一生男と縁がなくたって構いませんから」
俺はどしんと北口へ向かって足を踏み出した。あろうことか如月委員長も同時に同じ方向へ足を出した。
「おいっ、まだ尾行するつもりなのか?」
「あなた正気? 本当の狙いは私なの? まさか人目がなくなった瞬間に襲うつもり?」
「そんなわけないだろ。あぁ、もういい! じゃあな!」
俺がもう一歩二歩と進むと、彼女も同じように踏み出した。肩を並べながらそのまま北口出口を出て、右に曲がると、彼女も同じ方向へ進路を取った。
「わからないやつだな。頼むから放っておいてくれよ!」
「人聞きの悪いこと言わないで! 私はいつも通り帰宅してるだけですから!」
「そうかい。今日だけはそういうことにしてやるよ」
「私が嘘ついてるとでもいうの⁉」
「それじゃあ、せめて学校にいる時は平和に過ごさせてくれよな」
「それとこれは話が別でしょ。私だって心底嫌なのに、あなたが問題行動ばかり起こすから学級委員としての務めを果たさなきゃいけないの。私の身にもなりなさいよ」
言い争いながら家路を進んでいると、後ろからトリエステが自転車に乗って近づいてきた。ハンドルにメロンパン屋の袋が吊り下げられている。
自転車を止めたトリエステは猫でも被ったように上品な微笑を浮かべた。
「会話が弾んでいるようですね」
俺は肩をすくめた。
如月氏はぷいとそっぽを向いた。
「ほんとに気が合うんですね」
「どこがだ」「どこがよ」
「あいつ、どこまでついてくるつもりだ⁉」
俺は傍らに立っているトリエステに密かな怒りをぶつけた。
如月委員長は下校する俺たちの後をどこまでもつけてきていたのだ。学校から駅までも、また電車の中でも俺の一挙手一投足を見逃さまいと、目を光らせていた。
その尾行は家の最寄り駅で下車することになっても続いた。俺は自動改札を抜けたところで立ち止まり、我慢しきれずにとうとう如月委員長に話しかけた。
「なあ、委員長さんよ」
「な、なによ!」
遅れて改札を抜け出た委員長は驚いたように立ち止まった。
「ここまでしなくてもいいだろ。家に着くまで尾行するつもりなのか?」
「ちょ、ちょっとなに勘違いしてるのよ! 私の駅よ、ここは!」
「えっ?」
「なによっ! 驚きたいのはこっちだから。あなたみたいなチャラ男とこれから行き帰り顔を合わせなきゃいけないなんて絶望よ、悪夢よ、人生最大の汚点よ」
「そこまで言わなくても……」
「やめてよね。私に指一本でも触れたら大声で叫ぶから!」
「触らないって」
「同じ空気吸うのも禁止!」
「そりゃ無理だって」
「あぁ、やだやだやだ!」
如月氏はヒステリックに叫んで、ぶんぶんと髪を振り乱した。
「あんたみたいなゲスでチャラくて、イヤらしいことで頭がいっぱいの男、心の底から大嫌いなの。本当に気持ち悪い!」
「はっ、そんなこと考えてないし! ゲスでもチャラくもないし!」
「男はみんなそういうし!」
如月氏は憎しみのこもった目つきで俺を睨みあげている。間違いない。完全に俺のことを嫌っているようだ。
今さら誤解だと言っても信じてもらえないし、完全に誤解だと言いきれない部分は多々ある。
何とか不穏な空気だけでも治めて貰おうと、トリエステに救援を頼もうとしたが。
……あいつ。
彼女は既に場所を離れてしまっていた。
あくまで無関係を決め込もうとしているらしく、駅前のメロンパン屋さんで商品を眺めていた。つくづく逃げ足の速い女だ。
「もうわかった!」俺はわざと気分を害したように声を荒げた。「俺は帰るからな」
「どうぞ、好きに帰りなさいよ。別に引き止めてなんてないから!」
「最後に言わせてもらうが、イヤらしくない男なんて幻想だ。いつまでも絵本のお姫様みたいな夢見てればいいさ」
「あ~あ。やっぱり認めたんだ。私は一生男と縁がなくたって構いませんから」
俺はどしんと北口へ向かって足を踏み出した。あろうことか如月委員長も同時に同じ方向へ足を出した。
「おいっ、まだ尾行するつもりなのか?」
「あなた正気? 本当の狙いは私なの? まさか人目がなくなった瞬間に襲うつもり?」
「そんなわけないだろ。あぁ、もういい! じゃあな!」
俺がもう一歩二歩と進むと、彼女も同じように踏み出した。肩を並べながらそのまま北口出口を出て、右に曲がると、彼女も同じ方向へ進路を取った。
「わからないやつだな。頼むから放っておいてくれよ!」
「人聞きの悪いこと言わないで! 私はいつも通り帰宅してるだけですから!」
「そうかい。今日だけはそういうことにしてやるよ」
「私が嘘ついてるとでもいうの⁉」
「それじゃあ、せめて学校にいる時は平和に過ごさせてくれよな」
「それとこれは話が別でしょ。私だって心底嫌なのに、あなたが問題行動ばかり起こすから学級委員としての務めを果たさなきゃいけないの。私の身にもなりなさいよ」
言い争いながら家路を進んでいると、後ろからトリエステが自転車に乗って近づいてきた。ハンドルにメロンパン屋の袋が吊り下げられている。
自転車を止めたトリエステは猫でも被ったように上品な微笑を浮かべた。
「会話が弾んでいるようですね」
俺は肩をすくめた。
如月氏はぷいとそっぽを向いた。
「ほんとに気が合うんですね」
「どこがだ」「どこがよ」
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