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番外編
師匠は見た!
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なんの因果か刑事課に配属されて7年、真面目に仕事をしていただけなのに『鬼の権堂』とか迷惑なあだ名をつけられ。
このまま定年まで鬼扱いかよ、と半ば諦めていたが、ある日犯人追跡中に左足を負傷した。
周りのお偉いさんは部署替えだのなんだの引き留めようとしてくれたが、こりゃラッキー!と辞職し剣道の道場を開きのんびり第二の人生を謳歌することにした。
まだ若いのに辞職なんて阿呆だと笑われたが、知ったことではない。
その時の俺を笑わずに酒を奢ってくれた同期が、後に刑事課に配属されて『閻魔の進藤』とか言われ。俺の道場に最初の門下生としてそいつの息子が来ることになるとは、鬼と呼ばれた俺もびっくりだ。
進藤の息子は、まぁあいつに似て妙に落ち着いた子供だった。一生懸命な姿勢は好感持てるが、なんせ雰囲気や佇まいが父親そっくりだからな。可愛がるのも少し戸惑う存在だった。
単に可愛がるなら、息子にくっついてきた光司の方が楽だった。解りやすく活きのいいガキって感じで、めちゃくちゃ可愛がった。めちゃくちゃ逃げるのがまた可愛いんだな。
進藤そっくりの息子と可愛がりがいのあるガキがつるんでるのを眺めるのはなかなか面白かった。光司とじゃれあっている時は息子もガキらしく笑うことがあって、やっぱり可愛いんだな。
そんなヤツらも成長して、なかなか道場に顔を見せることも子供の時よりは減った。
仕方ないことだ。
それぞれ未来へ向けて頑張るというのだから、俺も影ながら見守るのみ―――――
―――――そう思っていたのだが………
人生生きてみるものだなぁ。こんなモノを見ることになろうとは。
「お師匠さん、こんにちは。今日はお邪魔してしまってすみません」
「いやいや、こちらこそ先日はガキどもが失礼しました。なんの変哲もない道場ですが、ゆっくりしていってください」
緊張を見せながらも礼儀正しく挨拶するお嬢さんの隣で、先日久しぶりに会った夕弦は心配そうにお嬢さんを見下ろした。
「見るのはいいが、大丈夫か?今日は少し暑いぞ」
―――お前、彼氏だろう。父親じゃなくて。
そういえばこいつが双子の可愛がる様子を光司がからかった時、ド派手な喧嘩になったなぁ。あれはエラい騒ぎだった。
………絶対からかうまい。ガキどもにも言っておかないとな!
お嬢さんが笑って大丈夫ですよ、と言うものの気になって仕方がないという調子で声をかける。
「道場は蒸し暑いからな。気分悪くなりそうならすぐ言えよ。それから―――」
「大丈夫ですよ。待ってますから、支度してきてください」
渋々お嬢さんから離れ数歩歩いたかと思うと、スタスタスタッとこちらに歩み寄る。
「師匠」
「お、おぅ」
お前、ここに通ってた時より目力増してねぇ?ってか、師匠を威圧するな。
「結香、自分から言えないかもしれないんで、呉々も頼みます」
オカンかよ。とか言わないぞ。命は惜しい!
「解った」
「あと―――――」
まだあんのかよ。
「結香、自分より身長高い男苦手なんで、よろしくお願いします」
つまり、様子は見てほしいけど近付くな、ってことかい。
ここには小学生くらいしかいないけど、中学生や高校生がいたらそもそも連れて来なかったんだろうなぁ。
「……………ウン、解った」
小学生だって高学年のヤツはお嬢さんとそう変わらないぞ。お前だってそうだったろ?
………なんて言わずに、なんとか返事を返す。
………なんだろう………まだ始まってないのに既に疲れた………
お嬢さんを座蒲団に座らせガキどもの準備運動が終わったところで、支度を済ませた夕弦が入ってきた。
俺やガキどもを見事にスルーし、お嬢さんの傍に屈みこんで顔を覗きこむ。
夕弦………その溺愛振りはガキどもには目に毒じゃないかな………
お嬢さんが頬染めてるのは、体調の問題じゃない。絶対。
ガキどもが打ち合いをしてる喧騒の中、ふと見るとお嬢さんは持っていた鞄を開けて何かを探しているようだった。
「どうかしたかい?」
周りが騒がしいので、がなり声をたてるが怯えてくれるなよ?鬼呼ばわりされてたくらい元々顔は怖いんだから、そこも勘弁してくれよ?
そんな祈りが通じたのか。お嬢さんは俺に気付いても表情を変えずに、小さめのスケッチブックを見せて口パクする。
耳を寄せると、かろうじて「―――か…てもい…ですか」と聞こえる。目は遠くで素振りしている夕弦を見ている。
夕弦を描いてもいいか、だろうか。
別に反対する理由はないな。
いいよ、と指でマルをつくってみせると、にぱぁっと音がするくらい明るく笑った。いそいそと描き始めるのを見てそそくさとその場を離れる。
うーん、あの笑顔はマズいよなぁ。
休憩時間になると、夕弦がさっさとお嬢さんの傍に行く。
ご主人様に誉めてもらいたい大型犬、みたいな。本人には言えないけど。
ガキどもは各自持ってきた飲み物を飲んでいるので、三人分の麦茶を持って二人の元に行く。
夕弦はサッと一息に飲むと、既に掃除を始めているガキどもに混ざる。
相変わらず律儀なヤツだなー。
お嬢さんも変わらず夕弦を目で追ってる。
夕弦ばかり好きってわけでもないんだな。
「騒がしかったけど、大丈夫だったかい?」
努めて穏やかな声を心がける。夕弦が言っていたことを思い出したからだ。
お嬢さんはこの近くに住んでいるが、道場付近には近寄らないようにしているらしい。
なんでも小さい頃に、ウチに通ってたガキに何度かからかわれたそうだ。俺はもちろん夕弦みたいなヤツが諫めて大人しくなるヤツもいるが、申し訳ないことに隠れて近所の子にからむガキもいる。お嬢さんはそういうヤツに会ってしまったのだろう。
当時はお嬢さんの姉さんがそのガキや親に話をつけたり妹に付き添ったりして、俺のところに話は来なかった。
だからといって、それで良かったでは済まされない。でも切り出し方を間違えると、お嬢さんのトラウマを突っつくことになる。
なんとしたもんかなぁと顎を撫でていると、お嬢さんは柔らかく微笑んだ。
「小さい頃は怖かったけど、大丈夫です」
見ると、スケッチブックを大切そうに撫でている。
見てもいいかと尋ねると、少し照れながらどうぞと差し出された。
「おぉ、これは凄いな」
「そうですかね」
「うん。俺は絵は解らんが、こいつは何て言うか………何をしてる瞬間かがよく解る、というか」
もっと上手く言えりゃいいんだが、もどかしいな。
「これは構えてるとこだろ。これは竹刀をこう上げて―――これが打ち込みに入るところで、こっちが面を打った直後の体勢」
「凄い!解るんですか?」
目を丸くして驚いているが、凄いのはお嬢さんだろう。
「一応剣道のプロだからなぁ」
それに絵はすべて夕弦を描いたものだった。あいつの癖や雰囲気を感じる。
なんだ、夕弦。お前めちゃくちゃ惚れられてるんだな。
「夕弦はな、自分が大事だと思ったモンはとことん大切にするタチらしくてね」
突然話し出した俺に戸惑うもののお嬢さんは目で頷いて続きを待つ。
「ここを辞めることにした時な、光司と大喧嘩したんだよ」
「え」
「光司は躊躇なく辞めれる夕弦に一言でも言いたかったんだと思うんだけど『双子の世話を優先するって、お前兄貴じゃなくて親ヅラする気かよ』なんて言われて、夕弦も珍しくキレてなぁ。いやー、あん時は道場壊れるかと思った」
道場壊れるは半分冗談だけど、結局凄い騒ぎだったのは確かだ。
「そのまま二人は中学生になって光司はここに残って、しばらくしてからかな。中学の剣道部に光司がボコられたんだ」
「………っ」
「二人ともちょこちょこ賞とか貰ってたから、入部期待されてたらしくてね。夕弦は当時からガタイがでかかったし父親が刑事だからってんで敬遠されたんだけど、光司は小柄だからね。狙いやすかったんだろう」
当時を思い出して少し下唇を噛む。お嬢さんが膝の上で手を握り締めている。
「相手が弱かったのか光司が上手く流したか、まぁ二、三日寝込みはしたが日常生活にも響かなかったし、剣道も続けられた。剣道部の方は一応指導はされたが、主犯というか、指示した上級生はぶっちゃけ大したことなかった」
受験とか学校の体面が主な理由だと思う。御決まりというか、親が金持ちだったらしいし。
「それが気に入らなかったんだろうなぁ―――夕弦が剣道部に殴り込みかけたんだ」
「なっ?」
「まぁ………道場破り、かなぁ」
「ど!」
お嬢さんの反応が面白くて、俺の口調も軽くなってきた。
「入部する前に自分より強く尊敬できる人間がいるか知りたいって打ち合いを頼んでな。部員を端からボコボコに」
「……………」
「残り一人ってとこで先生が止めに入ってな。親を呼び出されたところで、なぜ自分は殴られずに光司が殴られるのか、自分は親を呼び出されてるのに部長たちは何も罰を受けないのかを先に説明してくれって引かなくてなぁ。親子二人で先生に噛みついたらしい」
「そ、それでどうなったんですか?」
「殴り込みかける前に教育委員会に電話入れてたらしくてな。まぁ、夕弦もその場で説教されたが、剣道部の面々も後日改めてってことになったらしい」
ほぉぉっと大きく息を吐いて握り締めた手を開いた。
「―――まぁ、ガタイがでかくてあんまり喋らないからツマラないところもあるけど、真っ直ぐで頼りになるとは思う。だから、気長に付き合ってやってほしいんだわ」
お嬢さんはきょとんと首を傾げてから、ふふっと破顔した。
「夏目先輩にも同じようなこと言われました」
「そっか」
あいつめ。知らんうちに生意気になりやがって。
光司の顔を思い出して思わず苦笑していると、それにですね、とお嬢さんが身を乗り出した。
「先輩はつまらなくないですよ」
それが本心で言ってるのだと解って、俺は腹がよじれるくらい笑った。
お嬢さんも夕弦もまだ残ってたガキらも目を丸くしているが、構うものか。
なんだこのバカップルは。昔もこんなことがあったぞ。
あぁ、その内進藤を呼び出して酒でも呑むか。
このまま定年まで鬼扱いかよ、と半ば諦めていたが、ある日犯人追跡中に左足を負傷した。
周りのお偉いさんは部署替えだのなんだの引き留めようとしてくれたが、こりゃラッキー!と辞職し剣道の道場を開きのんびり第二の人生を謳歌することにした。
まだ若いのに辞職なんて阿呆だと笑われたが、知ったことではない。
その時の俺を笑わずに酒を奢ってくれた同期が、後に刑事課に配属されて『閻魔の進藤』とか言われ。俺の道場に最初の門下生としてそいつの息子が来ることになるとは、鬼と呼ばれた俺もびっくりだ。
進藤の息子は、まぁあいつに似て妙に落ち着いた子供だった。一生懸命な姿勢は好感持てるが、なんせ雰囲気や佇まいが父親そっくりだからな。可愛がるのも少し戸惑う存在だった。
単に可愛がるなら、息子にくっついてきた光司の方が楽だった。解りやすく活きのいいガキって感じで、めちゃくちゃ可愛がった。めちゃくちゃ逃げるのがまた可愛いんだな。
進藤そっくりの息子と可愛がりがいのあるガキがつるんでるのを眺めるのはなかなか面白かった。光司とじゃれあっている時は息子もガキらしく笑うことがあって、やっぱり可愛いんだな。
そんなヤツらも成長して、なかなか道場に顔を見せることも子供の時よりは減った。
仕方ないことだ。
それぞれ未来へ向けて頑張るというのだから、俺も影ながら見守るのみ―――――
―――――そう思っていたのだが………
人生生きてみるものだなぁ。こんなモノを見ることになろうとは。
「お師匠さん、こんにちは。今日はお邪魔してしまってすみません」
「いやいや、こちらこそ先日はガキどもが失礼しました。なんの変哲もない道場ですが、ゆっくりしていってください」
緊張を見せながらも礼儀正しく挨拶するお嬢さんの隣で、先日久しぶりに会った夕弦は心配そうにお嬢さんを見下ろした。
「見るのはいいが、大丈夫か?今日は少し暑いぞ」
―――お前、彼氏だろう。父親じゃなくて。
そういえばこいつが双子の可愛がる様子を光司がからかった時、ド派手な喧嘩になったなぁ。あれはエラい騒ぎだった。
………絶対からかうまい。ガキどもにも言っておかないとな!
お嬢さんが笑って大丈夫ですよ、と言うものの気になって仕方がないという調子で声をかける。
「道場は蒸し暑いからな。気分悪くなりそうならすぐ言えよ。それから―――」
「大丈夫ですよ。待ってますから、支度してきてください」
渋々お嬢さんから離れ数歩歩いたかと思うと、スタスタスタッとこちらに歩み寄る。
「師匠」
「お、おぅ」
お前、ここに通ってた時より目力増してねぇ?ってか、師匠を威圧するな。
「結香、自分から言えないかもしれないんで、呉々も頼みます」
オカンかよ。とか言わないぞ。命は惜しい!
「解った」
「あと―――――」
まだあんのかよ。
「結香、自分より身長高い男苦手なんで、よろしくお願いします」
つまり、様子は見てほしいけど近付くな、ってことかい。
ここには小学生くらいしかいないけど、中学生や高校生がいたらそもそも連れて来なかったんだろうなぁ。
「……………ウン、解った」
小学生だって高学年のヤツはお嬢さんとそう変わらないぞ。お前だってそうだったろ?
………なんて言わずに、なんとか返事を返す。
………なんだろう………まだ始まってないのに既に疲れた………
お嬢さんを座蒲団に座らせガキどもの準備運動が終わったところで、支度を済ませた夕弦が入ってきた。
俺やガキどもを見事にスルーし、お嬢さんの傍に屈みこんで顔を覗きこむ。
夕弦………その溺愛振りはガキどもには目に毒じゃないかな………
お嬢さんが頬染めてるのは、体調の問題じゃない。絶対。
ガキどもが打ち合いをしてる喧騒の中、ふと見るとお嬢さんは持っていた鞄を開けて何かを探しているようだった。
「どうかしたかい?」
周りが騒がしいので、がなり声をたてるが怯えてくれるなよ?鬼呼ばわりされてたくらい元々顔は怖いんだから、そこも勘弁してくれよ?
そんな祈りが通じたのか。お嬢さんは俺に気付いても表情を変えずに、小さめのスケッチブックを見せて口パクする。
耳を寄せると、かろうじて「―――か…てもい…ですか」と聞こえる。目は遠くで素振りしている夕弦を見ている。
夕弦を描いてもいいか、だろうか。
別に反対する理由はないな。
いいよ、と指でマルをつくってみせると、にぱぁっと音がするくらい明るく笑った。いそいそと描き始めるのを見てそそくさとその場を離れる。
うーん、あの笑顔はマズいよなぁ。
休憩時間になると、夕弦がさっさとお嬢さんの傍に行く。
ご主人様に誉めてもらいたい大型犬、みたいな。本人には言えないけど。
ガキどもは各自持ってきた飲み物を飲んでいるので、三人分の麦茶を持って二人の元に行く。
夕弦はサッと一息に飲むと、既に掃除を始めているガキどもに混ざる。
相変わらず律儀なヤツだなー。
お嬢さんも変わらず夕弦を目で追ってる。
夕弦ばかり好きってわけでもないんだな。
「騒がしかったけど、大丈夫だったかい?」
努めて穏やかな声を心がける。夕弦が言っていたことを思い出したからだ。
お嬢さんはこの近くに住んでいるが、道場付近には近寄らないようにしているらしい。
なんでも小さい頃に、ウチに通ってたガキに何度かからかわれたそうだ。俺はもちろん夕弦みたいなヤツが諫めて大人しくなるヤツもいるが、申し訳ないことに隠れて近所の子にからむガキもいる。お嬢さんはそういうヤツに会ってしまったのだろう。
当時はお嬢さんの姉さんがそのガキや親に話をつけたり妹に付き添ったりして、俺のところに話は来なかった。
だからといって、それで良かったでは済まされない。でも切り出し方を間違えると、お嬢さんのトラウマを突っつくことになる。
なんとしたもんかなぁと顎を撫でていると、お嬢さんは柔らかく微笑んだ。
「小さい頃は怖かったけど、大丈夫です」
見ると、スケッチブックを大切そうに撫でている。
見てもいいかと尋ねると、少し照れながらどうぞと差し出された。
「おぉ、これは凄いな」
「そうですかね」
「うん。俺は絵は解らんが、こいつは何て言うか………何をしてる瞬間かがよく解る、というか」
もっと上手く言えりゃいいんだが、もどかしいな。
「これは構えてるとこだろ。これは竹刀をこう上げて―――これが打ち込みに入るところで、こっちが面を打った直後の体勢」
「凄い!解るんですか?」
目を丸くして驚いているが、凄いのはお嬢さんだろう。
「一応剣道のプロだからなぁ」
それに絵はすべて夕弦を描いたものだった。あいつの癖や雰囲気を感じる。
なんだ、夕弦。お前めちゃくちゃ惚れられてるんだな。
「夕弦はな、自分が大事だと思ったモンはとことん大切にするタチらしくてね」
突然話し出した俺に戸惑うもののお嬢さんは目で頷いて続きを待つ。
「ここを辞めることにした時な、光司と大喧嘩したんだよ」
「え」
「光司は躊躇なく辞めれる夕弦に一言でも言いたかったんだと思うんだけど『双子の世話を優先するって、お前兄貴じゃなくて親ヅラする気かよ』なんて言われて、夕弦も珍しくキレてなぁ。いやー、あん時は道場壊れるかと思った」
道場壊れるは半分冗談だけど、結局凄い騒ぎだったのは確かだ。
「そのまま二人は中学生になって光司はここに残って、しばらくしてからかな。中学の剣道部に光司がボコられたんだ」
「………っ」
「二人ともちょこちょこ賞とか貰ってたから、入部期待されてたらしくてね。夕弦は当時からガタイがでかかったし父親が刑事だからってんで敬遠されたんだけど、光司は小柄だからね。狙いやすかったんだろう」
当時を思い出して少し下唇を噛む。お嬢さんが膝の上で手を握り締めている。
「相手が弱かったのか光司が上手く流したか、まぁ二、三日寝込みはしたが日常生活にも響かなかったし、剣道も続けられた。剣道部の方は一応指導はされたが、主犯というか、指示した上級生はぶっちゃけ大したことなかった」
受験とか学校の体面が主な理由だと思う。御決まりというか、親が金持ちだったらしいし。
「それが気に入らなかったんだろうなぁ―――夕弦が剣道部に殴り込みかけたんだ」
「なっ?」
「まぁ………道場破り、かなぁ」
「ど!」
お嬢さんの反応が面白くて、俺の口調も軽くなってきた。
「入部する前に自分より強く尊敬できる人間がいるか知りたいって打ち合いを頼んでな。部員を端からボコボコに」
「……………」
「残り一人ってとこで先生が止めに入ってな。親を呼び出されたところで、なぜ自分は殴られずに光司が殴られるのか、自分は親を呼び出されてるのに部長たちは何も罰を受けないのかを先に説明してくれって引かなくてなぁ。親子二人で先生に噛みついたらしい」
「そ、それでどうなったんですか?」
「殴り込みかける前に教育委員会に電話入れてたらしくてな。まぁ、夕弦もその場で説教されたが、剣道部の面々も後日改めてってことになったらしい」
ほぉぉっと大きく息を吐いて握り締めた手を開いた。
「―――まぁ、ガタイがでかくてあんまり喋らないからツマラないところもあるけど、真っ直ぐで頼りになるとは思う。だから、気長に付き合ってやってほしいんだわ」
お嬢さんはきょとんと首を傾げてから、ふふっと破顔した。
「夏目先輩にも同じようなこと言われました」
「そっか」
あいつめ。知らんうちに生意気になりやがって。
光司の顔を思い出して思わず苦笑していると、それにですね、とお嬢さんが身を乗り出した。
「先輩はつまらなくないですよ」
それが本心で言ってるのだと解って、俺は腹がよじれるくらい笑った。
お嬢さんも夕弦もまだ残ってたガキらも目を丸くしているが、構うものか。
なんだこのバカップルは。昔もこんなことがあったぞ。
あぁ、その内進藤を呼び出して酒でも呑むか。
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