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本編
14 3月12日 長い帰り道2
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後片付けをして交互にトイレを借りると、もう一度彼女を背負う。
気をつけて帰れよ~、とにこやかに見送ってくれる店長に頭を下げて、彼女の家に向けて歩き出した。
会話はなかったが、気まずく思うこともなく大通りを外れて住宅街を進む。
師匠の道場に近づいたところで、家の詳しい場所を確認しようと背後を見て―――固まった。
寝ている。
腹が膨れて満足して眠ってしまったのか。眠れるほど元気になったと安心すれば良いか?いや、この状況で安心しきったように眠られても困る。
………………起こすのは、可哀想だな。
観念した俺は、スマホの地図アプリを頼りに辺りの表札を確かめながら歩くことにした。
「Makino」と洒落たデザインで書かれた表札を見つける。チャイムを鳴らすか、電話で確認するか………?
迷っているうちに物音に気がついたのか、ドアが開いて中から小柄な女の人が顔を出した。
「もしかして、進藤くんかしら?」
「あ、はい。進藤です」
落ち着いた口調で話しかけられた。彼女の母親だろう。慌てて頭を下げる。保険医の先生が俺の名前を言っておいてくれたらしい。
「わざわざありがとうね。電話切ったあと、今の時間帯バスないなぁって気づいたんだけど、大丈夫だった?」
「はい。背負って来たんで大丈夫だと思うんですが」
「まぁ、ここまでおんぶで!?もう寝ちゃって…本当にごめんなさいね」
途中で休憩をいれたし具合は悪くなってないはずだと伝えたつもりだが、別の意味に受け取られたらしい。彼女が俺の背中で寝てしまっていることもあって、ひどく驚いた。
申し訳なさそうに謝る表情が彼女とよく似てる。正しくは、彼女が似てる、だけど。
「申し訳ないついでに、中まで運んでもらっちゃってもいい?」
「はい。じゃあ失礼します」
彼女の靴を脱がせてもらおうとした時、背中で小さく動くのを感じた。どうやら起きたらしい。
「んー………っ!?お母さん?」
「結香、もうびっくりしたわよ。おんぶで連れ帰ってもらって、その上寝てるんだもの!」
え!?と声を上げる。寝ぼけていたのか、少ししてから小さな声で話しかけられた。
「~~~先輩、ごめんなさい。………降ります」
背中から降ろすと、申し訳なさそうな表情で俺を見上げてから丁寧に頭を下げた。
「先輩、寝ちゃってごめんなさい。あと、家までおんぶしてくれてありがとうございました」
「気にするな。これカバン」
彼女も起きたし、ここで帰っても大丈夫だろう。
カバンを返して帰ろうとすると、受け取ろうとしないまま彼女は困ったように俺を見上げている。
「ここまでおんぶして歩いて来てくれたんだもの。ぜひ中で休んでいって!ね!?」
さぁさぁと促され、彼女にも、お願いします、と頭を下げられ、結局お邪魔することにした。
気をつけて帰れよ~、とにこやかに見送ってくれる店長に頭を下げて、彼女の家に向けて歩き出した。
会話はなかったが、気まずく思うこともなく大通りを外れて住宅街を進む。
師匠の道場に近づいたところで、家の詳しい場所を確認しようと背後を見て―――固まった。
寝ている。
腹が膨れて満足して眠ってしまったのか。眠れるほど元気になったと安心すれば良いか?いや、この状況で安心しきったように眠られても困る。
………………起こすのは、可哀想だな。
観念した俺は、スマホの地図アプリを頼りに辺りの表札を確かめながら歩くことにした。
「Makino」と洒落たデザインで書かれた表札を見つける。チャイムを鳴らすか、電話で確認するか………?
迷っているうちに物音に気がついたのか、ドアが開いて中から小柄な女の人が顔を出した。
「もしかして、進藤くんかしら?」
「あ、はい。進藤です」
落ち着いた口調で話しかけられた。彼女の母親だろう。慌てて頭を下げる。保険医の先生が俺の名前を言っておいてくれたらしい。
「わざわざありがとうね。電話切ったあと、今の時間帯バスないなぁって気づいたんだけど、大丈夫だった?」
「はい。背負って来たんで大丈夫だと思うんですが」
「まぁ、ここまでおんぶで!?もう寝ちゃって…本当にごめんなさいね」
途中で休憩をいれたし具合は悪くなってないはずだと伝えたつもりだが、別の意味に受け取られたらしい。彼女が俺の背中で寝てしまっていることもあって、ひどく驚いた。
申し訳なさそうに謝る表情が彼女とよく似てる。正しくは、彼女が似てる、だけど。
「申し訳ないついでに、中まで運んでもらっちゃってもいい?」
「はい。じゃあ失礼します」
彼女の靴を脱がせてもらおうとした時、背中で小さく動くのを感じた。どうやら起きたらしい。
「んー………っ!?お母さん?」
「結香、もうびっくりしたわよ。おんぶで連れ帰ってもらって、その上寝てるんだもの!」
え!?と声を上げる。寝ぼけていたのか、少ししてから小さな声で話しかけられた。
「~~~先輩、ごめんなさい。………降ります」
背中から降ろすと、申し訳なさそうな表情で俺を見上げてから丁寧に頭を下げた。
「先輩、寝ちゃってごめんなさい。あと、家までおんぶしてくれてありがとうございました」
「気にするな。これカバン」
彼女も起きたし、ここで帰っても大丈夫だろう。
カバンを返して帰ろうとすると、受け取ろうとしないまま彼女は困ったように俺を見上げている。
「ここまでおんぶして歩いて来てくれたんだもの。ぜひ中で休んでいって!ね!?」
さぁさぁと促され、彼女にも、お願いします、と頭を下げられ、結局お邪魔することにした。
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