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番外編

秋の遊園地はのんびりと

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  小さく出したつもりの声がしっかり聞こえていたようで、どうしたの、と座りながら聞かれてしまった。
  「知佳ちゃん、おかえり。生徒会、もういいの?」
  「ただの打ち合わせだからね。で?何が、やった、なの?」
  嬉しさで舞い上がっていた私は、思わずスマホの画面を知佳ちゃんに向ける。
  「先輩がね、今度の連休バイトないから遊園地行かないかって」
  営業のバイトは順調だけど忙しいらしい。家に来てくれるときもスーツ姿のままが多いし、会社がお休みの土日もバイトがちょこちょこ入る。
  当分は外でゆっくりデートできないかも、と思ってたから嬉しい。毎晩スーツ姿の先輩をお出迎えして、ご飯を食べてもらいながらお喋りするのも嬉しいんだけどね。
  「良かったわね」
  優しく笑ってくれる知佳ちゃんに、私も自然に笑顔になる。
  「うん!お土産買ってくるね!」
  とたんに知佳ちゃんは笑顔を崩して小首を傾げた。
  「あのねぇ………せっかくのデートでしょ?毎回お土産買わなくてもいいのよ?」
  「毎回じゃないよ?近くにお店がないときは買えないし」
  「そういうことじゃなくてね………」
  深いため息をつきながら、なぜか知佳ちゃんは頭を抱えた。
  「水瀬、水瀬。さっきこれ預かったんだ。渡すの忘れてた」
  はいはいと受け取った書類を見た知佳ちゃんの眉が、これでもかっというくらい狭められた。
  「これ………締め切りは先々週なんだけど?」
  うんうんと宮本くんは深く頷いた。
  「あぁ、日々の練習に明け暮れてつい忘れちゃったんだな。あるよな、そーゆーの」
  「ナニ共感してるのっ。素直に書類受け取ってないで、締め切り守るように言わないといけないじゃないのっ」
  ヒートアップする知佳ちゃんを前にしても、宮本くんは平然としている。
  「でもなぁ………書類出すだけマシじゃねぇか?」
  それはそうだけど、とどもる知佳ちゃんに宮本くんは穏やかに笑いかけた。
  「ちゃんと話はするからさ、あんま怒るなよ。な?」
  「………………解ったわよ」
  不満気にしながらも頷いた知佳ちゃんに笑いかけてから、宮本くんは私を振り返った。
  「時に牧野。今度の休みにどっか行くんだって?」
  「あなた一体どこから聞いてたの」とジト目をする知佳ちゃんをいなしながら、どーなん?と宮本くんは私に笑顔を向ける。
  「うん。遊園地に行くんだよ」
  「そりゃいいな。楽しんで来いよ」
  ありがと、と笑うと宮本くんは笑顔で続けた。
  「最近は土産のグレードも上がったよな。旨いよな。クッキーとかクッキーとかクッキーとか」
  クッキー好きなのかな。
  「じゃあ、クッキー探してみるね」
  「おぅっ。ちなみに俺はチョコついたヤツも好きだぞ」
  「なんであなたがリクエストするのよ………」
  上機嫌の宮本くんに、知佳ちゃんは深い深いため息をついた。


  宮本くんと知佳ちゃんのやり取りは本当に面白くて、先輩にもウケた。
  「じゃあ、大きめの缶に入ってるクッキーでも探すか」
  「ですね。それなら味も数種類あって飽きないし、生徒会室に置いておけるし」
  私たちがお土産について話している一方、向かいの席ではお姉ちゃんと萌ちゃん、陽くん、美紅ちゃんがどのアトラクションに乗るか、順番はどうするかなど計画を練っている。
  声を抑えて話しているから具体的な話は聞こえないけど、四人ともすごく真剣な目をしている。

  遊園地に行く話が出たとき、美紅ちゃんも行くか?と先輩は聞いた。
  「ゆーえんちってなに?」
  美紅ちゃんはこてんと小首を傾げた。
  今までそういうところで遊んだことがなかったみたい。身長制限で乗れるアトラクションが少ないせいかな、と思ったけど、美術館や博物館や個展には連れて行ってもらってたらしい。
  まだそういうものがよく解らない美紅ちゃんは、遊園地も小難しいものだと思ったようだった。楽しい乗り物がたくさんあって、ワクワクするショーが見れるんだよ、と説明すると、ものすごく行きたい!と興奮した表情をしながらもショボンと肩を落とした。
  「でも、でぇとでしょ」
  行きたいけど邪魔になりたくないから行かない、という美紅ちゃんに、何ともいえない気持ちになった。二歳なのに、どうしてこんなに気を遣っちゃうんだろう。
  そこに助け船を出してくれたのがお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは自分からは賑やかなところには行かないけど、美紅ちゃんが行きたいなら付き添いくらいやるわよ、とあっさり申し出てくれたのだ。
  「行きの電車は一緒になるけど、遊園地に着いたら別行動ってことにすれば、邪魔にはならないでしょ」
  美紅ちゃんに合わせると帰りの時間も私たちより早くなるから、とお姉ちゃんは美紅ちゃんに言い聞かせて、どうせなら一緒に行かない?と陽くんと萌ちゃんを誘った。
  こうして、みんなで遊園地に行くことになったのです。

  チケットを買ってゲートの順番を待っていると、同じように順番待ちしている人の中にキャラクターの仮装をしている人がたくさんいることに気がついた。
  先輩と二人で首を傾げていると、後ろで順番待ちをしていた萌ちゃんが説明してくれた。
  「ハロウィン近いでしょ?仮装して行くと入場料が半額になってレアキャラクターと写真撮れるの」
  半額はすごいな、と思いながら周りを見渡す。仮装をしている人は順番待ちの間もお互いの写真を撮り合ったり衣装を手直ししたりして賑わっている。
  「詳しいな」
  感心する先輩に、萌ちゃんは胸を張った。
  「せっかく来るんだから、下調べと事前の段取りは当然でしょ」
  美紅ちゃんも乗れるアトラクションもしっかり調べてあるから任せて、と胸を張る萌ちゃんに思わずありがとうと頭を下げた。
  「調べたのに仮装しなかったのか?」
  半額はでかいだろうと首を傾げる先輩に、うっ、と萌ちゃんは動揺する。
  「だって………仮装して電車に乗るの、恥ずかしかったんだもん………」
  チケット代を払ったお姉ちゃんに萌ちゃんは頭を下げた。そんなこと謝らなくてもいーのに、とお姉ちゃんは笑っていた。

  ハロウィンイベントのサービスです、とゲートで顔に貼るシールを貰った。先輩の右頬にオバケのシールを貼ると、先輩が私の左頬にカボチャのシールを貼ってくれた。
  満足そうにスマホを仕舞うと、先輩は私に手を差しのべる。
  「先輩、すっかり写メ好きになりましたね」
  そう言う私の顔はまだかなり紅いはず。
  そうか?と小首を傾げながら、先輩はジェットコースターの列に並んだ。
  「意外に空いてるな。すぐ乗れるかもしれない」
  先輩の言う通り、ゲートが空いて時間が経ったのにジェットコースターに並ぶ人は少ない。
  仮装をしていると、裾が気になって屋外アトラクションには並びづらいのかも、と言うと、なるほど、と先輩は頷いた。私は服を気にしないでアトラクションを楽しみたいから、キュロットとスニーカーだ。
  良い天気で良かったね、と話していると、本当に早く順番が廻ってきた。バーから手を離して空に伸ばすと、指に絡まる空気が少し冷たい。
  昼間はまだ半袖で十分だけどすっかり秋なんだな、と思っているとガクンと視界が揺れた。

  「お二人、ですよね?」
  どこか確認するように小首を傾げたスタッフさんに、はい、と頷くと、どうぞ、と通された。並んでる人がそれほど多くないので、乗り終わってすぐに列に並んだ私たちの顔に見覚えがあったのかもしれない。
  「最後まで両手を挙げてられるなんて凄いな」
  一回目のことを思い出したのか、先輩が感心したように言ってくれるけど、そんなにすごくもない。
  「えっと、もう秋だなぁと思ってたらジェットコースターが動いてたってだけで、全然すごくないですよ」
  「それでも叫んだり慌てたりしてないんだから、結香は凄いな」
  頭を撫でられてふふっと笑っているとガタンとコースターが動き出す。
  今度はちゃんと楽しまなくちゃ、と慌てて前を向いた。

  レストランのメニューにも、ハロウィンをイメージしたものがあるらしい。
  そういうものを食べなくてもいいのか、と渋る先輩を引っ張って前回も入った回転寿司に入った。
  さんまと鯖のフェアをやっていて、一口にさんまと言っても種類があって、どれにしようと見ていると、納得したのか先輩もお皿を取り始めた。
  ハロウィン仕様のメニューが気にならないわけじゃないけど、お値段が気になって楽しめないと思うんだよね。お土産も買いたいし。
  「その代わり、今日のスイーツは遊園地で食べますよ」
  ガッツポーズで言うと、解ったと頷きながら先輩はどんどん注文してお皿を取る。私が心の中で二択して諦めたお皿を差し出して、「一つ食べるか?」と聞いてくる。
  「こうして分けるとたくさん食べれて良いですねぇ」
  最近、先輩にいろいろ見透かされてる気がするけど、分けてもらったお寿司が美味しくて自然に顔が弛む。
  結局、先輩にモンブランまで分けてもらって、スイーツまでしっかり堪能してしまったのでした。


  スタッフさんが交代したのか、「何名様でしょう?」と聞かれてちょっと安心した。やっぱり連続でジェットコースターに乗るのはおかしいのかな?
  「具合が悪くならなければ、いいんじゃないか」
  先輩はあっさり言って、視線でもう一度乗るかと聞いてきた。
  「今は、ちょっと。ぶらぶら散歩してもいいですか?」
  穏やかに微笑んで頷いた先輩は、私の手を引いて歩き出す。
  ジェットコースターに乗るのも好きだけど、外国風の道を歩くのも楽しい。たまに写メを撮りながらゆっくり歩いていると、いろいろな感情の混じった叫び声が聞こえた。見渡すと、ホラーテイストのアトラクションの一部が視界に入った。
  「乗りたいのか?」
  慌てて首を必死に横に振ると、先輩は肩を揺らして笑う。
  怖がりな私が乗るはずがないと解っていたみたいだ。
  むぅ、と頬を膨らませると、宥めるように髪を撫でられた。
  先輩が口を開きかけたところで、「おや」と近くを通りがかった人が声をあげた。
  「進藤くんじゃないか?」
  話しかけられた先輩はすぐに相手が誰か解ったみたいで、お世話になっております、と一礼した。
  「バイトの取り引き相手の部長だ」
  耳元で囁かれた私は、慌てて小柄の男性に頭を下げる。
  「こっ、こんにちはっ」
  先輩がお世話になっております?いや、そんな奥さんぽい挨拶して良いの?
  頭を下げたままぐるぐる考えていると、部長さんは穏やかな笑い声をあげた。
  「噂の彼女とデートかい?私服だし雰囲気違うから解らなかったよ―――僕?もちろん家族とだよ。家族サービスも大切だからね」
  覚えておくといいよ、となぜか私を見ながら言う部長さんに、助言ありがとうございます、と先輩は頭を下げる。
  じゃあ、また仕事でね。と部長さんが歩いていく先には奥さんと娘さんらしい人が立っていた。
  眺めていると奥さんがこちらに頭を下げたように見えたので、慌てて頭を下げる。少し待ってから顔を上げると三人の後ろ姿がゆっくり離れていって、安堵の息をついた。
  「そろそろ、甘い物でも食べに行くか」
  「はい」
  笑顔で頷くと、手を繋いで売店へ向かって歩き出した。


  メニューを見上げていると、名前を呼ばれた気がした。見回すと、遠くの席にお姉ちゃんたちが座っていて、萌ちゃんがこちらに向かって大きく手を振っていた。
  「一通り買うから、一緒に居てくれ。飲み物は何がいい?」
  ホットミルクティーをお願いすると、先輩は解ったと頷いて背を軽く押してくれた。
  こっちこっちと呼ばれるまま座ると、テーブルの上にはハロウィン仕様のランチプレートやハンバーガーセットがところ狭しと置かれていた。お姉ちゃんたちは遅めのお昼を食べていたらしい。
  「結香たちは、今までジェットコースター乗ってたの?」
  首を横に振って外にある回転寿司でご飯を食べてきたことを言うと、いいなぁと三人に羨ましがられた。
  「かい、てん、ずし?って、なに?」
  こてんと首を傾げる美紅ちゃんに、陽くんと萌ちゃんが代わる代わる説明する。説明を聞くうちに珍しくなったみたいで、美紅ちゃんは目を輝かせた。
  「何を話していたんだ?」
  二枚のトレイを支えながら来た先輩に、回転寿司のことを話していたと説明すると、何故遊園地に来て回転寿司の話なんだ、と小さく苦笑した。
  「ゆじゅぅおにぃちゃん、かいてん、ずし、いきたい!」
  目をキラキラさせた美紅ちゃんが手を挙げておねだりすると、それでも先輩はいいぞ、と頷いた。
  「今日はもうご飯食べちゃったから、今度行こう」
  今日は行けないの?とちょっと不満気な美紅ちゃんに先輩は片方のトレイを見せた。
  「ご飯をしっかり食べたらこのケーキ食べていいから」
  むふんと嬉しそうに息をついた美紅ちゃんは、陽くんに手伝ってもらいながら残りのご飯を一生懸命食べた。
  萌ちゃんが空けたスペースにトレイを置きながら、先輩が苦笑する。
  「それにしても、どれだけ買ってきたのよ」
  余ったらどうするの?と呆れるお姉ちゃんに、先輩はケロリと答えた。
  「萌たちも食べると思ったし、一個一個の大きさは大したことないから、残っても俺が食べきれると思ったんですが」
  そう、と相づちを打つお姉ちゃんは目を丸くしている。先輩とスイーツを食べた話は何度かしていたけど、ここまで食べるとは思ってなかったみたいだ。

  お姉ちゃんたちは、お土産を買って帰るらしい。まだ日は高いけど、あまり遅くなると美紅ちゃんを連れて電車に乗るのが大変だから。
  自分のせいでみんながたくさん遊べないことを美紅ちゃんは気にしていたけど、二人とも平然と首を横に振った。
  「帰り混む方が嫌だし」
  「そぉ。本っ当に乗りたいのにはちゃんと乗ったんだから」
  二人の言っていることがまったくの嘘じゃないと解ったのか、美紅ちゃんは安心したように笑った。
  じゃあお先に、と手を振って歩いていく四人を見送ると、残ったケーキを確認する。
  美紅ちゃんと萌ちゃんがケーキプレートを一つ食べただけなので、まだたくさんケーキが残っている。
  好きなものを食べていいと言われたので、カボチャプリンを取った。ホイップクリームに添えられたチョコのオバケが可愛い。
  「この後どうする?」
  ミルフィーユを食べながら先輩が言う。あんな見た目にもパリパリしてるのに、なぜ形を崩さずに食べれるんだろう。
  「結香?」
  「へ?え、えぇっと、ですね………あっ、先輩。先輩は、何か乗りたいのありませんか?」
  前回来たときも今日も私が乗りたいものばかり乗ってて、先輩が楽しめてないのでは?と密かに気にしていたのです。すでに二回絶叫マシンに乗っていて言い出すのが遅いと、自分でも情けなくなりますが。
  「え?俺か?」
  本当にびっくりしたのか、先輩が珍しく目を丸くして小首を傾げる。目を丸くした顔は可愛くて首を傾げて考えこむ姿は格好良いなんて、羨ましすぎるなぁ。
  私の羨望に気づかないまま、先輩は少し悩みながら口を開いた。
  「萌に長々レクチャーされたんだが、物語を模した乗り物に自分が乗りたい物はなかったな」
  特に女の子向けの作品を勧められたみたいだけど、いきなりのめりこめるものでもないよね。
  「だから、結香が行き先を決めてくれると助かるんだ」
  申し訳なさそうな表情の先輩に、私はマップの一部を示した。
  「じゃあ、ここ行きませんか?」
  「これは………結香はいいのか?」
  こっちがいいんじゃないか、と別の絶叫マシンを勧められるけど、私は首を横に振った。
  「ジェットコースターほどじゃないけど、ときどき乗り物が派手に動くし、ストレス発散になるんですよ。作品も素敵で………吹き替えの声優さん目当てだったんですけどね」
  「そうか。じゃあ、これ食べたら行くか」
  先輩が微笑みながらミルフィーユの最後の一口をくれる。
  迷わずパクついてから自分の手元を見て、あっと声をあげた。
  「どうした?」
  「先輩、ごめんなさい………カボチャプリン、全部食べちゃった………」
  一瞬戸惑いの表情を浮かべた先輩が、口元を片手で覆って笑い崩れた。
  「小さなプリンだから仕方ないだろう。気にするな」
  息を整えながら先輩が言って、次はこれどうだ、とベリータルトを勧められた。
  好きなものを知ってもらえてるみたいで嬉しいけど、私も先輩の好きなものをお勧めできるようになりたいなぁ。


  有名作品をモチーフにした乗り物なので、かなり列が続いていた。ゲート前では仮装を楽しんでた人もちょっと疲れた表情をしている。
  「先輩、ごめんなさい。こんなに列長いとは思ってませんでした………」
  こんなことならお茶にする前に、次どこ行くかを話しておけば良かった。そうしたら優先チケットを取るか別のアトラクションにするか相談できたのに。
  項垂れる私の頭を軽く先輩が撫でる。
  「順番が来るまで、どんな話なのか説明してくれないか」
  首を傾げながら頭を上げると、先輩は優しい微笑みを浮かべて私を見ていた。
  「へ?」
  「壁にキャラクターが描いてあるが、あの中にいるのか?結香の目当ての声優が声をあてたキャラクター」
  「ふぇっ?えぇっと………あ、あれです」
  そのキャラクターがどういうキャラかとか、背景がどういう場所なのかとかを、先輩は周りを見渡しながら聞いてくれる。次々と答えながら少しずつ列は進む。質問の合間に、先輩はさりげなくペットボトルを渡してくれた。
  列の先に乗り物が見えてくるとテンションも上がって、アトラクションの内容まで説明してしまっていた。ワクワク感を台無しにしてしまったかな、と気になったけど、先輩は平然と列の先を見つめている。
  「えと。これから具体的に何をするのかはナイショにした方が良かったですかね?」
  「何故だ?」
  本当に意外そうに首を傾げてから、先輩は二人です、と指でスタッフさんに伝えた。
  「六番でお待ちくださーい」
  にこやかに促されて、床に蛍光塗料で描いてある⑥を目指して暗い通路を進む。
  「大丈夫か?」
  先に並んでいる先輩が、暗さで困っていないか振り返って確認してくれる。
  「大丈夫です」
  笑顔で見上げると、安心したように破顔した。
  「そうか。こういうアトラクションは何故暗い所で乗り降りするんだろうな?」
  「んー………別世界に行きやすくするため、とかじゃないですかね?」
  思いついたまま言ってみると、「なるほど」と先輩はあっさり頷いてくれた。
  座席に座ってセーフティバーを下げると、備え付けのバズーカの持ち手を掴む。
  「さ、頑張るぞ!」
  自分で気合いを入れていると、隣で先輩が小さく笑った。

  『三番目の背の高い彼。あんた、ずいぶんやるじゃない。次の採用試験には必ず応募すること。いいね』
  「先輩っ、やりましたね!女史に誉められましたよっ!」
  左腕を揺すってお祝いすると、先輩は戸惑ったように笑った。
  「やった………のか?あれは、適当にコメントしてるんじゃないのか?」
  「違いますっ。女史は厳しい人なんですよ。滅多に人を誉めないんです。女史にスカウトされるなんて、羨ましい………っ」
  一生懸命説明したり羨ましがったりしている私を見つめていた先輩が、あ、と宙を見て声をあげた。
  「どうしました……………うわ」
  つられて同じ方向を見た私の目に、ゲームの最中に撮られていた写真が飛び込んできた。
  「最近アトラクションの最中に写真撮られるのは当たり前になってきたんだな」
  平然と言う先輩はもちろん写真でも綺麗な表情で。
  「写真撮られるのすっかり忘れてました………」
  女史にコメントされたい一心だった私は必死の形相。
  デート中の女の子としてこの表情はいかがなものか、と自分でも思う。
  のに。
  先輩はあっさり購入してしまった。
  「せんぱいっ?」
  「何だ?結香も買うか?」
  「いっ?いいっ、いいですっ」
  スタッフさんにもう一枚と言ってしまう前に、先輩の腕を抱えて必死に出口を出る。

  一枚千円以上するんだもの。しかも、きっと先輩は私の分も自分で払っちゃうんだもの。
  あんな非乙女な表情の自分にそんなにお金を払うなんてあり得ない!
  ………一枚分は払っちゃったけど………

  なんとか出口まで到達して大きく息をつく私を、先輩が興味深そうに見つめている。
  「もう………先輩。あぁいう写真は値段高いのに、なんで買っちゃったんですか………?」
  しかもよりによって私の顔がしっかりブサイクな写真を。
  つい膨らませてしまった頬を、先輩は面白そうにつっついた。
  「一生懸命な結香の表情が可愛いくてな。アトラクション中はスマホの撮影が禁止されてたから、写真売っててくれて助かった」
  自分でも引くあの表情を可愛いと断言する先輩に言葉を失う私に、先輩はさらに追い撃ちをかける。
  「この表情も可愛いが、スタート直後の表情も良かったんだがな………もう二ヶ所くらいカメラをセットしてくれないかな」
  いや、いっそ動画か?とかかなり無茶な要求を言い出す先輩をあんぐりと見上げる。
  「せ、先輩?あの、ゲームやりながら私のこと見てたんですか?」
  「そうだが?」
  何を今更、と返す先輩の腕を、つい大きく揺らす。
  「ズルい!ズルいです、先輩!私の顔笑いながら高得点を出して女史に誉められるなんて、ズルい!」
  自分でも勝手な言い分だとは思うけど、先輩は笑いながらあっさりごめんと宥める。
  「たぶんビギナーズラックだ。あそこのソフトクリームで許してくれ」
  「別にソフトクリームを買ってほしくて拗ねてるわけじゃないですもん」
  小さく膨らませた頬を、優しい笑顔を浮かべて先輩がつつく。
  「解ってる。興奮して火照ったろう?ソフトクリームを買ういい理由になる」
  そう言って先輩はカボチャとナスのソフトクリームを一つずつ買った。
  近くの柵にもたれ掛かって、とりあえず一口。
  「カボチャチップスにコロッケ、プリン、ソフトクリーム。今日一日で小さめのカボチャ一個分のカボチャ料理を食べてる気がしますよ」
  さっきまで怒っていたことをすっかり放ってうまうまとソフトクリームを堪能してから、ナスはどうですか?と聞くと、意外と旨い、と先輩はナスのソフトクリームをじっと見ていた。
  「子どもの頃はナスを食事以外で食べる発想がなかったからな。結香と出かけてなかったら、たぶん今でも知らなかったな」
  「え」
  ありがとうと微笑む顔が本当に綺麗で。
  恥ずかしくて俯きたいような、でもいつまでも見ていたいような気持ちに胸がうずいた。
  「あ」
  「にゃっ?なん、ですかっ?」
  いきなり声をあげるので、問い返す声がかなり上ずってしまった。
  「行きたい所を思いついた。いいか?」
  「はっ、はいっ」
  勢いよく首を上下に振って、差し出された手を繋いで一生懸命足を動かす。
  素肌に当たる空気は冷たくて、自分の顔だけが燃えるように熱かった。


  日が傾いてくる中少しずつ列は進み、途中でハロウィン風のパネルの前で写真を撮ってもらって。
  小さなゴンドラの座席に座った先輩の膝の上に横座りしている私です。
  「あの………先輩………?」
  「観覧車、嫌いだったか?」
  「いえ、大丈夫ですけど、あの………」
  そう。観覧車です。
  先輩が乗りたいと言って連れてきたのは、観覧車でした。
  観覧車に乗るのは良いと思う。
  でも、景色を見ずに私ばかり見ている気がするのは気のせいではないハズ。そもそも、わざわざ私を膝の上に乗せる必要はないのでは?
  「あの………重いですから、私、あっちの席に………」
  「重くないし、座席といっても金属製だから痛いし冷えるぞ」
  私の必死の訴えをあっさり拒否すると、先輩は「せっかく乗ったんだから外を見ろ」と促す。
  うぅぅ、と唸りながらも視線を上げた私は、わぁぁ、と興奮の声をあげた。
  「先輩っ。パレードのライトが見えますよっ」
  あぁ、と頷きながら先輩は私を抱えたまま身体をずらして窓に寄る。
  少しずつ遠くなる地面ではパレードが始まっていて、キャラクターのダンスは遠くて見づらかったけど、離れてる分パレードの全部を見ることができた。
  「先輩っ。あそこにさっきのアトラクションのキャラクターがいますよ」
  「本当だ。あっちのは俺も知ってるぞ。今でも人気あるんだな」
  懐かしいキャラクターを見つけ合ったり、先輩が知らないキャラクターは私が知る限りの知識を披露したり。たまに先輩に髪やこめかみ、頬や耳にキスをされたりして、観覧車はあっという間に一周してしまったのでした。


  久しぶりの遊園地デートは、前よりもどこかのんびりと、やっぱりドキドキして、まぁ結局楽しかったのです。
  帰ってから数日。思い返しながら何枚も描いた先輩の絵と観覧車でお買い上げした写真を並べて、カメラの数が少ないと言ってた気持ち、解るかも、なんて思ってしまったことはナイショにしようと思います。





  ◆ 後日談・ある放課後の生徒会室 ◆

  「水瀬、水瀬。そろそろお茶にしないか?」
  「まだ仕事残ってるじゃない」
  「程好く休憩した方が捗るぜ?それに、そんなに仕事残ってるなら、他のヤツらに回せばいいじゃないか」
  「みんなまだ慣れてないのに、いきなりあれこれ任せるわけにいかないでしょ。せめて書類の不備がないか事前チェックくらいしないと」
  「水瀬は優しいなー。良い子だ」
  「頭撫で撫でしないでくれる。バカなことやってないで、あなたも先に帰りなさいよ」
  「水瀬が気遣ってあれこれやっちゃうから俺暇なんじゃん。いいからお茶しようぜ。もうお湯いれちゃったし」
  「だからなんで確認前にお茶を………もういいわよ。それ、なんのお茶?」
  「玄米茶。ウチにあったのパクってきた」
  「パク………いいの?そんなことして」
  「まぁ、気にしない気にしない。せっかくのクッキーが不味くなるぞ」
  「え。玄米茶ならお菓子はこっちでしょう」
  「なにそれ?」
  「塩羊羹」
  「お前、なかなか渋い趣味だな」
  「貰い物よ。夏目先輩が進藤先輩に大量に送ったうちの一本と聞いたわ」
  「へー。水瀬、夏目先輩と知り合いだったのか?」
  「夏目先輩は進藤先輩の友だちだからね。喧嘩を売ったらいなされて、微妙に使われて、なぜか面倒事を押しつけられつつ要らないフォローをされる仲よ」
  「どういう仲なんだ。それは」
  「まぁ、一言で言えば顔見知り以上でも以下でもないわ。もし過去に戻れるなら、あの人に喧嘩を売るのは止めろ、とか、喧嘩の売り方を変えないと後々面倒だ、とか自分に言ってやりたい気持ちになるわ」
  「そっか」
  「慰めてくれなくてもいーから。頭撫で撫でしないで。とにかく。玄米茶飲むならお菓子はこっちよ。クッキーはまた今度にしましょう」
  「了解。でも早く食わないと、せっかくのクッキー湿気っちゃうぞ。それか誰か他のヤツに食われる可能性が………」
  「おやつの心配をそんな真剣にしないでくれる。明日紅茶持って来るから。それは明日食べましょう」
  「よぉしっ。じゃあ夏目先輩の塩羊羹でお茶にしようぜ」
  「話してる間に、お茶蒸らしすぎたんじゃないの?」
  「苦かったら湯を足して飲めば大丈夫だって」





  ◆ 後日談そのニ・久しぶりの電話 ◆

  プルルルル………ピッ

  『ほいほーい、何だ夕弦?』
  「久しぶりだな。今、電話しても大丈夫か」
  『勉強に行き詰まってたから、調度いいや』
  珍しい一言に片眉を上げる。
  「勉強?後期試験にはだいぶ早いと思うんだが、もう準備しているのか?」
  俺が受けている講義にも毎回小テストがあるものがあるから、光司にもそういう授業がないとはいえないが、光司が自ら真面目に準備する姿が全然思いつかない。
  『後期試験?そんな範囲も解らんのに準備できるか。冬山を登る手引きを頭に叩き込んでるところでな。これがなかなか手強い』
  真面目な口調で光司は言うが、ある程度予想通りの言葉に諦めと安堵のため息をついた。
  「だよな。お前が家で勉強するなんて、あり得ないと思ったんだ」
  酷い言い草だな、とぼやきながらも光司は笑っている。
  「冬山、登るのか?」
  『今年は無理だな。今のところまだまだハイキングのレベルだし。でも何回か冬山にアタックしている人とお近づきになってな。その人にビシバシ鍛えられているわけさ』
  今年はその人の準備を手伝いながら色々教えてもらったり、バイトで金を貯めてたりしているらしい。
  頑張っているのは良いことだと思うが、単位を落とすことになったらおばさんに何と言われることか。
  その事を言うと、解ってる、と電話の向こうでため息をついた。
  『その人も厳しく言ってくるんだ。留年なんぞ許さねぇって』
  光司曰く、師匠のような人らしい。留年した暁には帰郷する前にタコ殴りに殴られる、と光司はげんなりした。
  「そういえば、この間はありがとう。あんなにたくさんの羊羹、せっかくのバイト代が無くなるんじゃないか?」
  いきなり宅配便で届いて驚いたが、礼を言おうと電話したのだ。
  『あー、ハイキングに行く度に数本ずつ買ってるから金額は大したことない。まぁ、なんだかんだお前には世話になってるからなぁ。礼代りにでもなればと思ってな』
  「だからといって一度に二十本近く送ってくることないだろう。結香や水瀬にも分けることになったぞ」
  『そぉかそぉか。水瀬ちゃんにもいったか』
  急にテンション高く戻った声に、思わず眉をひそめる。
  「お前………最初から水瀬に渡すのが目的だったな?」
  うぐっと光司が喉の奥で息を詰まらせる。
  「そのつもりなら水瀬に渡せと最初から言えばいいだろう」
  水瀬にお裾分けするために何十本も羊羹を買いだめする必要なぞないだろう。
  ため息をつく俺に、だってさぁ、と光司が声を上げる。
  『水瀬ちゃんの住所知らねぇし。お前に送って彼女ちゃん経由で水瀬ちゃんに渡ればいーかなと思ってさ』
  「そうか。生徒会の仕事の合間に食べると受け取ったらしいぞ。良かったな」
  生徒会を押し付けた罪悪感はあるかもしれないが、勝手な罪滅ぼしはそろそろいいんじゃないか、と言えば、そうかもしれないけどさ、と光司は言葉を濁す。
  「後輩を一人生徒会に送り込むことまでしてるんだろう?あまり手を出すと、また鬱陶しく思われるだけじゃないか?」
  『後輩を送り込む?何だそれ?』
  「は?剣道部で結香と同じクラスの………宮本といったか。剣道部を辞めて生徒会に入ったと聞いたぞ。お前の指示じゃないのか」
  『宮本ぉぉっ!!?お前、それ嘘だよな!?』
  電話の向こうから聞こえる悲鳴にスマホを耳から離す。
  「嘘じゃない。結香は最近になってやっと名前を覚えることができたと言っていたぞ。締め切りに頭を悩ませる水瀬をあやしたり書類を提出し忘れて恐々となっている部長や委員長たちを宥めたり、なかなかの活躍ぶりらしい」
  『話に聞くだけでも飄々と笑ってる姿が目に浮かぶぞ。そりゃ確かに宮本だ。畜生………アイツがいるから来年までは剣道部も安泰だと践んでたんだがなぁ』
  光司曰く、基本強さとか野心とかを全く感じさせない割に、いざ立ち合うとなかなか勝てない不気味に強い男らしい。
  「自分くらい強いヤツは他にもいるから大丈夫だと水瀬に言っていたそうだが」
  『アイツ………ふざけたことを………』
  電話の向こうで光司がかなり悔しがっている。
  宮本に本当に期待していたのだろう。
  それでも、仕方ねぇな、と小さくため息をついた。
  『部長と顧問を突破して堂々と生徒会に入ったんだ。今更外野からブー垂れても仕方ないやな。その分、水瀬ちゃんにコキ使われてもらおう………でもなぁ………』
  晴々と言った側からまたすぐにため息をつく。
  『こんなことなら俺の引退前に試合にねじ込んでおけば良かった………そしたらアイツも楽々退部なんて出来なかったハズなのに』
  「女々しいな」
  あはは、と光司は明るく笑う。
  『ところで、お前と話すのも久しぶりだが、彼女ちゃんは元気にしてるか?あ、あの彼女ちゃんソックリのおちびちゃんはまだ彼女ちゃんのとこに居るのか?』
  こうした気の回しようは光司らしい。
  おちびちゃん、とは美紅ちゃんのことだろう。
  「お蔭様で元気で可愛い。美紅ちゃんもまだ結香の家に居る。最近やっと少しは子どもらしい要望を言うようになったが、まだ無駄に大人の顔色を見ているな」
  『お前、惚気のナチュラルさがとんでもないことになってるぞ。まぁ、いくら子どもっつっても一ヶ月ちょっとで吹っ切れるモノでもないだろう。気長にやるしかない』
  そうだよな、と相槌を打つ。
  『一番は下らん裁判がとっとと片付いて、すんなり母親と新生活に入っちまうことだ。新しい生活に慣れるうちに、ババァの呪いが薄れることを祈るしかない』
  「呪いって」
  呆れた声で鸚鵡返しに繰り返すが、光司の言いたいことは解る。
  『まぁ、裁判云々はお前にはどうしようもないんだ。お前は頼まれた通り、美紅ちゃんと遊んでやるんだな。予行演習とでも思って』
  「解ってる。今度、回転寿司に連れていくんだ」
  頷いて答えると、光司はわざとらしいため息をついた。
  『お前はまた………子ども向けのアミューズメントが世の中にはごまんとあるだろうに』
  「美紅ちゃん本人のリクエストだからな。それに、美紅ちゃんは最近まで遊園地の存在を知らなかったんだ。子ども向けのアニメや絵本も知らないかもしれん」
  話に聞く限り、俺でも名前くらい知っているアニメや子ども番組でさえ、美紅ちゃんの祖母は低俗だと見せていなかったようだ。
  うへぇ、と光司は唸った。
  『ババァの呪い、怖ぇな。世界的スターのネズミと青い猫型ロボットとオーバーオールの猫と尻丸出しで年上の女性を口説く幼稚園児を知らずして大人になるなんて、あり得ねぇ』
  「ニュアンスは解るが、そのチョイスは何基準なんだ」
  『そんなことはどうでもいい。夕弦。お前の使命は、おちびちゃんに子ども同士の話題の根幹を提供するんだ。戦闘民族とか美少女戦士とか妖精に頼まれて変身して戦う女の子はまだ早いかもしれないが、愛と勇気だけが友だちのヒーローとか今のおちびちゃんの年ドンピシャのコンテンツは早目に提供しなければ間に合わん』
  「お前………何故女の子向けのアニメにそんなに詳しいんだ?」
  俺の戸惑いを余所に。
  数分前まで期待の後輩の退部を嘆いていたことすら忘れて、光司は日本アニメの素晴しさと子どもに見せる重要性について滔々と語っていた。

  『そういえば、遊園地行ったのか?どうだった?』
  「結香がとにかく可愛かった。俺に渡すカボチャプリンがないと落胆する表情がとにかく可愛かった」
  『あ、そう』
  「ゲームで俺に負けたことを悔しがる姿も可愛くてな。お詫びにソフトクリームを買ったら、茄子がソフトクリームになるなんて凄いと目を輝かせてな。とにかく可愛かった。身近に悪い例が居なかったら、写メを撮りまくって嫌われていたかもしれん」
  『うん。そりゃ良かったな。あの淡白ド直球のお前が彼女撮りたい一心で写メをマスターする日が来るんだもんな。そりゃ茄子だってソフトクリームにならぁな』
  「結香と一緒だと、甘い物を買い食いしていても周りはジロジロ見てこないんだ。結香は凄いよな」
  『いや、そりゃリア充を見るのが嫌なのであって、別に彼女ちゃんどうこうという話ではないと思うんだが。まぁ、お前が周りを気にせず外で甘い物食えるようになったのは喜ばしいと思うけどな。訪ねたら親友が必死にフライパンにかじりついて一枚一枚厚さに拘ってホットケーキを焼いていた時とか、俺リアクションに困ったもん』
  「そんな文句を言うなら食うなよ。結香だって喜んでたぞ。ホイップクリーム付きのホットケーキ」
  『お前………何をどうして彼女ちゃんにホットケーキ焼いてんだ………喜んでるならいーけど』
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