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番外編

愛らしい座敷わらし

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  入り口でパンフレットを貰い中へ入る。
  久しぶりの母校はどこもかしこも賑わっている。文化祭なのだから当然だが。
  とりあえず結香のクラスを目指して歩く。
  結香のクラスはお化け屋敷をやるらしい。
  なかなか人気のようで順番待ちの列が長く続く。とりあえず最後尾に並んだ。
  「あれ?進藤先輩じゃないですか」
  意外そうに声をかけられるものの、何と答えればいいものか悩んで頷くだけにする。
  何かのお化けに扮しているのだろうが、誰だか全く解らない。
  俺の反応に、目の前のお化けは苦笑した。
  「あはは。解んないっすよね。前に校門の所でちょっと話しただけだし。この格好だし」
  言いながら矢が貫通したカツラをぺしぺしと叩く。
  「―――剣道部の」
  漸く言うと、そうですそうですと頷く。
  「剣道部だから落武者なんですよ。安易っつーか………いいんですけどね」
  これから宣伝のためのチラシ配りに行くらしい。すぐ順番回ってくるので、ごゆっくり。と言って去っていった。
  ………お化け屋敷はゆっくりするものだろうか。
  まぁ、一応店なのだから別れの挨拶としては妥当なのか。
  等と考えているうちにあっさり順番が回ってきた。
  「―――はい、次の方………あら、進藤先輩」
  振り返った受け付け係は、水瀬だった。
  結香から事前に俺が来ることを聞いていたのか、あら、と言ってはいるが表情は変わらない。
  「お一人ですか?」
  去年は陽と萌を連れて廻ったが、今年は二人で美紅ちゃんと遊ぶからと断られてしまった。美紅ちゃんの相手をしてくれるのは嬉しいが、最近兄離れが顕著で少し寂しくもある。
  頷くと、水瀬は人数をメモして腕時計を見ながら話しかけてくる。
  「ホラーとほっこり半々だから進藤先輩には物足りないと思いますけど、結香に免じてご了承くださいね」
  首を傾げると入り口に立て掛けられた看板を指差す。

  『がっつり怖くてしっかり癒やします!おいでませお化け屋敷!』

  どこからツッコむべきか解らず、ただその文字を眺めていると、今度は水瀬が首を傾げた。
  「結香から聞いてなかったんですか?」
  お化け屋敷をやるとは聞いたが、具体的な内容や結香の担当は聞いてない。
  「約束を破るわけじゃなくてっ。喋っちゃうと、せっかく来てもらっても先輩楽しめないじゃないですか。お、お楽しみ、ということでっ」
  そう言いながら困り顔でイヤイヤと首を振る結香を見れば、無理に聞き出そうなんて思うわけがない。マッサージと称して暫くの間擽ったが。
  軽く首を横に振ると、不思議そうに水瀬は首を傾げる。
  「毎日毎日校門近くまで迎えに来ておいて、何も聞いてないって………じゃあ、何を話して………あ。いーですいーです。私、休憩までまだ時間あるんで。じゃあ、そろそろ中へどうぞー」
  途中からどこか呆れたように顔をしかめて一方的に言うと中へと促される。
  とりあえず中へ入ると、暗闇のなかにブラウン管の灯りが浮かんでいた。
  あの看板の割にはしっかり光を遮断してるし、こんなレトロな品を置く辺り、意外に凝っている。
  「……ようこそ……恐怖の館へ……これからの貴方の運命を見せてあげよう……さぁ……よく見るがいい……」
  呻くような声が聞こえ、ブラウン管に映像が流れる。ホラー映画の一部だろうか?
  見入っていると、何か違和感を感じたので半身をずらす。
  空いた空間を小さな何かがゆらゆらと揺れている。
  「あ。外した」
  「バカっ。声出すなよっ」
  黒い壁の向こうで言い争っている。
  映像に注目させておいてこの揺れているものを触れさせて驚かせるつもりだったらしい。俺が避けたので、失敗してしまったらしいが。
  ポコンッという軽い音と「「ぁぃたっ」」という悲鳴が重なる。
  「声出さない。ホラー担当はきっちりシリアスホラーモード貫いてよ―――進藤先輩、幽霊の案内に従って進んでください」
  壁の上から水瀬が顔を見せる。
  振り返ると死装束風に浴衣を着た長い髪の女がゆるゆると手を上げて通路を示す。
  軽く頷くと女の脇を通り過ぎて進む。
  目はだいぶ慣れてきたがやはり暗いのである程度ゆっくり、足下に気を付けて歩く。
  前方からは頻繁に悲鳴が聞こえる。
  俺の後方では「あれ?タイミング間違えた?」とか「くっ!俺のテクニックが通じないっ」とか戸惑いと落胆の声が上がる。
  「会長から通達だよー。ホラー担当は失敗してもメゲるな泣くな、だって」
  「あの会長が牧野以外のヤツを励ますって、どんだけだよ………」
  「とりあえず今表出てるホラー担当は交代して臨時反省会だって」
  「会長珍しく優しいと思ったのに………っ、俺の感動を返せぇぇっ」
  最後の方に聞こえたボヤキはとりあえず黙っておこう、と思った。

  時折聞こえる声を除けば特に問題もなく歩いていると、前方の悲鳴が次第に楽しそうな笑い声に変わっていることに気付く。
  視界も最初よりは明るくなっている。本当に上手く作っている。
  少し開けた場所に出る。
  「やぁやぁ!最初に見た悲惨な最期を回避するチャンスタイムだよ!」
  河童に扮した男が陽気に話しかけてきた。
  「この六文銭を三途の川の向こう岸に居る鬼に渡すんだ。成功したら君の未来は好転するよ!」
  説明しながら河童が指差す先に、恐らく段ボールで作った鬼の人形があった。口が穴になっていて、そこに投げ入れろと言いたいらしい。
  「おっと、くれぐれも角や牙に当てないようにしてくれよ?鬼を怒らせたら、チャンスは台無し。地獄へ真っ逆さまさ。はい、六文銭」
  陽気に物騒な文句を言って河童はカラーボールを渡してきた。
  六文銭………いや、カラーボールを鬼の口に放り込む………しかも、河童がその案内をするこの状況を何と言えばいいのか。
  渡されたカラーボールを見つめていると、「あっ、ヤベッ」と河童が慌てる。
  「ごめんごめん。字が消えかかっていたね。ちゃんと書くから大丈夫だよ~………くぅっ」
  気を取り直したのか河童らしい(?)口振りで一旦俺からボールを取り上げるが、すぐに狼狽える。
  「くっ………河童の手が邪魔でっ………書けないっ」
  ………河童が河童の手を鬱陶しがるのは、どうなんだろう………
  「…………………………書こうか」
  ため息をついて言うと、河童は涙目を浮かべた顔で俺を振り返る。
  「あ、ありがとうございますっ。助かりますっ」
  差し出されたマジックで薄い字の上から六文銭と書き直す。
  マジックを河童に返し、書いた字が乾いたのを確かめてから鬼の口に投げ入れる。
  「おめでとうっ。そしてありがとうっ。チャンスタイムに成功した上に河童を助けてくれた君には、ものすっごくいいことがあるよ!」
  ハイテンションの河童に手を振られて、通路を進む。
  今度は白いワンピースを着た女の子が待っていた。
  「現世に戻るためには、真実を見通す目が必用よ。さぁ、この箱の中身を当ててちょうだい」
  淡々と箱の中に手を入れるように促される。
  両側から手を突っ込んで適当に触る。
  「…………………………たわし」
  「正解」
  抑揚なく言うと、女の子は棒つきキャンディーを差し出してきた。
  「あげるわ。現世に戻るためには、体力を回復しないといけないから」
  どうも、と受け取ると、キャンディーを渡した手をそのまま進行方向に向ける。
  「門番の試練に打ち勝つことができたら、現世に戻れるわ。気をつけて」
  どうも、と繰り返し先に進む。前方からざわめきが聞こえてくる。出口が近いのか。
  通路の真ん中に立っていたのは―――
  「ふぁぁっ!??先輩っ!??」
  赤い着物姿の結香だった。
  「結香が門番なのか?」
  聞きながら頭を撫でる。
  いつものようにリラックスした笑顔を見せていた結香が、慌てて身を離す。
  「そっ、そうですっ。今の私は門番なのですっ。現世に帰りたかったら、私と勝負ですっ」
  「何をやるんだ?」
  結香は意気揚々と拳を出してきた。
  「あっち向いてホイですっ」
  張り切って拳を振りかざす結香を暫く見つめる。
  「子ども騙しだと思ったら大変なんですからねっ。三回連続で私に勝たないと脱出できないんですからねっ」
  「解った解った」
  必死に言い募る結香を前に俺は頷き、じゃんけんから始め―――
  勝負はあっさり終わった。
  「うぅぅぅぅぅ~~~……………っ」
  結香が悔しそうに地団駄を踏んでいる。
  「そんなに悔しがらなくても………」
  慰めようと言ったつもりだったが、結香は涙目でキッと俺を見上げた。
  「だって!一回くらい勝ちたかったんです!」
  その顔があまりにも必死で、そもそもじゃんけんで負けていることは指摘しづらい。
  困ったと首を掻いていると背後から呆れた声が上がる。
  「バカップルワールド展開してないで、休憩行きなさい」
  「ふぉぁっ!??」
  水瀬の素っ気ない言葉に、結香が少し飛び上がる。俺の身体で近付いてくる水瀬に気付かなかったようだ。
  「水瀬、何処から出てきたんだ?」
  振り返りながら聞くと、企業秘密です、と表情を変えないまま水瀬は肩を竦めた。
  「ここで門番に勝つと出口の外までお見送り、って流れなんです。調度いいんで二時間くらい連れ回してくれていいですよ」
  「え?でも、まだ交代の時間じゃないよ?」
  結香が小首を傾げると、いいのよ、と水瀬は深いため息をついた。
  「ホラー担当も癒し担当もちょっとメンタルやられたから、臨時反省会兼ねて総入れ替えすることにしたの。あんたも休憩行ってきなさい」
  「は、反省会?私も出ないといけないんじゃないの?」
  あんたはいいわ、とあっさり言われて結香は目を白黒させる。
  「あんたはいつも通りぼややんとやるから効果的なの。傾向とか対策とか考えてたら、逆にダメになるから」
  言いながら結香の身体を出口へと押す。
  「へ?どういう意味?」と困惑する結香と俺の二人を廊下に出すと、水瀬は頭だけ出して言った。
  「ラブラブいちゃいちゃしてくれて構わないけど、一応二時間を目処に帰ってきてね。また交代あるかもだから」
  念を押すように言うと、じゃ、と頭を引っ込める。
  俺たち二人がぽつんと廊下に取り残された。
  立っていても通行の邪魔になるだけなので、とりあえず結香の手を握って、行くか、と声をかけた。

  結香の手を引いて歩いていると、「進藤せんぱぁいっ」と声をかけられた。
  相手に全く心当たりがないので首を傾げていると、隣で「剣道部の皆さんですね」と結香が小さく呟いた。
  「ちわっす!文化祭デートッスか?」
  軽く頷くと寄ってきた数人が「「「羨ましいぃぃっ」」」と合唱する。
  男に近寄られて結香が怖がってないか確認すると、空いた手を紅い頬に当てて「文化祭デート………」と呟いていた。
  怯えてないのは良いが、可愛い表情を無駄に見せびらかさないで欲しい。
  「おぉ、彼女様。お化け屋敷すげぇ人気だけど、俺たちも人気ランキング負けないぜ?今、アイツにも言ってたけど」
  結香に話しかけながら指差す先に、少し前に擦れ違った落武者が居た。落武者も俺たちに気が付いたらしく、ゆっくり近付いてきた。
  「あれ?牧野、まだ交代まで時間なかったっけ?」
  結香が事情を説明すると、じゃあ俺も教室に戻るかなぁ、とカツラの上から頭を掻いた。歩きかけた足を止めて、結香を呼ぶ。
  「一応弁明するけど、俺、チラシ配りサボってないから。さっき部の連中に取っ捕まって連れてこられただけだから」
  「?う、うん。解った」
  困惑しながらも頷く結香を認めて、落武者は深いため息をついた。
  「駄弁ってたことは確かだから水瀬には怒られるだろうけどさぁ。最近ご機嫌が氷点下だもんなぁ、水瀬会長」
  じゃ、と片手を上げて落武者は悠々と歩いていった。
  「人気ランキング?」
  首を傾げると結香が説明してくれた。
  「今年は来てくれたお客さんに投票してもらうことにしたんです。人気ランキングで一位を取ったら、豪華商品が貰えるんです」
  結香の説明に、そうっ!と剣道部が拳を握って鼻息を荒くする。
  「いくら彼女様の座敷わらしが人気とはいえ、俺たちの江戸風ゲームコーナーも負けないっ!豪華商品は俺たちが貰った!ということでっ」
  勢い良く俺に向き直り入り口の奥を指差す。
  「ゲームやっていってくださいよー!」
  促されるまま中に入ると、ヨーヨー釣りや輪投げコーナーなど、縁日で見かけるゲームがいくつか並んでいた。割と幼い子どもの客で賑わっている中に、浴衣姿の女の子が数人交じっていた。
  結香のクラスのお化け役の子かと思ったが、結香は首を横に振る。
  「たぶん、演劇部の人ですよ。ミニ演劇ショーの人じゃないですかね」
  首を傾げると、小声で更に説明してくれる。
  「ゲームを楽しんでる町娘に悪者がいたずらをしかけたところをヒーローが助けるっていうミニ演劇ショーを不定期にやるらしいです。町娘は演劇部の人がやるそうで」
  なかなか気合いが入っている。
  他の部活と協力してでも豪華商品が欲しいらしい。
  「結香は座敷わらし役だったんだな」
  そうです、と頷いて胸元から折り畳んだ紙を取り出して読む。
  「えぇと………元は大地主の屋敷に住み着いていた座敷わらし。当主が代替わりするうちに信心を無くしたことに哀しみ屋敷を離れたが、人間の優しい心をいまだに信じていて、お化け屋敷では迷い人が現世に戻る手伝いをする………だそうです」
  それぞれ設定があるらしい。こちらも随分手が込んでいる。凄いな、と感嘆すると、文芸部に所属しているクラスメイトの力作ですっ、と結香が誇らしそうに胸を張った。
  最初に見た映像も、事前に自分たちで撮影したもので、会場作りは家が工務店の生徒やDIYにハマっている生徒が中心となって作り上げたそうだ。
  その指導を水瀬がほぼ一人でこなしたとか。確かに次の生徒会長に推されるわけだ。
  「水瀬はもう生徒会長なのか?」
  落武者含めクラスメイトが会長と呼んでいたことを思い出して聞くと、結香は首を横に振った。
  「文化祭終わってから選挙だからまだ会長じゃありませんけど………噂では、立候補する人がいないみたいなんですよ。知佳ちゃん、目ぼしい人に声かけてるんですけど、みんな選挙に出るつもりはないらしくて………あぁっ?」
  結香が取り損ねた水風船を掬い上げて渡す。
  黄色い水風船を両手で持って笑顔でお礼を言う結香の頭を撫でる。
  水風船を楽しそうについていた結香は、何かを見つけて、あ、と目を輝かせた。
  「アレが欲しいのか?」
  恥ずかしそうに、しかし小さく頷く姿が可愛らしく、頭を撫でるとそちらへ近付く。
  ぃらっしゃい!と声をかけてきた男子生徒に金を払い、ゴム鉄砲と輪ゴムが五本入ったトレイを受け取る。
  一発目。当たるが少し揺れただけで落ちない。残りの輪ゴムを左手に引っかけ一点を狙って立て続けに打った。
  「あっ―――あたぁぁりぃぃ~っ」
  一瞬呆けた男子生徒が鐘を鳴らしながら落ちた景品を台越しに渡す。
  軽く埃を払ってから結香に手渡す。
  「ふぇ?貰っていいんですか?」
  頷くと、戸惑いの顔がゆっくり破顔する。
  「ありがとうございます」
  兎を向かい合うように抱え直すと少しの間眺めてから、嬉しそうに微笑んでギュッと抱き締める。
  その姿を眺めていると、背後から声をかけられた。
  「あー………可愛い女の子の可愛い行動は良いよね。目に優しい。癒される」
  「ふぇっ?夏目先輩?」
  兎を抱えたまま大きな目を更に大きく丸く見開いた結香は首を傾げて戸惑った声で挨拶した。
  「えと。こんにちは。夏目先輩、寮に戻ったんじゃ………?」
  勿論戻ったよー、と光司は暢気に返す。
  「一旦は帰ったけど、どうしても見に来てくれと言われたもんだからさぁ。いやぁ、人気者はツラいやね」
  おどけたように言う光司だが、俺のジト目に視線を彷徨わせる。
  「あー………彼女ちゃん?ちょい前に夕弦から連日筋肉痛と怪我でバテてるって聞いたけど、具合はどうかな?」
  驚いたように一瞬俺を見上げてから、結香は首を横に振った。
  「だっ、大丈夫です。お蔭様でこの通り元気です。すみません、夏目先輩にまで心配をかけてしまって………」
  申し訳なさそうに俯く結香に、俺は更に細めた目を光司に向ける。
  「いぃっ!!?イヤイヤ、謝ることはないよっ?俺も話を聞くだけでなーんにもしてないしっ?ま、まぁ、彼女ちゃんが元気なら、良かった、よなっ。なっ?」
  涙目で必死に取り繕う光司は目で俺に必死に訴える。俺は知らないことになっているので無言に徹する。
  いつまでも立ち話をしては迷惑になるので結香の手を引いて歩き出すと、当然のように光司がついてくる。
  「何故ついてくる」
  言外に離れろと訴えれば光司は手に持った景品を持ち上げてみせる。
  「これだけ貢献したんだから、あれ以上あそこに居たら迷惑になるだろうが」
  「なら別の所を廻ればいいだろう」
  「いやぁ………お化け屋敷に行こうと思ったんだけどさぁ、せっかくなら評判の座敷わらしに会いたいじゃんか?」
  結香と光司が向かい合って楽しそうにゲームをする光景を想像する。
  知らず知らずのうちに表情に出たのか、光司が慌てて首を横に振る。
  「っていうのは建て前でっ!謝れはしないけど水瀬ちゃんの様子を見ておきたいっつーか、さ」
  途中から聞こえるか聞こえないかの声で囁く。
  結香の様子を窺うと、周囲に気をとられていたようで手を引かれるまま楽しそうに歩いている。
  「じゃあさっさと水瀬の所に行けばいいだろう」
  囁き返すと、そうなんだけどさぁ、と囁き声で唸るという器用なことをした。
  「なんかもう水瀬ちゃん既に会長扱いされてるじゃんか。なまじ会いに行ったら俺のことバレそうで………行きづらいっつーか………」
  原因は自分だろうに、とため息をついたところで、「おーい、ゆいか~」と呼びかける声が聞こえた。
  人波を避けながら近付いてきた女子生徒は、結香と手を繋いだ俺を見て少し困ったように小首を傾げた。
  「ごめんっ、デート中だった?」
  「そっ、そうだけどっ、大丈夫っ」
  さっぱりと謝られた結香はワタワタと、クラスメイトです、と俺たちに紹介してから、どうしたの?と女子生徒に向き直る。
  「ほら、結香に茶道部のチラシとかメニューとか描いてもらったでしょ。今休憩してるならウチでお茶していかない?ってお誘いしよーとしたのよ。お礼代わりに」
  一瞬嬉しそうに笑いかけた結香が、でも、と考え込む。
  「嬉しいけど………私、作法とか解らないよ?」
  大丈夫大丈夫っ、と女子生徒は手を振った。
  「今年は和風カフェってことで作法とかほぼないから」
  それでも戸惑いを見せる結香に、「お菓子あるよ」と囁く。
  窺うように見上げる結香に、俺はしっかりと頷いてみせた。
  「せっかくだから寄らせてもらったらどうだ?」
  「そぉそ。お抹茶飲みながら休憩なんてオツじゃないの。行こ行こー」
  俺に続いてへらりと言った光司を一瞥すると、あはは~、と光司は空笑いしながら少し縮こまる。
  俺たちの様子を眺めていた結香は小首を傾げてそっと言った。
  「えと。じゃあ、行っても良いですか?」
  「いいとも~」とお決まりの返しをする光司も入れて、ぞろぞろと茶道部へ歩き出した。


  茶道部含め文系の部活が展示をしている一帯は比較的ひっそりとしていた。入り口に「抹茶セット500円」と絵入りで描かれた黒板が立て掛けられている。
  「これを結香が描いたのか」
  しゃがんで見ようとすると、結香が恥ずかしそうに袖を引っ張る。
  「フッ、フツーに描いただけですからっ。しゃがんでまで見なくてもっ」
  「いやいや、これは凄いよ。俺、写メっとこっと―――お前も要るだろ?」
  光司が合図するのに頷いて避けると、両手でスマホを構え直して操作する。
  「―――っし、撮れた。お前にも送ったからな」
  「ありがとう」
  礼を言いながら、恥ずかしそうに唸っている結香の頭を撫でる。
  撫でられて少し微笑んだ結香は、ふと周りを見渡し、一連を静観していた友人に気付く。慌てたように身を捩るが、俺に抱えられているのであまり効果はない。
  「うぅぅ………あの、入り口で騒いでごめんね………」
  俺に抱えられたまま紅い顔でぼそぼそと謝る結香に、女子生徒は目を瞬いた。
  「へ?他に人いないんだからいーじゃん。先輩たちは楽しそうだし、結香は愛でられて幸せだし、あたしは図らずともラブラブないちゃつきをガン見できてラッキー。みんな幸せで良くない?」
  「らぶらっ………!!?」と結香が絶句するのに構わず女子生徒はドアを開けて「さ、中へどうぞー」と笑った。
  光司の後から、固まったままの結香を抱えて中へ入った。

  裏の準備室で点てた茶を持ってくるという形式なので、茶室は茶釜等の道具もなくがらんとしていた。
  「他のお客が来たら簡易衝立で仕切るんですよ」
  「なるほど、一度に何組か入れるしゆっくりできていいね」
  感心した光司の前に、でしょ?と笑顔を浮かべて女子生徒が茶碗を置く。
  「ウチの看板もそうだけど、お化け屋敷の看板も結香が描いたの、ご存知でした?」
  驚いて結香を見ると、白い顔で固まっている。
  「結香、どうした?具合悪いか?」
  頬に手を当てて顔を覗き込むと、結香は瞬きをしてかるく息をついた。
  「だ、大丈夫です。ちょっと描いてて怖かったの思いだし………思いだしちゃって………」
  言いながら更に当時のことを思い出したのか、小さく唸りながら腕を擦っている。
  「そ、そんなに怖いのか?」
  「文句はともかく、確かに血文字っぽかった」
  囁き声で聞いてくる光司に、俺は軽く頷く。
  「真っ昼間に自分で描いてんだから怖いわけないでしょ」
  ため息をつく女子生徒に結香は勢い良く首を横に振る。
  「怖いもんっ!何回も描いたんだからっ。夜怖くてなかなか眠れなくなるし………あんなに怖い話書いて、怖くならないの?」
  「ならないわよ」
  あっさり返す女子生徒が、お化け屋敷の筋書きや役柄の設定等を書いたらしい。映像の製作にも関わっているらしい。
  「あれは作ったものだったのか。ホラー映画かと思った」
  感心すると、どうも、とにっこり微笑む。
  茶道部と文芸部を掛け持ちしている女子生徒は、日頃からホラーやサスペンスを書いているそうで、今回の筋書きを任されたらしい。
  「ヒトは見かけによらないんだな………」
  何かを思い出しては唸り項垂れる結香をお菓子で慰める女子生徒を眺めて光司が呟いた。

  お化け屋敷に行く光司と別れ、少し辺りを歩き回ってから結香をお化け屋敷に送る。
  受け付けの水瀬が俺たちを見つけ、「おかえり」と結香に声をかける。
  「ただいま。知佳ちゃん、ずっと受け付けしてたの?」
  「他にやることないもの。ヘタに出歩いて会長会長呼ばれるのもイラつくし」
  言いながらついている水風船は、光司が持っていた物と同じ色だった。
  「私、思いきり遊んできちゃった………言ってくれたら、受け付け手伝ったのに」
  「受け付けに何人居ても通行の邪魔でしょ。あんたは人気の座敷わらしなんだからこんな所でタダ見させるのもったいないのよ」
  諸々の手配や指示を面倒くさそうにやりながらも、商売気質に溢れている。こういう所が光司や生徒会長に気に入られたのだろう。
  早く中に入りなさいと促されるのに頷いた結香が俺に向き直る。
  「先輩、一緒に廻れて楽しかったです。ありがとうございます」
  「ああ。あと数時間、頑張れ」
  言いながら頭を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じる。
  「帰れそうになったら電話してくれ。迎えに行く」
  はい、と頷く結香に棒つきキャンディーを差し出す。
  「体力回復に」
  大きな瞳を更に大きく見開いた結香がにこりと破顔して、ありがとうございます、と手を振って中へ入っていった。
  「今日、打ち上げとかあるか?」
  一組客を入れた水瀬に問いかけると、弛く首を横に振った。
  「今日はやりませんよ。豪華商品を貰ってからやろうってことになってますから」
  「人気ランキングで一位取らないと貰えないんだろ?」
  取りますよ、と水瀬はあっさり言う。
  「そのためにここまでやったんですから」
  何気無く言っているようだが、その目は妙に力強い。
  「豪華商品の資金、どこから出てるか知ってます?」
  やたらにこやかに聞かれて、首を横に振ると、ふふっと珍しく水瀬が笑った。
  「生徒会長たちのポケットマネーです」
  さすがに生徒会費をこんなことに使えないでしょ?と言う様子は一見穏やかだ。
  「もう一年、会長やるんだからこのくらいの置き土産頂いてもバチ当たりませんよね?」
  笑顔を浮かべる水瀬に軽くため息をつくと、小さな袋を押し付ける。
  何ですコレ、と水瀬は目を見開いた。
  「ワッフルだ。一個残ったからやる」
  ふぅん、と唸りながら袋を摘まみ上げていた水瀬が袋越しに俺にチラリと視線を寄越す。
  「結香にあげればいいのに、なんで私に?」
  別に他意はないと首を横に振る。
  「結香は満腹で食べれなかったし、水瀬が生徒会で忙しそうだと心配してるからな。まぁ、見舞いみたいなものだ」
  「はぁ………じゃあ、ありがたく頂戴します」
  律儀に頭を下げる水瀬に、じゃあ、と手を振って俺は出口に向かって歩き出した。

  迎えに行くまでの時間を潰しに駅近くでもぶらつこうかと歩いていると、見知った後ろ姿を見つける。
  呼びかけ、振り返った顔を見て思わず首を傾げる。
  「その額、どうしたんだ?」
  一部紅くなっていると指摘すると、あー………と光司が苦笑した。
  「コレはな、天誅を喰らった、というか」
  咄嗟に水風船を弄っていた水瀬を思い出す。
  「水瀬に話したのか?」
  「いんや、もう気付かれてたっポイな。わざわざ県外から俺が来たもんだからいよいよっと確信されたみたいだ」
  参った参ったと言いながらも、光司はどこかスッキリした表情をしている。
  「もう帰るのか?」
  「あぁ。用は済んだし、なまじ実家に泊まったらまた説教喰らうしな。サクッと帰るわ」
  「そうか。じゃあ、駅まで見送りする」
  言うと、横で光司がぶりっ子の真似をする。
  「あら嬉し。夕弦くんてばやーさしぃ」
  「結香を迎えに行くまでの時間潰しだ」
  「お前もブレない男だねぇ」
  呆れた顔の光司を見送って辺りを適当にぶらついてから、俺は再び母校へ戻った。




  ◆ 文化祭が終わって ◆

  長い時間をかけて準備をした文化祭が終わるとなんとなく感慨深い気持ちになりがちだけど、物思いにふける暇はないのです。
  「―――はいはいっ。埃はあとからあとからイヤってほど出るんだからね!今日のうちにある程度片づけしちゃうわよ!」
  手を叩きながら声を張り上げる知佳ちゃんに、はいっ!とクラスみんなが声を揃えて返事をする。
  文化祭の進行役を任されたときは気が乗らないカンジだったのに、いつの間にかすごく張りきってたけど、知佳ちゃんってこんなにお祭り好きだったっけ?
  「あ、牧野。そこ危ないから俺やるよ。牧野はこっちやって」
  窓の目張りを剥がそうとしたら剣道部の男の子が代わってくれる。
  「あ、ありがとう」
  お礼を言うと、代わりに椅子に登った男の子が楽々と作業しながら言う。
  「いいって―――怪我させたら進藤先輩に怒られるじゃん。怖いのは水瀬だけでいいって」
  「ごめんなさいね、怖くて」
  「うぉわっ!!?」
  私の隣でムッとした顔で呟く知佳ちゃんにかなり驚いたみたいだけど、男の子は足を踏み外すことなく首だけ振り返って知佳ちゃんを確認する。
  「何だ、水瀬か。ここんとこ鬼気迫るって顔で怖いぞ。何かあるんなら話聞くぞ」
  「お構いなく。そこを取ればある程度片づくから、終わったら帰って大丈夫よ。帰る前に先生からの差し入れ持って帰ってね。一人一本よ」
  はいはい、と作業する男の子に頷いて、知佳ちゃんは近くを通りかかった別の男の子に手伝ってとお願いして私の腕を引っ張る。
  「ふぇっ?知佳ちゃん、私まだ片づけ残ってるよ?」
  踏ん張る私を知佳ちゃんは構わず引っ張る。
  「早く選ばないと目ぼしいのなくなるわよ」
  クーラーボックスの周りには片づけを終えた女の子たちが先にジュースを選んでいた。
  「あれ、結香。まだ片づけしてたの?」
  「ヤダ、早く選びなよ。結香の座敷わらしがウケたんだから」
  おいでおいでと手招きされて、クーラーボックスを覗きこむ。アップルティーを取ると今度は、早く帰りな、と口々に言われる。
  「結香、進藤先輩、今日も迎えに来てくれるの?」
  「うん」
  「じゃあ、早く帰り支度しちゃいなよ。もう迎えに来ちゃってるんじゃない?」
  気づかうように言ってくれる。でも、まだ電話かけてないから先輩はまだ来てないと思うんだけどな。
  「ぉわっ!牧野、まだいたのか!?」
  ゴミだしから帰ってきた男の子が私を見て驚きの声をあげる。
  「早く帰れよ。牧野が帰ってくれないと、俺たち帰り辛いんだよ」
  「えぇぇっ???」
  男の子たちには早く帰ってくれと拝まれ、女の子たちには待ってるかもしれないよ?と心配され、鞄にアップルティーを入れると女の子たちとドアに向かう。
  「じゃ、じゃあ、先に帰るね?」
  「おぉ。女子は早く帰れよ。お疲れー」
  ゴミを袋に摘めたり椅子や机を雑巾がけしながら、男の子たちが手を振る。
  知佳ちゃんの指示はけっこう厳しめだったけど、なんとなくクラス全体が仲良くなった気がする。知佳ちゃんが言わなくても、準備で遅くなったら男の子たちが送っていこうか?って女の子たちに声かけてたし、昼休みも男の子のグループと女の子のグループでお喋りしてたし。
  作業してる男の子たちの中に知佳ちゃんの姿を見つけて、小走りに近寄る。
  「知佳ちゃんはまだ帰らないの?」
  「進行役が先に帰るわけにいかないわよ。私は大丈夫だから、あんたは先に帰りなさい」
  でも、と言い募っていると、剣道部の男の子がのんびりと私たちの近くに歩み寄る。
  「心配するなよ。水瀬は俺がちゃんと送るからさ」
  「あなた、家が逆方向でしょ」
  自分を送ってから帰ると帰りが遅くなるからわざわざ送ってくれなくてもいい、と素っ気なく言う知佳ちゃんに、男の子があははと笑う。
  「だから今から水瀬を送って、それから帰ればそんなに遅くもならずに済むじゃないか」
  だから帰ろうよ、と穏やかに言う男の子に知佳ちゃんはしかめ面になる。
  「進行役が先に帰るわけにいかないって言ってるじゃないの」
  「えー。でも俺、もう水瀬の分のジュース取っちゃったよ」
  「なんで私のをあなたが取るのよ………」
  まぁまぁ、と宥めるように男の子はペットボトルを差し出した。
  「ほら、ライチティーだって。旨そうじゃん?」
  「そ、そうね………」
  ペットボトルを受け取って知佳ちゃんが呆然と見つめる。

  あの知佳ちゃんの毒気を抜いちゃうなんて、すごい!

  「俺たちもすぐに出るからさ、牧野も帰りな」
  「う、うん。じゃあ、知佳ちゃんのことよろしくね?」
  おー、とのんびり返事する男の子と知佳ちゃんに小さく手を振って待っててくれた女の子と教室を出た。

  「進藤先輩、迎えに来てくれるって?」
  電話を切ると、待っててくれた女の子が聞いてくる。
  「うん。あと数分で着くから、それまでここで待っててだって」
  「そっか。じゃあ、先に帰るね」
  バイバイと手を振った女の子に慌てて声をかける。
  「え!?一人で帰るの?」
  危ないよ、と言いかけると後ろから荒く大きな足音が近づいてきた。
  「―――あっ、居た居たっ。間に合った!」
  その声は私じゃないもう一人に向かって言われたもので。
  え?と振り返ると女の子はほんのり紅い顔を俯けていた。
  「居ないから焦ったぞ………帰ろう?」
  言われた女の子は俯いたまま、小さく頷いた。
  「……えっと………あの………もしかして?」
  どうしても気になって小さな声で聞くと、紅い顔で恥ずかしそうに微笑んだ。
  「………うん………その、付き合うことになって」
  「えぇぇっ!!?」
  思わず大きな声で驚いてから慌てて口を抑える。
  周りに人がいなくて助かった………!
  「ごめんね、大きな声出しちゃって………えっと、おめでとう」
  おめでとうはおかしいかなと思ったけど、二人とも嬉しそうにありがとうと言ってくれたから、これで良かったみたい。
  友だちに彼氏がいる子って初めてだから、なんだかワクワクしちゃう。
  「すごい、すごいね!いつから付き合ってるの?」
  期待しながら聞くと、どこか戸惑ったように見つめられる。

  あれ?やっぱりグイグイ聞くのは迷惑だったかな?

  「すごいって………お付き合い歴は結香のが長いでしょ………」
  「うぅっ」
  そうだけど、いつもは聞かれてばかりだからたまには聞いてみたいんだもん。
  「それに、俺たちが付き合うきっかけになったの、牧野と進藤先輩だぞ」
  「えっ!そうなのっ??」
  いつの間に?
  ぜひ詳しく聞きたいところだけど、先輩がもうすぐ来るならもう大丈夫だから先に帰るね、と手を振られてしまった。

  そうだよね、お付き合いしたてのときにうるさく聞かれたくないよね。
  めちゃくちゃ聞きたいけど、我慢しなくちゃ。

  「今日は遅いから話せないけど、また今度………修学旅行とかで話さない?」
  「いいのっ!??」
  嬉しい提案に軽く飛び跳ねると、もちろん、と可愛らしく微笑まれる。
  「私も付き合い始めだから、結香たちの話聞きたいもん。たっぷり」
  「ふぇっ!!?」
  驚く私に、楽しみにしてるね?と囁いて二人は寄り添って帰っていった。
  その後ろ姿は見ていて微笑ましかったけど、私は動揺しまくっていて、先輩からの電話に出るのが遅くなってしまった。


  ―――そして、数日後。
  今日も昼休み、男女仲良くご飯を食べたりお喋りしたりしている。
  「どうしたの?キョロキョロして」
  「う、うん………最近、なんかみんな仲良いよね」
  教室を見渡してから知佳ちゃんは事も無げに言った。
  「まぁ、同じクラスで付き合ってんだから、一緒にいてもおかしくないんじゃない?それが五、六組だからそう見えるんでしょうね」
  「五、六組!??」
  いつの間にウチのクラスはカップルだらけになったの!??
  「別に数えたわけじゃないけど、クラス内でそのくらい付き合い始めたみたいね。他にも、クラスは違うけど恋人できたって言ってる子いるし」
  「そ、そぉなんだぁぁ?」
  驚きで妙な声を出してしまったけど、知佳ちゃんはいつも通り淡々ときんぴらごぼうを食べている。
  「文化祭の準備期間中帰り道に送ってもらったのがきっかけって子が多いけど………まぁ、イベントで距離縮まって付き合うってのはフツーにあることじゃない?」

  うわぁ………私が呑気に先輩と帰ったり先輩にご飯作ったりしてるうちに、みんなは青春してたんだなぁ………

  うっとりしていると知佳ちゃんがチラッと私を見つめる。
  「あんた………修学旅行は覚悟した方がいいわよ?」
  「ふぇ?なんで?」
  首を傾げると、深いため息をついて首を振られる。
  「あんたと進藤先輩が仲良く帰ってる様子に触発されて告白したりされたりしたからね、みんな。夜通し聞かれるんじゃない?いろいろ」
  「え………えぇぇぇぇぇっ!!?」
  「まぁ、頑張って」
  「えぇぇぇぇぇっ!!?」
  動揺で大きな声を連発してしまう私を、みんながどこかにんまりと見ていた気がするのは、気のせい、だと思いたい。心から!
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