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第2章 迷宮成長編

第88話 相談

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 俺の目の前に狸娘の寝顔がある。
 
 眠っている分にはなかなか可愛いではないか。
 だがしかし、こいつ良くこの状況で寝られるもんだな。

 この状況とは簀巻きにされ木に吊るされた状況であり、にもかかわらず呑気に寝ているからだ。
 神経が図太いというか、よくもまあこんな状況で寝られるもんだ。

 まさかホントに来るとはな・・・・
 こいつは皆が寝静まった夜更けに領主館に忍び込もうとして捕まったのだ。
 
 アホの娘だが寝顔は可愛い、ついほっぺをツンツンと突きたくなってしまう。

「ううぅぅん・・・・あさぁぁ? ・・・・なっ! お前は! お願いこれ解いてよ。お前の妻たちがアタイを虐めるんだよ! 特にあの狐! か弱いアタイを寄ってたかって虐めて縛り上げたんだ! なっ、なっ助けておくれよ」

「助ける前にひとつ聞きたいんだが、なぜホテルに泊まっているはずのお前がここにいるんだ? 夢遊病か? それとも屋敷に忍び込もうとしたのか?」

「そっ・・・それはその・・・・・・ひとはだ、人肌が恋しかったんだ。だって婚約者がすぐそばに居るのにひとりで寝るなんて寂しいじゃないか・・・・アタイだって・・ひとりの女の子だし・・・そ・・その・・・・」

 目に涙を浮かべて訴える狸娘。可愛らしいことを言っているが騙されてはいけない。これは演技だ・・・そう演技なのだが・・・・まあ仕方がない。そろそろ朝食の時間だし、縄を解いてやるか。

「その涙に免じて助けてやる。だが次はないぞ」
「あ、ありがとう」
 その言葉とは裏腹に彼女の口角が密かに上がったのを見逃さなかった。
 んでもって抱きつくな!
 ステラは貧乳と馬鹿にするが結構あるぞ・・・・いやいやいや、そうじゃない。


「あら? 縄を解いてもらったのね」
「お前は! 年増狐!」
「なんですってこの貧乳小娘!」

 会って早々言い争いを始める狐と狸。
 だがその言い争いでダメージを受けているのは君たち本人じゃないのだよ。
 君たち以外に飛び火して周りにダメージ与えているんだよ。歳を気にしてる人や胸にコンプレックスを抱いている者がいるのをお忘れなく・・・・



「やあおはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「快適な部屋をご用意して下さってありがとうございます。お陰で良く眠ることができました」
 丁寧な挨拶をしてきたのはルナちゃんだった。
 礼儀正しい彼女を狸娘は見習ってほしいものだ。
 彼女が婚約者だったら俺も嬉しいのだが、残念ながら彼女には既に婚約者が居るのだとか・・・・残念・・・非常に残念である。

「ルナちゃんたちはいつまでこっちに居るの? 学園は?」
「そうですね・・・今、私たちの学年は魔物討伐の実習期間でして、私と摩耶は既に課題をクリアしているので暇なんですよ。帰りの日程を考えると後2、3日は自由に行動できるかしら?」
「2、3日か・・・そうだ飛竜ごとまとめて安土に送ってあげるから、その分ゆっくりしていってよ。俺も仕事あるから案内はできないけどさ」

「それってあの魔動機ってやつですよね。飛竜を3体運ぶって結構大きいサイズの魔動機が必要なのですが大丈夫なのですか?」
「ああ、それについては運用の目処が立ったよ。課題だった魔動機の大型化も軽量化することでクリアし、残るは使用する魔石次第で実用化できると思う。まあ実際には作ってみないと分かんないけどね」

「それがあれば安土とこちらで行き来が楽になるのですね」
「そのつもりで計画してるからね。飛竜より速く、輸送能力もある機体での定期路線が実現すればこの地はもっと発展するし、それ以外の地にも多くの恩恵を与えることができるはずだ」

「素晴らしいです。でもそうなると飛竜の出番が減りそうですね・・・」
「それだけどそこまで心配しなくていいと思うよ。魔動機で広い国土全てを賄えるはずもないからね。どうしても人の手は必要になってくる」
「それはそうですけど・・・・心配です」

 庭を歩きながらルナちゃんと会話していたが、その表情からは明るさが消えていた。摩耶ちゃんは魔動機に仕事を奪われるとでも思っているのか?

「う~ん・・・例えがちょっと違うけど俺はこの地を拝領した。その上でこの領地を守る軍を編成することになったが、全ての兵士をゴーレムで代用することは無理なんだ。戦力にすることはできても、その土地の人々と会話し守るには人の力が必要になってくる」
「そうですね。それは分かります」

「信長様から兵士を500人授かったけど、広い領地をカバーするには全然足りない。兵士を募集しているけど、その兵士の育成には莫大な予算と時間を要するからね。ルナちゃんとこの学園にも兵士募集の要請するから、誰か紹介してくれるとありがたいな」
「あら? それだったら摩耶を邪険に扱ってるのはなぜ? 将軍の孫娘を娶ることにより一門衆として様々な恩恵を得られるはずよ。織田軍の中でも最大派閥の鬼柴家の影響力は大きいわよ。与力として将軍の鶴の一声で大勢の臣下が集まるでしょうね。学生はもちろん、士官先を探している者は多いのよ」

「うぐっ・・・・」
「いい? 学園を卒業してもその全てが兵士や冒険者になる訳じゃないの。誰しもが戦場で活躍し武功を立てたい、一軍を率いたいと思っているわ。でも実際はそんなに甘いもんじゃない。武勇に優れているだけじゃダメなの。一兵卒ならそれでいいかも知れないけど、将はそれだけじゃく知力や統率力も必要になってくるわ」
「士官候補生の大体が学園卒業後は寄親の下で兵卒として仕えることになるのだけれど、どこも兵士で溢れているのよ。溢れた兵士は畑を耕したり冒険者になったりしてるわ。そこに新たに領主として宮代様が将校や兵卒を募ったらどうなると予想されますか?」

「応募が殺到するだろうね」
「その通りです。頭数を揃えるだけならそれでいいかもしれませんが、烏合の衆では資金の無駄遣いです。だとすれば必要な人材の見極めが大事になってきます。そこで役に立つのが将軍の寄親としての力です」

「家臣団の中から家督を継げないながらも優秀な子息を優先的に紹介してくれます。子息も自分の領地でなにも出来ずに埋もれていくより宮代様の新領地に可能性をみいだすことでしょう」
「摩耶みたいな年頃の娘がいる有力士族ならばこれ幸いに婚姻関係を結ぼうと画策してくるでしょう。それが信長様に気に入られ紗弓様の婚約者候補として名の上がった宮代様ならば尚更です」

「摩耶のことだって別に嫌っている訳ではないのでしょう? 色々しがらみあると思いますが政治的に見ても良縁だと思いますよ。私なんて・・・政略結婚の道具にされて・・・・ううんなんでもないわ・・・てことだから摩耶のことよろしくね」
「・・・・ああ、善処するよ・・・・・・」

「ですって、摩耶。良かったわね」
「えっ!?」
 そこには草むらに隠れた摩耶ちゃんがいた。
 いつからいたんだ? そしてどこから話を聞いていたんだ?

「べつに・・・お前のこと嫌いじゃないし、食べ物美味しいから居てやるだけだから・・・・・勘違いするなよ! お前のこと好きとかそんなんじゃないからな!」
「摩耶ったら素直じゃないんだから。顔真っ赤にして何言ってるの?」
「違うったら! これはその・・・運動して赤くなっただけだから・・・ああ、いい運動した。じゃそゆことでまたな」
 そう言い残して逃げるように立ち去った摩耶ちゃん。

 思いっきりツンデレなのが丸分かりなのが可愛らしいのだが、その扱いには正直困る・・・・摩耶ちゃん本人は可愛いと思うし、その影響力はルナちゃんのいうとおりだろう。政略結婚だというのも分かる。だがそれでいいのだろうか? お互いの意思は? やっぱりそこだよな・・・結論を出すには早すぎるしお互いをもっと知る必要があるよな・・・・
 そしてルナちゃんにも話がある。

「ルナちゃんは竜人族の将来を気にしてるようだから言うけど、俺は竜人族いや竜騎兵団にこれから作る魔動機、巨大な航空機の護衛をお願いしたいんだ。さっきも話したように防衛機構としての魔動機は優秀でもそれだけで巨大な航空機を守り切れないからね。大空を飛べる竜人族や飛竜はその護衛にうってつけだと思うんだけどどうかな? もちろん待遇は保証するよ」

「お、お願いします! ぜひともお願いします!」
 ルナちゃんはよっぽど嬉しかったのか、俺の手を両手で握りブンブンと振ってきた。知的なクール美人だと思っていたが、一転して情熱的な握手にドキってしてしまう。くうぅぅ・・めっちゃ可愛い。

 抱きしめたい衝動を我慢するようにルナちゃんと別れ、仕事をするようにした。
 あのままふたりきりで話をすると色々ヤバそうだからな。
 
 大型の魔動輸送機を作るうえで問題になるのが、その巨大な図体の鋼材と重量、そしてその巨体を動かす心臓部となる魔石についてだった。
 鋼材については迷宮産の魔鉱石を使うとしてそのまま使うととんでもない重量になってしまう。軽量化できる部分はハニカム構造を使い軽量化し、魔石もドラゴンの巨大な魔石を2個使用し、それぞれメイン動力とサブ動力に振り分けてしようする方式を試してみようと思う。

 全長200m程の巨大な機体となるため事前準備が必要だった。手元にはドラゴンの魔石が3個あるし、残るは魔鉱石の採取だった。
 さすがに巨大な機体をミスリル銀で作ることは現状無理なので魔鉱石で代用するのだが、それでもとんでもない量の鉱石が必要になってくる。

 ゴーレムによる魔鉱石の採掘を確認した後、その付属品となる防衛用小型機を先に作っておくことにした。
 これには鬼柴将軍に無残にも破壊された機体の補充も含まれている。

 そして昼食後の定例報告にてメティスから気になる話題がのぼった。

「ヤマト様こちらがミカワからの報告書ですが、この辺りにエルフの隠里が在りそうなのですがご存じですか?」
「エルフの隠里? それってミスティの住んでたとこじゃないかな。それでその里がどうしたの?」

「いえ、その存在は知られているものの誰もその村に行ったことがなく、どの程度のエルフが住んでいるかも不明なのです。これは森に住むエルフ全般に言えることなのですが、森でひっそりと暮らし他の種族との交流を持たないのです」
「そういえばミスティもそんなこと言っていたような・・・」

「ですから名簿や地図にもその所在地が載っていないのが現状です。まれに好奇心旺盛なエルフが里を飛び出す者もいるようですから、ミスティ様もそのおひとりでしょう。森で暮らすエルフを森エルフ、街で暮らすエルフを街エルフと区別しているのですがエルフの格としては森エルフの方が上位みたいですね」

 俺の知るエルフはふたり、森エルフのミスティと麻由里ちゃんは街エルフか。ふたりとも見た目の麗しい美少女である。

「ミスティさんの里でしたら丁度いい期会ですし、里の調査及び交流を持たれてはいかがでしょうか?」

 エルフの隠里・・・いい。凄く行きたい。俺はなぜ今までそのことに気が付かなかったんだ・・・・ファンタジー世界の王道、若く美しい姿のまま非常に長い寿命を持つエルフさん。ということは美しいおっぱいエルフちゃんが住む里だ・・・・これはぜび行かねばならない。
 
「そうだね。ミスティに聞いて一度行って見よう」
「はい。規模は大きくないでしょうが領地内の村々の把握のためと、新たなる特産物の発掘のためにも行きましょう」



「え? 私の住んでた里に行きたいの? 良いけど何もないわよ」
「今まで交流がなかったらしいけど、領主として挨拶しないとね。ちなみに里には何人くらい住んでるの?」
「んん~?? そう言われると分かんないけど・・・・・ざっとでいいなら約30人くらいかしら」
「意外と少ないんだね」
「小さい集落だからそんなもんらしいわよ。私も他のエルフの集落には行ったことないから分からないけど、ジジババばかりで若いエルフが少ないのはどこも同じみたいですよ」

「で、ヤマト様いつ行くの? 私としてはパパとママにヤマト様紹介したいし早い方が良いのだけれど・・・今から行く?」
「パパとママ・・・・あっ! 挨拶ってそっちも忘れてた」
「大丈夫よ。エルフは時間の感覚が他の種族と違っておかしいから気にしない方が良いわよ。1か月も数年も誤差の範囲よ」

 やっべぇぇぇっ!! うっかり忘れていた・・・シルエラの身内以外誰にも結婚の挨拶に行っていない・・・・リュネールさんやステラさんら冒険者組はもちろんだが、ラッセリアやアルデリアちゃんたちは安土城下に家族がいて先日帰省しているのだ・・・・当然結婚や婚約したことは知っているだろう。
 どうしようって行くしかないのだが・・・・緊張するな・・・・

 こうして急遽ミスティの里帰りを兼ねて結婚挨拶に向かうことになった。
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