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第2章 迷宮成長編

第84話 絶望のメティス

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 〈 メティスside 〉

 ああっもう・・・なんでこの私がこんな遠いとこまで来なきゃなんないのよ。
 って愚痴っても仕方がないか・・・・・はあぁぁ。

 これもすべてあのふしだらな女が悪い!
 死んでるのか生きているのか不明だけど連絡が途絶えた。
 迷宮主とて弱い魔族であれば簡単に死ぬし、冒険者によって迷宮を攻略される可能性もある。だけどあの女は強い魔族なはず。
 そう簡単に殺されるはずもない。現にあの女の迷宮は存在したままである。
 ということは何らかの理由で連絡が途絶えたとしか思えない。
 一番高い可能性が封印されたこと。もしくはそれに近い状態。
 それか何者かに弱みを握られて服従させられているかね。

 物見に放った使い魔は帰ってこないし、斥候部隊も行方不明になっている。
 国境とはいえ、そこまで重要拠点ではない塔に大部隊を派遣できるはずもなく、急遽編成された部隊に私も無理やり組み込まれた。
 いくらお金に困っていたとはいえ、こんなに遠いとは思わなかった。
 
 それに・・・一緒に探索任務に就いたこいつらときたら・・・なんで毎晩毎晩盛ってるのよ。ホント最悪。女を道具のように扱い玩具にする男ども。知性の欠片もない盗賊くずれのガサツな女。
 
 なんでこのパーティーなのよ! もっとましな人選しなさいよ! 
 これだからお馬鹿さんたち官僚魔族のやることは・・・・・
 どうせならイケメンの魔族同士・・雄と雄・・・くふふな展開はない訳?
 受けてしまったのは仕方がない。早く調査して帰還したいものだわ。


「最近この塔で変わった出来事は起きていないか?」
「あん? なんだお前は?」
「すまない。これで情報を買いたい」
「サンキュー! 話が分かるじゃないか。で何が知りたい?」

 イゴールの奴が情報屋から話を聞いているようね。
 なら私は別の線から当たってみましょう。

「どうイゴール何か分かったかしら?」
「有力な情報は得られなかったな。メティスそっちはどうだ?」
「そうね。このプレジールの塔そのものには変化は見られないようね。変わった点はこの先の織田領、国境付近にできた新しい街の話題とその恩恵でこの塔を目指す冒険者が増えた点かしらね」
「ふん。織田領の街なんぞ興味はねえが、冒険者が増えても塔が攻略されたって話がないのはどういうことだ?」
「そんなの知らないわよ。勇者が来たって話も聞かないし、謎が深まるばかりね。まあそれを調べるのが私たちの役目だしね」
「ああ、とりあえず物資の補給して迷宮に挑むぞ!」

 こうして私たちの迷宮攻略が始まった。
 メンバーは、このパーティーのリーダーであるイゴール。上位魔人であり強い魔剣士でもある男。
 そして魔人の戦士ゴルジェイ と 黒豹族のムサ。
 ガサツな女盗賊のヴェロニカ。陰気臭い神官のヒョードル。
 奴隷で荷物持ちの少女カウラ に 私を加えた7人。
  
  イゴール:魔剣士 LV35
  ゴルジェイ:戦士 LV28
  ムサ:獣戦士 LV26
   ヒョードル:神官 LV30
  ヴェロニカ:シーフ Lv31
  メティス:魔術師 LV24
  カウラ:奴隷 LV8

 塔の地図も情報屋から購入して挑んだ迷宮攻略。
 今のところ低層なだけあって問題なく進めている。たまに出てくる魔物も雑魚ばかりだし、今のところ私の出る番はない。
 所々に休憩を挟んで進も、これといった変化もない至って普通の迷宮だった。
 訓練で同じような迷宮に何度も挑んだことがあるが、他の迷宮と比べても格別変わった点も見られない。

 迷宮攻略を始めて半日、ようやく第4層のボス部屋の近くまできた。
 地図では一直線に進む道の先、あの角を曲がればボス部屋へと続く一本道を進んでいる時だった。

「えっ?」
 私の隣を歩いていたはずの奴隷の少女が突然消えた。
 曲がり角を曲がるまで隣に居たよね? 
 時間にして1秒にも満たない間に少女が荷物を残して突然消えた。
 魔物に襲われた形跡も気配もしない。そもそも一本道で隠れる所もない。ならどこに消えたっていうの?

「メティス何が起きた?」
「分からない。突然消えたの・・・さっきまで隣にいたのに」
 まるで神隠しに遭ったかのように突然消えた少女。

「くっそう。逃げた訳でもなさそうだし、あのドジめ質の悪いトラップにでも引っかかったか?」
「トラップ? そんなのあったかしら? 隠し通路の線もなさそうだし、転移トラップの魔法陣も無かったわよね」
「ああ、そんなものは見てないな。だとしたらどこに消えたのだ?」
 
 もしトラップに引っかかったなら、真横を歩いていた私も引っかかっているはず・・・・転移魔法の可能性もない。
 だけど彼女の姿はどこを探しても見つからない。
 
「辺りを捜索して発見できなければ、先に進むぞ!」
「しょうがないわね」

 奴隷の少女が神隠しに遭ったところでどうってことでもない。所詮は奴隷であり使い捨ての道具に過ぎないのだから。
 だけどその原因は究明したい。どういった方法で消えたのか、死んでいるのか生きているのか? この塔には不思議な何かがあるのか? 私はそれが知りたい。

「くそったれ! あいつどこ消えた? いないじゃねえか。幸いなことに荷物は残っている。荷物を分担して先に進むぞ」

 苛立ったイゴールの号令のもと迷宮探索を再開した。
 第4層のボスは情報通り虎獣人でこれは問題なく倒せた。

 そして進んだ第5層、ここは鍾乳洞のような洞窟エリアだった。
 神隠しの件もあり慎重に進む。途中で水棲の魔物が多く出現するが問題なく進むことができた。
 私たちの前には神秘的な地底湖が広がっていた。

「わ~ 綺麗な湖」
「ちょうどいい。少し休憩するぞ!」
 
 私たちは地底湖を見て少し気が緩んでいたかもしれない。
 そんな時だった。
 仲間のゴルジェイの頭が弾け飛んだ。

「なっ! 敵襲か!」
 すぐさま警戒態勢を整える私たち。
 ゴルジェイは即死だった。いかに頑丈な魔人とはいえ、頭を吹き飛ばされては生きていられない。

 辺りを警戒する中、続いてムサの身体に風穴が開いた。
 地面に倒れる獣人族の戦士を見て驚愕とともに戦慄が走った。彼とて屈強な戦士。油断もしていないし警戒もしていた。そんな彼がなすすべもなく倒れたのだ。

「狙撃か? いったいどこから?」
「分からない。辺りに魔物の気配はない。だけど方向は分かった」

 私たちは近くの岩場に隠れながら、見えない敵の正体と様子を見ることにした。
 敵の攻撃の正体は遠距離からの狙撃だと分かった。
 だけどこの薄暗い空間の中で正確な狙撃ができのだろうか? 魔物の仕業? いやこんなことは魔物には無理だ。何者かによる狙撃に間違いない。
 だとしてどうやって? 暗闇は魔族や闇魔法など暗視能力を持つ者なら問題ない。だが長距離からの狙撃はどうする? 魔法? いや魔法銃か? どのみち遠距離でこの威力・・・・尋常ならざる相手だ。
 
「危険だが俺が囮になる! 魔法で援護してくれ!」
「わ、分かったわ」
 イゴールが囮になると言い出した。だけど今私たちにできることはそれぐらいしかない。敵の正体を見極めるためにも動かなければならない。

 神官と私でメンバーに強化魔法のバフをかけた。 
「では合図とともに岩場から出るぞ!」
「了解! 気を付けて」

 イゴールが合図とともに岩場から飛び出した。
 そして銃声とともにイゴールの左半身が弾け飛んだのは同時だった。
「ぐあああぁぁぁぁぁ!!」
「イゴールしっかりして! ヒョードル回復を急いで!」
 
 苦悶の表情を浮かべるイゴール。なんとか命は取り留めたが絶体絶命のピンチが未だに続いている。
 この場にいるのは危険ね。相手の情報よりも自分たちの命の方が大事なのだから。なんとかしてこの場を離れて、体制を整え撤退しなければならない。

「撤退するにしてどうする?」
「通路の方角は危険ね。ならこのまま後方に下がりましょう」
「それしかないか・・・・」
 
 私たちは気が付かなかった。
 さらなる死地に追い込まれていることに・・・・・
 
 
 
 敵の銃撃から命からがら逃げ伸びた私たちは辺りを見渡した。
「ここはどこかしら?」
「どうやら鉱山エリアのようだな・・・・荷物も失って、全員満身創痍だ・・・・もはや生きてこの迷宮から脱出も難しい状態だ・・・」
「まさか逃げてる最中に魔物に襲われるとは運がないわね」
「・・・・・・・・・!」
 
 魔物の気配がする! 気を付けてイービルアイよ!
 たび重なる逃走劇で私のМPも残りわずか。

 うねうね動く触手が気持ち悪い魔導生物・・・・今この場では戦いたくない相手ね・・・・それにこの気配・・・・何かヤバい奴が近づいてきている。

「ヤバいな・・・前後を囲まれたか?」
「ええ。どうやら敵さんのお出ましみたいね」
「そのようだな。何者だ!」

 ここからではよく見えないけど、洞窟の奥から現れたシルエットはどう見ても人の姿をしている。こいつらが敵の一味かしら? 
 魔物と連携しているということからも間違いわね。
 間違っても私たちを助けてくれるヒーローではなさそう・・・・

「あなたたちの目的はなに? 私たちの命かしら? それとも命乞いしたら助けてくれるのかしら? ねえ、何とか言ってもらえるかしら?」
 ここまで言えば普通は返事があるはず・・・しかし相手からの返事はない。

「不気味な野郎だ! その面拝ませてもらうぜ!」
「よせ! イゴール!」
 左手を失ったお前が適う相手ではない。

 飛び出したイゴールが見た相手は薄紫の重騎士だった。
 全身を金属鎧で覆った大柄な騎士の姿は威圧的で槍を構えている。

「へっ! そんな重そうなフルプレート着て俺様の動きについてこれるかな?」
「なっ!? がはぁぁぁぁっ!!」

 イゴールの持つ長剣が敵騎士を捉えたと思った瞬間、敵騎士の槍がイゴールを貫いていた。速い! 重そうな全身鎧のくせになんて機敏な動きなの?

「くっ! このイゴールから離れろ! 氷魔槍アイスランス!」

「うそぉ! なにあの動き!」
 私の放った氷魔法を敵騎士は信じられない避け方をした。地面から少しだけ浮き上がり、そのまま滑るように横移動をしてそのまま私に突進してくる。
 なにその動き! 人の動きじゃないでしょ! 反則よ! 
 そんなことを考える前に敵騎士が私に迫ってきた。
 ダメっ殺される! そう思った時に私を庇う影があった。

「ヒョードル!!」
 私を庇った影は神官のヒョードルだった。
 陰気な神官のヒョードル。私は彼のことが嫌いだった。
 その彼が私を庇って敵騎士の凶刃に倒れた。

「くそおぉぉぉぉ!」
 イゴールが剣を杖代わりに立ち上がろうとしているのが見えた。
 そのイゴールの頭を敵騎士の槍が無情にも貫いた。

「ああああぁぁぁぁぁ・・・・!」
 残るヴェロニカもイービルアイにやられたのか倒れている・・・・もはや立っているのは敵を除けば私だけだ・・・・
 どうしてこうなった?
 私は単に好きな本を読んでいたかっただけなのに・・・・
 まだ読みかけの本もある・・・・
 話の続きが気になる本もある・・・・
 禁断の現場を一目でも良いから見てみたかった・・・・
 
 婦女子の私には相応しくない死にざまね・・・・さらば愛するBとLよ・・・
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