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第2章 迷宮成長編

第75話 城下町での災難

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「いい湯ですわね」
「・・・・そうだね」

 俺たちは特別に用意された温泉に浸かっている。
 魔王安土城、温泉の間 ダンジョン内なので天然の温泉ではないが、その成分・温度のそれは温泉といっても申し分ない。
 鑑定でも滋養強壮、体力回復、魔力回復となってた。
 そしてなんといっても岩石を湯船とした露天風呂、そこから見える景色は日本の観光地と比べてもそん色ない。

 混浴なのも素晴らしい。
 ただ今、宮代家の貸し切り温泉となっているのだ。

 長い髪をお団子にまとめて湯船に浸かるシルエラ・・・煌めく裸体に、色気漂ううなじ、長くすらりとした美しい脚。
 素晴らしい! 我が家の湯船も素晴らしいお風呂だけど、たまにはこういった開放的な温泉もいいよね・・・・・俺の扱いを除けばだけどね。
 
 そう・・・・今の俺の状態。
 ミノムシの様に縄で縛られ、吊るされて温泉に浸かって、いや沈められている。
 
 なんでこんな扱いになったかといえば、技術学校の件がシルエラにばれたからである。アルデリアちゃんたちは一応、俺の婚約者となっているので問題ないのだけれど、残りの2名、メリルちゃんと麻由里ちゃんは有罪として扱われ現在に至る。

 俺、これでもブルストの街と新たに3郡を拝領した領主だよね? 信長様から官位も貰ったよ。しかし、その俺をこの城の執事さんと侍女さんたちが、すまきにして俺を吊るすんだよ。俺よりシルエラに従っちゃうの? 
 領主の扱いって・・・・・

 寝所にてなんとか機嫌を取って事なきを得たものの、このままではまずい。
 なにか起死回生の手はないのか?
 だめだ・・・なにも思いつかない・・・まあ、しばらくは大人しくしておこう。しばらくは・・・・たぶん・・・・



 安土にきて今日で三日目。せっかく国の首都にきたので色々観光して、夕方にはブルストに帰ろうと思う。
 帰って転移陣を構築しないと信長様に怒られそうだし、領主としてあまり街を開けるのも良くないよね。たいしたことしてないけど。

 そしてやってきた安土城下。馬車での移動だったので徒歩での散策は楽しみなのだ。異国情緒にあふれ少しレトロな感じのする街並み。さすがに人が多いな。
 観光地での楽しみ、それは現地で食べる名物料理! 

 ネコ耳お姉さんのお団子屋、みたらし団子!
 笑顔が素晴らしいお姉さんの大福屋。
 巨乳お姉さんのお団子屋、こっちはあんこ。
 青い猫ちゃんのどら焼き屋。

「痛い! 耳引っ張らないで! 悪意はないんだ。たまたま目についた店でお姉さんが働いていただけだよ」
「ふう~ん。それでたまたま、お金を渡すときに手を握ったりするんですね」
「ごめんなさい。私が悪うございました」
「まったくもう」

「ヤマト様、確かこっちです。あ、ありました」
 シルエラに手を引かれ向かった先、そこは神社だった。
 そういえば神主さんを紹介されったけ。
 どうでもいいと思って聞き飛ばしてたよ。

「おおっ! 凄い! 立派な鳥居だな」
「そうですね」
 鳥居が連なる石畳、なんかパワースポットって感じ。
 ん? でも少し違和感が・・・・
 
 伝統と歴史のある神社なのだろう。社は凄く立派な建物で大勢の参拝客でごった返していた。・・・・・なんだろう。
 出ている屋台も串に刺したバナナばかり。
 ・・・・・なにこれ?

「これはこれは。宮代様。シルエラ様」
「あっ、どうも」
 名前は忘れたけど紹介されたハゲた神主さんだ。
「どうぞこちらへ」
 案内された本殿。そこに祀られた御神体。

「こっ、これは!」
「まあっ! まあまあまあ!」
 俺は驚き、シルエラも興奮気味な御神体。

 それは・・・檜で作成された巨大な・・・男性のシンボルだった。
 長さは約3m、直径は50cm~60cmはありそうな立派な男性器。
 反り具合、カリの大きさもまさにパーフェクト!

 なんじゃこりゃあぁぁぁぁ! これが御神体?

「どうです。素晴らしい造形美でしょう」
「ええっ!? そ、そうですね・・・・・」

 神主さんから説明された神社の由来や御神体の説明。五穀豊穣 子孫繫栄らしいが話がぶっ飛んでて、全然ついていけない。
 唯一の救いが巫女さんが可愛かった。これは救いだ。
 その巫女さんも男性器を型取った小振りな木像を持っているのだから、頭が痛くなる。この像を撫でると子宝に恵まれるとかで人気らしい。
 そうですか・・・よかったですね。

 これはどんな羞恥プレイ? 
 女性が亀頭を撫で回しながら、きゃいきゃい喜ぶ姿を眺める羞恥プレイなの?
 若い女性からおばちゃんまで喜んで撫でてるってどうよ。

「まさに宮代様。シルエラ様のためにあるような御神体ですな。はっはっは」
「ソウデスネ・・・・アリガトウゴザイマス」

 
「どうしたのです? 魚の死んだ目みたいになってますよ」
「いや疲れただけだよ」
 うん。メンタルごっそりやられたよ。 
「気を取り直して、蕎麦でも食べようか・・・いややめよう」
 危なかった。見つけた蕎麦屋さん、ここにはウサ耳のお姉さんが働いていた。このまま店内に入ったら、またしばかれるとこだった。

 そんな折だった。向かいの通りから放たれた殺気。
 
 一瞬で身構えたが、そこにいたのはふたりの女の子。
 ひとりは、竜人かなあれは? ドラゴニュートとも呼ばれている亜人さん。
 もうひとりは、狸の亜人さんだ。あの顔立ちは狸さんだ。

 殺気は狸さんから放たれている。俺はシルエラを背に庇うように前に出た。
「ヤマト様? どうされたのですか?」
 シルエラも俺の雰囲気を察したらしい。

「何者だ!?」
「ああんっ!! てめえが宮代大和とかいう野郎だな!」
「そうだが、そっちこそ何者だ?」
 喧嘩腰の狸娘を制したのは、一緒にいた竜人娘だった。

「わたくしはルナ、こっちは摩耶よ」
「それでなんのようだ?」
「それはな、てめえをぶちのめすためだあぁぁ!!」
「待ちなさい!」
「はぎゃあぁぁぁぁ!!!」
 名乗っていきなり殴りかかろうとした狸娘を制したのは、またも竜人娘だった。でもその止め方・・・・狸娘のしっぽを思いっきり引っ張りやがった。
 あれは痛そうだ。亜人のしっぽは性感帯なのが多い、強く引っ張りしたら大変なことになる。あっ、やっぱり涙目になってる。

「連れが失礼した。申し訳ない」
「あっ、いえいえ。それよりも、どういうことです? 俺が何かしました? 初対面のはずですよね?」
「それはですね・・・・・・・」

 ルナちゃんという竜人娘から説明されたのは、涙目の狸娘、摩耶ちゃんとその祖父についてのことだった。
 彼女の名前は「鬼柴 摩耶おにしばまや」あの鬼狸こと鬼柴タンホイザー玄八郎将軍の孫娘だったのだ。そういや孫娘がどうとか言ってたっけ。

「なんでアタシがお前みたいなのと結婚しなきゃいけないのよ」
「それはこっちのセリフだ!」
「なんだとおぉ!!」
 893の組長の孫娘なんぞと結婚できるか。

「祖父にいきなり結婚相手を決められて反発したのは同情するが、俺は同意していないからな。そんなのは無効だ」
「それはそれでムカつく!」
「何だよそれ!」

「まあまあ、おふたりとも落ち着いて話しましょう」
「そうだな。ここではなんだ。そこの茶屋で茶でも飲んで落ち着いて話をしよう」
 話を理解したシルエラとルナちゃんの提案で茶店で話をすることになった。

「冷たいお茶4つと団子4人分」
「あっ、団子10人分追加してくれ!」
 なぜ10人分と思ったけど・・・・・理解しました。
 出された団子が瞬く間に消えていったのだ。
「俺の分、食べる?」
「ふん」
 俺から団子を分捕り口にする摩耶ちゃん。

「とりあえずは自己紹介から。わたくしはルナ・マルグリット・オルファース。安土の魔術武士道学園の3年生です」
「鬼柴摩耶。同じく魔武学の3年」

 ルナちゃんは空色の長い髪、その側頭部からは角が生えており竜人族だと分かる。凛々しく整った顔立ちにスラリと伸びた手足、おっぱいもそれなりに大きいと思われ、ハッキリいってかなりの上玉だ。
 対して摩耶ちゃんは、ケモ耳・太いが短いしっぽ、狸顔が可愛い狸娘。杏子色のボブカットが似合う活発そうな女の子。

 俺とシルエラも自己紹介を済ませ、魔術武士道学園について説明してもらった。魔武学こと魔術武士道学園は、侍や戦士・魔法使いといった戦闘系の学生を集めた学校で、一般は2年、士官候補生は3年で卒業となるらしい。
 そしてこのふたりはエリートコースである士官候補生ということになる。

 それでそのエリート様が俺に喧嘩を売ってきた理由。
 それは祖父が自分に相談もなく勝手に結婚相手を決めたこと。
 政略結婚だと分かっていても当人たちは納得できない。
 力のないお嬢様ならともかく、男勝りな娘なら自分に相応しい相手を望みたい、そう思ってしまうのは当然のことだった。

 俺も勝手に決められるのは嫌だ。
 理解が一致しているのだから、結婚の話は破談でいいじゃないかと思うのだがそうでもないらしい。

「お爺様と戦い、認められた戦士ならかなりの実力の持ち主なのだろう。アタシでもお爺様に認められていないのだから、悔しいがその実力は認めるしかない。それに気になる噂もある」
「噂?」
「アタシたちの先輩、織田家の姫君でもある紗弓様についてだ」
「紗弓様? 港町で出会って手合わせしただけだよ」

「そうそれだ! その手合わせだ。紗弓様は自分より強い男を求めていた。魔武学に通っていた当時から、生徒はもちろん並みいる強豪を退けてきたというのに、その婚約者候補に貴様の名が上がったのだ。それはつまり紗弓様が貴様に負けたということに他ならない」
「勝ったのは事実だね。まあまともな勝負じゃなかったけど」
「それでもだ。紗弓様に気に入られたのは事実だ」
「それがなんでキミと関係あるの?」

「大ありだ! 紗弓様も認めるほどの相手なら、将来有望な相手といえる。だが貴様は実力はともかく非常に女癖が悪いと聞く。そんな相手は紗弓様に相応しくない。紗弓様が認めてもアタシは認めない!」
「つまり、実力は認めるけど女癖の悪さは許せないと」
「その通りだ!」

「お恥ずかしいのですが・・・女癖の悪さは事実です」
「おいいぃぃぃぃ!」
「だって事実でしょう?」
 シルエラの冷たい言葉に反論ができない自分が悲しい。

「それに貴様の領地は辺境の地だろ。そんな所に嫁げるかっての!」
「悪かったな。辺境の地で! だが馬鹿にするな! 自然豊かな広大な土地、美味しい食べ物も多いぞ!」
「はあ? そんな田舎では美味い物なんてたかが知れてるだろ」
「残念でした。この城下街にも無いような美味しい料理の数々あるもんね~」
「嘘をつくな! ここは国の中心。あらゆる食材や料理の集まる地だぞ!」

「ふっ! 愚か者め。では聞くが、唐揚げやラーメン、信長様も唸らせるスイーツの数々。はたしてこの城下町にあるのかな?」
「からあげ? らーめん? 何だそれは? 聞いたこともないぞ!」
「ほらみろ! 辺境だからってブルストの街バカにするなよ!」
「ぐぬぬぬぬ・・・だがはたしてその料理がアタシの口に合うとは限らんぞ!」

「良いだろう。ならば勝負だ! お前が美味いと言えば俺の勝ち。不味いと言えばお前の勝ち。念のためにルナちゃんにも食べてもらおう。どうだ?」
「上等だ! その勝負受けて立つ!」
「おう! ここでは茶店に迷惑がかかる。表に出ろ!」

 組長の孫である狸娘との結婚は勘弁してほしいが、俺の街や料理を馬鹿にされるのは我慢できない。ギャフンと言わせてやる。
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